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黒流星のハンター〜魔法がありふれた世界で、召喚者は石を投げる〜  作者: 鮫野鯨
第一章 召喚、異世界最初の日
39/63

第39話 召喚者は石を投げる

注意:この話では、グロ描写がいくつかあります。

苦手な方・15歳未満の方はそっと閉じてあげてください。

 キーーーーーーーン.......


「ヒュー.....ヒュー.....」


 か細い呼吸音と、耳鳴りのような音だけが耳に入る。

 真っ暗でぼやけた視界には、粉々になった自身の足だけが薄らと認識できる。


 瓦礫の壁にもたれかかり、力なく座り込む黎翔の瞳に.....既に、光はなかった。


「.......っあ.....ぃ.....」


 ポロポロと、言葉にならない声が零れる。


(痛い.....死ぬ.....もう、無理.....)


 絶望的な状況の中で、黎翔は内心そう嘆く。


「ギィ......」


 対して、『ボス』はニヤリと嗤った。1歩1歩、ゆっくり歩いて黎翔に近づく。


 勝った ───そう確信しているようだった。


(.....結局、俺には無理だった。勝てなかった。所詮召喚者の俺には.....)


 ピクリとも動かない───否、動かす気力もない───肉体を呆然と眺めながら、漠然とそう考える。


 ほとんど飛びかけの意識では、その程度しか思考出来なかった。絶望感と落胆、悲しみといった感情は、黎翔の胸を強く締め付けた。


(いっそこのまま死んでしまえば.....俺は、楽になれるのかな)


 心まで折られてしまった黎翔を、そんな悲観的な思考が埋め尽くす。


(そう、だな。諦めて死のう。そもそも俺は頑張る必要なんてなかったんだ。こんな知らない世界で.....)


 そう考えた途端、一気に気が楽になる。少しだけ、表情も柔らかいものになる。


 少し安心した黎翔を、一気に眠気が襲う。目が開けていられなくなり、そのまま瞼を下ろして紫色の双眸を仕舞う。


(そう、俺が頑張る理由なんてないんだ。無理やり召喚されただけの俺が、なんで召喚してきた奴らのために苦しまなきゃならないんだ。俺が頑張る理由なんてのは、一つも───)


 目を瞑ったまま、そう考え───

 閉じた瞼の裏に、あの少女の顔が浮かぶ。


『にははははははははっ!御織様、見☆参!!』


『重力魔法───グラヴィティア』


『そりゃもちろん、黎翔を助けるためだよ!』


『ちょ、なにそれ!なんか言い回し変じゃん!あははっ!』


 可憐で、美しくて、優しくて、大人びていて.....それでいて、子供のようにコロコロ笑う。


 幾度となく命を救ってくれた、最愛のヒーロー。


 ここで死んだら、あの少女の笑顔が失われる。きっと悲しむだろうし、助けられなかった自分を責めるだろう。

 そう考えただけで、黎翔の身体は物理的な怪我より遥かに酷い痛みに襲われる。


(そんなの.....許せない)


 ゆっくり瞼を上げ、紫色の瞳に光を灯す。


「ギ?ギャギャッ!」


 その瞳は、近づいてくる『ボス』を捉えた。

 『ボス』は、馬鹿にするように手を叩いて嗤っていた。のそのそ歩いて近づいてくる姿は、慢心そのものだった。


 強い決意を持って、黎翔は全身に力を入れる。


「っ!ゴホッ、カハッ.....」


 それだけで、黎翔は大量に吐血した。内臓に激痛が走るのを感じる。


(身体はほとんど動かない.....足がやられて、背骨と肋もいかれてる.....ほとんど動かせないな。腹ん中もどうなってるか分からねぇし.....)


 粉々になった骨が剥き出しになり、大量の血と肉が纏わりついている自分の脚を見て、改めて絶望的な状況を悟る。

 だが、黎翔の瞳は輝いていた。


(まだだ。まだ───左腕が動かせる)


 足から攻撃を受けたおかげで、左腕はほとんどノーダメージだった。既にボロボロではあるが.....


(っ......動けぇっ.....!!)


 必死に力を入れ、僅かに腕を動かす。その手で......


 転がっていた石を掴むことに成功した。


(猟銃も、石器も無くても、昔の狩人は兎を殺した。原始人は、石を投げて獣を狩ったんだ。だから───召喚者(オレ)は、石を投げて『ボス』を狩る!!)


 手全体で、石が割れそうな程に握りしめる。

 角が手のひらに、指に、骨に、神経に刺さる。流血と同時に、激烈な痛みを感じる。


 それでも関係なく、握りしめる。そのまま、頭の上まで振り上げ───


「.....うあああああァァァァァァァァァ!!!」


 持てる全ての力を込め、『ボス』に向けてブン投げる。


 放たれた石ころは、信じられない速度で『ボス』目がけて真っ直ぐ飛んでいく。途中で加速したその石は、強烈な摩擦で熱を帯び、光を放ち始める。


「ギャギャッ!!」


 『ボス』は、『またか?』と言わんばかりに嗤った。先の2回の投石が効かなかったことから学んで、『効かない。気にするに値しない』。そう考えたのだろう。


 意に介すことなく、のそのそ歩くことを続けた。ガン無視で、黎翔に向かって。


 そうして、黎翔から放たれた最後の一撃───一条の光閃は、無防備な『ボス』の右目に真っ直ぐ伸びる。そして───


 ドッ!!!


 そのまま、その細長い瞳孔のど真ん中を貫通し───

 そのまま『ボス』の後方へと伸び、すぐに燃え尽きて消滅した。


「ギ?」


 『ボス』は、弱点である右目を貫かれたにも関わらず数歩歩んだ。

 それは、仕留め損なって生きていたからではなく───


 あの一撃の、あまりの速さと鋭さに、肉体が反応出来なかったから、だった。


「ギャ.....」


 突然グラリと身体が揺らぎ、


 バタッ


 顔面から、地面に倒れる。

 数秒前まで嗤っていた、生命の鼓動に溢れたその生物から───一瞬にして、活動が失われた。


(.........やった、のか?)


 石を投げたことで瓦礫の背もたれが無くなり、そのまま右側に倒れ伏してしまった黎翔の瞳にも、『ボス』が横たわる様が映された。同時に.....


 パァ───────


 紫色の太陽が粉々に消え去り、真っ白な陽光が姿を見せる。暖かい陽射しが、黎翔に降り注ぐ。

 禍々しく照らされていた空も、一気に蒼天へと戻っていく。


 その光は、黎翔の勝利を真っ先に祝福した。


(か......ったんだ。俺、ほんとにやれたんだ.....)


 ジワリジワリと実感が湧く。ようやく勝ったんだ.....と、喜びより安堵が先に訪れる。

 同時に.....


(あぁ、ねむ.....)


 巨大な睡魔に包まれる。


(昼寝.....つかれたし、ちょっとくらい.....いい、よな)


 何をする気力も起きず、そのまま瞳を閉ざし───

 数秒も経ぬ間に、黎翔はそのまま眠ってしまった。


──────────────────


「〜〜〜、〜〜〜〜」

「〜〜〜〜〜〜!!」

「〜〜、〜〜〜〜!」


「.........ん........?」


 ぼんやりとする意識の中、外で鳴り響く騒音を感じ取る。


(うるせぇ〜.....なんの音だよ───てか、なんか既視感.....)


 少し前にもこんな状況あった気が.....とぼんやりする意識の中で思いつつ、重い瞼を持ち上げる。


 その場所は、どうやら『ボス』戦をした付近のようだった。コンクリートが広がり、至る所に『ボス』が抉った穴が空いている。


 コンクリートの上で寝ていたからか、少し背中が痛い。ゆっくりと身体を起こし、更に周りを見る。

 そこには.....


「本当に勝つとは思っていませんでした。彼を侮っていたようです」

「アタシは信じてたよ?ま、ちょっとヒヤッとはしたけどね〜」


 一人の美少女と、一人の美女が談笑していた。


 美少女の方は、言わずと知れた御織。相変わらず笑顔で会話している。

 もう一人は.....


 漆黒の髪と瞳を携え、銀の装飾が輝く真っ黒な軍服、銀縁の眼鏡を身につけた女性。

 冷たいその瞳から、無条件で恐怖を感じられるその女性は.....


「ふ、副団長ぉ!?」


 花被片騎士副団長、飛鳥錯羅(あすかさくら)だった。

 その存在を認識した瞬間、一気に眠気が吹き飛ぶ。意識がハッキリし、全身がビクリと動く。


「お、おはよ〜黎翔!大金星だったね、ホントに凄いよっ!!」


 首から腕を回し、抱きついてくる。


「み、御織!?ちょ、離っ.....」


 いつもいつでも女性耐性のない黎翔は、今度は別の緊張に襲われる。


(心臓が.....心臓が持たない!!)


 焦って、御織の身体を押して離れる。バクバクと大きく跳ねる心臓を宥めようと、必死で深呼吸しながら。


「んも〜、釣れないなぁ。そう思わない?副団長」


 御織は気軽に副団長に話を振った。

 対して、副団長は小さくため息をつく。


「今のは貴方が悪いですよ、御織。彼は疲れているのですから、あまり揶揄ってはなりません」

「えぇ〜?」


 彼女は、素っ気ない態度で御織を窘めてくれた。


「.....ところて、その、副団長?」

「なんでしょう」

「えと、あなたは何故ここに?」


 恐る恐る、黎翔は質問する。不敬にならないか.....と緊張しながら。

 錯羅は、右手で眼鏡クイッを決めながら話す。


「御織に呼ばれたからです。貴方の実力テストをするから来てくれ、と」

「実力テスト?」


 知らない情報が出てきたため、御織の方を見る。


「実はね、今回の戦闘で黎翔の潜在能力を測ってたんだ。能力次第で、今後の立場を固められると思ったからさ!」

「そ、そうだったのか.....」

「そ!んで、テストは満点!なんせ一人で『ボス』倒しちゃったんだもん!アタシの期待通りだったよ!!」


 満面の笑みでそう言う御織を見て、


(諦めなくてよかった.....)


と、あの苦しみが報われたような気持ちになる。


「蒼井黎翔さん」

「は、はいっ!?」


 錯羅が黎翔の方を真っ直ぐと見つめながら、名前を呼ぶ。


 その瞳に見つめられ、黎翔の頬を冷や汗が伝う。緊張が悪化して少し吐きそうになる。

 何を言われるのか、と身構える。


「蒼井黎翔さん。貴方は今回の『ソルクティス』をほとんどソロ攻略しました。私も見ていましたが、素晴らしい活躍でした」

「え.....えっ!?」


 彼女の反応は、意外なことに称賛だった。黎翔は豆鉄砲を食らったように口が開きっぱなしになる。


「ま、副団長には、一緒にテストを見てもらうために呼んだわけじゃないんだけどね〜。黎翔の怪我を治して貰うついでに、一緒に見てもらっちゃった」

「怪我───あっ!」


 そう言われて、黎翔は自身の身体を見る。

 すると.....傷だらけの左手も、ちぎれたはずの右腕も、グチャグチャになっていた両足も、ボロボロの内臓も完治しているようだった。傷一つ残っていなかった。


「副団長はね、日本一の回復魔法の使い手なの!めちゃスゴいんだよっ!」

「そう褒めても何も出ませんよ」

「事実言ってるだけだよ?謙遜しなくてもいいから!」

「まったく、貴方は.....」


 錯羅はあまり自慢に思っている感じではなさそうだった。御織と話す彼女から、どこか後ろめたさを感じた気がした。

 だが.....


(副団長の腕は本物だな。あの怪我を完治させるなんて)


 純粋に凄いと思った黎翔は、副団長を真っ直ぐ見つめて


「副団長、ありがとうございます!本当に凄いです、あれを完治出来るなんて!!」


 と尊敬と感謝を込めて伝えた。


「.....いえ、私は当然のことをしたまでです」


 副団長は、黎翔から少し目を逸らして平然とそう言った。黎翔の本心が伝わったか微妙だが、きっと伝わっただろう、と信じることにした。


「.....とにかく、試験は終了し、結果はかなりよいものでした。貴方の存在は、騎士団に.....ひいては、我が国に大きな利益をもたらすと判断しました。よって、正式な指導員をつけて育成したいと思います」

「え、正式な指導員?」


 御織じゃないのか?と思い、チラリと御織を見る。


「あ〜、ホントはアタシがお世話したいんだ。不安もあるし.....でも、アタシ実はちょっと忙しくてねぇ.....」

「え、御織が?」

「その反応は失礼極まりないんじゃないかなぁ!?」


 意外な展開に、黎翔は少し不安になる。


(御織じゃない指導員.....どんな人なんだ?)


 怖い人じゃないといいけど.....と思いつつ、


「一体誰なんですか?その指導員って」


 と質問する。


「貴方には、『蕾種(らいじゅ)大学』という、いわゆる訓練施設に入って頂きます。そして、貴方の指導員.....つまるところ担任を勤めるのは.....黒椿騎士長、森星恋さんです」

「星恋!?」


 まさかの名前に驚愕する。


(いやでも、そういや御織が星恋のこと『森先生』って呼んでたな。それって星恋が学校の先生だったからなのか.....!)


 判明した真実に驚きつつも、妙に納得出来てしまった。


「今日明日は御織に付いていてもらいます。施設の場所や貴方の家、『ソルクティス』の参加方法など、しっかり教わってください」

「分かった。学校っていうのは.....」

「明後日からです」

「oh.....」


 黎翔の都合一切無視の激ヤバスケジュールに絶望を感じる。が.....


(これで、もっと強くなれる)


 喜びと期待を感じ、右手をぎゅっと握って小さなガッツポーズをする。


「では、楽しみにしていますよ。蒼井黎翔さん」

「あぁ!」


 錯羅からの激励も受け取り、今後の展望も定まり.....

 これからの日々が、少しだけ楽しみに思えた。




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』待機中 CT:600s

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

──────────────────

読んで頂きありがとうございました。よろしければ、いいね・ブックマーク・感想などよろしくお願いします。飛び跳ねて喜びます。

尚、今回で第1章完結となります。しばらくの間お暇を頂きますので、何卒よろしくお願いします。

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