会談 5
シェリンがガリュウを倒した後、しばらくはゴタゴタとしていたものの、割とすぐに再開されることとなった。
ただ、二人の人外じみた攻防を目の当たりにして、半分以上の護衛や王が『場違い』感を感じてしまったのか、先ほどまでは偉そうに振る舞っていたものたちが急に静かになっていた。
「さて、落ち着いたことでもあるし、会談を再開させよう」
バルバトスがそういうと、護衛たちは再度自国の王の背後へと戻り、王だけの戦いが再開した。
と、言ってももう何を話して良いのやらと言った感じで誰も発言をしようとは思っていなかった。
「もう今更何を話したらって感じだな」
「発言権があるのは儂等だけじゃしな。国力や護衛の質を鑑みても、今から儂等に喧嘩を売ろうなんて国は出てこんじゃろう」
「童たちが最強ってことじゃな!」
「ガキは黙ってろ。これが国の長だと先が思いやられるな」
「なんじゃと⁉︎ ルーク! あいつを殺せ!」
「僕に知らせずに勝手に愚策を取った王なんていなくなればいいんじゃないですか?」
「そ、その、ごめんなさいなのじゃ……」
ルークの国の王はまだ13、4歳の少女であり、それをガリュウの国の王に挑発されて怒りながらルークにそんな命令をした。
が、ルークはまだ先ほどのことで怒っているようで、一歩も動くことはなく逆に怖い笑みを浮かべてその命令を拒否した。
そんなルークを見て少女は少し涙目になってしまったが、ルークは自分の責任だと言いたげな表情でそれ以降一切話すようなことはなかった。
まぁ、もしこれで殺しにいくようなことがあれば即刻戦争になってしまうので、冗談でもそんなことを言うべきではないし、やるべきではない。
「ルーク殿もその辺にしておいてやってくれ。先ほどカエデは怒っていると言っていたが、その件でカエデに暴れさせるつもりはないからな」
「俺は猛獣か何かか?」
「似たようなものだろう。それもよりも、せっかくこうして全ての国の王が揃ったのだから、皆に実のある話し合いをしよう」
「わかりました。ほら、もう怒ってないから話し合いに参加しな?」
「うぅ〜、わかったのじゃ」
「これじゃあ本当に誰が王かわかったもんじゃねぇな」
一連の流れを見てガリュウの国の王は先ほどと同じように煽り口調でそう言ったが、今回は自分の国でも思い当たる節があるのか自嘲のニュアンスも含まれていた。
この世界では力が全てというわけではないが、それが大部分を占めていることもまた事実であった。
確かに、力だけではいずれ失敗することは確かなのだが、自分がそれを持っているだけで少しだけ他人よりも有利な位置に立てることをここにいる誰もがわかっているのであった。
だからこそ、武力的にも連れてきた護衛的にも弱い国は発言権がないし、強い国はこうして上からものが言えてしまうのだ。
この世界の人間は平等じゃない。
力や地位、生まれた国が違うだけでこうも格差が生まれてしまうのだ。
楓は自分がその一因を担っていることは自覚しながらも、少しだけ寂しいなと思ってしまった。
「き、緊急事態っ!」
楓がそんなことを考えていると外から気配がして、一人のストレア中立都市の騎士が勢いよく楓たちのいる部屋の中に入ってきてそう伝えた。
いきなりの出来事に一同は騒然としたが、代表してバルバトスがその騎士に声をかける。
「どうした? 一応まだ会談中なのだが?」
「ま、街の外よりこの街に向けて膨大な数の魔物が進行中であります!」
「それは各国の騎士や魔術師だけでは対処できないのか?」
「それだけではありません! すでに都市の内部で甚大な被害が出始めております! ですが、こちらは原因不明です……」
「なに? カエデ!」
「今探っている! チッ、周囲に気をやれていなかったのは事実だが、それでも俺の索敵を掻い潜ってすでに街で暴れているだと⁉︎」
思っている以上の大惨事に部屋にいる全員に緊張が走った。
楓でさえ、理解不能な出来事に少し動揺を見せているのだ。他のものたちが動揺しないはずがなかった。
『ナビ! 今どうなってる!』
『つ、つながりました! わかりません! 急に都市の住民たちが暴れ始めました。それも、並の力ではありません。一人一人がデスハイム王国騎士並みの力があって、こっちは今大混乱です!』
『わかった。原因はこっちで探るからナビたちは正気のある住民たちの安全を最優先に動いてくれ! もし、グレンさんたちでさえどうしようもなくなったら、ルーナとヒストリアを頼るように伝えといてくれ!』
『了解です!』
ナビは楓の要件をしっかりと聞くと、返事だけして念話を切った。
「カエデ、どうなってるの?」
「確かに外から大量の魔物……それもドラゴンが大量に雪崩れ込んできている。中の原因はまだわからない」
「皆、一度落ち着こう。カエデもだ。お前は強いがこうした緊急事態にはまだ弱いみたいだな。そこだけはまだ私たち王に分があるようだ」
「じゃな! ルークも落ち着け! 焦ってはいかんぞ!」
「シェリン、お前は楽しそうにナイフを研ぐんじゃない」
「さっきからお前たちには主導権を取られまくってたからな! 今こそ俺たち王の出番ってやつだ!」
各国の王は先ほどとは一段階も二段階も威圧のある空気をその身に纏うと楓たち護衛に一旦声をかけて落ち着かせた。
その言葉に、先ほどまでしたい放題していた護衛たちがどうしてか指示に従わないといけないと言う思いになり、全員が一度状況を整理するために静かに目を瞑るのであった。




