会談 4
シェリンが駆け出した瞬間、ガリュウは両手に青い炎を纏わせると、獰猛な笑みを浮かべてシェリンが近づくのを待った。
周囲の反応としては、各国の王は室内で炎を使うなと言いたげではあったが、それを発言できるものはおらず皆獣が落ち着くのを待とうと静かに時が過ぎるのを待っていた。
一方で護衛たちはシェリンのナイフ捌きとガリュウの炎捌きを見て面白そうな反応を示しているものが多く、中には口笛を吹いて盛り上げている奴もいた。
これは対抗手段を持っている人と持っていない人との差ではあるのだろうが、この場においてもうどちらの立場の方が上なのか分からなくなってきていた。
「こいよ、相手してやる。ドチビさんよ!」
「じゃあこれプレゼント!」
シェリンは流石に戦闘中ともなると煽りに過度に反応することなく、手元のナイフをガリュウに向かって投げていく。
常人では目で追うことすら不可能なそのナイフはまっすぐとガリュウに向かって飛んで行ったが、体に刺さる寸前に手に纏われていた炎の熱で溶けていった。
「はっ! 小細工だけで勝てると本気で思ってるのか? 悪いが俺の炎はそんじょそこらの炎とは違うぜ?」
「わかってたけど、なかなか鬱陶しいねそれ。多分、それ魔法じゃないでしょ?」
「へぇ? 魔法じゃないってんならなんなんだ?」
「スキル、それもエクストラスキルの類だね。君は神様に愛されてるみたい。よかったねー」
「「「え、エクストラスキル⁉︎」」」
シェリンの言葉を聞いて、一部を除くほとんどのものに強烈な動揺が走った。
それもそうだろう。
エクストラスキルなど、一世代に一桁いればいい方の代物でそれを所持しているだけで英雄扱いは必然といえるだろう。
「ナビ、聞こえるか?」
楓は一つ疑問に思ったことがあったので耳に手を当てて、以前よく行っていた手段でナビに連絡をとることにした。
いつもは周囲を気を気にして声に出して使うことは少ないが、今は別に周囲を気にする必要もないため普通に電話をする要領でナビに連絡をした。
『はいマスター。どうされました? こうしてちゃんと会話するのも久しぶりですが……エッチな質問ですか?』
「仕事中だろ? そういうのは今はなしだ。それより、俺がこの世界に来た時、確かエクストラスキルを所持しているものは少ないって言ってたはずだが?」
『はい。言いましたね。何か問題でもありましたか?』
「俺の見立てではこの中に五人はエクストラスキルを持っているやつがいるっぽいんだけど、これって少ないうちに入るのか? 普通、一世代に五人とかだろ? この中ですでに五人ほどいそうなんだが?」
『まぁ、通常なら一世代に五人いれば黄金の世代だなんて言われているみたいですけど、世界人口の総数から考えればエクストラスキルを所持している人は今は五人や十人ではないでしょうね』
「エクストラスキル所持者がそこそこの数いるようになったんだな」
『そういうことです。それと、中にはエクストラスキルを入手することのできる遺跡やダンジョンもあると聞きますのでまだまだ数は増えるでしょうね。そのうち二個も三個も持っている人も出てくるのではないでしょうか?』
「……もうすでにいるんだよなそいつら。なるほど、助かったよ。ありがとう」
『いえ、では私も仕事に戻ります。みんな頑張っているので、後で褒めてくださいね? では』
ナビは最後にそう言い残すと念話を切って仕事に戻ったようだ。
「カエデ、誰と話してたの?」
「まぁ、仲間とな。ちょっと確認したいことがあって。それより、ルークは驚かないんだな」
「驚いていることは驚いているよ。なにせ、『さっきまでは雑魚としか思えなかった』のに、急に力が増しているようだし、しかもエクストラスキルを隠し持っていたなんて思いもしなかったよ」
「その割に随分と余裕そうだな」
「ま、多分彼はシェリンくんには勝てないだろうね。もちろん僕にもね?」
ルークはそう言って爽やかに笑うとシェリンとガリュウとの戦いに視線を戻した。
そう、つまりルークも、そしてシェリンも『エクストラスキル所持者』なのである。
そして、この余裕っぷりからわかるように、先ほど楓が言った複数所持者とはこの二人のことを指すのだろう。楓は思わずため息を吐いた。
「それにしても、彼も随分と持ち堪えるね」
「そのせいで王様はみんな硬直してるけどな。そろそろ仲裁に入らないと不味くないか?」
楓とルークが話す通り、シェリンとガリュウの戦いは室内だというのにかなり激しくなってきており、楓やルーク、その他のエクストラスキル所持者と思われるものたち以外は必死に結界を張っていたが、それも時間の問題となってきていた。
別に護衛たちは戦いの余波で死ぬほど弱くはないのだが、問題はその結界に守られている王様たちだ。
流石に生身の人間が今のシェリンとガリュウの戦いに巻き込まれるようなことがあれば一瞬で死んでしまうだろう。
そのため、楓たちもバルバトスたちにはしっかりと結界を張ってあった。
「それもそうだね。このままだと、会談を再開できなくなりそうだ。カエデ、頼んだよ?」
「なんで俺なんだ。シェリンにさっさと本気を出してもらえれば終わる話だろ? シェリン! そろそろ遊んでないで終わらせろ!」
「りょーかい!」
シェリンは楓の言葉を聞いて先ほどまでガリュウの攻撃を避けるだけだったのが、また最初のように自分から攻撃を仕掛け始めた。
ガリュウも、先ほどから一切シェリンに攻撃を当てられていないのにかなりイライラしていたせいか、シェリンがいきなり攻撃をしてきたことに対して、対処が少し遅れてしまっている。
「クソがっ! なめやがってよ!」
「君もよくやるね。思ったよりいい勝負になってて、久しぶりに楽しかったよ」
「もう勝ったつもりか?」
「うん、というよりも……もう終わってる」
シェリンがそう呟くと同時に、ガリュウは苦しそうに血を吐いて地面に倒れた。
きっと、今シェリンが何をしたのかわかったものは五人もいないだろう。王様たちも、護衛たちもなぜいきなりガリュウが倒れたのか分からないような顔をしていた。
「本当によくやったと思うよ。でも、相手が悪かったね」
最後にシェリンは憎らしいくらい可愛らしい笑みを浮かべてガリュウに向かってそう言い残すのであった。




