ギルド長の力 5
「あ、調整失敗しちゃった」
カレンがそう呟いた時にはすでに魔法は放たれていてカレンではどうしようもない状態になっていた。
このままあの魔法が落ちれば帝国軍にかなりの被害を与えることができるだろうが、あんな魔法が落ちれば地面の方が耐えられなくなるほどの威力を有していた。
「カレン姐さん、流石にやりすぎだよ」
「アル?」
本当にもう少しで大変なことになるところを間一髪でアルが魔法でカレンの魔法の威力を抑えるとそのまま地面に着地して大爆発が起こった。
アルも、あの魔法はもともと帝国軍にぶつけるつもりだったものなのですべてかき消すようなことはせず、うまい具合に人が放てる程度にまで魔法の威力を落としてそのまま帝国軍が固まっているところに容赦なくぶち込んだ。
それでもかなりの威力を落としたのでそこまで大惨事にはなっていないだろう。
「カレン姐さん、気合い入りすぎだよ。ちょっとは落ち着かないと」
「ごめん。まさかアルに助けられる日が来るとはね」
「僕もカエデと出会って自分の力の可能性が広がったからね。これくらいはできるようにならないと力を授けてくれたカエデには顔向けできないよ」
アルはそう言いながらカレンが放った魔法が着地した地点を眺める。
そこではカナンがかき乱した時以上の混乱が起きていて、すでに敵の指揮官がこのままではまずいと出撃命令を出していた。
だが、王国軍も二人が先に攻撃を仕掛けると知っていたためすでに準備は整っているしカレンの魔法が着地したのを王国軍の戦士たちも見ていたので現在王国軍の戦士たちのテンションは最高潮である。
「総員、進め!」
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
騎士団長が合図を出すと、王国軍の戦士たちは皆全力で雄叫びをあげながら我先にと帝国軍に向かって進撃していく。
その甲斐あって、先に動き出したのは帝国軍だったにも関わらず、お互いがぶつかったのは帝国軍の本陣があるところから200メートルから300メートルほどのところで、これだけでだいぶ王国軍が有利な状況になっていた。
まぁ、そうは問屋が卸さないのだが……
「イキがいいのは結構だが、あまり調子に乗らないでくれよ?」
突如として王国軍の目の前に現れた青髪の青年は近くにいた冒険者二人を串刺しにしながら、生きている周囲の王国軍の戦士に向かってそんなことを言い出した。
現在楓たちはもちろんのこと、アルたちも離れたところにいるのとそもそもアルは今戦いに介入するつもりは毛頭ないため、青髪の青年が現れたことに関してどうでもよかったのだが、現地にいる冒険者たちからしたら仲間を二人倒されているのでたまったものではない。
「ハッ、ギルド長のあの攻撃を見てもまだそんなことが言えるかよ!」
「浅はかだな。あれをやったのは君たちのギルド長であって、君たちではない。そんなこともわからずに突っ込んできたバカには氷漬けがお似合いだ」
冒険者は少しでも威勢を保つために、先ほど起こった魔法での攻撃のことで相手を脅しにかかるが、青髪の青年からしたら全くどうでもいいことのようでそのまま雑魚を相手にするような手つきですぐに魔法名を唱えるとそのまま周囲の冒険者たちを一瞬で氷漬けにしてしまった。
「ギルド長はどちらもかなり厄介みたいだけど、他の冒険者たちに関していえばそこまで脅威じゃなさそうだね。せっかく強者と戦えると思っていたのだが、これでは興ざめだ」
「じゃあ、私と戦っていただけますでしょうか?」
「っ⁉︎ どうやってここまできたのか聞いてもいいか? 僕は先ほど、周囲の敵を一瞬で凍らせたはずだが?」
青髪の青年は後ろから聞こえる女性の声に驚いたのか、先ほどの余裕のある表情を崩して目つきを鋭くして声のする方を向きながらそう問いかけた。
「それは秘密です」
「ほう。声から容易に想像できたが、非常に美しい女性ではないか。名前を伺っても?」
「えぇ、私の名前はエリスと申します。クラン『無限の伝説』のメンバーであり、今からあなたと戦わせていただくものです」
「貴方が? それは面白い。僕の名前はアイシスだ。特にクランは入っていないが、僕はSSランクの冒険者だ。今から貴方の身も心も全て凍らして差し上げよう」
「SSランク? 確か、冒険者ランクはSランクまでではありませんでしたか?」
アイシスの自己紹介の中に疑問に思うところがあったエリスはアイシスに向かってそう問いかける。
本当に興味本位だったため、別に答えてもらう必要はなかったが、アイシスはどうやらエリスは女性でしかも非常に可愛いこともあって得意そうにエリスの質問に答え始める。
「普通はね。でも、例外はあるんだよ。Sランク冒険者になりさらに目覚ましい活躍と力を証明することができたらSSランク、さらにはSSSランクに昇格することもできるんだ。僕もこの戦争で活躍してSSSランクの昇格を狙っている一人なんだよ」
「なるほど、面白い話が聞けました。ありがとうございます」
「別にいいよ。それより、本当にやるのか? さっきも言ったが、僕はかなり強いぞ?」
「えぇ、せっかくジャンケンで勝ったのですから、カエデ様に褒めてもらうために存分にカッコ可愛い姿を見せるつもりです」
「ほう。ジャンケンだと? それに、カエデ様というのは君のご主人様か何かなのかな? メイド風情がなかなか面白いことを言うね。あまり調子にのるなよ?」
エリスの言葉が癇に障ったのかさらに目つきを鋭くして周囲に冷たい空気を広め、自分の持っていた剣に氷を纏わせた。
それを見たエリスもアイテムバックの中から大切そうに伝説級の方の武器を取り出すと、二人は一気に距離を縮めるのであった。




