勇者とは 3
「お疲れ楓くん、かっこよかったね」
楓が騎士団長に指揮を頼んで日向たちの元へと戻ると、日向がそう言いながら出迎えてくれた。
他のものは色々と準備をしているようで忙しかったので楓は邪魔することなく日向に「俺たちもすぐに向かうぞ」とだけ言って味方の状況を観察し始める。
基本的に勇者たちは後ろの方でニヤニヤと戦況を眺めているものが多いので先にある程度の帝国軍を片付けてもらわないといけないのだが、それは自分たちに任せてくれと各ギルドの代表が楓に言ってきたので特に反論することなく、ただなるべく死なないようにと言って彼らを先に送り出すことにした。
騎士団長もそれに混ざりたがっていたが、流石に騎士団長がこの戦いで死ぬわけにはいかないので今回は指揮だけとなっている。
「カエデ様、どのタイミングで出撃されますか?」
「エリスか。今冒険者ギルドを先頭にして進軍していったからあと10分くらいしたら俺たちも向かう。メイドたちにはアリウスたちの護衛から離れないようにともう一度確認しておいてくれると助かる」
「かしこまりました。それと、紅茶です。あまり時間はありませんが、よろしければどうぞ」
「ありがとう。美味しくいただくよ」
楓はそういってエリスに紅茶を入れてもらいそれを飲みながら勇者たちが映っているスクリーンを表示させる。
こんなところで紅茶を飲んで、敵の大将? の姿を眺めているとこっちが悪者だなと思ってしまう楓であったが、どれも非常に便利なので特に観察をやめることなく壁のせいで犠牲がかなり出たのか悔しそうにしている勇者たちの観察を続けるのであった。
「よし、全員準備できたな」
楓の呼びかけに全員頷き、それぞれ手に持っている武器を少しだけ強く握った。
特に護衛たちやジャンたちはこういった大きな戦争を体験するのは初めてのようでかなり緊張しているようだった。メイドたちは一度殲滅戦や攻城戦という結構な修羅場を体験しているので今回少しは緊張しているもののそこまでガチガチに緊張している様子はなかった。
「それじゃあ、勇者たちを倒しにいくぞ!」
「「「「「おぉ!」」」」」
楓の掛け声に全員で応じるとそのまま楓につづいて全員がかなりの速度で勇者たちの元へと駆け出した。
現在も王国軍は非常に頑張って戦ってくれており、最初の楓の巨大な壁攻撃がかなり敵に効いたのか帝国軍は統率力をなくして逆に王国軍は楓の宣言のおかげで士気が上がっており、人数の差が倍以上あるというのにも関わらず、実際に有利なのは王国軍の方であった。
まだ勇者たちが前線に出てきていないため楓たちが勇者たちのいる帝国軍の中でも奥の方へと向かわなくてはいけないがそこは王国軍の人たちが作戦通り道を作ってくれているおかげで楓たちの集団はそこまで敵と戦うことなく順調に進むことができそうである。
楓たちも走るのはやめていないが危なそうな味方を助けつつも余裕を持って勇者の元にたどり着きそうな勢いだった。
「これじゃあどっちが勇者でどっちが魔王かわからないな……」
「こちらには魔王が二人もいるっていうのにな。カエデの同胞はこの世界を舐めすぎているようだ」
走っている最中に魔王であるルシフェルとアリウスはそんなことを話していたが、楓も全く同じことを思っていたので苦笑いを浮かべながらも二人の会話に同調していた。
「そういえば、ここには魔族の幹部がいないようだが、幹部って何人くらいいるんだ?」
楓はふと気になり元魔王候補であり現在は楓の妻であるミリアにそんな質問をした。
まぁ、帝国側からしたらこれが捨て石部隊なのはわかるが、それでも魔族の幹部がいなくて魔族や魔物たちが大人しく従うのかどうかが楓にはよくわからなかった。
「んー? あんまり周りに興味がなかったからわからないけど十人ちょっとくらいだと思うよー。魔族たちも多分折り合いを見て本陣に戻るんじゃないかな? 人族にそこまで尽くす義理も責任も魔族にはないからね。それこそここに魔王候補の一人でもいれば話は別だったんだけど、いないから魔族の士気も低そうだし。あ、ちなみに今はカー君に夢中だけどね!」
「それはありがとう。俺もミリアのことは大好きだよ。でも、あまり無茶はするなよ?」
「うん。ありがと!」
楓に心配されたミリアはどこか誤魔化すように笑いながら礼を言った。
あまり踏み込んでほしくないところなのだろうと楓も理解するとそれ以上ミリアに追求することなく、周囲の状況を探っていくことにした。
「いたぞ! あいつらだ!」
「はっ、自分たちが罠にかかっているとも知らないでノコノコと来やがったな!」
「絶対に殺す!」
とうとう、楓たちも勇者たちの姿を捉えるとそこには三十八人の勇者たちが全員で楓たちのことを待ち構えているようで、特に楓の姿を見た瞬間男勇者たちが気持ち悪い笑みを浮かべながら口々に「殺してやる!」と叫んでいた。
「カエデ、あれが勇者か? 想像の10倍ひどいな……」
「あぁ、俺もさっきまで観察していたから知ってはいたが実際に見てここまで堕ちているとは思わなかったよ」
現在魔王であり一応『魔』を司る王であるアリウスですら実際に勇者たちの姿を見て顔をしかめていた。
「本当に、勇者ってなんなんだろうな」
最後に、楓は勇者たちの姿を見ながらそんなことを呟くのであった。




