戦場 6
「やったー! カー君と一緒に寝れるー!」
「やったわ! 久しぶりにカエデと寝ることができる!」
神聖なるジャンケンに勝利したのはなんとミリアとルミナという意外な二人で勝った瞬間には声に出しながら喜んでいた。
「一日交代だからね! 明日はまたじゃんけんで決めるからね!」
喜んでいる二人を見て日向は悔しそうにしながらそんなことを言っているが、二人は喜びすぎて全く耳に入っていない様子だった。
完全に勝者と敗者でくっきりと分かれてしまった感じである。
「じゃ、今日はルミナとミリアと俺が一緒に寝るって感じだな。日向たちも明日はまたジャンケンで決めるからあんまり拗ねないでくれ」
「わかってるよ。さっきのは冗談半分だから」
「私たちは私たちで女子会をしてますので、旦那様もルミナとミリアと楽しんできてくださいね?」
「は、はい……」
ようやく先ほど直ったと思われていた日向たちの機嫌がまた少しだけ悪くなってしまい、楓は苦笑いとともにため息をついてしまうが、公平なジャンケンの結果なので仕方がないと諦める。
しかも、機嫌が悪くなった理由が楓と一緒に寝ることができないからと可愛い理由なので全く苦ではなかった。
「まぁ、まだ夜までは長いししばらくは各自、自由行動だな。俺はちょっとギルド長に挨拶しに行ってくる。アル、ルシフェル、あとアリウスもついてきてくれ。セバスはミルのお父さんの護衛を頼む」
「承知しました」
セバスは楓にお願いされるとすぐにその場から消えてバルバトスの元へと向かった。
一瞬で消えたのでセバスのことを目で追えていなかったアリウスたちの護衛は驚いたような表情をしていたが、日向たちは当然目で追えていたので全く反応することはなかった。
ジャンたちも目で追えていたのは追えていたのだが、セバスの行動があまりにも無駄がなかったのでそこに驚いていた様子だった。
「私たちはいかなくていいの?」
「あんまり人が多くてもめんどくさいことになりそうだし、今日向たちを連れて行って冒険者たちともめるのも嫌だしな」
「そっか。気をつけてね」
「おう。行ってくる」
日向たちがついていけないことに少し悲しそうな顔をしていたが、自分たちが楓についていくことで起こる面倒ごとが予想できたのか素直に頷いて楓たちをお見送りする。
冒険者区域には、というかこの戦場の男女比がだいたい8対2くらいなのでみんな女性に飢えていると言っても過言ではない。しかも、今回の戦争で自分の命を失う可能性もあるのだ。
そうなれば、特に欲望に忠実な冒険者なんかが楓の身内びいきを抜いても美少女である日向たちを見たらどんな暴挙に出るのか、楓でなくともわかることである。
そんなわけで楓はアル達を連れてギルド長がいるであろう冒険者区域まで向かう。
先ほど、バルバトスが各ギルド長を招集して打ち合わせをすると言っていたので早いうちに行かないとすれ違いになってしまう可能性があるので、楓はすぐに行動に移した。
「カエデも過保護だね」
「だな。ヒナタたちならそこらへんのチンピラごとき一発で倒せるだろう」
「私もそう思う。彼女たちなら、どれだけ油断をしていようがその辺の冒険者には負けないと思うが?」
「だから、めんどくさくなるからって言ったろ? 俺も日向たちが負けるとは思っていない。ただ、戦争が始まってもいないのに味方の戦力を減らすなんて馬鹿のすることだろ?」
そう、楓も最初から日向たちが冒険者に遅れをとるとは思っていない。
そもそも、その程度の戦力しかないのであれば、楓は今回の戦争に日向たちを連れてくるはずがなかった。
ただ一応味方である冒険者の数を減らすのが嫌なだけである。先ほど言っていた冒険者は欲望に忠実だというのはこの戦争においては褒め言葉でもあるのだ。
「だから、あんまり目立たないようにしながら本部を目指すぞ」
「絶対に無理だと思うけどね。今の時点でかなり目立ってるし」
「だな。諦めろカエデ」
楓が自信満々に目立たずに行こうと言うが、アルの言う通り時すでに遅しであり、他の暗殺者たちからかなり奇異な視線を向けられていた。
まだ冒険者区域にすらたどり着いていないのだが、楓たちはかなり目立っているのだ。
「なんでこんなに殺気を向けられているんだ?」
「きっと、さっきのカエデとヒナタたちのイチャイチャが暗殺者たちのフラストレーションを溜めてたんじゃないかな?」
「多分そうだろう。よかったなカエデ。もしあれを冒険者たちが見ていたらそれこそカエデが言っていた面倒なことになっていただろう」
「あ、あれは俺のせいなのか?」
「「「カエデのせいだろ」」」
「す、すいませんでした……」
三人の迫力に楓は反射的に謝ってしまう。
楓としてはあれは自分が悪いのか? と疑問を感じるところだったが、端から見れば誰がどう見ても楓が美少女を侍らせているとしか見えないためこの暗殺者たちの殺気は仕方がないといえば仕方がないものである。
しかも、暗殺者区域も冒険者区域に負けないくらい広いのでいくらカナンが警告したとしても、まずその警告が届いていないところもあるので、みんな御構い無しに楓に殺気をぶつけている。
それでも攻撃を仕掛けてこないのは、楓が、いや四人のうちの誰一人として自分たちでは敵わないだろうと本能的にわかっているからである。
楓は暗殺者たちが危機察知能力に優れていることを心の底から感謝しつつ、アルたちを引き連れて冒険者区域へと向かっていくのであった。




