届け、私たちの気持ち! 1
「楓くん! お疲れ様!」
「お疲れ様です。マスター、とっても格好良かったですよ」
「ありがとう。ナビも、助かったよ」
異界の門から出てきた楓を出迎える大きな歓声とともに日向たちが抱きついてきた。
楓はそれに恥ずかしそうにしながら答えると、さらに大きな歓声が湧き上がる。一方勇者の方はと言うと悔しそうに楓の方を睨みつけてはいるものの、各々楓には敵わないとわかったのか睨むだけでそれ以上絡んでくることはなかった。
「お疲れ様。どうやら、勝負は決まったようだな。さて、では約束通り勇者たちにはこの国から去ってもらおう」
「チッ、覚えてろよ」
バルバトスに国外追放を言い渡された須藤たちは最後に楓の方を一睨みしながら舌打ちをしトボトボと王城から去っていった。
楓はそれを最後まで見届けると、結婚式の再開だと言わんばかりに転移魔法で全員を再度テラスの方へと転移させる。
「えーっと、余興はこのくらいにして俺から一つp……」
「待って楓くん!」
日向は楓が話すのを遮るとミル達の方をみて一度頷き全員で楓の前へと立った。
打ち合わせになかった日向の遮りに楓は少し戸惑うが日向達はそんな楓のことを見て笑いながらとある魔法を発動させるために魔力を溜め始めた。
「今日ね、私たちで協力して楓くんに見てもらいたいものを作ったんだ!」
「良ければ見てください。旦那様のために頑張って作りました」
魔力をためながら代表で日向とミルがそう言う。
国民も楓もこれから起こることが予想できないのか頭に大量のハテナマークを浮かべているが、すぐに日向達の魔力が溜まったのか七人全員で手を繋ぎ全員の魔力を真ん中にいる日向へと送る。
「じゃあ、いくよー!届け、私たちの気持ち!」
日向がそう言うと空が真っ暗になりいたるところに楓のスクリーンのようなものが浮かんだ。
スクリーンが浮かんだ瞬間、国民達は何が起こるのか楽しみにするようにざわざわし始めたが、スクリーンがだんだん鮮明になっていき七人の影が浮かんできたことによって静かになっていく。
『あ、あー。見えてるかな?明日は楓くんと私たちの結婚式っていうことで私たちにできることを考えてたんだ。これから流れることは私たちが普段思っていることです。直接いうのは恥ずかしいから、こうして映像にして楓くんに私たちが思っていることを話したいなと思います。最後まで聞いてくれると嬉しいな。それじゃあスタート!』
日向が映像でそういうと七人の姿はなくなり、場面が変わったように見覚えのある部屋に変わった。
そこには最初の一人目であるミルの姿だけが映っており少ししたら映像の中にいるミルが話し始めた。
『聞こえてますか?旦那様のことを何より愛しているミルです。ヒナタの提案でこうして画面越しに旦那様に話しかけるわけですが……懐かしいでしょ?ここは旦那様が私のために戦ってくれた訓練場です。あの時はまだ旦那様のことがよくわかっていませんでしたが、初めて男の人にああして守ってもらってすごく心が温かくなったのを今でも鮮明に覚えています。あの時から、私は旦那様に胸を張れるお嫁さんになろうと誓いましたが、しっかりいい妻でいられているでしょうか?これからも、旦那様の自慢の妻であれるように頑張りますので、よろしくお願いしますね?最後に、愛してます。私と結婚してくれてありがとう!』
ミルが最後に満面の笑みで楓に礼を言うとまた画面が切り替わり、今度は学院でクラス対抗戦を行なった場所に変わった。
そこにはルミナが恥ずかしそうにしながら立っており、しばらくするとミルと同じように映像越しに楓に向かって話しかけられた。
ちなみに、実際の日向達は魔法を発動させた後ささっと目立たないようにテラスを出て何処かに行ってしまった。楓もそれに気づいていたがあえて触れることなく画面に出てきたルミナの方を見つめた。
『カエデ、あの時勇者の末裔として色々なことを悩んでいた私を救ってくれてありがとう。最初はカエデ達のこと誤解してキツイ言葉をかけちゃったけど、それでも色々と先生として私たちに貴重な体験をさせてくれて、最後には私のためにみんなの前で怒ってくれて、とっても嬉しかったわ。そ、その私の無茶振りも受けてくれてあの時は本当に嬉しかったわ。こ、これからも私はカエデの事を好きでいるから、カエデも私のことを好きでいてよね!じゃあね!」
ルミナは最後の方ずっと顔を真っ赤にしながらも楓に好きだと伝えて画面が切れた。
ちなみに、ルミナの言っていた無茶振りとは以前タッグマッチでムートに求婚された時のことでルミナが全校生徒の前で楓にプロポーズを受けていると言う旨のことを話しそこで楓が全校生徒のいる前で公開告白をした時のことである。
その時のことを思い出したのか楓は「あー、そんなのもあったな」と笑いながら呟いていた。
現在二人が映像で楓に愛を伝えているが、心なしか画面越しと言うこともあってだいぶ大胆になっていた。楓も予想していなかったことにずっと夢中でスクリーンを見ていたがその頰は赤く染まっており、目には涙が浮かんでいた。
これからまだあと五人もあると言うことに楓は涙がこぼれないように堪えるのが大変だと、心の中でつぶやくがその顔はすでに涙で溢れており本当に幸せそうなのであった。
それを後ろの方で眺めていたバルバトスはそんな楓を慈愛のこもった視線で見つめており、それがテラスを超えて国民にも届いたのかとても暖かい空気がデスハイム王国全体を包み込むのであった。




