修羅場 1
「ほら、俺の為に怒ってくれるのは嬉しいけどそろそろ機嫌直せって。あいつに構ってる時間が勿体無いぞ?」
「むぅ…だって、マスターが…」
「ありがとうな。でも、ナビがそんなんじゃ俺も楽しめないだろ?ここには楽しむ為に帰って来たんだ。あんまり気にするのはやめよう。な?」
「はぁ、仕様がないですね」
「ほら、日向達も。な?みんな俺の為に怒ってくれてありがとう。あいつも何か意地になってるんだ。許してやってくれ」
蓮がリビングから出ていってからしばらくは最悪な雰囲気だったが何時迄もこれではまずいと楓がみんなを説得し、夕食の続きを楽しむ。
先ほど、美希に何かいっていたしその後から美希の様子がおかしいことから何かはあるのだろうが今はそんなことよりもいつの間にか武器を取り出しているアル達の説得が最優先である。
「流石に僕も頭にきたね」
「リーダー兼家族をバカにされるのは我も頭にきたな。カエデの家族でなかったのなら即座に殺していた所だったぞ」
「2人共ありがとう。だからその武器を仕舞え」
その後、楓は約10分程目を離すと武器を装備しだすナビやアル達を止めつつなんだかんだで楽しんでいたのだがやはり美希の様子がおかしい事が気になった。
「母さん。どうしたの?」
「そ、その。楓は部屋に戻った方がいいかもしれないわ。さっき蓮から聞いたんだけd…」
「ただいま母さん。彼女を連れて来たんだ。紹介するね」
美希が楓に何か言いそうになったがそれよりを遮る様に蓮がリビングに帰って来てそんな事を言い出す。
「!?お、お前まさか…」
「楓くん、どうしたの?」
蓮が彼女を呼び、その子がリビングへと入って来るとさっき迄笑っていた楓の顔が恐怖と悲しみの顔で染まった。
「初めまして。蓮くんのお父さんにお母さん。わたしは柊春菜です。そこにいる楓くんの元カノです」
「「「「「!?」」」」」
長い黒髪ロング。顔は日向達には到底敵わないもののクラスで1番可愛いと言われてもおかしくない容姿。
そう、蓮の彼女は楓の元カノでもあったのだ。
「ほら、春菜もご飯食べて行けよ。母さん。春菜の準備を」
「え、えぇ。蓮の母です。春菜さんもご飯食べて行きなさい」
「ありがとうございます!」
春菜は白々しくそういって蓮の隣の席に座る。
蓮は先程から一気に固まっている楓をゴミを見るかのような目で見ながら楽しそうに春菜と会話をしている。
「か、楓くん。大丈夫?」
「大丈夫だ。なんともない。だからみんなも何もしないでくれ。お願いだ」
楓は先程と同じ様に日向達に何もしない様に注意をする。
ただ、その注意している楓のテンションはかなり低く泣きそうな顔で、本当に余裕なさそうだったが。
楓の余裕がないのを日向達は全員察したのかこれ以上、楓に迷惑をかけないように静かに夕食の続きをする。ただ、全員納得がいかないのか先ほどまでの楽しげな様子はどこかに消え去り今はただ、楓のことを見守るだけであった。
「なあ春菜。俺にアーンしてよ」
「もう、仕様がないわね。ほら」
蓮は楓にやり返しとばかりにニヤニヤと見せびらかす様に春菜にアーンをして貰っていた。流石に例の口移しは頼むのが恥ずかしかったのかアーンだけだったがそれでも楓の心の中は平和ではない。
楓の様子が変わったのを察したのは日向達だけでなく正造や美希もだったが2人は一応、どちらの親でもある為気まずそうに楓と蓮の様子を伺うだけだった。
「ねぇ、蓮。あの子達は誰なの?」
「あぁ、あの子達は俺の彼女候補。兄貴が洗脳して騙してるから救ってあげるんだ。そうしたら俺の彼女にする予定だ。大丈夫、春菜が1番だよ」
「そう。ならいいわ」
流石にこの発言には日向達も黙っていられず思わず立ち上がり否定しようとしたが寸前で楓に止められる。
「と、父さんと母さんは風呂に入ってくるからゆっくりしてるんだぞ」
「そ、そうね。みんな、ゆっくりして行ってね」
どうも居心地が悪く、一触即発の雰囲気が漂っており流石に気まずかったのか正造と美希は二人で部屋を退出した。
ただ逃げただけ。そういう人もいるかもしれないが楓としてもせっかく帰って来て親と仲違いをしたくなかったので2人の退出は正直ありがたかった。
現在、この部屋には楓達『無限の伝説』と蓮と春菜だけ。
これで、両者共に遠慮せずものが言える様になったと言えるだろう。まぁ、今の楓にそんな余裕はなく蓮と春菜の見せびらかす様なイチャイチャを静かに眺めているだけなのだが。
「楓くん!」
「いい。さっき迄俺達も同じ様な事をしていた。ここで蓮を注意するのはお門違いだ」
「でも…楓くんが…」
「俺ならいいよ。少し耐えればいい話だから」
楓はそういって隣で泣きそうになっている日向の頭を撫でながら見ただけですぐに無理をしていると分かる様な笑みを浮かべる。
蓮達が食事を食べ終わるまで自分が耐えればいいだけ。楓は泣きたくて、叫びたい気持ちを心の中で閉じ込めながらただひたすら春菜がいなくなるのを願うのであった。




