説明と模擬戦 1
ルシフェルとセバスが新しい仲間になって1日が経った。
昨日はあの後、楓が幻影魔法を使ってルシフェルの頭の角を隠し、見た目は普通の人間になった。
それをルシフェルが自分で習得するのに約半日を使い、今では自由自在に角を出したり隠したりする事が出来る。
普通、一つの魔法を覚えるのに半日なんてありえないがそこは魔王のセンスと楓達の指導が上手かったのだろう。
「それで、今日なんだがミルのお父さんにルシフェルの事を相談しに行こうと思う」
「大丈夫なの?」
楓の提案に日向は心配そうに楓に聞く。日向は一国の王にルシフェルの存在が反対されればこの国に居づらくなる事を心配しているのだろう。
「大丈夫だと思うよ。わざわざカエデにこの国に出て行かれる様な要因を向こうも作りたくないだろうからね」
「そうですね。私も居ますし何とかなるでしょう」
アルとミルが何とかなると太鼓判を押した為、日向も納得して全員でバルバトスの元へと向かう準備をする。
一応昨日楓は、手紙で今日行く事を先に報告してある為、問題はない筈だ。
普通クランランクがD程度の中堅クランが国王と話す等ありえないのだが、そこは楓と言う事で説明がつく。
自分の娘の旦那の話を聞かないなどとなると、ミルからも嫌われかねないし、もし楓がこの国と敵対している国を移住先に選んだ場合、この国の勝ち目は万に一つもなくなる。
そう言う訳で全員で準備してしばらく会議室で紅茶を飲んでいると、めっちゃ豪華な馬車が庭の前に止まる。
こっちから出向く筈が迎えが来てしまった。
全員といっても今回はエリス達メイド陣はここでお留守番だ。
セバスは説明の為に執事だが来てもらう。
「カエデ、我はあまり人族には詳しくないのだが、一国の王がこんな普通のクランに豪華な馬車を使うのか?」
「いや、カエデが特別なのよ。私もここ迄の対応だとは思わなかったわ」
ルシフェルとルミナはまさかの対応に驚いていたが、日向達はすでに何度か体験している為、普通に馬車に乗る。
ミルに関して言えば「もっと良い馬車があるでしょうに…」なんて更にグレードの高い馬車を所望していた。
楓は「もっと地味な馬車はないのかよ…」と呆れながらも日向達に続いて馬車に入って行く。
ルシフェルとセバスは未だに戸惑いながらも楓に続いて馬車に入って行く。
「ほう、人族の街はこんな感じなのか」
「なかなか興味深いですね」
ルシフェルとセバスは外の景色を見ながらそんな事を呟いている。
ここから王城迄は地味に遠い為、馬車で約30分位掛かって王城に着く。
「こちらでございます」
王城に着くとセバスよりもだいぶ若い執事が部屋を案内してくれる。
ルシフェルとセバスは自分達の魔王城と比べているのか、だいぶキョロキョロしている。
「入れ」
「失礼します」
執事がドアをノックすると中からバルバトスの声が聞こえて楓が代表でバルバトスに挨拶をする。
「おう、この前は派手にやってくれたな。お陰で後処理が大変だったぞ」
「もう対応して下さってたんですか。道理で昨日騎士団から何もなかった訳だ。ありがとうございます」
「やけに素直だな。どうしたんだ?」
楓が素直にお礼を言った事にバルバトスは気持ち悪そうにそう言う。
「今日はお願いとご報告がありまして」
「お願い?そういえば人数が増えてるな。まぁ、とりあえず座ったらどうだ?」
バルバトスは話が長くなる事を予想して全員に席に着く様に促し、全員が席に着くと同時にメイドが紅茶を用意する。
「ここにもスーパーメイドがいるんだね」
日向は思わず苦笑いでそう突っ込んだ。
そのメイドの何が凄いって、紅茶を人数分淹れるとさっさと部屋を退出するのだが、その時間が僅か30秒だったのだ。
普通、七人分の紅茶を淹れて退出するとなると、数分は要する所を特に素早く見せる訳でもないのに時間を見ればそこまで経っていないのだ。
楓は地味に日向の言っている事があっている事に内心で苦笑しながらバルバトスとの会話を続ける。
「それで、バロン達は結局どうなったんですか?」
「先にそっちを済ますか。そうだな、まだ処分は確定していないが罰金としばらくの懲役、それと爵位を数段落とす位だな。これで奴らも勇者の末裔を大々的には出来まい」
この処置は本来、一介のメイドを誘拐しただけでは大げさなのだが、相手が楓だった事でかなり罰が重くなっているらしい。
なんでもミルの婿に刃向かう行いをした事がダメだったらしい。
「とりあえずしばらくは安心ですね」
「そうだな。こちらとしても大きな顔をされなくて済むのはかなり助かるな」
バロンの失脚はバルバトスもかなり助かるらしく、バルバトスに迷惑はかけたがそこまで愚痴を言われる事はなかった。
「それで、相談なのですが新しい仲間が出来まして…とりあえず挨拶をしに来ました」
「我はカエデに召喚された異世界の魔王。名をルシフェルと言う。よろしく頼む」
「その執事。セバスでございます」
「カエデ、私は耳がおかしくなった様だ。今の自己紹介を聞く限り魔王が目の前にいる事になるが…」
バルバトスは鼻の付け根ら辺を手で挟んで目を瞑りながら楓にそう言う。
「大丈夫ですよ、彼は魔王ですから」
「本気か?」
「なんなら我がここの騎士団を一掃してきても良いのだぞ?」
「分かったからやめてくれ。それで、どうして異世界の魔王がここにいるんだ?」
「この前の一件でメイドに護衛が欲しいなと思って召喚してみました」
「それだけの事で魔王を召喚したのか?」
バルバトスは呆れが混じった声で楓に向かって聞く。
「はい、最初は天使とかにしようか悩みましたが、魔王の方が手段を持っていそうだったので試しに召喚してみました」
楓は何も悪びれもなくバルバトスに向かってそう言い切る。
「魔王を召喚ねぇ。そうも簡単に言われてはこちらとしても実感がわかないが…ひとつだけ魔王殿に聞きたいがいいか?」
「よかろう」
バルバトスが急に真剣な顔になりルシフェルにひとつ質問をする。
「魔王殿はこの国をどうしようと思っている?」
「なんだそんな事か。どうもしようとは思わんよ。というかカエデ達と出会えた大切な場所だ。ここに攻め込んで来る愚か者がいたら速やかに排除する積もりだ」
「という事はこちらとしてはとても心強い味方が増えたと考えていいのか?」
「構わん、カエデ達と同じく何かあったらクランメンバーの一人として協力させて貰う」
ルシフェルは真剣なバルバトスに対してそう誓った。
バルバトスはこのルシフェルの態度を見て内心でかなり驚いていた。
というのもルシフェルが魔王だというのは、溢れ出ているオーラで何となく分かったのだが、そんな存在が楓をかなり信頼しているのがさっきの宣言から聞いても分かるにしても、バルバトスからしてみれば伝説龍に続き異世界の魔王をも仲間に引き込んだ楓に驚きを隠せなかった。
「分かった、それなら何も問題はない。冒険者ランクもカエデ達と同じにする様にこちらで何とかする」
バルバトスはルシフェルの宣言を聞いてひとまず安心したのか肩の力を抜いてそう言う。
バルバトスは自分の国にまた新たに心強い味方が出来たと考える事にして、今は楓達との会話やルシフェルによる魔族の習性等の興味深い話を聞いて残りの時間を楽しむのであった。




