ファーストコンタクト 2
「止まれ」
「誰だ?」
案の定、楓は門の前で門兵に止められる。
「楓です。バロン・アスタルト様に呼ばれて来ました」
楓は一応礼儀スキルを使い丁寧に話しながら手紙を門兵に渡す。
「少し待て」
手紙を受け取った門兵は無愛想にそう言い残して中に入って行く。
現在、もう一人の門兵に睨まれながら待っているのだが凄く居心地が悪い。
楓はこのまま回れ右をして帰りたい気持ちでいっぱいだがここで帰るとさらに面倒臭い事になりそうなので耐える。
「バロン様より許可が降りた、入ってよし」
しばらくすると門兵と執事らしき人が楓の元へ戻ってきて案内される。
「これは、また随分な歓迎の挨拶ですね」
楓はそう言いながら執事の持っているナイフを取る。
そのナイフには毒が塗られており普通の人間ならかすっただけでも死に至る程だ。
「軽い挨拶でございます。それではこちらに」
執事は一瞬驚いた顔をしたがすぐに引っ込めて部屋に案内する。
まだこれは想定内なのだろう。この執事にはまだ余裕が見られた。
中に入るといたる所に豪華な装飾品がありかなり財力がある事が分かる。
中には初代勇者と見られる人物の絵画等もあり勇者の末裔と言う事が良く分かる屋敷となっていた。
「っと危ない危ない」
今度はすれ違いざまにメイドから毒針を頂戴したので首をひょいと横に避けて毒針を交わす。
さっきから本気で楓を殺しに来ているが楓はこの位は覚悟していたので特に驚かずにトラップを全てかわしていく。
その後も約10回程楓は命を狙われ、その度に難なく回避していく。
だんだん、執事の顔に余裕がなくなっていく。
「それにしても元気なメイドさんや装飾品が多いですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫でございます。もう少しで旦那様達がいる部屋です」
楓の皮肉に執事は頑張って焦りのある顔を偽り楓に笑顔で接する。
「着きました」
その後、計15回程毒針やナイフが飛んできたが楓は全て難なくかわし遂にルミナの父親のいる部屋に着いた。
「失礼します。バロン様」
執事は扉を開けると楓の事をほったらかし主人の元へと何か報告しに行った。
「失礼します。楓です」
楓は笑顔で、いかにも余裕そうな顔をしてバロン達家族に挨拶をする。
見た感じここにはルミナの兄と思われる男が二人と母親、それと父親がいた。
それで隠れている積もりか分からないが天井には10人程の暗殺者もいる。
壁で控えている騎士やメイドも何らかの武器を隠し持っていた。
殺す気満々じゃないか…
『一周回って清々しいですね』
だな、まさかここまで俺を殺したいとは…
楓は顔には出さずに心で愚痴をこぼす。その間もルミナの兄達は楓を面白そうな目で見ていた。
母親は楓に全く興味がないのかずっとバロンを見ていた。
「よく来てくれたな、カエデ殿」
バロンは執事の報告を聞き終えると笑顔で楓を歓迎して空いている椅子に座る様に促す。
「失礼します」
楓はそう断ってから椅子に座る。それと同時にメイドから毒入りの紅茶を頂戴する。
楓は笑顔で礼を言って手をつけない。
バロンはその行動にピクッと眉を動かしたが特に何も言う事なく笑顔のままだった。
「それで、今日はどうされましたか?」
「いやいや、ルミナがカエデ殿と勝手に結婚の誓いを交わしたとか」
「えぇ、そうですね」
「ルミナはすでに婚約相手が決まっているのだよ。それを奪われたのだ。どう責任を取ってくれるのかな?」
バロンはいきなり本題に入り楓にどう責任を取るのかを聞いてくる。
「ルミナさんを一生幸せにすると誓いましょう。それではご不満ですか?」
楓は最もな答えを言う。それがバロンが求めている答えではないのを知っていながら。
「ルミナの幸せなどどうでもいいのだよ。あの子はこの家では出来損ないでね。所詮道具だよ。どこかの有力貴族にでも嫁がせてコネクションを作るつもりだったのだが?」
バロンは少し高圧的な態度を取りながら楓に責任をとれと言ってくる。
「ルミナの幸せを考えないで責任をとれと言われても…もう既にルミナの初めてを貰ってしまったので返品は出来ませんね」
楓はルミナを道具と言ったバロスに向けて怒りを覚えながらも同じ様に皮肉で返す。
「ふざけているのか?」
ルミナの純潔を奪われ、他の貴族に送れない事が分かりバロンは威圧を放ち楓を脅しにかかる。
普通の人間ならこの威圧で失禁しているだろう。だが、この場にいる者は誰もそんなそぶりを見せない。
楓もまだまだ余裕の表情を崩さない。
「君も物好きだね、ルミナなんかを嫁にするなんて。あんなの顔が少しいいだけの愛玩道具だろ?君も楽しんでるかい?」
横からルミナの兄らしき人物が声をかけてくる。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。僕はリース。リースアスタルトだよ。アスタルト家の長男をしているよ。でこっちがファイン。よろしくね」
リースはそう言って挨拶をしてくる。
「リースさんですね。よろしくお願いします。ですがルミナを愛玩道具というのには賛同し兼ねますね。あまり僕の妻を侮辱しないで下さると助かります」
楓は丁寧に言葉を返す。
「リース、今は黙っていろ。それよりもだ。ルミナの価値がなくなってしまった件だが…どうしてくれるのだ?」
「さぁ?僕はルミナを幸せにするとしかお応え出来ません」
「そうか、残念だ。ならここで死んでもらおう」
バロンはそう言って指を鳴らす。すると天井に隠れていた暗殺部隊が一斉に楓を襲いにかかる。
「おー、凄いな」
楓は一斉に襲いかかってくる黒ずくめの暗殺者達を見てなお余裕そうな顔を崩さずにバロンと同じ様に指を鳴らす。
すると、楓の周りに透明の幕が貼られて誰一人として楓に攻撃を当てることが出来なかった。
「何!?」
流石にこの結果にバロンは黙っている事は出来ず驚きの声を上げる。
リースもファインも同様だ。
唯一、ルミナの母親だけが表情が少し強張る程度だったが…
「まぁ、そういう訳でルミナを含め俺の妻やメイドに手を出したら容赦しないのでその積もりで」
楓は最後迄にこやかな態度を崩さないで、屋敷を出て行くのであった。




