合同訓練 2
楓たちは今、いつもと同じように訓練場にいる。中等部との合同練習でどこが最適かと言われれば間違いなくここなので多少の出費は仕方ないと思ったのだが他のクラスの担任はそうは思わないらしく訓練場に入ると中等部Aクラスしかいなかった。
まぁ、楓達からすると実質訓練場を貸し切れて悪い事はないのだが中等部の生徒を見ていると少し億劫になってきた。
「あの位の年齢が一番調子に乗り易いからね」
楓の考えている事が分かったのかルミナは苦笑いをしながらそう言ってくる。
「にしても、初対面の時のお前より酷そうなのが結構いるって言うのはないだろ」
「わ、私の時のは忘れて!しょうがないじゃない。あの時あなたの力を測れなかったのは私のミスだけど…」
楓に突っ込まれたルミナはあたふたしながら最初楓と会った時の事を思い出して悶々としていた。
「カエデ、僕も一緒に前に立っていいかな?」
「別にいいがどうしたんだいきなり」
「ん?ちょっとね」
アルは楓の質問をはぐらかす。アルは基本的に楓のサポートをするだけが多いのでこうやって自分から前に立つと言うのは珍しい事なのだが楓は嫌な予感しかしていなかった
「じゃあ、日向とミルは後ろで見守っていてくれ」
「わかった!」
「頑張って下さい。旦那様」
日向達は楓に素直に従いそのまま歩いて集合している合同Aクラスの後ろに立った。
中等部の生徒の殆どが日向とミル、そしてルミナに視線がいく。
『分かり易い生徒で面白いですね』
思わずナビちゃんがそう突っ込んでしまう程中等部の生徒達は分かり易かった。
「えー、高等部2年の臨時講師をしている楓です。今日は一日よろしく」
「同じく臨時講師のアルです」
アルは普通に生徒達に挨拶をする。
あれ、何もしない?
楓が内心でホッとしていると勝手に話が進んでいく。
「ちょっといいですか?」
「ん?どうしたの?」
中等部の男子生徒の一人が手を挙げてなにやら聞いてくるが、楓が返事をする前にアルが先にその子に返事をしてしまった。
「一部の噂ではルミナ先輩がそこの先生と結婚したって聞いたんですけど本当ですか?」
「本当だね」
生徒の質問にアルは即答する。アルがそう答えた事によって場の雰囲気が一気に悪くなる。
「でも、カエデ先生はあのミルテイラ様ともご結婚されていると聞きます。現に今後ろにおられます」
「ミルとも結婚しているね。ついでに言うとそこにいる茶髪の先生もカエデのお嫁さんだよ」
アルはわざとお嫁さんと可愛く言って場の雰囲気を更に悪くする。
「ふざけないで下さい。それが許されると?」
「何が許されないのかな?」
「ルミナ先輩はこんな奴と結婚して良い様な人じゃない!ルミナ先輩は中等部どころか初等部の憧れなんだぞ!優れた容姿に優れた力。その全てを持っているんだ。それをそんな奴と一緒にするなんて!」
その少年は心からの叫びだったのだろう。だんだん口調が素になっていき更に楓を愚弄していく。
他の生徒も声には出さないものの自分達の方が優れているとでも言いたげな者が多くいた。
「いい加減にしなさい」
流石に見ていられなかったのかルミナがその場で声を発する。
「る、ルミナ先輩!」
後輩君はルミナに声をかけてもらったのが嬉しいのか歓喜の音色で声を上げる。
ルミナの注意が楓に向かっていると勘違いしているのだろう。
「さっきから黙って聞いていれば私の大好きな人を馬鹿にして…それに今はそんな事をしている時間じゃないでしょう。時と場合いを考えなさい」
ルミナは楓といる時のツンデレモードから出来る先輩へと変身して後輩に向かって注意を入れる。
後輩君は注意されているのにもかかわらずとても嬉しそうだ。
「これは…全く反省してないな」
楓は誰にも聞こえない声でボソッとため息と一緒にそう呟いた。
唯一アルだけその呟きが聞こえていたのだが敢えてスルーをしておく。
「そろそろいいか?今は授業中だ。そういうのは休み時間にしてくれ」
楓はそう言ってさっさと授業を始めようとする…が
「あなたのせいでこんな事になっているんですよ!どうやってルミナ先輩をたぶらかした!金か!?それとも無理やりか!?そうじゃなかったらルミナ先輩がこんな奴と結婚なんてする訳がない!」
もう中等部の生徒は楓を先生とも思っていない様で無茶苦茶言ってくる。そろそろ何とかしないとルミナ以前に日向とミルが危ない。
さっきから二人して下を向いてなにやら呟いている。
楓は攻城戦の時の日向を思い出してあれをこの生徒達に見せる訳にはいかないと何とか最善手を見つけ出そうとする。
「金でも、無理やりでもない。第一俺はルミナの嫌な事はしない。お前もルミナを慕っているのならそれ位分かれ」
「まぁ、それももう少しですけどね」
楓がいい感じにまとめて授業に移ろうとしたらルミナがボソッとそうやって呟いた。
それが運悪く中等部の生徒に聞こえてしまい場の空気が更に悪くなる。
中等部の先生は特になにをするでもなく見守っている。
自分のクラス位自分で面倒見て欲しいと楓は思った
が向こうの先生も今の中等部の生徒達は手をつけられないと分かっているのだろう。
「どういう事ですか?」
「私は後一週間でこの学院を辞めます。なのであなた達も他を当たって下さい」
ルミナは流石に中等部の生徒に本気で怒るのは気がひけるのかぶっきらぼうにそう言った。
「カエデ先生、貴方はなにをしたのか分かっているのか!?」
ルミナの退学。流石に黙っていられないらしくまた騒ぎ出す。
今は1人の男子生徒が喚いているだけなのが救いだが面倒臭いのは変わりない。
「これはルミナの判断だ。というかお前にとやかく言われる筋合いは無いだろ…なぁ、そろそろ授業を始めていいか?」
楓は自分のクラスの生徒達に助けを求める。みんな苦笑いだった。
と、言うのもそろそろルミナがキレそうなのだ。何とかしないと不味い。
「決闘です!」
「は?」
「僕は貴方に決闘を申し込みます!もし僕が勝ったらルミナ先輩との結婚を取り消してもらう」
「断る」
楓は即答だった。
「な!?怖いんですか?」
楓のその答えが予想外だったのか後輩君は戸惑う。
「違う、そもそもなんでお前との決闘如きでルミナとの関係を断たないといけない。調子に乗るのも程々にしておけ」
楓は半ギレで、意識してないが威圧が出て男子生徒に有無を言わせずにそう言う。
「まぁ、そういうのは授業が始まってからにしてくれ」
楓は一瞬で威圧を解いて授業を始めようとする。今度はそれに反対するものはいなかった。
まだ、アルがニコニコしていたので何かあるのだろうがそれは今は放置する事にした。




