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第5話 マーリンの魔道具でバレる

 ひとまず討伐した白ムキウサギ達を数えることにしよう。

 ひーふーみー・・・15体。紫ウサギが1体、計16体だ。この際だ、もう一度はっきりさせようじゃないか。


 俺は初心者だ!

 大賢者のくせに初心者だ!

 ガクブル気味だった初戦闘でこの戦果、やり遂げた気持ちよりも恐ろしさを感じてしまう。

 できれば平和的に解決したかったけど、このウサギ達が俺を食おうと襲ってきた。だから仕方ないと思う。何もしなかったら俺はエサにされていた。

 しかし、あんなに遅いスピードでよく今まで獲物を狩れていたものだ。それがこいつらの特徴なのか?だからこそ複数で襲い掛かり、エサを共有しようとしているということか。それがこいつらの生きる知恵ならば、それはそれで一つの進化の道というものだろう。

 でもやっぱりあれは遅い。俺がすんなりと回避できる程度の速さだ。地球の動物の方がよっぽど速く動く。

 その中でも、最後に現れたあの茶色ウサギは、ボスの匂いをプンプンさせていた。俺を睨む顔が「そのツラ、忘れねぇぞ」と言わんばかりの面構えだった。


 さて、この16体のウサギ達はどうしよう。

 美しい緑あふれたこの自然の大地に、胴体と下半身に分かれ血と内臓にまみれ、苦悶の表情を浮かべて絶命している凄惨さのギャップといったら・・・。

 討伐は仕方ないにせよ、どう処理していいのかわからない。燃やすにしてもライターもなければ『火魔法』もない。

 とりあえず、あんまりやりたくないけど一か所に集めてみますか・・・。


 やってみた。ごめんなさい。後悔しました。凄惨さがより強調されてしまいました。この場から逃げたいです。

 でもそれはできないな、と気持ちにブレーキをかける。血の匂いで他の魔物が集まってくるかもしれない。他の人間に危害が及ぶ可能性もある。なんとかして処理する方法を考えなければならない。土を掘って埋めるという方法もあるし・・・。


「・・・?」

 遠くから声が聞こえた。こっちに向かって呼んでいる気がする。あたりを見回すと、男性と思われる3人がここに向かって歩いていた。「おーい」と聞こえる。手を振ってみると、3人とも手を振りかえしてくれた。「おーい、坊主」と聞こえてきた。ムッとしてしまったが、18歳の年齢にまで若返ったことを思い出した。

 顔が判別できるところまで男たちが近づいてきた。剣と革製の防具を装備しているので、冒険者なのだろう。

「どうした坊主。立ち尽くしていたから心配になって来てみたんだ」

「こんにちは。ご心配お掛けしすみません。少し困ったことになってしまって」

「ん?困ったことって?」

 俺は一か所に集めたウサギ達を指差す。


 男たちは口を半開きにさせたまま固まってしまった。


「こいつらが俺を食おうと襲ってきたんで、返り討ちにしてしまって」

 男たちは顔を見合わせると、「こいつら確か」「うんうん」とヒソ話を始めた。「だよな?」とも聞こえてきた。

「このウサギ達がどうかしましたか」

 俺がそう聞くと、男たちは取り繕ったような笑顔を浮かべた。

「あ、いや、そのな・・・」

 話し始めようとした男を、もう一人の男がそれを遮った。やたらと身長だけは高い男だ。

「このウサギ達を倒したのはお前か?」

「はい。そうですよ」

「坊主一人だけでか?」

「えぇまぁ。動きが遅かったので大分楽でした。数体には逃げられましたけどね」

 もう2人の男は山積みのウサギを見て「うわぁ」と渋い顔で唸っていた。

「なぁ、もしよければこのウサギ達の処理を俺たちに任せてくれないか。初級だが火魔法が使えるんだ」

 それは助かる。やはり異世界でもこういう時は火が一番なのか。

「お願いしてもいいですか」

「あぁ、もちろんだ。でもこのことは誰にも言わないでほしい。街の人間が知ったら不安になるからな。こんな凶暴な魔物がいると知ったら外に出られないだろう」

 首肯して答えた。

 ん?今『街』と言ったな?

「あの、今『街』って言いましたけど、近くにあるんですか?」

 男はキョトンとした。

「お前、街の生まれじゃないんだな」

「えぇ、まぁ・・・。ず~っと向こうの山を何個も越えたところの村の出身で、田舎者なんです」

「そうか、どおりでな」


 男たちが言うには、王都はこの丘をもう少し歩いたところで見えるようになるという。そうすれば中央城門が見えるはずだから、そこで入城の受付を行うそうだ。指差しして王都のある方向を教えてくれた。

 この際だからもう一つ聞きたいことを聞いてみよう。


「あの、もう一つ聞いてもいいですか」

「あぁ、いいぜ。お前には世話になったからな」

「え?世話?」

「あ・・・いや、まぁ、何でもいいぜ」

 取り繕ったように笑う男たち。変な感じだがまぁいいか。

「身銭を稼ごうと思うんですが、冒険者ギルドのようなものってありますか」

「あぁ、もちろんあるさ。俺らも冒険者だからな。王都ならまずは中央ギルドに行って登録をしてこい。ランク付けやランクアップもあるが、それは直接聞いた方がいいだろう」

 やはりあったか。この男たちを見てギルドに依頼する何らかの仕組みがあってもおかしくないと思ったんだ。

「ありがとうございます。では王都に行きます。ここはよろしくお願いします」

「あぁ、気を付けてな」

 俺は手を振って別れを告げたあと、男たちに教えてもらった王都への方角へ歩いた。


 ・・・

 ・・

 ・


 やや開けた台地を進むと、徐々に下りこう配になり、王都の街並みが見えてきた。

 しばらく進むと、王都の全容を捉えることができた。


「なんて大きい・・・」


 思わず口からこぼれてしまう。小さな城下町程度を想像していた俺は、その広さと規模、中心区に見える王城の大きさに舌を巻いてしまった。

 目測でも、街の端から端までは余裕で5㎞はある。いや、もっと大きいかもしれない。街は外壁で固められ、全体的に円状に作られている。城下町もブロックに区切られているようで、おそらくは住宅地や商業地、政治用地というように効率的に運用されていることが、外から見てもわかる。

 ところどころ緑化地帯があり、王城の周りにそれが少し目立つが、それ以外にも見受けられ、その中でも1か所だけたくさんの木々が茂っているところがある。公園か何かだろうか。

 城壁には大きな門が見える。男たちの言っていた中央城門だ。この城門から城外に街道が整備されていて、そこを大勢の人々が歩いていた。馬車も何台か往来していて、『異国情緒』を感じる。街道はもちろん舗装などされていないが、城門近くになると石畳になっていて、王都の雰囲気を醸し出している。

 王都に再び目を移すと、中央城門とは反対側、王城の裏手方向ともいうべきか、その方向には果てのみえない森林が広がっている。


 俺は丘を下り、城門入口で受付の順番を待った。あたりを見回すと、家族連れもいれば商人らしき集団もいる。商人は冒険者らしき人たちに護衛されていた。魔物や盗賊からの護衛だろう。ぼろぼろになった防具を装備している冒険者もいた。

 キョロキョロと観察していたら、いつの間にか自分の順番になっていて、「次はあんたの番だぞ」と後ろで待っていた人が教えてくれた。受付の門番へ歩み寄り「こんにちは」と声をかけた。

「ようこそフィロデニアへ。初めてなんだろう?せわしなく頭を動かしていたからすぐにわかったぞ」

「あはは、やっぱりわかりますよね」

「あぁ、それにしても・・・黒髪とは珍しいな。どこの生まれだ?」

 これは初入城者への質問か、興味があるから聞いているのか、どちらなのかはわからない。先ほどの男達への説明に色を付けた形で応えておこう。

「山をいくつか越えたところにある『ムラカミ村』です」

 門番は首をかしげている。

「聞いたことがないな・・・」

 ちなみに、『ムラカミ(村上)』とは母の旧姓であり、漢字に直すと上から読んでも下から読んでも・・・まぁそれはいいか。

「小さな村のようだな。それならここまで名を知られることもあるまい」

 門番は自己納得したようで、手元の書類に目を移した。

「さて、まずこの王都に入るには入城税を最初に払ってもらうことになっている。銀貨3枚だが用意はあるか?」

「えぇ、ここに」

 ポケットから銀貨を取出し、もう一人隣にいた門番に渡した。

「よし・・・と。それと、初めてこの王都を訪れた者は必ず身分証を持たねばならない。この水晶に手を置くと、名前や年齢、職業、他ステータスが映され、プレートに刻まれるんだ」

 ほぉ~、これはすごい。素直に感心してしまう。機械文明が遅れていると思いきや、まさかの高度認証システムがあるとは夢にも思わなかった。

「素晴らしい仕組みですね」

「あぁ、これは大賢者マーリン様が遣わした大変貴重な魔道具なのだ」

「ブフッ!!」

 まさか、ここでいきなりマーリンさんが出てくるとは。ゆ、夢にも思わなかったな。


「さて、後がつかえているから手早くやってしまうぞ。水晶に手を置いてくれ」

 水晶は門番のすぐ横のテーブルの上に置かれていた。陽の光を反射してまぶしい。

 俺はそっと、水晶にてを置いた。水晶はすぐに反応し、白光を放った。門番は俺の向かいに立つと、白光の収まった水晶を確認していた。どうやら俺のステータスが映されているようだった。

「うん、よし。ん?・・・え・・・ちょっ・・・えっ!?」

 門番が水晶を二度見して吃驚していた。なにをそんなに・・・。


 あああああ!!しまった!!すっかり忘れていた!!


「お、おま、お前、『大賢者』って・・・」

 門番は目を白黒させていた。仕方のない反応だと思います。それでも一応言い訳はしておこう。

「それ、もしかして壊れちゃったんじゃないんですか?あはは」

「ば、ばか言え!マーリン様が作られた魔道具だぞ。意図的に壊しでもしない限り、『絶対』に壊れることはないんだぞ!」

 あぁ、マーリンさん、いい仕事していらっしゃるわ。

 門番が予想外に真剣に怒ってしまった。それだけマーリンさんの作る魔道具に信頼を寄せている証拠だろう。

「マーリン様の魔道具が『大賢者』と示されるのならば、お前はまさしく・・・あ、いや、あなたはまさしく『大賢者』様であられます」

 後ろの方から「なんだ」「大賢者だって?」とヒソヒソ聞こえてきた。努めて聞こえないフリをした。気を逸らすよう質問してみた。

「この水晶は、本当に職業が出るんですね」

「あ・・・えぇ。どんな人でも出ます。『農民』『剣士』とか、『盗賊』もでます」

 後ろからの視線がもう痛い。他で受付している人も俺に注目しはじめた。これ以上ここにいたら変な噂が立ってしまう。そろそろ切り上げたい。

「田舎者なのでよく分からないのですが、これで王都には入れるんですね」

 まくしたてるように話して、手を出した。早いところその身分証とやらをください。

「え、えぇ。これが身分証になります。王都に入られる際は必ずご掲示ください」

「ありがとうございます」

 身分証を受け取ると、小走りで中央城門をくぐった。


 ・・・

 ・・

 ・


「ラムダン、今の人・・・」

「あぁ、水晶の職業欄にはしっかり『大賢者』と示されていた。この魔道具をしてその結果だ。嘘偽りはないだろう」

「どうする?」

「どうするも何も・・・。とりあえずは兵士長には報告しよう。えーっと、確か名前は『ジンイチロー・ミタ』だったな」




投稿しました。修正は追って行います。


※一部修正しました

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