第4話 ヤル気まんまんムキムキウサギ
自然豊かな場所、そう表現するほかない。木々が茂り、小鳥がさえずり、そよ風が頬をなでる。
あたりを見回してもそれ以外見えるものは何もない。
マーリンさん、ここはいったいどこなんですか。
たしかフィロデニア王都に転移すると言っていた。確かに「王都」と。でも何もないよな?
しかし、王都のど真ん中に転移ゲートを出現させて現れたのでは確かにまずい。わざわざ入城税をポケットに忍ばせてくれたぐらいだ、気を使ってくれたのだろう。有名にはなりたくないと散々言ったからな。
ポケットからその入城税分のお金を手に取ってみた。形がやや四角っぽい銀色の貨幣だった。これは銀貨でいいのか?そうなれば金貨があって、銅貨があると考えられるな。通貨レートは全く分からないけど、王都に入ることを考えれば妥当な額なのだろう。手にした銀貨をポケットに戻す。
さて、どうしようか。振り返ってみると、ゲートはなくなっていて少し開けた草原があるだけだった。
マーリンさんとのやり取りがついさっきのことなのに懐かしく思える。ホームシックにかかったような気分だ。元の世界に帰りたいという気持ちじゃない。人恋しいというか、人の声を聞きたいというか。
急がなくてもよかったから、もっとマーリンさんと話していた方がよかったかな。あ、いや、マーリンさんが魅惑的だったからとかそういう意味じゃなく。
「だれかいないかぁ~!だれでもいいから出~てこ~い!」
さわさわ、と草が響く。
ここにはやはり誰もいないようだ。とりあえず歩こうか。そう思って何歩が歩みだしたそのとき、背後の茂みからガサガサと掻き分ける音が聞こえてきた。もしかして人か?王都への道を聞けるかもしれない。そう思った俺は振り向いた。
いたのはムッキムキな白ウサギの化け物達だった。
次々と現れだす。次々と、次々と・・・。そして最後に、紫色のウサギの化け物が現れた。なるほど、俺の声に反応してくれたのか・・・
って、あんたらお呼びでないよ!?俺が呼んだのは人間だよ!?
こいつらがいわゆる魔物なのだろうか。白ムキウサギは角がおでこから生えていて、二足歩行で俺よりもデカい。鍛え抜かれたような筋肉の肢体はきっとキレッキレな戦闘のために必要なのだろう。そして赤く大きな目で俺から目を離さない。何頭いるんだ?あぁ、そして口からは涎がしたたり落ちている。ええ、さぞかしお腹が空いているんでしょう。そんな時に弱そうな人間を見つけましたよね。そうなったら考えられる行動は一つしかありませんよね。
『GYRUUOOOOO!!!』
紫ムキウサギが耳をつんざくほどの雄叫びを上げた。それに続いて白ムキウサギ達が一斉に俺に飛び掛かってきた!
ですよね――!!
奴らは鋭い爪のある手を上げて飛び掛かってきたので、回避のため一旦後ろに避けた。
一呼吸置いて、奴らはさっきまで俺のいた地面を爪で突き刺していた。そしてまだ生きている俺を睨んだ。相当激おこのようで、歯をガチガチ鳴らし赤い目をより吊り上げている。
いやいや、むざむざ殺られませんよ?
それにしても、意外に奴らの動きが遅かったように感じる。魔物だからもっと速いものかと思ってすぐさま回避したのに、一呼吸置くほどの余裕があった。
あれ?もしかして、倒せるんじゃない?
でもどうしよう。マーリンさんからもらった刀はあるけど、本当に俺が使えるのだろうか。人生42年、これまで一度も本物の刀を握ったことはありませんし。
『GyURUUUUU・・・』
ムキウサ達が唸りだした。このままだとまた飛び掛かってくる。逃げることもできるが、背中を見せたら確実に襲い掛かってくる。
(覚悟を決めるしかない・・・)
腰に下げていた鞘から青龍刀を引き抜く。怖い、怖いさ。命を懸けた戦いをするなんて初めてだから。膝が笑いはじめている。武者震いも混じっているかもしれない。このままじゃ動くに動けない。
俺は丹田に力を込めて集中した。人間の『気』は丹田にこそありと聞いたことがある。地面にしっかりと足をつけた。
「ふぅうううううう」
深い、深い、深呼吸をする。俺はやれる、やれるんだ。
『GYARUUAAAAAA!!!』
ムキウサの一匹が突如駆けて、相変わらずの爪攻撃を仕掛けようと飛び掛かってきた。
動きが見える。さっきよりも見えている。
出来る!
あれ、急に刀が黒くなったような・・・。いや、今は目の前のアイツを叩く!
「ふん!」
タイミングよく、そして勢いよく振り下ろした。
手ごたえがあった。
目の前のムキウサが胸部から真っ二つに割れ、地面に落ちた。
異世界に来てわずか十分後、俺は気合で魔物を倒した。
42歳のおじさんもがんばればなんとかなるんだ。まぁ、体は18歳なんですが。
ん?残ったムキウサ達の様子がおかしい。我も行かんと今にも飛び出しそうだったのに、その中の数体が真っ二つに割れたムキウサと同じように血を流して倒れていた。
周囲のムキウサは『GYA!?GYA!?』と動揺を隠せないようだ。
俺たちは相容れない生き物だが、今なら分かち合える気がする。
(俺はいったい何をしてしまったんだ!?)
心の中でアワアワしてしまう。
だが束の間の共感の時間は、奴らの睨みで終了を迎えた。「お前が殺ったな?」と言わんばかりの形相だ。ええ、多分私だと思いますよ。むしろ何が起きたか教えて欲しいくらいですが。
『GYAEAAA!!!』
ムキウサ達は再び一斉に飛び掛かってきた。今回ばかりは距離が近い。後ろに下がって体勢を整える時間がない。
こんなところで死んでたまるか・・・。絶対終われない!
突破口は真ん中だ!
「ふん!」
上背を低くしたまま大きく横一文字に振り切った。
しまった。早すぎた。振りぬいた瞬間に失敗を感じ取った。
奴らの爪が俺に振りぬいてくる・・・
と思ったが、その爪は振りかぶることもなく、そのまま俺の肩をすり抜けていった。
しかしどういうわけか真ん中の奴だけじゃなく、飛び掛かってきたムキウサ達全てが真っ二つになって倒れていた。
あれ、向こうの紫の奴も倒れた・・・え?なんで?
生き残った奴らが『GYA~!』とわめき散らしている。これ、本当に俺が倒したのか?
あ、まさか・・・
俺はステータスを開いた。
LV.351 ジンイチロー・ミタ (18)
体力 66528/66636
魔力 87114/87134
職業 大賢者
魔法スキル 回復魔法、結界魔法
剣技スキル 「一閃」
(鑑定スキル、創造魔法スキル)
付属 青龍の加護
これだ、剣技スキルをいつの間にか習得している。ということは、当たってもいないウサギ達が倒れたのは、この剣技が発動したからなのか。
呆気にとられていたその時、生き残ったムキウサ達が急に後ろに下がった。そして茂みの奥を注視していた。
(何かが来るのか)
やがて姿を現したそれは、体毛が茶色く白い口ひげも蓄えている。こちらも相変わらず激激おこの様子。
しかし、ムキウサ達を一瞥しさらに俺を睨むと、襲ってくるかと思いきや茂みの奥に戻っていってしまった。
「ふぅうううううう」
生き残った・・・。よかった、本当に・・・。でも泣きたくなる現実が目の前にある。このムキウサ達の死骸、一体どうすればいいんだ?
※7/23 刀の名称・ステータス値の名称修正しました。
※年齢設定を変更しました




