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第3話 大賢者の『素』

「はっ!」

 真っ白な世界が広がっている。恐る恐るあたりを見回してみる。

 俺は立っているのか?寝ているのか?みんな真っ白だから本当にわからない。

 これはもしかしてあの世か?

「おう、目が覚めましたか」

 マーリンさんの声が足の方から聞こえた。上背を少し起こすとマーリンさんの姿が見えた。どうやら寝ているみたいだ。

 そして先ほどの出来事が脳裏に蘇る。胸に手を当ててみるが、何の変わりもない。

 上体を起こしてみる。なんだか妙に体が軽い気がする。

「はぁ・・・まったくなんてことをしてくれたんですか・・・」

「いいじゃな~い。でも3日も寝てたから、ここ最近の睡眠不足分は解消されたでしょ?」

「えぇ、まぁ・・・・・って、3日も寝てたの!?」

「推定52時間ね。てっきり本当にあの世に行ったのかと思っちゃった。てへぺろ❤」

 イラっとする気持ちを抑えて、ゆっくりと立ち上がる。

 だけどさっきから感じるこの違和感は何だ?体が寝ていた前と比べると軽すぎる。

「お、気付いちゃった感じ?」

「なんだこれ。すごく体が軽く感じますよ」

「あなた、大賢者になって早速凄いね。まさかこうなるなんて、さすがの私も想像できなかったよ。さてさて、種明かしとしてまずは鏡を見てみましょう」

 マーリンさんは白い壁の向こうから姿見を取出し、俺の前に置いた。

「なっ・・・なっ・・・俺の顔が・・・」

 姿見に映った俺の顔は高校生の頃に似ているけど、少し違う。西欧風な顔立ちというか、日本人顔でなくより中性的になったと言った方がいいかもしれない。

 身長も少し縮んだのか?さっきまではマーリンさんより俺の方が高かったが、今は同じくらいだ。

 他にも違和感があると思ったら、目の色まで変わっていた。黒目が深い青色、インディゴブルーになっていた。

「な・・・・なんじゃこりゃあああ!」

「ふふふ、さっきまでのむっさいおっさんよりも何百倍もいい男になったわね」

「でも!でも!変わりすぎ!」

「そうねぇ、まさかそんなふうになるとはね。『超越者』のわたしでも予測できなかった」

「・・・『超越者』?」

「大賢者のジョブはあなたに譲った。大賢者のジョブの上にはさらに上があると見込んでいたわたしは、適正者が現れれば大賢者のジョブをその人に与えようと思っていた。与えることを条件にジョブチェンジできる『超越者』の存在は、あなたに『大賢者』の『(もと)』をあげようとして準備をしたその瞬間に判明したのよ」

 と~ってもエラそうに言ってますけど、ようは俺をダシに使ったのか?俺はマーリンさんをジト目で睨んだ。

「まぁまぁ。話はまだ終わっていない」

 マーリンさんは俺に向かって指差して続けた。

「あなたは素質があった。大賢者の英知を織り込みまくって創ったあの魔法陣が、あなたに大賢者としての資質があるとみて吸い込んだ・・・と『超越者』マーリン(本家)は仮定したのです。本当は少しでも資質のある者の近くに魔法陣を出現させるよう、プログラムしただけなんだけどね」

 プログラムって・・・。どうして地球の技術の話をこの人は何の抵抗もなく口にしている?

「それに、第一あんな超絶スーパーな『素』を体に入れてもピンピンしてる。本当に凄いことなんだからね?しかも体を若返らせて適応させようとするなんて・・・。自然の摂理を無視した存在ね」

 う~ん、褒められているのだろうけど納得できない。

 結局無理やり『大賢者』にされてしまった。

「ただし、『目立ちたくない』というあなたの希望を全く受け入れないというわけではありません。職業は大賢者で、レベルも体力もそれなりに高くなっているはずだけど、大賢者なら使えるはずのスキルや魔法には『鍵』をかけました」

「鍵?」

「ステータスを開くようにいってごらんなさい」

 ファンタジーな世界ならいう言葉はこれだ。

「ステータスオープン」

 俺の視界に自らのステータスカードが現れた。

「ステータスは自分で見れるようにしたから。いつでも確認できるよ」


 LV.350 ジンイチロー・ミタ (18)

 体力 66528/66528

 魔力 87134/87134

 職業 大賢者

(魔法スキル、剣技スキル、鑑定スキル、創造魔法スキル)


 なんだこのレベル!ゲームでもこんなの在り得ないぞ!あ、でも、状態異常がなくなっている。体が何となく軽いのはそのせいか。それに、スキル欄が全て薄字になっている。

「レベルに驚いたかもしれないけど、大事なのはナ・カ・ミ!スキルは『鍵』がかかってるけど、魔法とか色々使いたい時に頑張れば『鍵』なんてなくなるから、問題はなし。あとは・・・『これ』渡すから、回復系はすべて使えるようになっているはず。異世界に急に飛ばされるあなたに、選別がわりに貸してあげる」

 マーリンさんが白い壁の中から取り出したのは、「刀」だった。マーリンさんは俺の目の前まで来て、刀を差しだした。

「これをあなたに貸し・・・え?あれ?差し上げます・・・?」

 え?貸すつもりだったんじゃ?何はともあれ、もらえるものはもらっておこう。

「ありがとうございます。でもどうして不思議そうにするんですか?」

「最初は貸そうと思ってたんだけどね、刀がそれを許さないみたいで・・・。あなたと一緒にいたいみたい」

 なるほど、意思をもった刀・・・業物のなかでも妖刀というやつか?

 しかし、この刀から意思というものよりも、圧倒的な力を感じる。持っているだけで自身にも流れ込んでくる。さすが『黒迅青龍刀』だな・・・て、え?

「黒迅青龍刀?」

「!!」

 マーリンはただでさえ大きい目をさらに見開いた。

「わかるの!?鑑定スキルないのに!?」

「いやぁ・・・勝手に名前が出てきたんですが・・・これは『黒迅青龍刀』でいいんですか?」

「ええ。青龍自らがその体から生み出した刀なの。もう回復魔法が使えるはずだから確認してみて」


 ステータスを開いてみた。


 LV.350 ジンイチロー・ミタ (18)

 体力 66528/66528

 魔力 87134/87134

 職業 大賢者


 魔法スキル  回復魔法、結界魔法

(剣技スキル、鑑定スキル、創造魔法スキル)


 付属  青龍の加護


 お~い、なんか付いてますよ?憑いてますよ?

「マーリンさん、なんですか、この結界魔法って?青龍の加護って?」

「あ、あれ~?初級回復しか復活しないはずだったのに、しかも加護付きって・・・。よっぽど気に入られたのね、その刀に。っていうか青龍に?ははは・・・」

 引き笑いするマーリンさんに俺もドン引きだ。刀のことが全く分からない初心者な俺でさえ、この刀が相当な業物であることはわかる。でも、気に入られた理由などどこにあるというのか。

「なんかさぁ、こういうのって、『この刀にはいろいろ世話になったから、青龍に会いに行ってお礼を言いに行こう』とか言って旅が始まっちゃう感じのアレ?」

「だから変なフラグを入れ込むなっつうの!!」

「うふふふふ」


 ・・・

 ・・

 ・


 せめてもの詫び?なのか、マーリンさんは異世界でも通用する冒険者風の服やバッグを用意してくれた。「まったく・・・」とぶつぶつ文句の言葉がでるが、これがまた意外にセンスがよく、様になっていた。

 仕方ない、許します。

 とりあえず今まで持っていたバッグの中身をもらったバッグに詰め込む。スマホは魔法陣に吸い込まれる時に落としてしまったようで、どこにも見当たらなかった。


「さてと、これから暮らす世界は決して安寧なところではないことは承知の上かな?」

「ええ。それなりな生き物・・・魔物でしたっけ。たくさんいるんでしょうか。それに、回復魔法を備えたことを考えれば、命をかけた戦いの可能性があるということでしょうか」

「その通り。魔物は狩っても狩っても湧き出てくる。だから、郊外でスローライフはレベル1程度のモブ平民じゃ2日と生きていられない。身を守る術は結果的に必須なのよ。回復魔法はプレゼント・・・というか、そう簡単に死なれちゃ困るから刀と一緒に付与させたのよ」

 いつ魔物に襲われてもおかしくない世界だ。のんびり過ごすにはそれなりの代償も必要ということか。だからといって『大賢者』を譲られたことを許したわけじゃないんだからな。

「でも俺はのんびりした生活ができる日が訪れると信じています。それまではコツコツ色んなことを習得して活かしていくことに専念しますよ」

「ふふふ・・・」

 マーリンさんは優しく微笑んだ。

「あなたに大賢者を譲ってよかった。あなたのがんばりはいつか必ず報われるはずよ。『厄』もお祓いしてあげたしね。そして、きっと、どこかでまたあなたに会えるでしょう。その時のあなたはどんなことをしているか・・・・・フフ、楽しみね」

「厄払いについてはありがとうございます。有名にならないようにホドホドにがんばりますよ」

「ふ~ん、なんだかんだ言って、あなたが言っているそれ自体、壮大なフラグじゃないかしら」

「はっ!」

 なんということか、自ら地雷を踏むなんて愚かな・・・。まだまだ修行が足りないということか。

「むふふ。せいぜい、有名にならないように気を付けてね。さてさて、それではそろそろ『フィロデニア王都』へあなたを転送しますよ」

「フィロデニア王都・・・。」

「この世界の中でも1,2位を争うほどの非常に大きな都市。かつ他の都市に比べれば安全だし。(犯罪的にね)」

「そっか・・・安全なのはいいことですね。(魔物が弱いのか)」

「うん。都市に入るには入場税がかかるから、その分のお金は服のポケットに入れてあるよ」

 ポケットに手を突っ込んでみると確かに硬貨らしきものが入っていた。

「それでは、『ジンイチロー・ミタ』をフィロデニア王都へ!『転移門』!」

 急に拡がった景色に目を見開いてしまった。一歩先には自然豊かな大地が、確かにそこにある。今まで白色しか見ていないからか、ものすごく新鮮だ。

「この世界で存分に生きなさい。たとえ不穏な影があろうとも、悲しいことがあろうとも、あなたならきっと乗り越えられるでしょう。いつかまた会える日を楽しみにしていますよ」

「マーリンさん、大賢者のことはともかく、色々ありがとうございます」

 マーリンさんに一礼し、大地に向かって俺の新しい人生の一歩を踏み出した。


修正は追って行います。


※7/23 刀の名称・ステータス値名称・文章他修正しました

※年齢表記の誤りを訂正しました

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