第28話 はじめてのポーションづくり
「う・・・んん・・・」
・・・あれ?明るい?鳥のさえずりも聞こえる。
それに毛布も被されている。
・・・アニーかな。
そうか、俺寝ちゃったんだな・・・。
思いっきり伸びをして、ふぅっ、と大きく息を吐き出した。
全然予習ができなかったなぁ。意外と疲れてたのかな。
後で読んで、ぶっつけ本番で作るしかないか。
居間に入るとアニーがテーブルにパンを置いていた。
「アニー、おはよう」
「おはよう、ジンイチロー。朝食そろそろよ」
「アニーが作ってくれたの?」
「うん」
「ありがとう」
「どういたしまして。とはいっても、ほとんどばぁばの作り置きのものだけどね。ばぁばの様子を見に寝室に行ったとき、教えてくれたの」
アニーと朝ごはんを食べて、食後のお茶を飲む。
窓を照らしはじめる朝陽がアニーに射し込む。
朝陽の初々しい眩しさが、妙にアニーに溶け込む。
この人は朝陽が似合うなぁ・・・。
アニーと目が合った。
「ジンイチロー、どうしたの?ボーっとして」
「・・・ううん、なんでもない」
「そう」
おっと、そういえば・・・。
「毛布なんだけど、もしかしてアニーが?」
「えぇ。ちょっと覗いてみたら気持ちよさそうに寝ていたから」
「起こしてくれてもよかったのに」
「だって・・・まぁ、その・・・熟睡してたみたいだから」
「そっか。ありがとう」
涎垂らして寝てなかっただろうな、俺?
起きたときは何も付いていなかったけど・・・。
お茶を飲み干したところで後片付けをしようとしたら、薬づくりに集中しろと言われた。
お言葉に甘えて、俺は早速作業場に籠ることにした。
「ポーションのページは・・・ここか」
ばぁばの薬本を開き、よくよくと読んでみる。
・・・・・。
『ここに掲載する分量は、前述した通り薬水用びんに入る全量分に対しての量である。
【小ポーション】
素体1/2 + きれいな水1/2 + 回復魔法(小)
【中ポーション】
素体2/3 + きれいな水で溶かした増強剤1/3 + 回復魔法(小)
【大ポーション】
素体1/2 + 精霊石を入れたきれいな水1/2 + 回復魔法(中)
【超ポーション】
素体1/4 + 精霊石を入れたきれいな水1/2 + 青龍のウロコを入れた水1/2 + 回復魔法(大) 』
ちょ、超ポーションなるものまであるのか・・・。しかも青龍のウロコ・・・。これは素材自体の希少価値が高そうだ。それに『超ポーション』自体も市場にはあまり出回っていないのではないだろうか。素材が手に入りにくいとなれば、自然と販売価格も上がるものだ。
兎にも角にも『中ポーション』だ。先日孤児院に持っていった数は20本。これがノルマになる。
まずは『素体』だな。
・・・・・で、『素体』って何よ?
ページを戻しましょう。『素体』というからには、基本になる配合物だと思うんだけど・・・お、あったあった!これだ!
『 素体について
素体とは、全ての薬水の基本となる配合水のことである。素体の配合量と添加物の配合量の度合いによって、生成される薬水が決定される。素体は次の物を配合する。
ケフィン草(根を含む) + 満月草(根を含む) + アンミンフロッグの乾燥粉 + きれいな水適量
これらを配合し、3日間寝かせる。
寝かせた後の透明な上澄み部分が素体となる。
注意点
・アンミンフロッグの粉に普通の井戸水を混ぜると赤く濁るため、素体としての適用はされない。なお、きれいな水を入れると、若干だが薄桃色となる。素体の配合はこのアンミンフロッグの粉ときれいな水を先に行い、薄桃色の反応が消えるまできれいな水を入れる。これがきれいな水の「適量」である。・・・ 』
・・・なるほど。まだ注意点の記述はあるけど、だいたい素体については理解できた。
ということは、この素体を先に作らなくちゃいけないのか?
でもそれじゃあ間に合わない。ばぁばは昨日『明日か明後日までに作って』と言っていた。つまり、この期日を守ることを必須条件とするならば素体はすでに作られていて、どこかに保管されているということになる。
素体なんて書いてあるものは部屋のどこを見渡してもない。居間にもそんなものはなかったはずだし・・・。
机の下にある樽も怪しいけど・・・・・。
・・・・・。
あった。普通に『素体』って書いてあるじゃん。蓋をとってみると水のような液体が入っている。
うん、これが素体だ。
素体の在りかを確認した俺は、さっそく薬水用びん・・・あの試験管みたいなびんのことだろう、棚に置いてあった箱の中に重ねられていたので、それを試験管立てのようなものにセットする。
さて、この素体を2/3か。分量をどうやって・・・。
ん?この試験管立ては・・・。
おお!うまくできている!試験管立てのびん挿入口の高さがだいたい2/3だ。
あとはきれいな水か・・・。
きれいな水の表記はどこかにないだろうか・・・。
ペラペラと捲ると、建物の地図が描かれていて、『きれいな水の在りか』と記されていた。
遠い場所だと大変そうだな、なんて思った途端に表記を二度見してしまった。
『きれいな水は、わたしの自宅の井戸水で十分である』
井戸水はだめって書いてあるのに・・・。でもこの家の井戸水だったら、もしかしたらいいのかも。地図をよく見ると、この家の見取り図だった。
桶をもって所定の場所へ言ってみると、古い井戸があった。汲んで桶に入れると、朝陽に反射した水がとてもきれいに映る。これで間違いなさそうだ。
作業場に戻り『増強剤』を探したら、棚にあるのをすぐに見つけられた。多分『増強剤』についても薬本のどこかに記載があるはずだが、ちょっとそれは後回し。
『増強剤』は、元の世界にある普通の錠剤をゴテゴテにしたような塊だ。これを桶の中に入れてみる。
すぐにシュワシュワと発泡して溶けていく。これでいいのかな?
全ての材料をそれぞれ分量通りに入れ、蓋を閉める。
さて、一番の問題は『回復魔法(小)』だ。
はっきり言って、『回復魔法(小)』がどういうものかが俺にはわからない!
多分、俺が普通に回復魔法としてかけたら、昨日のような魔法が発動するんだろうな。
全然『小』じゃないよな・・・。
俺はイメージする。昨日の魔法を限りなく、限りなく小さく。
出力を絞る。とにかく絞る。魔力も抑えるイメージ・・・。
これはこれで難しいな。コントロールを利かせるということか。魔法の練習に組み込まれそうなプログラムだな。
出力を絞ったイメージもおおよそ整った。無詠唱でも発動できそうだ。
試験管立てに手を伸ばし、イメージした通りの回復魔法を・・・。
―――発動!
試験管立てがキラキラキラ・・・と光った。
・・・出来たのか?見た目はさっきと変わらないし・・・。
こればっかりはばぁばに聞くしかないな。
ばぁばの寝室の前に立ち、ドアをノックした。
「どうぞ」
アニーの声が聞こえた。部屋に入ると、アニーがばぁばのベッドの横に座っていた。
アニーの横に立った俺が見たのは、少し苦しそうにしているばぁばの顔だ。
「ばぁば、一体・・・」
「高熱にうなされているみたい。今は寝てるわ」
「そうなんだ・・・」
昨日俺がかけた魔法は確かに効いていたが、体調はなぜか戻らなかったのか・・・。
『回復』とはどこまで効き目があるのか・・・。発動者に委ねられるものなのか、それとも原則のようなものがあるのか、あらためて調べたほうがよさそうだ。孤児院に行った帰りにでもまた図書館に行ってみよう。
「ジンイチロー、ポーションはどうなったの?」
そう言われ、アニーにもってきたびんを見せた。
「これが中ポーション?」
「それが・・・」
アニーに中ポーションの概要と、俺の回復魔法(小)モドキについて話してみた。
「だから、これが中ポーションなのかどうなのか、ばぁばにみてもらおうと思ったんだけど・・・」
「そうね。でもこの状態では無理ね。仮に起きていたとしても無理させられないわ」
「うん・・・」
ばぁばのことも心配だが、ばぁばの体調回復を待っていたら、『納期』に間に合わない。どうしようかな・・・。
「あっ、そうだ。思い出した」
「何?どうしたの?」
「王都には便利な店があるのよ」
「便利な店?」
「そう、その名も『鑑定屋』」
鑑定屋さん!そんなものがあるのか!
「名前を聞くに、色々なものを鑑定してくれそうだね」
アニーは首肯する。
「私は使ったことないんだけど、アイテムや装備、見つけた宝石が一体何なのかが分からないから、一度鑑定屋に鑑定してもらうの。売りたい人は鑑定屋から鑑定証明書をもらってからお店に行って売りに行くの。たま~に呪われている装備があるみたいだから、装備する前に見てもらうという人もいるみたい」
いいな、鑑定スキル。
俺は『大賢者』だけど、この職業に必須そうな鑑定スキルは全くの未装備です。ステータスに薄字表示すらされません。
「店の主人に鑑定料を払えば、ジンイチローのそれが何なのかがすぐにわかるわ」
「ありがとう、アニー。早速鑑定屋さんに持って行ってみるよ」
「えぇ。ばぁばは私がみているから安心して」
「うん。ところでその鑑定屋さんの場所、どこにあるかわかる?」
「簡単よ。中央ギルドの建物の5軒ぐらい隣にお店を構えていたはずよ」
「わかった、早速行ってみるよ」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
前回も使った肩掛けのバッグに、慎重にポーションを入れる。
それと、図書館にも行くだろうから、以前ばぁばに書いてもらった紹介状も持った。多分、調べたい内容は閲覧禁止エリアに保管されている本に記載されているはずだから、これを持っていかないと閲覧禁止エリアには入れない。
俺が作った初めてのポーションは、ちゃんとポーションしているんだろうか・・・。
ちょっと心配だな・・・。




