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第27話 ばぁばの容態

 お酒はエール1杯、酔いはそれほどでもない。

 アルマン王に暗くなる前に帰宅したい旨を告げると、フォレストホーンラビットの討伐報酬と特別褒賞が中袋で用意された。

 すっごく重たいです!

 固い握手を交わし、再訪を約束。

 イリアとも再会を誓ったが、公衆の面前で俺の胸に飛び込んできたのには吃驚してしまった。

 アニーが力付くて引き剥がしてくれた。助かった・・・。


 用意された馬車にアニーと乗り、帰路につく。

 とても長く感じた2日間だったなぁ。


 やがて小道の前に辿り着き、馬車の出立を見送る。

 陽はすでに落ちていてもやや明るい。だけど小道はすでに薄闇の中だ。

 あの食虫植物っぽいやつは、いびきをかいて頭を垂らしていた。寝るんだね・・・。


「ただいま~」

 玄関のドアを開けて帰宅を告げた。


 ・・・・・。反応がない。


 家の中に入り、居間を覗いてみた。


「!!」

 ばぁばがテーブルに突っ伏していた。

「ばぁば!!」

 重たい金貨袋を投げ捨てて駆け寄ってみた。

「ばぁば、大丈夫!?ばぁば!!」

「う・・・ん・・・」

 こんなばぁばは初めて見た。ゆっくり上体を起こしたばぁばの顔色は芳しくない。

「・・・ジンイチローかい。おかえり」

「ばぁば、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫さ。ちぃっとばかり疲れちまったのさ」

「ばぁば・・・」

「やれやれ、年には勝てないね。魔力を使い切ってこのザマさ」

 俺はアニーを見た。二人でうなずき合った。

「ばぁば、やっぱりあの魔道具を・・・」

「・・・あぁ、しっかり()()()はしてきてやったさ」


 短い時間の中であっても、魔道具の発見者である俺が責任もって片付ければよかったんだ。でなければこれほどまでに疲れ切ったばぁばを見ることはなかった。

 王城で兵士たちにもてはやされて上気していた自分が恥ずかしい・・・。


「ばぁば、ごめん。俺がちゃんと魔道具を見つけてぶっ壊しておけばよかったんだ」

「いや、それは違うよジンイチロー」

 ばぁばは俺を見据えながら首を横に振った。

「この広い王都でたった6個の魔道具を見つけるのは容易なことじゃない。たとえ一日費やして探しても、見つけられて精々1個だ。この前私が『王都を歩いていて見つけたら』と言ったのはそういうことさ。だけど今回は運がいいのか悪いのか、魔法陣を現出させたことでその場所が簡単にわかったんだ。」

「・・・」

「それに仮に見つけられたとしても、戦いは避けられなかっただろうね」

「・・・どういうこと?」

「ジンイチローも知っているだろう?灰色のローブを着たやつらを」

「!!」

「そう、そいつらが一箇所に一人ずつ、護衛として就いていたのさ。なかなか腕のいい奴らでね、魔法で戦うことに慣れていたよ。物騒な魔法を人のいる街中でぶっ放すもんだから、あちこちに結界魔法を張り巡らせながら戦ったんだ。ははは、久方ぶりに堪えるね・・・」

 もし俺が見つけていたとしても、きっとそいつらと戦闘になっただろう。街の人たちのことなど気にせずに魔法をぶっ放す奴らに、俺はばぁばのように対処できなかったかもしれない。


 ばぁばは再びテーブルに突っ伏してしまった。

 ・・・自分の無力さに苛立ってしまう。でも、何もできない現実は受け入れなければいけない。それに、自分のスキルに『鍵』をつけられた原因を作ったのは、他でもないこの俺自身なのだ。謝ることしかできない、俺自身なのだ。


「ばぁば、大丈夫?」

「少し横になればいいさね。そんなことよりもジンイチロー、あんたは大丈夫だったのかい?」

 俺の心配なんかどうだっていいのに・・・。ばぁば・・・。

「俺は大丈夫だよ。ばぁばがアニーに持たせてくれた大ポーションのおかげで、回復魔法が使えるようになったんだ」

「本当かい!?そりゃあよかった。それだけが気がかりだったんだ。きっと回復魔法を使わないといけない場面が来ると感じてね。アニーに託して正解だったね。ありがとう、アニー」

「どういたしまして、ばぁば」

 そうだ、確かアニーはあの大ポーションを持っていたはずだ。

「アニー、大ポーションはまだ余っていたよね」

「えぇ、あるけど」

「ばぁば、大ポーションを飲めば回復するでしょ?」

 ばぁばは、ジッと俺を見た。

 そして、首を横に振った。

 どうして・・・?

「元々それはもしものときのための取って置きだったのさ。材料が中々手に入りにくくてねぇ。実はその材料も・・・まぁ、それはあとで渡した本で勉強しておくれ。材料を見れば何となくわかるさ」

「うん・・・」

「それよりも、覚えた回復魔法を私にかけてくれないかい?」

「ばぁば・・・」

「回復するなら、そっちの方が私は嬉しいよ」

「わかった」


 俺は居直り、ばぁばに手を伸ばした。

 実を言うと、無詠唱でも魔法は発動できる自信はあった。

 でも今は俺の魔法を見てほしい。今俺に出来ることを見てほしい。そう思った。


「『ここに在る者の命に炎をかかげ、力と魂の源泉となり、幸福に満たされたまえ!フル・ケア!』」


 ばぁばが光の繭に包まれた。

 消えゆく光の中から徐々に見えてきたばぁばの顔は、驚きに満ちていた。


「ジ、ジンイチロー・・・。あんた、この回復魔法は・・・」

「ばぁばのおかげだよ」

「あんた・・・とっくに私を超えてるじゃないか・・・」

「な、何いってるんだよぉ・・・」


 泣かせるなよ、ばぁば。それに何で泣いてるんだよ・・・。

 目頭に溜まったものを、お互い指で拭い去る。


「体力だけじゃなくて・・・魔力も回復するなんて、聞いたことないよ」

「回復魔法ってそういうものじゃないの?」

「ふははは。アニー、聞いたかい?だからジンイチローには教えがいがあるんだよ」

 アニーはうなずいた。

「ばぁば、わかるわ。同じ気持ちよ」

「そしてジンイチロー、この魔法は本当に()()()()()ね。ジンイチローの回復魔法をかけられた者はきっと、あんたの心を感じ取っているよ。優しいジンイチローの心をね」

「そ、そういうものなのかな・・・」

「そういうものさ。アニーならわかるさ」

 そう言われアニーを見ると、落ち着きなく口を動かしていた。



 俺の回復魔法で全回復したばぁばだったけど、まだフラフラするようだ。

 年のせいだ、としきりに言うけど、本当にそうなのか?

 心配する俺を余所に、大丈夫だと言って寝室に行こうとするばぁば。

 アニーを居間に待たせ、ばぁばを寝室へと誘導する。

 ベッドに横たわり、ふーっと深くため息をついていた。

「すまないね。多分しばらくはこんな感じだろうね」

「いいよ、ゆっくり休んで」

「ジンイチロー、一つ頼みたいことがあるんだがいいかい?」

「うん。できることなら」

「孤児院にもっていくポーションを作ってほしいんだよ」

「えっ!」

 ポーションの作成!?

「お、俺にできるのかな・・・」

「作り方はこの前渡した本に書いてあるよ」

「うん・・・」

「悪いね。座っているだけでも今は辛いんだ。」

「・・・わかったよ。やってみる!」

「すまないね。本当なら中ポーションを作ってほしいところだが、できた薬については私は何も言わないよ。好きにしていい。ジンイチローができる範囲の中で作ってくれればそれでいい。できれば明日か明後日までに作って届けてほしいんだ」

 ばぁばがにっこり笑って言った。

 小ポーションでも文句は言わない、ということかな。

「わかった。できたときには見てもらっていいかな」

「あぁ、楽しみにしているよ」



 居間にアニーと二人っきりでお茶を飲む。

 肉焼き会で肉をしっかりいただいたので、夕食は特に必要ない。

「ばぁば、大丈夫かしら」

「うん、あんなに疲れきった顔、初めて見た」

「『6個』って言ってた」

「うん。魔法陣の形成に6個の魔道具を使って安定化させていたようだね」

「ジンイチローは『灰色のローブ』の人たちのこと、どこまで知っているの?」

 俺は首を傾げた。

「はっきり言ってよく分からないんだ。何がしたくて・・・」

 元の世界での出来事を言いかけて口を噤む。

「・・・魔道具を仕掛けたのか・・・」

「ばぁばの口ぶりから察すると、灰色ローブの人はみんな倒したということでいいのよね」

「そうだと思うよ」

「そのあとは?その人たちは?」

「あー・・・」

 確かに、その後どうしたのだろうか。元気になってからばぁばに聞いてみることにしよう。


「ばぁばと寝室で何か話していたみたいだけど、何かあったの?」

 俺はポーションづくりのことを打ち明けた。

「そう、それは重責ね」

「そうなんだよ。今まで一度も作ったことがないから、ちょっと不安なんだよ」

「作り方は知っているんでしょ?」

「知らないよ。でも作り方の本はもらった。だからそれを見ながら作ることになるよ」

「そう・・・」


 アニーはお茶を一口含み、ふぅと息をつく。


「・・・」

「・・・」


 外はもう暗い。虫の音がかすかに聴こえる、静かな夜だ。

 部屋にはランプが灯されていた。点け方は教えてもらったけど、どういう原理で明かりが点いているのかは未だわからない・・・。


「・・・」

「・・・」


 アニーも俺も、妙に黙りこくってしまった。

 ちらっとアニーを見た。

 アニーはすでに俺を見ていた。

 思わず目を逸らしてしまった。


「ジンイチロー」

「な、なに?」

「・・・その・・・」

「・・・」

「今日、ここに泊まってもいいかな」

「・・・えっ、その・・・」

「ほら、その、もう外暗いし、今から宿を探すのは・・・」

 あぁ、あぁ!そうだよね!

 本当に俺は気が利かないな!

「ご、ごめん、気が付かなくて!うん!そうだね!泊まっていきなよ!」

「・・・」

「・・・アニー?」

 少しの間のあと、アニーはくすりと口元を緩ませた。

「なんでもないわ。ありがとう。お言葉に甘えるわ」

「うん。寝室は俺の部屋を使うといいよ」

「・・・いいの?」

「構わないよ。それに、俺はポーション作りの予習をしなきゃいけないから。しばらく作業部屋に籠るから」

「ごめんなさい。私のわがままで・・・」

「いいんだよ。アニーのためだから」

「・・・」

「どうしたの?」

「(急に放り込むのずるい)ボソボソ」

「ん?」

「なんでもない」

「そうだ、湯あみ用のお湯を用意しておくね」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、部屋に案内するよ」



 ばぁばからは、キッチンの魔道具の使い方についてもすでに教習されている。

 お湯を沸かし終えて桶に入れ、水を入れて温度調整。

 うん、こんなものかな。

 部屋に行って桶を置き、本を回収。

 おやすみ、アニー。


 作業場の明かりも点けて、予習をしようと本を開いた。

 でもここにきて、今日の疲れがどっと押し寄せてきた。

 無理もないよなぁ、自分でも魔物を何匹倒したのかわからない・・・。

 それにいっぱい走ったし、特大な回復魔法もいっぱいかけたし・・・それにいっぱい・・・。



「ジンイチロー、入るわよ?」

 ドアをノックしても返事がなかったのでドアを開けてみた。

「・・・」

 机に突っ伏して、スヤスヤ寝息を立てている。

 無理もないか。兵士の話によると、一度に10匹以上のグランドベアを一瞬で倒したと聞いたもの。それに、あれだけの回復魔法を連発したのだから、魔力の消費も少なからず疲れの原因ね。


 この人の安らかな顔を見ていると増々気になる、イリア王女とのやりとり。

 あの人はこの先、必ず私の横に立って同じ未来を見ようとする。

 そして私にはできないやり方で、この人の傍に立とうとしている。

 イリア王女のこと、この人はどう感じているんだろう・・・。


 それに・・・この人は優しすぎるから、人の強さにも弱さにも抗えない。

 誰かが傍にいないと、色々な場面でこの人は危険に晒されるだろう。

 自分を犠牲にしようとするきらいがあるから、気を付けてほしいんだけど・・・。



 わたし、なんでこんな急に・・・。



 ・・・はぁ、まったく、人の気も知らずにこんな呆けた顔で寝ちゃってさ。



 ・・・おやすみ、ジンイチロー。



 ・・・・・・・ほっぺくらいなら、いいかな?







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