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第26話 魔物肉で肉焼き会

「魔法陣が消えた・・・」

「おい、どういうことだ!?」

「魔道具が壊れたか!?」

「そんなはずないだろう!」

 灰色ローブの男たちは、丘から眺める()()()()()()()()した。

「それにおかしくないか?人っ子一人、慌てて王都を出るものがいないぞ・・・」

「そういえばそうだな・・・。あれだけの魔物を投下したんだ。そろそろ街中に移動してもいい頃合いのはずだ」

「まさか、全部倒されたなんてことはないよな・・・」

「ばか言え。騎士団とて無事では済まないほどの強さをもっているグランドベアだ。俺達はそれを危険を冒してまであれだけ用意したんだ。そう簡単にヤラれちゃ困る」

「・・・誰かが加勢しているのか」

「まさか、マーリンがいたっていうのか?」

「いや、いまのところそんな情報は聞いていないぞ」

 そして、不意に訪れる静寂の時間・・・。

 男たちは、『作戦の失敗』という受け入れがたい現実を目の当たりにしてしまったのだ。

「・・・これからどうする」

「どうするも何も、帰るしかないだろう」

「ボロネー様、何て言うだろうか」

「・・・言葉すらかけてくれぬかもしれん。我々は『失敗者』だしな」

「だが、帰る場所はひとつしかない。戻ろう」


 皆でため息一つつき、国の方角へと歩いていくのだった・・・。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 兵士達が見ていなかったからよかったものの、イリアさんの労いの言葉が翳ってしまった気分だ。

 とはいえ、すぐに居直ったアルマン王は、イリアさん同様に兵士達に声を掛け労った。


 やがて避難していた施政者たちも王のもとに集まりだし、自然と即席の御前会議が始まった。城の中はごちゃごちゃしているだろうから仕方がないだろう。

 漏れ効く声から察するに、御前会議の内容はおそらく『アレ』だ。


 俺の視界に何度も入る、無数に転がる屍となったグランドベア・・・。

 あれらは一体どうするっていうんだ?



 兵士たちに一時の休憩が与えられた中、俺とアニーは少し離れたところでその様子を座ってみていた。

「アニー、ありがとう。君が来てくれなったら魔法が使えなかった」

「どういたしまして。でもこれはばぁばの機転だから」

「ばぁばにもお礼を言わなきゃね。1日会っていないだけで、なんだかずっと会っていない気分だよ」

「ばぁば、無事だといいんだけど」


 え?どういうこと?


「ばぁばは『魔法陣をどうにかする」って言ってた」

「もしかして、街中から伸びてたあの紫色の光のこと?」

 アニーは首肯した。

「かもしれない。私には何をどうするのかわからなかった。早くジンイチローのところへ行かなきゃって思ってたから、何も聞かずに飛び出してきちゃった」

「そっか・・・」

 ばぁばは街中から伸びていたあの光を見て、きっと俺が壊した魔道具と同じものが点在していると確信したんだ。だから・・・。

 すると、アニーは微笑んだ。

「でも、ばぁばのことだから大丈夫。危なくなっても引き際くらい見極められるだろうし。それに、魔法陣は消えたわ」

「・・・うん、そうだね」


 兵士たちの笑い声が聞こえる。あんなに低かった空も、徐々に青が広がってきた。

 城に陽が射しはじめた。

「そういえば、アニーはどうやって城内に入れたの?」

「う~ん、何て言えばいいの?城門には兵士がいたといえばいたんだけど、あの状況でしょ?城門からは中が見えないだけにすごく混乱していたし、何を話しても返事が聞けないと思ったから、『大賢者ジンイチローの命で預かりものを届けに参上した!』と言ったら、すんなり開けてくれた」

 セキュリティーが甘々だ・・・。俺の名前を出したら開けてくれるなんて・・・。

 今の話は聞かなかったことにしておこうか・・・。混乱の最中だったから致し方あるまい。


「ねぇ、ジンイチロー」

「ん?」

「・・・イリア王女とは、どういう話をしたの?」

「どういう・・・というのは?」

「その・・・どんな話をしたか、とか、歓迎パーティーが催されるって聞いたから、夜はどういう感じだったのか、とか・・・」

「あぁ・・・」


 俺は昨日の流れを一通り話した。そんなに大した話じゃないけど。

 ただし、フォレストホーンラビットの討伐報酬の話をしたら、ものすごく驚かれた。


「な・・・金貨250枚!?!?」

「うん・・・帰るときに渡すって」

「ちょっと、なんでジンイチローはそんなにあっけらかんとしているの?250枚よ!?」

「あぁ・・・うん。いまいち実感がないっていうか・・・」


 すいません。実はいまだにこの世界の貨幣のレートがわかってないんです!

 田舎出身とアニーに言ったところで、いくらなんでもお金の価値を知らないというのは無理がある。


「ほら、もらったら実感がわいて大喜びかも」

「ジンイチローは変わり者ね」

「なはは・・・」

 変わり者と言われてしまった・・・。

 大賢者にして魔法が全く使えなかったという意味においてもそうかもしれないけど。


「他には、歓迎パーティーでは何かあったの?」

「特には・・・」

「王女から何かなかった?」

「イリアさんから?」

 腕を組まれながら食事をとり、胸の柔らかさが・・・。

 いけない、余計なことを思い出してしまった・・・。

「何もないよ」

「・・・ふぅん」



 御前会議で話がまとまったのか、兵士たちに集合がかけられた。

 アルマン王が皆の前に立った。

「皆の者、最後の一仕事だ。魔物の後始末と破損した城の補修準備のための片付けを行ってもらいたい。もちろん、我も一緒に作業する」

 兵士たちにざわめきが起きるが、すぐに止んだ。

「なお、魔物の後始末を行う班は指示に従いながら作業を行ってほしい。多くはグランドベアの骸であるが、グランドベアの肉は食べられるそうで、部位に切り分けて、城で食べる分と街に卸して流通させるものと振り分けるのでそのつもりでいてほしい。以上だ」


 アルマン王の言葉のあと解散となり、兵士たちが二手に分かれてブリーフィングを行った。俺とアニーはそれをボーっと見ていた。

 そこに、イリアさんがやってきた。

「ジンイチローさん」

「イリアさん」

「ジンイチローさんがわたくしを魔物から守ってくださったのですね」

「いえ、俺は結局間に合いませんでした。でも無事でよかったです」

「そこの御方から、ジンイチローさんの回復魔法によって救われたと教えていただきました」

 イリアさんがチラリとアニーを見た。

「魔法が使えるようになったのですね」

「えぇ、なんとか」

「それに、広域魔法も発動しましたか?わたくしも、メルウェルも、そちらの御方までも突然光りだしたのです」

「えぇ、やりました。兵士達があまりにも疲弊していたので」

「やはりそうでしたか。本当にありがとうございます」

「いいんです。みんなが元気になれてよかったです」


 そうだ。そんなことよりも兵士たちの手伝いをしなくてもいいのだろうか。


「イリアさん。もしよければ兵士たちのお手伝い、やりますよ」

 イリアさんは首を横に振った。

「ジンイチローさんには、もう十分、魔物の駆除に大役を果たしていただきました。ここからは、わたくしたちが責任をもって処理いたします」

「そうですか・・・」

「そのかわりお願いしたいことがあります」

「なんでしょう」

「今日の夜もお泊りいただけますでしょうか」

「えっ!?」

 返事をしたのは俺じゃない。アニーだ。

 アニーを見ると、怪訝そうな顔を向けていた。

「イリアさん、今日も何かあるんですか?」

「実は先ほどの話し合いの中で・・・」


 つまりこういうことだ。

 流通する分と城の分で食べられる魔物の肉を仕分けをする予定だが、魔物があまりにも多すぎるため、結果的に余ってしまう。そのため、その余る部分を本日中に食べてしまおうということらしい。

 そしてそれを、大賢者への礼として振る舞いたいという意図もあるようなのだ。

 さらに、全員入ることのできる場所がないため、屋外での肉焼きと酒の振る舞いも行おうという計画らしい。

「お父様以下皆様も、ジンイチローさんの戦いぶりは報告を受けご存知です。それを受けてのことと思います」

「なるほど・・・」

 屋外での肉焼き・・・それはまさにバーベキューだ。若者の特権とばかり思っていたバーベキューパーティーを、まさか異世界で体験できるなんて!

 バーベキューは参加しよう。

 だけど、お泊りはさすがになぁ・・・。

 だって・・・。


「肉焼きについては参加しますが、お泊りについては遠慮します」

「・・・それは、なぜですか」

「単純な理由です。ばぁばが心配なんです」

「・・・ミルキ―様が、ですか?」

「えぇ。城の上に魔法陣があったのはご存知ですか」

「それは・・・はい。メルウェルから聞き及びましたので」

「多分ですけど、その魔法陣を消滅させたのは、他ならぬばぁばがやり遂げたものと推測しています」

「ミルキー様が!?」

「多分ですけどね。だから心配なんです。無事かどうかが」

「そうでしたか・・・。それでは仕方ありませんね。ではお父様にはそのようにお伝えします。お帰りの際は、陽も落ちていることでしょう。馬車を用立てます」

「何から何まですみません」

「あの、そちらの御方もご参加、されるのですよね」

 イリアさんがアニーをチラリと見た。


 そうか、まだ紹介していなかったよね。


「イリアさん、こちらはアニーです」

「わたしはアニー。()()()()()()()()()()()()()知り合ったの」

「わたくしは第三王女のイリアと申します。アニーさんとお呼びすればよいですか?」

「えぇ。お好きに」

「ジンイチローさんとは仲がよろしいんですね」

「えぇ、そうね。王女様も何やら楽しそうね」

「・・・」

「・・・」


 どこかに魔物でも生き残っているのか、空気が急に変わったような・・・。


「それではジンイチローさん、しばらく客室にてお待ちください」

「ありがとうございます」

 イリアさんは一礼して踵を返した。


「ジンイチロー、念のために聞くけど」

「なんだい?」

「昨日、本当にイリアさんとは何もなかったのね?」

「・・・」

「・・・どうしたの?」

「いや、それはこっちのセリフ・・・」

「何かあったのね」

 キキセマル、アニーノヨコガオ・・・。


 一体どうしてそんなにアニーは怒った顔を・・・。


 あっ!そうか!もしかして、回復魔法に成功した時、思わず抱きついたことを怒っているのか!?

 そうなんだね!?


「ごめんなさい!抱きついてごめんなさい!」

「なんですって!?」

「その・・・思わず、嬉しくて・・・」

「嬉しくて抱きついたの!?」

「だって・・・初めて・・・だったし・・・」

「は、初めて・・・そんな・・・そんな節操なしだったのね」

「そ、そうだよなぁ、そう思うよなぁ」

「当たり前じゃない!初めてだなんて!しかもここは王城よ!?」

「で、ですよね。これからは気を付けるよ」

「気を付けるじゃ済まないわ。どう落とし前をつけるの?」

「お、落とし前・・・」

「えぇ。してしまった以上、責任は課せられるわ」

「そ、そんな・・・」

「いいこと?初めてだったのよ!?そんな重大なことを、あなたはしでかしてしまったの」

「え?あぁ、まぁ、確かに重大なことでしたけど・・・」

「はぁっ?何?その他人事みたいな態度は!?やったことの意味わかってるの!?」

「はいっ!それはもう!すみません!」

「すみませんじゃ済まされないの!人の気も知らないで!」

「ご、ごめん・・・アニーがそんなに抱きつかれたことに怒っているなんて・・・」

「抱きつかれた・・・え?わたし?」

「・・・ん?」

「ジンイチローは・・・何に抱きついたの?」

「え?アニーに・・・抱きついたんだけど・・・?」

「え?何それ?」

「えっ」

「えっ」



 肉焼き会の前に、アルマン王からの口上があった。俺は目立たないように兵士たちの後ろにアニーと一緒にいた。

「諸君、大変な厄災からこの城に住まう者たちを守ってくれて感謝する。本当に、ありがとう!」

 アルマン王が頭を下げた。兵士たちもあわせて深く頭を下げた。

「失ってしまった仲間たちのことを思うと、私も、諸君と同様、胸が張り裂けるほど辛い」

 兵士たちからすすり泣く声が聞こえる。

「悲しい気持ちはあるが、今日はその者達の魂と共に弔いの意味も込めて、この城を馬鹿みたいに攻め込んで倒れた魔物達の肉を喰らい、そして旨い酒も飲み干してしまおうではないか!今日は無礼講なるぞ!」

「「「 うおおおおおおおおおおお!」」」

「そして、忘れてはいけない。諸君ならその戦いぶりをしかとその目に焼き付けたであろう、大賢者ジンイチロー殿の勇敢ぶりを!」

 指笛と共に拍手喝采を浴びた。恥ずかしいな・・・。

「倒れる兵士の盾となり、たった一人であの魔物達と対峙したその勇気と技たるや、一国の騎士団大隊にも相当するものぞ!」

 拍手と視線がこそばゆい。

「薄れゆく意識の中、神々しいばかりのその魔法で力を蘇らせてくれた、確かな魔法力!そしてその力は、魔物に襲われた我が娘イリアを、死の淵から呼び戻したのだ!」

 兵士たちからは「俺もだ!」と声が上がった。

「さぁジンイチロー殿、こちらへ来てくれ」

 王と俺の間に、兵士たちが避けて道を作ってくれた。王のもとへ歩く俺に、皆拍手で見届けてくれた。

 その途上、色んな人から握手を求められた。

「諸君に提案だ。このたび、諸君と娘イリアを救ってくれたこの救国の大賢者に、特別報償を与えたいのだがどうだろうか」

 再び拍手喝采で、「いいぞー!」と声が上がった。

「諸君ありがとう。ジンイチロー殿、これは私だけの決定ではない。ジンイチロー殿が救ってくれた皆の同意もあるものだ。ジンイチロー殿には、金貨200枚を報償として贈呈する!」

 おおおお、と声があがった。

「これでも少ないぐらいだ。もっと上乗せしたいところだが、兵士達諸君にも特別報償を贈呈するため、許してほしい」

「いえ、もう本当に、十分すぎます」

 アルマン王は俺の言葉を聞き、うなずいた。

「それでは諸君、杯を持て!」

 皆、テーブルの上のグラスを持ちあげた。

 俺も給仕の女性からグラスをもらい、掲げた。

「乾杯!!!」



 戦闘中に嗅いだ焦げた匂いは、毛と皮が焼けた匂いだと料理人から聞いた。

 料理人曰く、グランドベアの肉はなかなか手に入りにくいため希少価値が高いという。

 調理は至ってシンプルなもので、火の上に鉄板を敷いて焼くという鉄板焼きスタイルか、薄く切った肉を鉄板で焼くという焼肉スタイルかのどちらかだった。


 それにしても、なぜかアニーが俺の傍を離れようとしない。

 無理もないか。兵士たちの視線が俺よりもアニーに集中しているからだ。


「この肉質、はまりそう」

「確かにおいしいよね」


 ついついさっきの二人のやり取りを思い出してしまう。

 客室に戻っても、盛大な勘違いをお互い恥ずかしがり、あまり口をきかなかった。

 まぁ、お互いあらぬ誤解があったということがわかればそれでいいのさ。


 イリアさんが不意に俺の横についた。

「ジンイチローさん」

「イリアさん」

「今日は・・・というか、これから先も無礼講です。お互い呼び捨てで呼び合いませんか?」

「イリア・・・と?」

「えぇ、ジンイチロー・・・」


 すぅっ、とアニーが俺たちの間に入った。

「エールがおいしいわ、ジンイチロー」

 イリア・・・がにっこりと笑った。

「あら、アニーさん。気に入っていただけてよかった」

「さすが王城ね。いいお酒が入っている」

「お褒めいただいて嬉しいわ」

「・・・」

「・・・」


 あ、給仕さん!俺にもエールください!




ちょっと急ぎ足で書いたので、後日修正を入れたいと思います。

2日に1回ではなく毎日更新を心掛けたいですから!

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