第25話 戦闘終結
二人をアニーに託し、城内に入る前に会った魔法士達がいるところまで戻った。
よもや全滅しているのではないかと心配したが、思った以上に善戦していたらしく、俺が倒した魔物以外の骸が横たわっていた。
戦い方をみれば一目瞭然、兵士と魔法士の即席パーティーが作られ、連携プレーが光っていた。
初動の被害の大きさは、魔物の強さを適切に評価せずに、焦って単身で攻撃を仕掛けてしまったがために起きてしまったのではないか。
今は、例え複数体の魔物が襲いかかったとしても誰かのフォローが入るし、声を掛け合うことでリスクを軽減しているようだ。
そうした連携プレーを邪魔しないよう、押され気味の分が悪そうな即席パーティーに加勢した。
「大賢者様!」
「遅れてすみません!加勢します!」
「みんな!大賢者様が戻ってきたぞ!」
「「「 うおおおおおおおお! 」」」
俺の存在だけで士気が高ぶるのなら、それだけでも意味がある。
このパーティーが相手にするのはグランドベアだ。魔法士による氷系魔法が繰り出され、魔物の注意が惹き付けられる。魔法士めがけて突進するも、魔法士はヒラリとかわす。突進を止めて急停止したグランドベアに兵士が殺到し、次々と剣で巨躯を突き刺す。咆哮を上げて悶える中、すぐに刺した剣を引き抜き、巨躯の間合いから離れる。
ヒットアンドアウェイだ!グランドベアの攻撃特性を理解した上での方法か。グランドベアは怒り狂い、兵士に向かって突進する。だが、わかりきった攻撃は読みやすい。これも兵士は軽快にかわした。グランドベアの突進が誰もいないところへ抜けると同時に、あらかじめ詠唱していた魔法士が魔法による炎柱を発動。グランドベアに猛火が襲った。グランドベアの毛が縮れ上がり、生焼けた臭いがあたりに立ち込める。
グランドベアの耳をつんざく悲鳴が響く。翻ったグランドベアは魔法士を睨んだ。
「来るぞ!」
誰かの掛け声に合わせるようにグランドベアが魔法士に突進。
だが、この突進はこれまでのものと比べ物にならないほど速い!
魔法士が吃驚して立ち竦んでしまった。
「避けろ!」
間に合わない!
俺は駆けて魔法士の前に陣取ると、皆に叫んだ。
「みんな、伏せろ!」
一斉に兵士達が姿勢を低くした。
それを見届けた俺は、『一閃』を放つ!
グランドベアは走駆姿勢のまま、背骨と並行するように二枚下ろしに・・・。走駆スピードを保ったまま転び、俺の目の前で止まった。
「大賢者様がやったぞ!」
「「「 うおおおおおおおおおおおお! 」」」
「ど、どうも・・・」
気付いてみれば、辺りの魔物の数が激減しているように思えた。
魔法陣を見上げると、魔物の降臨がなくなっている。
それに、魔法陣を形成する街中からの紫光が少なくなっている。
あ、光が1本消えた。
あの路地裏の魔道具が光を放っていると思うのだけど、それが消えるということは、誰かが破壊しているのか魔道具による紫光発生に時限があるのか・・・。
いずれにせよ、たった今1本消えたことで頭上の魔法陣にノイズが走っている。かろうじて魔法陣としての形は残しているものの、機能は失われつつあるのかもしれない。
それでも城の庭にはまだ魔物が何体か残っていて、そのほとんどは『食事』の真っただ中だ。
『食事』のときに兵士たちが攻撃しないのは、度重なる戦闘で疲れ切っているせいだろう。仲間が喰われていることは十分承知の上で、『食事』の時だけでも休憩しようとしているのだ。
先ほどのパーティーの面々に聞いてみた。
「まだ戦えますか?」
「戦いたい気持ちは山々ですが、体力も気力も、もう追いつきません」
「大賢者様が加勢してくれたので何とか持ちこたえられましたが、もう・・・」
「私も、もう魔力が・・・」
やはり士気だけではどうにもならない・・・。
「ポーションの配給は?」
「一切ありません。この混乱ですから・・・」
「回復魔法の使い手はいますか?」
「・・・多分、もう・・・」
ここまで善戦したにも関わらず、先がないことへの絶望をその表情が語っていた。
広域魔法の実践をしてみるか・・・。一人一人に『フル・ケア』をかけると時間を食ってしまうから、こういう時には役立つだろうが、果たして・・・。
とはいえ、『食事』をしている魔物がいつ襲いかかってくるかもわからない。回復できるときにしなければ・・・。
よし、やるか!
とりあえず動いている魔物は片っ端から倒すことにした。回復魔法発動中に好き勝手動かれても困る。
見える範囲にいる応戦中の兵士たちのところへ駆ける。
「みんな、俺のところに走れ!」
声を聞いた兵士たちは、もつれながらも俺のもとへ走り、後ろについた。相手は・・・デカい蛇だ。黒と黄色のまだら模様が毒々しい・・・。とぐろを巻いていて、そのとぐろには誰かがまかれて絶命していた。
『食事』を邪魔されたのが気に障ったのか、俺を睨んでいる。
とぐろを解き、地面を這って急接近してきた。
おれは『一閃』を放つつもりでいた。
しかし待てよ。このままでは『一閃』が・・・。放っても地面を這っているせいで狙いが付けにくいじゃないか!
避けてもいいけど、なぜか兵士たちが俺の後ろについていて離れない。避ければこの兵士たちが餌食になる・・・。
俺は愛刀、『黒迅青龍刀』を見た。
閃いた。試す価値はある。
「皆さん、後ろに下がっていて。逃げる準備だけはしておいてください」
5歩、6歩と後ろに下がる兵士達。その音を背中で聞いて安全を確保。
蛇に向かって左肩を向け、右足を後ろに、刀を下段にして、姿勢を低くした。
丹田に集中させる。大蛇の蛇行にも目を逸らさない。
――― 今だ!
「『土走り』!」
刀を下から上へ一気に振り上げた!
するとどうだ、大蛇に向かって地面が音を立てて切れていく!
大蛇に到達した瞬間、蛇行と地面の切れが重なり、見事なぶつ切りとなって巨躯を断裁した!
『土走り』・・・造語ではあるが、土の上を電ノコの刃が切り抜けるイメージで放った技だ。思いつきだったけど、地面を伝うような魔物にはちょうどいいかもしれない。
それでも懸念は残った。
大蛇を倒し、周囲に戦闘中の兵士もいなくなった。ところが、あの大蛇、あんな色をしているだけあって毒もキツいようだ。何人かの兵士が大蛇の牙にかかり、毒に汚染されていたのだ。
患部が紫色に腫れ上がっていた。これはひどい・・・。
意識も朦朧とし始めている。
こういう時、『フル・ケア』で治せるものか?
いや、いけるかもしれない。毒状態をも治すイメージを作り上げよう。毒が抜け、患部の傷が治るイメージを強く意識。毒消しを飲んでいないのでそこからの『回復イメージ』がしにくいものの、それでもこの兵士たちが治って楽になる様子を繰り返し、想像する。
魔力も・・・OKだ。
あとは、名前・・・。
この城の範囲にいる者が対象になるから、先ほどの『フル・ケア』と『エリア』を混ぜ、全部ひっくるめて『エリア・フル・ケア』でどうかな。適当、適当。発動して治ればOK。
詠唱は・・・イメージできればOKだ。
俺は刀を持つ右手を天に掲げた。
「『この城で魔物に抗う全ての人間よ。命の炎をかかげ、力と魂の源泉となり、内なる魔毒すらも打ち消し、幸福に満たされたまえ!エリア・フル・ケア』!」
青龍刀が光り、一筋のまばゆい光が城の最高まで伸びた。そこからおびただしい光の珠が幾重にも分散し、人々に降り注いだ。
魔力が・・・わかる!この魔法はおそろしく魔力を消費する!
こんな感覚初めてだ!魔力が体から大量放出している!
俺は両足を踏ん張り、青龍刀から伸びる光の筋を絶やさないように集中した。
兵士たちの体が、イリアさん達と同様に光の繭に包まれたかのように輝き、静かに収まっていく。
あぁ、そして城全体も光の温もりに包まれている。城自体も回復に甘んじたいと願っているように思えてならない。
やがて、青龍刀から伸びる光も収まった。めまいがして倒れそうになる・・・も、何とか踏ん張る。
後ろにいた兵士たちに効果のほどを聞いてみた。
「皆さん、回復はしましたか?」
・・・・・ん?反応がない?失敗だったか?
そう思った刹那、城のあちこちから地響きのような歓声があがった。
「なんだぁああ今のはぁああああ!!」
「大賢者すげぇぞ!!」
「魔力も戻ってる!!」
「毒が・・・なくなってるぞ!!!」
「腕が・・・腕が元に戻ったわ・・・!」
欠損部位まで元に戻ったという声も聞こえてきた。
何はともあれ、成功!
これで失敗していたら、とんだ恥さらしだった。
そうだいけない、忘れていた。『食事』中の魔物達のことを・・・。
奴らは、さっきの『エリア・フル・ケア』を目の当たりにして吃驚したのか、『食事』をやめて、兵士たちの様子を窺う姿勢をとっていた。
よし、回復も成功したところで、一気に畳み掛けるか!
「今ここにいる魔物で戦いが終わります!もうひと踏ん張りです!」
「「「 うおおおおおおおおおおおお!!! 」」」
剣をかかげて士気を高ぶらせる兵士達。先ほどまで見えなかった笑顔が印象的だった・・・。
その数時間後―――――。
魔法陣は完全に空から消えた。紫光の残りの一本が消えたのはつい先ほどのこと。
魔物は、この城の敷地内で全て討伐し、城外に出た魔物は一体もいなかった。
城内も隈なく探索し、いないことを確認。
戦闘の終結が、皆の喜びを爆発させた雄叫びでもって宣言された。
そして、お礼代わりに胴上げされた俺・・・。
でも俺からもありがとう。
みんなのおかげで、初めての広域魔法を繰り出すことが出来たのだから。
胴上げが終わるのと同時に、こちらに歩いてくる人影が見えた。
3人の姿が見える。アニーの姿が見える・・・ということは・・・。
「イリアさん」
俺の言葉で兵士たちがイリアさんに気付き、一斉に跪いた。
「皆さん。魔物の討伐、大変ご苦労様でした。国を代表し御礼申し上げます。本当に、本当・・・に・・・・・お゛んどうに゛・・・あ゛いがど・・・」
イリアさんが頭を下げると、ぼたぼたと涙摘が地面を濡らした。
それを見て、皆もたまらず涙した。
グズッ、と涙を拭い、イリアさんは居直る。
「皆さんの働きがなければ、この王都はあっという間に魔物に蹂躙され、壊滅していたでしょう。ですが、この先脅威がないとは言い切れません。酷なことを申しますが、体力のある者については引き続き巡回を行い、警戒を続けてください」
「「「 ははっ!!! 」」」
「それと、ジンイチローさん」
「はい」
イリアさんは俺のところへ歩み寄った。
「あなたは、わたくしの命の恩人です。魔物に喰われた時、わたくしの命もこれまでと覚悟いたしました。でもその時、あなたは颯爽と現れ一太刀で魔物を両断し、助けてくださいました」
兵士たちから『一太刀で・・・』とざわつきが起きる。本当は二太刀ですけど。
「それとそちらのアニーさんによると、上位回復魔法で死にかけたわたくしとメルウェルを回復してくださったとのこと。厚く、厚く御礼申し上げます」
頭を下げるイリアさんに、戸惑ってしまった。こんなに大勢の兵士の前で、仮にも国の代表がパンピーに頭を下げちゃいけないでしょうに・・・。
それにしても、イリアさんは無事だとして、アルマン王はどうなったのか。
まさか・・・アルマン王まで魔物に・・・!
・・・って、いつの間にアニーの手を握り締めているんですか、アルマンおじさん!
君はこの世で最も美しい、と口が動いている。
呆れ顔のアニー。
君の気持ちはとてもよくわかるよ、うん・・・。
ばぁばの街中での行動を書きたいところですが、どうしましょうかね・・・。




