新しい日常
「……今日はやってないのかな?」
久しぶりに路地裏のカフェに来てみたが鍵がかかっていた。
ここには、ホームページもないしいつが休みなのかもわからない。
今度空いてる時に聞いてみようか。
そう思いながらも道を引き返そうと道路の方面を向くと、大柄の男がこちらを見ながら道を塞いでいた。
「姉ちゃん、こんな路地裏彷徨いてたら危ないぜ?」
一瞬の出来事すぎて、叫ぶことも後ろへ引き下がることもできない。
しかし、男はどんどんと近づいてくる。
「遊び道具が増えたな!」
男が私を殴ろうとする。
ああ、私はもう終わるんだ……
「悲劇の子供達!!」
「え?」
目を開けると、そこには倒れる男と見慣れた店の主人が買い物袋を持っていた。
「大丈夫かい?マホさん」
……………
「はい、コーヒーとプリン」
僕はカウンターに座ったマホさんにいつものセットを渡す。
いつもなら、餌を得た犬のように飛びつくのだがまだ不良に襲われた恐怖が残っているのかなんだか、元気がなかった。
「ありがとうございます…」
「もう大丈夫だよ、あいつは警察に突き出しといたからゆっくりしていきな」
僕はラジオをつけて、ダイヤルを回し周波数を合わせる。
するとすぐに、陽気なキャスターの声とゆったりとした曲調のジャズが流れ始めた。
「そういえば、私を助けてくれた時なんて言ったんですか?」
「ああ……まあいいか、澪さんから話は聞いてるだろうし。異能だよ、この前君の腹が刺されただろう?」
マホさんは自分の腹を抑えてゆっくりと頷いた。
普通ならここで異能に対する恐怖が浮かび上がるはずなのだが、彼女にはそれがなかった。
強いこの子は、もう仲間を許したのだ。
「僕の異能はあらゆるものの性質を編集することができるんだ、僕はこの能力を悲劇の子供達と名付けて読んでいるんだよ」
「じゃあ、さっきのも?」
「うん、彼の周りの空気を電気を生み出して放出する性質に編集したんだ」
僕の主人…神からもらった二つの選択肢、それらを押し除け僕はここにいる。
そしてもらった異能が、神に背くようなこの能力。
「デザイナーズベビー…ってゲノム編集とかのことですか?」
「ああ、それに似てるからこう名付けたんだよ」
異能とは、人間が強い感情を抱いた時に目覚めるものだという。
そうだとするならば一体、僕は何を感じてこの力に目覚めたのだろう?
…………
「今日も静かだな…」
さっき、マホさんが帰って僕はまた1人になった。
しかし、生き地獄を彷徨っているような感覚はしなかった。
なぜだろうか?人間として生きているとつくづく思う。
でも、この感覚を大切にしたいとも思っている。
「火事ですか。秋も近づいてきたので気をつけたいですね〜」
ラジオから、気の抜けたキャスターの声が聞こえる。
火事か…どこだろう。
スマホをポケットから出し、ネットニュースを開く。
どうやら、うちの近くのようだ。
「……ちょうど暇だったし、散歩でも行くか…あ、マホさん水忘れてる。まだ近くにいるかな」
最近、よく出歩くようになった。
部屋にこもっていつも仕事が来ればこなして、命令があれば動く。
そんな生活が外に出てからなんだか変わった気がする。
「いってきます」
誰もいないカフェだが、僕は毎回こう言う。
そうするとピアノが1人でに、なり始めるのだ。
もはや、それが僕の普通。
何にでも生命は宿るのだから。
………
「確かに焦げ臭い」
外に出てすぐに感じたことはそれだった。
どうやら結構近くで起こっているようだ。
路地裏をでて、空を見上げると黒い煙が立ち上っていた。
その方向に歩いていくと救急車や消防車の音がする。
「ひどいわね」「あの家の人タバコ好きだったからね不始末じゃない?」
そんな住民の声を聞き流しながら、僕は火事現場の前に出た。
消防隊の1人が、近づかないでくださいと僕も含めた人たちに呼びかけている。
「…火事か」
窓は締め切られており、古い物件なのか屋根の隙間から黒い煙が伸びている。
悲劇の子供達!……これでしばらくは大丈夫だろう。
その時妙な視線を感じて後ろを振り向く。
すると一瞬、路地裏に人影が見えた。
「……何かがおかしい、匂う」
僕は、人影がきえた路地裏へ身を翻した。
…………
「ええ、あれは確実に仕留めました…あなたの言う通り証拠は残していません…はい、全て焼かれるでしょう」
何か聞こえる、焼かれると言うことは電話をしているこいつが犯人!
「すみません、ここで何をされているのですか?」
僕は勇気を出して、できるだけ穏やかに話してみる。
それに反応して男はギョッとする。
結構大柄の男だ、その割にはなんだか気が弱そうな目をしている。
「すみませんなんか変なやつに絡まれたんでかけ直します……なんっだテメェ?」
全く弱腰なのか強気なのか…わからん人だ。
「警察の方から来ました。なんだか、火事と関係がありそうな内容が聞こえましたのでお話をと思いまして」
僕のカフェの方面の何処かには警察署なんていくらでもあるだろう。
嘘ではないな。
「私服かよ!でも一人で良かったぜ!!」
男はすぐさま、僕のほうに走ってきた。
臨戦態勢を構えるが男は僕の予想を上回り、ものすごい跳躍力で頭上を通っていった。
「なっ!!」
「おっと!こっち来るなよ!あぶねぇぜ!」
彼は指を鳴らし火の粉を指から出す。
そうすると、ありえないことに路地裏の出口が炎の柱で塞がれた。
「ここに出口はねぇ!あんたに恨みはねぇが焼け死にな!言っておくが俺の炎は消えない!決して!酸素がなかろうが燃え続ける!」
だから、窓が締め切られてる家も燃えていたのか。
「…………」
「どうした!恐怖のあまり声も出ねぇか?」
「チンピラが……」
「あ?」
やはり、こいつは異能使い。
おそらく炎をあやつる能力だ。
発動条件は、指を鳴らした時に出る火の粉だな。
「ふふ…」
「なんだてめぇ?頭おかしくなったか?それともカマか?」
僕は火柱に近づく。
「なんだ!?バカか!?普通逃げる方法見つけようとするだろ?」
「じゃあ、何故君は逃げないんだ?」
異能には色んなタイプがある、自分に何か異変を起こす変身系や僕や澪さんみたいな物質に何か作用する性質の異能。
多分この男の異能には射程距離がある。
ここから、火事の起こった現場は精々15メートルあるかないか。
おそらく、それ以上離れるとこの火柱は消える。
だからこいつは逃げないんだ。
「悲劇の子供達!!」
炎に触れ、僕は火柱を通り抜ける。
「なっ……何だってぇ!!!」
そして……
「ほぉら!!」
的確な打撃を腹に与えた。
「ぐぉ……!」
男は腹を抑えてその場に倒れ込む。
「はぁ…僕も君と同じような異能使いさ、僕の能力デザイナーズベビーで炎の性質を編集させてもらったよ、あの炎は今0度で燃えている。涼しかったよ……さて、君には少しセーフティーロックをかけておこう」
ちょうど持っていた、水のペットボトルを開け彼に浴びせる。
「ぐっ…なんだこれ」
「動けないだろ?デザイナーズベビーで空気抵抗を増やした水だ、それと……念のため君の周りの空気の湿度を100%にしておいた、これで火の粉も出せないな」
僕はスマホで澪さんを呼ぶ。
ついでに警察も……
「てめぇは一体!」
「ああ、自己紹介がまだだったか……僕は、佐倉零、ただの異能力者さ」
…………
こうして、異能を使った放火事件はひとまず幕を下ろした。
放火現場は僕が能力で燃え広がらないようにしていたからあまり被害はなかったらしい。
澪さんは異能を封印し、改心させて警察が来ないうちに帰っていった。
警察が来た頃には、男はすべての罪を認め連行されていった。
その後聞いた話では、ある人に依頼されやったと言われてやったということだ。
しかし、ある人の記憶はないらしく1週間経ったとしても情報が来ていない。
電話はなぜかすべての連絡先が消えているそうだ。
社会の裏で異能を使った犯罪を動かしている奴がきっといるのだろう。
僕はそいつらを必ず改心させる……それがこの世に生きる僕の使命なのだと感じているからだ。
「やあ、メダイ佐倉零だよ……今日は作者に異能紹介してくれと頼まれたからやるよ……さて! 今日紹介するのはこれ! 『悲劇の子供達』僕の異能だね」
ー悲劇の子供達ー
触れたものの性質を編集し反映させることができる。
「ほぼチートみたいな能力だけど、本当にチートなのは僕が寿命以外で死なないことかな? このくらいでいいかな? じゃあね〜」




