既断。
(小説は)初投稿です。
気に入っていただけたならば作品を育てるつもりで評価、コメント、ブックマークの方をしてもらえたら幸いです。
因みにカクヨムの方でも同一のタイトル、内容で投稿しているので都合の良いほうで読んでもらえたらと思います。
船が日照りの中、穏やかで規則的な波に従って上下に揺れる。
青年は甲板に座り込みながら揺れる波のように自問した。
「…俺に人を指揮する能力はあるのか」
樺直人はついひと月前に士官学校を卒業したばかりである。
瞼の裏には学校で予科の学習や指揮、射撃、魔法操作などの訓練をした日々が、学友と切磋琢磨しつつも笑いあった日々があり、それに伴って指揮の定石も理解していると自信を持って言えた。
しかし、実戦経験はなく、己の指揮に人の命が係った経験もない。知識として、或いは割り切るべき犠牲としての死と向き合う覚悟も備わっていなかった。
「…本当に俺は動じずに指揮ができるのか、そもそも教えられたことだけで事足りるのか」
彼の自信は揺らいでいた。
「おい、そこの具合悪いの」
外からの気さくな呼びかけが彼の自問自答を破る。
「そろそろ着くってのにまだ船酔いか?」
「…いや」
少しおどけた様子の声に対し、青年は顔を上げ、不安を押し殺して返事を返す。
「…あぁ、申し訳ねぇ、少尉殿でありやしたか。
なんせ、胸元の徽章が見えなかったもんで…」
見ると、前方の舷墻のそばに装備を着こなし、更にドワーフらしからぬ髭を蓄えた召集兵が煙草片手に冗談めいた様子で謝罪してきた。
「まぁ、不安に思うのも仕方ないと思いますぜ?
なんせ天気すらも操る大将軍を相手にしねぇといけねぇらしいですし。」
「えぇ、そうですね…」
忘れようとしていた敵の大将軍―雷徳遠―の存在を思い出し自信が更に揺らぐと同時に船が少し激しく揺れる。どうやら岸までもう少しらしい。
前方を見ると陸とその上に入道雲が見える。
「話に聞いていたがここまでのものとはなぁ」
先ほどの兵士が驚きの声を上げる。
船は減速する。
迫る入道雲はその雄大さを示すと同時に青年の心を押し潰さんとしていた。
「乗員!!上陸準備!!」
上官の声が船中に響く。
部屋に戻り、周りが慣れた手つきで下船準備をするのに青年は倣おうとした。
…ところが営みの放つ乱雑な熱電波を遮って無機質で規則的な信号が青年の魔法器官を通じて脳内に響く。
トントンツーツー…
―――電信。
本来自分が聞こえるはずの無い情報を感じ取ってしまった。
「…第三中隊壊滅セリ…再編ノ為人員ヲ至急求ム…」
ふと見渡すが相変わらず周囲は下船の準備をしている。
まるで乗員のこれからを予言したようで青年は胃の底が冷たくなる感覚がした。
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船が港に着き、数百人にもわたる乗員は規則正しく降りる。
船から降りたとき、「エマス・クンプルタナ」の亜熱帯の空気が青年を迎え入れてまとわりついてきた。
と同時に微かに硝煙の匂いがする。
青年は少し見渡した。
「シル・ドニア」は貿易都市として栄える10万人都市だった筈だが、やはり内乱の影響で人の往来は疎らで瓦礫となったり半壊した建物と応急的で簡素な建物が立ち並ぶ様子にもその傷が伺える。
異国の雰囲気と戦場の微かな、されど確かな気配。
それらと先ほどの電信が青年に既に後戻り出来ない事実を突きつけた。
「少尉、積荷の集積と振り分けをしろ」
上官から指示が飛ぶ。
それに応えて辺りを見渡したところ、そう遠くないところに不自然に浮いた西洋式の建物の前に空き地を見つけたので未だ慣れない命令を下す。
「皆さん、広場の赤煉瓦の建物前に荷物をまとめてください!!」
兵士達は言われた通りの位置に乱雑に置き始め、土煙が舞う。
すると隣から矢継ぎ早に
「弾薬は建物からある程度離せ!!」
「食料品と水はまとめて入口手前にやれ!!」
「医薬品は入口の奥側に置いとけ!!」
件の兵士が種類毎に仕分けを行なうよう的確に指揮をしていた。青年は言葉を失った。
「ここまで具体的に指示はできるものなのか…」
己の命令との質の差に驚く。訂正する理由も見つけられず
「その通りしてください」
そう言葉を補う他なかった。
その様子を見た兵士が悪そうに声をかける。
「少尉殿、気を悪くしちまったらすまねぇ、だけどよ、後で仕分けとかも行うからこんな具合で分けといたほうがいいんだよ」
「…ありがとうございます」
「別に深く気にすることはねぇですよ
まぁ俺は細かい指示を出すんで後は任せてくだせぇ」
そして彼は荷物の集積の音頭を取り始めた。
学校で習ったことだけではいけないことと、己の考えの至らなさに思いを巡らせていると
「ゔっ!!!!!」
今度は呻き声が思考を破った。
周りを見渡すとどうやら負傷兵がぞろぞろと運ばれてきたらしい。
しかし集積を行う兵士はそれに何の反応も示さず、淡々と荷物を運ぶ。
戦場ではこの呻き声が当たり前のように聞こえるのだと考えると身の毛がよだつ。
「これが…戦場か…」
青年の呟きは誰にも聞こえることなく呻き声と雑踏の中に消えていった。
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集積と荷物の分類を終え、小休止として皆が休んでいた時、突如として港の一角で短い号令が走る。
「輸送部隊は即時移動準備!!前線補給地点へと発進する!!」
場の空気が変わる。
先ほどまでの喧騒が途切れた。
青年は脳裏で先程の電報と号令が結びつく。
この移動は先ほど壊滅した部隊の再編の人員補充の為だろうか。
そしてふと近くの誰かが
「もう動くのか…」
と声を漏らす。
兵士達は当惑の色を隠しきれぬ様子ではあったが各々装備の準備を始めた。
青年も周囲の兵を監督しつつ準備を始める。
避けられぬ運命は既に青年の退路を断っていた。
1話1語句解説
ドワーフ:人類に区分される種族の一つ。
主に大陸東部に広く住んでいる。
我々の世界で想起されるような髭の長い寸胴体型とは異なり髭を生やしておらず、人間の少年少女とほぼ同格の体格、外見を有している。
尚、人類種は他にも居るが本作ではドワーフを中心に物語が展開される。




