三不思議の花子さん
どうも。悪あがきしていたフラれ女です。
今学校にいる人と付き合う気はないという発言から、まだ望みは捨てないで頑張って誘惑しようと思っていた矢先の暴露事故。まさかの好きな人がいる発言。しかも毎週お見舞いに行くほど大切な相手。
……私のライフはもうゼロだ。
「どう考えても、いい加減悟れと言われた気がする」
……いや。でも柳田君は天然だからな。どこまで分かって言ったのかは謎だ。そもそも、好きな人へのお見舞いに行っていると言わせたのは私だ。どうしてあの時、その話題を選んでしまったのか。ここがゲームなら、もう一度選択肢をやり直す。
でもゲームではないので、言われた言葉は消えないし、私がフラれたという事実も変わらない。
「好きな人が入院しているなら、今学校で付き合いたい人はいないに決まっているよね」
実は好きという意味は、友達としてというオチは……ないよな。うん。ない。
親友だから毎週お見舞いに通うぐらいはアリだけど、だったらちゃんと親友とか友達というはずだ。好きな人といったということは、恋愛的な意味で好きな人だろう。
どれだけポジティブに捕えようとしても無理だ。
爆弾を投下された後、どうやって帰ったかも分からないぐらい憔悴していた私だけれど、二日間家にこもった結果、学校には行くことにした。
でも授業が終わったら、速攻でトイレにこもり、柳田君をできるかぎる視界に入れないようにしている。このままではよくないと分かっていても、どうしても復活できない。
一度ならず二度までも告白前にフラれるとか、最悪すぎる。
「ううううう……死にたい」
苦しすぎる現実を前に、私はトイレで泣いた。
『大丈夫?』
不意に、トイレの外から声をかけられた。……私の泣き声が聞こえてしまったらしい。
私は慌てて、涙を袖で拭った。
「だ、大丈夫です」
『いじめられたわけじゃない?』
「はい。えっと……いじめではないです。ちょっと、好きな人にフラれてしまって」
恥ずかしいが見ず知らずの人が心配してくれているので、泣いている理由を話す。扉越しで姿が見えないから、逆に話しやすかった。
いじめは……まあ、無視されるとかあるけれど、今はそれよりもフラれた事が、恋する乙女の心に深い傷を負わせている。
『そっか。それは辛かったね』
「はい。万に一つも可能性はなかったんですけど、告白する前にフラれてしまって……。頑張って自分を磨いて好きになってもらおうとした矢先だったので、心の準備ができていなかったんです」
『告白していないのにフラれたの?』
「えっと。好きな人がいて、その人のお見舞いに毎週通っていると知ってしまいまして」
相当好きでないと、毎週病院に通う事なんてできないだろう。もしかしたら付き合っているのかもしれない。そういうことなら、私は完璧な間女である。
『あきらめるの?』
「あきらめなければ……だめなんだと思います。私は柳田君より自分の欲を優先させる醜悪な女にだけはなりたくないんです」
これは、私なりのプライドであり、自分を守る防御だ。
恋が実らない事は知っていた。だからこそ、柳田君に嫌われたり、軽蔑されるのは嫌だ。そんな事になるぐらいなら、物分かりがいい、友達でいたい。
私は柳田君が好きだから。
「ありがとうございます。ちょっとすっきりしました」
とにかく、嫌われたくないし、今の関係を続けたいならば、私は自分の恋心を忘れる努力をするべきだ。新しい恋は……難しいけれど。でも隠すことはできる。そして隠すうちに、きっと薄れるはずだ。
教室に戻ろうと思い、扉を開ける。泣いたのを知られているので、この親切な人と顔を会わせるのはちょっと恥ずかしいけれど、ちゃんと顔を見てお礼を再度言おう。
そう思ったのに、扉の向こうには誰も居なかった。
……え?
ほかのトイレも全てドアが開いているのを見て、サッと血の気が引いた。
外に出ていく足音は聞こえなかった。気が付かなかったなんてことはないと思う。
『がんばって』
誰もいないのに声が聞こえて、私は、ひゅっと息を飲んだ。




