柳田君の好み
怪異も、時と場合を気にすることと、UMAではないことが分かった。
なるほど。
今後もメリーさんについては、ちゃんと周りに内緒にしておこう。最近慣れてきて、怖さが半減してきているので、確かに知るということは、畏れを弱めるものらしい。そして怖がられなければ、メリーさんはご飯を食べられない。
メリー【早速、柳田を振り向かせよう大作戦をするわよ】
メリー【色仕掛けをする?】
メリー【男はボディータッチがいいと聞くわ】
「それは破廉恥過ぎだし、柳田君はそういうのは望んでないんじゃないかな?」
色仕掛けと言われても、既定の制服を着崩すのにも抵抗があるし、ドン引きされたら立ち直れない。そもそもあんなに優しくて真摯な柳田君が、そういう破廉恥な行為を望んでいるとは思えないのだ。
だって、もしも色気があった方が好きなら、先輩に告白された時にOKをしていると思う。でもこれまで、胸の大きな先輩も、美人な同級生も、ギャルっぽい子も、全員告白しては撃沈していた。
メリー【それは買いかぶりすぎよ。アイツも男よ?】
メリー【ベッドの下は要チェック場所よ】
「メリーさん。その情報は公開しないであげて」
ベッドの下は、決して覗いてはいけないパンドラの箱だ。もしも親にそこを大掃除された日には、反抗期に突入する事、間違いなしだ。
それぐらい細心の注意が必要な危険区域である。柳田君情報は欲しいけれど、そういうプライベートまで探ろうとは思っていない。
メリー【なら、どうするの?】
メリー【時間は有限よ】
メリー【やれる事からやらないと】
やれる事……。
「えっと、ツインテールにしてみるとか?」
私の持っている柳田君情報は少ない。確定っぽいのが、ツインテール好きと、お寺の次男である事、幽霊が見える霊感少年である事と鞄の中かと机の中が腐海である事。未確定は、恐竜好きということぐらいだ。
この中で使えそうなのは、ツインテールだろう。
メリー【いいんじゃない?】
メリー【髪ゴムを取り寄せてあげる】
メリー【手鏡も】
メリー【今すぐやりなさい】
「取り寄せるって――うわっ」
ポトポトッ。
どこからともなく、髪ゴムと手鏡が私の膝の上に落ちてきた。明らかな怪現象だけれど、現れたのはいたって普通の髪ゴムと、和柄のカバーがしてある手鏡だ。
メリーさんの気持ちだし、呪われる事はないだろうと、私はいつも低い位置で一つに結んでいる髪をほどき、ツインテールにする。
「そういえば、この間柳田君が怒った時の感情って、メリーさんは食べれないの? 強い感情を食べれば契約が終了できるんだよね?」
髪を結びながら、私はメリーさんにちょっとだけ不思議に思っていたことを聞いてみた。
柳田君が私の為に怒ってくれたあれは、駄目なのだろうか? 柳田君が恐怖しているところって、全然想像がつかない。
メリー【問題ないわ】
メリー【強い感情なら、どんなものでも食べられるわよ。まあ嗜好の問題で、一種類の感情しか受け付けないのもいるけれど、私は好き嫌いはしない派よ】
メリー【でも何だか負けた気がするから、まだ離れる気はないわ】
メリー【柳田は絶対泣かす】
……メリーさん。それは絶対、離れられなくなるフラグだよ。
正直柳田君が泣くのを想像できない。怒った柳田君というだけでもレアだったのだ。私の中で柳田君は、いつだって笑っていてどっしり構えているイメージだ。
メリー【似合ってるわよ】
メリー【柳田は今、学校にいるわ】
メリー【行くわよ】
「えっ。今から?」
髪を結び終わると、メリーさんにラインで急かされた。既に授業は終わっている時間なので、柳田君も行くまでに帰ってしまうのではないだろうか。
メリー【今できることは今やる】
メリー【明日なんて悠長なことは言わないの。必ず明日が来るとは限らないのよ】
メリー【柳田が居る所へ案内するから。私メリー。今○○公園にいるの】
「明日が来るとは限らないって、ものすごく不穏なんだけど。でも、分かった」
確かにこのまま気まずさが続いたら、私も嫌だし。
覚悟を決めて、私はメリーさんを抱きかかえたまま学校へと向かう。学校で誰かに呼び止められたら、忘れ物をしたから取りに来たと言おう。
もしかしたら柳田君はいないかもと思ったが、メリーさんが柳田君は帰ったと言わないということは、やっぱり学校に居るのだろう。
ラインには徐々に教室近くの場所の言葉が入る。
メリーさんのナビ機能は健在だ。
メリー【私メリー。今教室の前にいるの】
ドキドキしながらドアを開けると、教室には柳田君だけが居た。
柳田君は私の方を見ると、驚いた顔をした後に、口元を手で押さえ、顔を赤くする。……えっ。照れてる?
「ヤバい。……可愛い」
柳田君って、本当にツインテールが好きなんだ。
もしかして柳田君は私の事が好きなの? と思うぐらいの反応だけど、勘違いをする気はない。でも褒められれば素直にうれしい。
うん。いつかツインテールじゃなくても、メロメロにしちゃうぞなんて思いながら、私は自分磨きを頑張ろうと思った。




