メリーさんのかり
公園に設置された水道でハンカチを濡らした私は可哀想な事になっているメリーさんの顔や髪の泥をぬぐう。形状記憶機能で元通りになるかもしれないけれど、気持ちの問題だ。
メリー【……柳田と同じ事をするのね】
ベンチに移動して汚れをぬぐいつつラインを確認すれば、メリーさんから意味深な言葉が送られてきた。
同じ事?
「柳田君もメリーさんを綺麗にしたの?」
いつの時の話だろう。柳田君はメリーさんの形状記憶機能を知ってるし、下手に触るとメリーさんが怒りそうだけど。
メリー【今回もだけど、柳田に会う前も移動中に猫にさらわれたの】
メリー【恐ろしい猫だったわ。悪魔のよう】
メリー【白色のケダモノは何も言わず突然私を咥えると移動したの】
まあ、猫だからね。言葉は喋らないし、ましてやラインは理解してくれないだろう。
メリー【そして、ひとしきり私をもてあそぶとポイと捨てたの】
メリー【今日は公園。前なんてゴミ捨て場よ】
メリー【うううう(涙)】
「それは災難だったね」
もてあそぶって。うーん。まあ、猫は遊んでいたのかもだけど。
猫、可愛いけれど、メリーさんには天敵らしい。……うちのシロには近づけられないな。メリーさんに以前の猫の仕返しをされたら困る。
メリー【それで、ゴミ捨て場に捨てられた時は、たまたま柳田が通りかかって、拾ったの】
メリー【自転車籠に入れて、人形供養の場所まで運んでくれたわ】
メリー【その時、供養前にハンカチを濡らして拭いてくれたのよ】
メリー【それがアイツへの借りよ】
「何それ。柳田君、優しいし格好いい」
普通ならほおっておくだけだろうに。人形供養って辺りが寺の息子だけど。
その結果メリーさんからの恩返し……はなってないな。とりつかれ、メリーさんを飼う事にして、メリーさんをしょっちゅう激おこにさせて……。うーん。昔話のようにはいかないらしい。
鶴みたいに機織りするにも、メリーさんの毛で織るのはちょっと嫌だし。なんだか呪いの織物になりそうだ。
「もしかして、メリーさんは柳田君の事が――」
メリー【阻止】
メリー【言わせない】
メリー【断固拒否】
メリー【照れているからとかの次元でなく、無理】
メリー【着物にカレーうどんのつゆを飛ばされた恨み、忘れない】
あ、うん。
そっか。着物にそれやっちゃったか。柳田君なら、やりそうだなと思えるのが、柳田君だ。メリーさんは柳田君に恩があるけれど、それとこれとは別らしい。
まあ、ここで実はと言われて、恋のライバル爆誕しても――って、私はライバルになれない、振られ女だった。
メリー【そういえば、今日は学校に行かないのね」
メリー【柳田が心配するわよ】
メリー【それとも柳田が嫌いになった? ……ふっ。いい気味】
「なってないよ! ……なってないし。むしろなれないから、休んだの」
例え振られても嫌いになんかなれない。彼に嫌な事をされたわけではないのだ。それに私が好きな、優しい柳田君は変わっていないのだから。
「ねえ、メリーさん。私の話、聞いてくれる?」
私はどう気持ちに決着をつけたらいいか分からない為、メリーさんに相談をすることにした。




