メリーさんの食事
死んで幽霊になっても、発言には気をつけよう。……って、そもそも死んだら皆幽霊になるものなのだろうか? でもそんなに幽霊がいたら、毎日が満員電車だ。私のように見えない人は大丈夫だけれど、見える人にとっては、違う意味で地獄だ。……下手したら私も誰かをおしりの下に敷いているかも。
想像すると気分が悪くなってきた。
「よく分からないけれど、死んだら皆幽霊になるものなの?」
「まあ、一応。でもこの世にとどまり続けるのはごく一部だけかな。よく分からないけど、基本的には皆あの世に行くんだと思う。人間だけじゃなく動物の霊だっているから、皆幽霊になると地球上が幽霊の満員電車になってしまうし。それに恐竜の霊とは遭遇した事がないから、全てがいつまでも残っているわけではないと思うんだ」
「だよね。よかった」
だとしたら死後に幽霊になったらなんて考えなくてもいいかもしれない。平凡な私が死後に突然非凡となるとは思えない。
というか恐竜の幽霊って……。霊感少年で、恐竜好きだったりすると、そういう霊を探したりするんだろうか? もしやこれは柳田君の好きなものを知るチャンス?
メリー【幽霊として残るのは、何か強い意志があるものだけよ】
メリー【恨みかもしれないし、心残りかもしれないし、その辺りは幽霊それぞれね】
メリー【……はいはい。今ここにいる彼女は、この世に残った理由はもう忘れてしまったそうよ。こんな感じで、自分が何でここに居るのかも忘れてしまうことがあるから、体がないままいつまでも存在することはお勧めしないわ】
メリー【生きていた頃は、オタクや親父発言はしてないと思うの】
メリー【結局、肉体を持たない幽霊は周りに影響されやすいから、どれだけ強い意志があっても変質するのよ】
メリーさんの補足説明になるほど思いつつ、純粋な小学生がオタクな親父キャラになるなんて、悪霊化とは別の意味でちょっと怖い。
「影響されると、純粋な小学生がそんな事に……」
「でもさ。その子だって生きてれば40代後半。アラフィフだろ? それぐらいの変化は普通にあるんじゃないかな? 見た目が永遠の小学生だから違和感があるだけで」
……確かに!!
アラフィフで、独身女性とかにいそうな気もする。生き方次第では普通だ。小学生だという情報のせいで色々惑わされる。
それに私達だって、オタクが友達だと、好きな漫画を貸し借りするからオタク化しやすい。また化粧が上手な派手系の女子と友達になると、やっぱりその友達も派手になっていく。うん。生きていたって影響は受けるのだ。
メリー【まあ、そうね】
メリー【あくまで影響を受けやすいって事よ】
メリー【そしてここに居る意味をなくすと、別の霊に食べられたり、忘却という浄化が起きるわ】
「えっ。食べるの?!」
霊が霊を食べるとか、共食いじゃないか。
「まさか、メリーさんも?」
メリーさんの食事は結局不明のままだ。電池で動いているわけではないので、一体どうやって彼女はエネルギーを得ているのだろうとは思ったけれど。
人肉を食べると言われても恐ろしすぎるけれど、霊を食べると言われても怖い。
メリー【……食事についてとかあんまり言いたくないけれど、私は幽霊は食べないわ】
メリー【他の霊を取り込むというのは、自分さえも変質されかねないもの】
「なあ。何で頑なに、何を食べるのか教えてくれないんだ? メリーさんは何を食べるんだろって思って、仏飯とか、ミルクとか、菓子パンとか色々置いてみてるけど、夜中になっても手をつけた様子がないんだよな」
「……ご飯あげてたんだ」
「飼い主の責任かなって」
柳田君の責任感が強いのはいいけれど、下手すればメリーさんを怒らせそうな気がしてひやひやする。
メリー【謎が多い方が、人は畏れるでしょう?】
メリー【怪異を怖がるのは『よく分からないから怖い』って部分があると思うの】
メリー【というわけで、私の前にミルクとか置くな。人間の食べ物は一切食べないわ。そして次、私の服にこぼしたら、絶対呪う】
あ……すでにやらかし済みだったか。
そうだよね。飲み物系って、ふとした拍子にやっちゃうよね。そして、牛乳とか匂いも最悪だ。牛乳を拭いた後の雑巾を想像するとメリーさんへの同情心しか湧かない。いくら形状記憶機能があっても嫌だろう。
「あれは悪かったって。でも、だったら何を食べるんだよ」
メリー【仕方がないわね】
メリー【窓を見なさい】
窓?
一体何を? と思った瞬間、赤いものがベタッと窓についた。
ベタ。
ベタ、ベタ。
ベタ、ベタ、ベタ、ベタ、ベタ。
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁ!!」
窓ガラスに、まるで彼岸花のように赤い子供の手形が付き、私は悲鳴を上げた。
メリー【人の強い感情が、私達のご飯よ】
怪異現象と同時に、ラインにメリーさんからのコメントが来たけれど、もちろん私は読める状態ではなかった。




