柳田君の能力
まさかの、柳田君は見える人だった。
寺の息子だし、メリーさんと普通に会話してるし、そういう系の人だと言われてもおかしくはないけれど……。
「天野大丈夫か?! メリーさん、天野に変な奴近づけたら駄目だって言っただろ? ちゃんと番メリーしないと」
番メリーって何?……番犬のメリーさんバージョンってこと? なんというか分かりにくい表現だけど、何となく言いたい事は分かる。立ち上がりもう一度椅子に座り直しながら、私はふぅと息を吐く。
怖いけれど、柳田君の空気を読まない、いつも通りさがありがたい。
メリー【番?……犬扱いするんじゃないわよ】
メリー【彼女は特に人に何かする力もないから大丈夫よ】
メリー【……ややこしくなるから、アンタは黙ってて】
メリー【そもそも、天野はいることにすら気が付いていなかったのよ?】
「気が付いていないというか、私は霊感とかないから」
普通は怪異になんて出会わないし、見ることだってないのだ。生まれてこのかた、こんな体験をするのはメリーさんが初めてだ。
「天野って、見えないんだ」
「えっと、柳田君は見えてるの?」
私にとって怪異も幽霊も、普通は見えないものだと思っている。けれど、普通は見えないに決まっているなんて言ったら、柳田君が普通じゃないと言っているみたいだ。人とは違うというのはいい面もあれば悪い面もある。柳田君にとって、霊感があることがどちらなのか分からないので、私はあえて普通と言う言葉は使わないようにして慎重に柳田君の話を聞く。
「うん。まあ、こういうのって、波長があるからなぁ。俺はとりあえず、この霊は見えるし、会話もできるみたい」
「波長?」
「うーん。ラジオって周波数を合せないと聞こえないだろ? そんな感じで怪異を見る時は俺が相手の周波数を合せてる感じなんだ。逆にどれだけ頑張っても、周波数がうまく合わなくて、見れなかったり、姿は見えても会話ができない事もある」
へぇ。
見える人は何でも見えると思っていたけれど、そうでもないらしい。
「見えるって事は、お祓いもできるの?」
「うーん。波長を合わせるのと、お祓いはまた別なんだよね。お祓いも除霊と浄霊があったり、宗派によってまた違うし」
おおおおっ。今までお寺っぽいのが、寝かしつけの儀式が般若心経という部分だけだったけれど、一気にお寺っぽい話題になった。除霊とか、安倍晴明系の話っぽい。
そう思うと、メリーさんは式神とか、召喚獣的な立場だろうか。……一気に怖さが半減した。でも『メリー使いの柳田』という二つ名とか、ちょっと微妙だ。
「一応は力技で殴り飛ばすことはできるけど、お祓いは得意じゃないかな。言葉で説得して浄霊とか無理だし。なんでか怒らせちゃうんだよな」
「えっ。怒らせ? いや、えっと。幽霊を殴るの?」
神秘に触れたような話題から一転し、何故か物理攻撃なバトル話になってしまった。何でだろう。
「うん。うまく波長を合わせる必要があるけれど、合えば殴れるよ。それで、ひたすら殴ると、大抵は逃げていくか消えるかな? どうも普段は殴られないから、幽霊って意外に痛みに対する耐性が低いんだよ。一発頭をポカってやっただけで逃げちゃうこともあるし。一番しぶとかった時は、野球バットを使うことになったけど。でも、やっぱり喧嘩って素手でやるものじゃん? 道具を使うのはなんか好きになれないんだよ」
「あー、うん。そっか」
確かに素手で殴らなければ人の傷みが分からないうんうんというのを、不良系が出るドラマで見た気がする。でも霊は果たして不良なのか? 人の道を外してはいるんだけど……うーん。
分からないけれど、多分これはどれだけ話を聞いても私には理解できない部類だなと判断し、私はさらっと流すことにしたのだった。




