家族で、恋人で
あの後から私と翔太さんは、家族ぐるみのお付き合いをしながら、二人だけの恋人の時間も持つようになった。
誰にも言わない、二人だけの交際。
親が内縁関係になって仲良くなったことを利用した上での、お手軽で楽な関係だった。
それでも月に一回程度、家族みんなで会う時と、二人で会う時とが交互なので、ゆるい関係だった。
密会場所は私のマンションの辺り、伊央くんを親達にお願いするので多少申し訳ないのだけれども、中年同士の甘い時間を過ごさせてもらった。
そんな関係も三年目、私は40歳になった。
「藍さん、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、伊央くん」
いつもならみんなで外食かケーキを食べるんだけど、私の体調がいまいちなため、電話ごしにお祝いの言葉をもらった。
「40歳」って年齢言わないところ、配慮されてるなぁ。
「体、大丈夫?」
少し心配そうに聞いてきた。
「大丈夫だよ。
行けなくてごめんね。
私の分まで、食べてきて!」
「……うん、わかった。
またね」
私は電話を切り、だらりと横になった。
いつもなら喜んで祝ってもらうんだけど、先月から、体調がいまいち。
仕事にはなんとか行ってるけど、後は引きこもっていた。
ああーー、年齢を感じる……!
歳も、見た目も、体力も、しっかりおばさんになっているんだなぁ。
人生も真ん中から後半にさしかかってきたよ、いい加減、覚悟と責任を持たないと!
そんな感じで、最近の一人ごろ寝ループにはまっていると、呼び鈴が鳴った。
こんな時間に、なんか宅配頼んだっけ??
重い体を引きずって確認すると、翔太さんだった。
「あれ、みんなでご飯食べに行ったんじゃなかった?」
「うんーー。
その予定だったけど、抜けてきた。
おじゃまして、いい?」
「……、どうぞ」
アポなしにちょっとムッとしたけど、私はあげることにした。
「今日会えないと来月になっちゃうから、気になっちゃって。
誕生日、おめでとう。
小さいケーキ買ってきたけど、食べる?」
どこかで買ってきてくれたんだろう、小さな箱を差し出してくれた。
「後で……、いや、代わりに食べて」
「食欲なかった?
聞かないで買ってきちゃってごめん。
お医者さんは行った?」
「うん……。
疲れやすいから無理するな、ってさ」
「そっか……。
じゃあ、頂いちゃうね」
そう言って翔太さんは、おいしそうなケーキを丁寧に出して、パクパク食べ始めた。
食べていいって言ったのは私なんだけど、なんか腹立ってきた。
「具合の悪い人の前で、よくそんな食べられるわね!」
「なんだよ、食べていいって。
……じゃあ、持って帰って食べるよ。
お大事に」
翔太さんは箱を片づけて、立ち去ろうとした。
「待って、行かないで!!」
急に寂しくなった私は、翔太さんの背中に抱きついた。
「どしたんだよ!?
体調悪いから不安定なの??」
翔太さんに言い当てられて、ハグされて、私はボロボロ泣き出した。
「今日まで顔見に来られなくって、ごめん」
彼は私に優しくくっついて、なだめてくれた。
私はしばらく感情の溢れるままに甘えて、5分くらいしてやっと、落ち着いた。
「子どもが……」
「えっっ!!」
目を丸くした翔太さんは、私の体を見つめて、やがて肩をすくめて言った。
「どうしてすぐに言ってくれなかったの?」
「……。
気をつけてたのに、なんでだろうって受け入れられなくて。
40歳で未婚で妊娠、どうしたらいいかわからなくなっちゃって、……」
「いろいろ、考えちゃったんだね。
話してくれて、ありがとう。
俺はうれしいよ、藍と子どもに恵まれて、家族が増えるなんて」
「でも、親に悪い……」
翔太さんは、困ったように笑った。
「そうだね、内縁で落ち着いてる二人だけど、将来的には入籍する可能性あるかもしれないしね……。
でも、産まれてくる子のこともあるから、俺達で話し合って、二人に報告しないとーー」
「そうだよね。
認知してもらってシングルで育ててく自信もないし、いずれはお腹も大きくなってわかるんだから、どうするのかちゃんとしないと……。
翔太さん、さっき言ってくれたけど、私達は、結婚して4人家族になる方向で、いいのかな?」
「うん、そうしたい。
父さんと美桜子さんも含めて、早めにきちんと話し合おう。
あ、産院も付き添うから」
「ありがとう、来月だから、その時で。
じゃあまず、家族会議から、がんばろうっ!」
翔太さんに打ち明けて将来の気持ちを確認した私達は、手を取り合って、親達への報告に向け決意を新たにした。