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母に恋人  作者: 玉城毬
10/10

新田中家

 私が翔太さんと結婚の約束をしてから三日後。

 大人達は都合を合わせ、伊央くんが登校した後、田中さん宅に関係者が集まった。

「藍さん、体調は大丈夫なのかい?」

 田中さんが、気遣ってくれる。

「心配させてしまって、ごめんなさい。

 今日はどうしても、二人に話さなきゃならないことがあって、……」

 私は頭を下げて、真剣な顔で向き合った。

 田中さんは、私が重い病気になったと勘違いさせてしまったらしい、険しい表情になった。

 私は翔太さんの方に目をやり、二人は並んで座り、翔太さんは私の手を握ってくれた。

「あなた達、まさか!?」

「美桜子さんは知ってるのかい?!」

 女の勘で瞬時に読んだお母さんと、混乱する田中さんが対照的だった。

 翔太さんは一礼して、話し出した。

「二人に黙っていて、すいませんでした。

 実は俺達、交際してます」

「はぁ!?」

「あらあら、まぁまぁ」

 田中さんの困惑をよそに、母は好意的に反応していた。

「子どもも授かりまして……。

 藍と、4人で家族になりたいと考えています!」

「ーー!!」

 重大発表が明らかにされ、二人は言葉もなく、それぞれに驚いていた。

 驚き呆れた田中さんは、申し訳ない顔になって言った。

「藍さん、美桜子さん、大変なことになってしまって、……」

 自分を落ち着かせながら、なんとか言葉を発しているようだった。

「田中さん、今まで隠していて、本当にごめんなさい!」

「本当、驚いた!

 でもなんだか、それ以上にうれしいわ~~」

「父さん、こんな大事なこと急に、すいませんでした。

 美桜子さん、ありがとうございます」

 翔太さんと私は、とにかく詫びた。

 お母さんは、ザ・おばちゃんで喜んでいるようだけど、田中さんの反応はもっともだろう。

 そして、二人にも関わる話を、切り出した。

「俺達、入籍して家族になろうと思ってる。

 でも、元々は父さん達が内縁の夫婦で、俺達もそこから知り合ったわけで……。

 将来的に二人が正式な夫婦になるんだったら、さらに複雑な関係になりそうだから。

 二人の結婚の形態は本当は当事者の問題なんだけど、一応家族として、聞いておきたいと思って」

 私達4人は、真顔になって黙って考えていた。

 けれども、そんな重い雰囲気は、母によってあっけなく払われた。

「私達が内縁でも、正式でも、あなた達の結婚には何の問題もないわよ」

「!!」

 え、そうなのっ!?

「私が未婚の母で、今は内縁で家族のある人と一緒になったから、その辺のこと、調べたことあるのよ」

「本当に!?

 私、法的にだめなんじゃないかって、ずっと引っ掛かってたーー」

「今の人は、すぐに検索できるのに。

 古き良き家族像が、やっぱり今もあるってことよね」

 懐の大きいただのおばちゃんだと思ってた母が、複雑に絡み合っていた問題を一気に、クリアにしてくれた。

 よく考えたら、母が一番多様な生き方をして、常に変化してきたのかもしれない。

「和男さんとも最近話したんだけど、私達年明けに入籍するわ。

 私達も75になるし、いつ死んでもおかしくないけど、あと20年生きるかもしれないし。

 5年内縁でやってきたけど、財布が別だと不経済で面倒なこともあるから、リスクとリターン両方受け入れて、正式に夫婦になるわ。

 二人で、もちろん、あなた達にも所々協力してもらって」

 田中さんは照れ臭そうに、母は本当に幸せそうに笑っていた。

「でも、あなた達は早く籍を入れた方がいいわ。

 お腹の中にいるうちから、手続きはいろいろ始まるから」

「ーー」

 いつぶりだろう、母のことが、こんなに頼もしく感じられるなんて、……。

「美桜子さん、父さん、ありがとう。

 家族の大事なこと、ちゃんと話せてよかったです!」

「まぁ、結果オーライ……、だな!」

 田中さんは母に押し切られるように、なんとかまとめてくれたようだ。

「こんなうれしいこと、ないわぁ。

 好きな人とやっと結婚できて、さらに孫も増えるなんて!」

 母ならではの、人生の苦楽が感じられる一言だった。

「あ、でも孫同士の結婚は多分、できないわね」

「ちょっと!!

 度が過ぎるわよっ」

 せっかくめでたしでいられたのに、やっぱり基本は、我流のおばちゃんだわ。


「どうなるかと思ってたけど、美桜子さんのおかげで、まるっと収まったね」

 私のマンションへの帰り道、翔太さんが送ってくれて、思い出していた。

「それまでの不安と緊張が笑えるくらい。

 やっぱり、うちの母はかなりの強者だわ」

 素敵なパートナー田中さんも、今日は調子が狂いっぱなしみたいだったなぁ。

「おかげで、体調も気にならなかったよ」

 こんなに笑ったの、久しぶりかも。

「6人家族になるのが、ほんと楽しみだよ。

 ねぇ、今度の日曜日、伊央と3人で婚姻届出さない?

 特別なにかの記念日ってわけじゃないけど、……」

「うん、いいよ。

 新しく、結婚記念日になるんだねっ!

 でも伊央くん、急な話で大丈夫かな?」

「ーーそうだね。

 じゃあ、帰って伊央に話して、許可が出たら」

「わかった。

 伊央くんの返事がもらえるまで、待つから」

 自宅に着いた私は、その日の夜、伊央くんからおめでとうの電話をもらって、晴れて、新しく家族になることが決まった。


 その年の秋、安定期に入った私は、5人家族だけでこぢんまりとした結婚式を挙げた。

 伊央くんにははじめ、私達が結婚することだけ話した。

 そうして二ヶ月程して、妊娠のことを伝えた。

 10歳の純粋な伊央くんは、新しい兄弟の誕生をとても喜んでくれた。

 いずれ彼がもう少し成長したら、でき婚のこと、この結婚式が変わったものであることに気づくだろう。

 そう、父母と祖父母の二組合同結婚式だ。

 母がどうしてもやりたいと言い、家族だけだしおめでたいことだからと、最終的には田中さんも同意してくれた。

 二人あっての私達の結婚だし、親孝行のいい記念になるし、最近はあれこれ考えずに家族みんなで楽しもう、と思えるようになってきた。

 母の話によると、母も田中姓になるらしい。

「野村姓はなくなっちゃうんだね」

 母はにっこり笑って言った。

「名字を残すとか家を守るとか、お母さんにはあんまり関係ないわ。

 自分のことやるだけで、もう頭がいっぱい!」

 私は笑って頷いた。

 きっと自分の結婚式を挙げることの方が、母にとっては一大事だったのよね、と。


 年が明けて、田中家5人が正式な家族になり、もうすぐ6人目の誕生を待ちわびていた。

 お腹の子の性別は女の子だとわかっていて、翔太さんは「産んでくれるだけで感謝だから、名前は藍に頼むよ」ということで、私に一任されていた。

 うれしかったけど、責任重大な気がして、一応母に相談してみた。

「あら、あなたが考えるべきよ!

 あなたにとって、一生に一度の素敵な贈り物になるわ、きっと」

 みんなに温かく見守られている気がして、一生懸命考えて、決めた。

仁和にな

 私の父「仁美」から「仁」の一文字を取って、家族を繋げてくれる「和」にしたら、田中(和男)さんの字も入って、両祖父から頂く形に。

 会いたい気持ち、うれしい気持ちを込めて。

 あなたは、たくさんの人に祝福されているよ。

 母とあなたの存在は、私の人生を豊かにしてくれているよ。

 母に恋人、私に家族。

 母が田中さんと知り合ったことが、結果的に家族の再生につながり、次の世代に続いていく。

 世界はしばしば、あり得ないことで成り立っている。

 一つ一つの出会いが、奇跡の連続なのかもしれない。

 母に、父に、改めて感謝し、新しい家族の始まりに、未知なる扉を開ける希望と不安の両方を感じながら、一日一日を生きていこう。

 

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