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呪術師とチョコレート。  作者: 雪麻呂
四人坊主は祈らない
46/46

祝ってやる

38.






 ――ふわり、桜が散る。


 え?

 え、え、え?

 あれ? わたし、なんで抱き締められてるの?

 背に回された力強い腕。呼吸をも埋めるような密度。わたしより少し高い体温。頬に当たる毛先。汗と、シャンプーと、お香の匂い。先輩の匂い。条件反射で、胸がいっぱいになる。代わりに、頭は真っ白だ。いや真ピンク?

 先輩の意図を理解できないまま、わたしは笑顔の石像と化した。


「瑠衣……瑠衣、瑠衣」


 耳元で、うわごとのような吐息が囁く。


「なんでお前は……お前って奴は……そうなんだ」


 初めて聞く。先輩の熱っぽい声音。

 浅い溜息が首筋を掠めて、背筋をゾクッと撫で上げる。


「なんでだよ。なんで俺がいちばん欲しかった言葉がわかるんだよ。そんなサラッと言えちまうんだよ。バカか? バカなのか? なんでだよ?」


 つらつら吐き出される言葉は、いつになく感傷的な響きを含んで、わたしの鼓膜を湿らせた。苛立ちか、悲しみか、それ以外か。判断が付かない。或いは、初めて触れる感情なのかもしれなかった。


「なんでそうなるんだよ。眠り蛇の件だって、俺のせいだろうが。あんな怖い目に遭わせたってのに。下手すりゃ死んでたんだぜ。懲りねぇのか。恨まねぇのか」


 いやいやいや。

 こっちの台詞だ。なんでそうなる。予告編ナシのハグハグだぞ。欧米か。

 なんか変なスイッチ入っちゃった?

 っていうか、先輩の身体……こんなに熱…………、

 ようやく思考が状況に追い付いて、ぼふんと顔から湯気が出た。


「ちょ、ちょっと先輩! どうしたの?」


 思いっきり声が裏返ったが、それどころじゃない。

 密着してる。急接近どころか、ほぼ一体化だ。どうなってんのこれ。抱き締められてる? これ夢? 鼓動が弾んでる。血液が大暴れする。どっちの? 先輩? それともわたし? ていうか、窒息しそうなんですけど!

 あぁ頭クラクラしてきた。

 死ぬ!


「待って待って、ちょっと、放して!」

「嫌だ。放さない」

「どうしたの? ねぇ、先輩、変だよ? 冷静になろう?」

「うるせーバカ。このバカ。バカやろう」

「ちょっと、あんまりバカバカ言わないでくれる!? 気にしてるんだけど!」

「だってバカだろ。俺の幸せなんか祈ってどうするんだよ、バカ」

「しつこい! バカって言う方がバカです!」

「あぁバカだ。俺もバカだ。大馬鹿だよ! こんなバカ女に惚れちまって!」


 …………。

 え?

 先輩。今。

 今、なんて言ったの?


「そうだよ! 好きなんだ! 俺は! お前が! 好きなんだよォ!」


 絶叫に近い答えが、桜吹雪と共に、全身を吹き抜けていった。

 好きなんだ。その一言が、遠い花火のように、じわり鼓膜を震わせる。頭の中に木霊する残響は、断じて聞き間違いなんかじゃない。先輩を振り解こうと藻掻いていた手から、脚から、ヘナヘナと力が抜けてゆく。


「…………なん、で……」


 脊髄反射。

 自動的に吐き出された言葉は、あまりにも慣れ親しんだ自虐だった。


「なんで、わたし……なんか」


 だって、信じられない。

 先輩は学校一のイケメンだ。成績だって悪くない。スポーツ万能。喧嘩も強い。ちょっと意地悪だけど、根は優しくて。実際モテモテだ。わたしなんかとは、釣り合うわけない。不相応もいいとこ。誰が見たって嗤うだろう。なんの冗談よ。

 選ぶはず……ないじゃない。

 よりによって、わたしなんか。


「わ、わたし……なんかの……どこ、が、いい、の?」

「知らねぇよ。ドジだしバカだし優柔不断でお人好しで。すぐ泣くし。くだらねーことで悩んでばっかりで。そのくせ芯が強いから折れねーし。土壇場じゃ変に度胸据わってるし。頑張り屋でさ。一生懸命でさ。意味わかんねーんだよ、お前」


 喘ぐように息を継ぎ、先輩は、抱き締める腕に力を込めた。


「けど、そういうとこ、好きなんだよ。可愛くて仕方ねーんだよ」


 選ぶはず……ないのに。

 どうして、そんなこと言うの?

 せっかく覚悟を決めたのに。こっちが全力で自己否定してるのに。

 期待して叶わなかったら、落胆するでしょ。ダサいでしょ。傷付くでしょ?

 そんなの怖いじゃない。嫌だよ。

 なら、最初から期待なんかしない方がいいでしょ?

 わたしなんかが、期待したら駄目でしょ?

 ねぇ、それなのに。


「だって……わたし……フラれたんじゃないの? あのとき屋上で……」

「違ぇよ! 俺は後ろから監視されるみてーなのは嫌だって言っただけだ」


 如何にも心外だといったふうで頭を振り、先輩は、わたしの両肩を掴んだ。

 ぐい、と情緒もなく押されて、わたし達は向かい合う。

 ――あぁ。


「俺は、隣がいいんだ。手ェ繋いで、同じ景色を見て、一緒に歩きてーんだよ」


 どうして、そんな顔してるの。

 そんなに眼を潤ませて。凜々しい眉を寄せて。叱られた子供みたいに。唇を結んで。耳まで真っ赤にして。何処までも真摯で誠実で、そのくせ今にも泣き出しそうな顔。初めて見る。先輩の、こんな表情は。


「わたし……なんかと……?」

「お前だからだ!」


 優しい茶色の瞳に、ちっぽけな女子高生が映っている。

 分厚い眼鏡。いつも同じ三つ編み。地味な顔立ち。色気もなにもない。

 なんの取り柄もない、わたし。

 叶瑠衣を。先輩、あなたは。

 こんなにも、まっすぐ。

 みつめてくれる……、

 くれて、いたとしたら。


 見開いた眼から、ぽろりと涙が零れた。


「ほんと、に……わたしで、いいの?」

「お前がいい。つか、お前じゃなきゃ意味がねーんだ」

「ど、うして?」

「惚れちまったんだ! 他に理由がいるか?」

「わたしバカだよ? ドジだよ?」

「知ってる」

「すぐ泣くし……私服ダサいし……胸小さいし……」

「知ってる」

「変なのいっぱい寄せるし!」

「知ってる! 俺が守る!」


 ねぇ先輩。

 本当?

 ……ねぇ。

 わたし、自惚れていいの?


「瑠衣」


 優しく名前を呼ばれて、頭の奥が、じんと痺れた。

 風が吹く。桜が散る。

 わたしより頭一つ高い上背を屈めて、潤んだ瞳が覗き込む。

 いいか、とは訊かなかった。

 そう。いつだって強引なんだ。この人ってば。

 わたしも、作法なんて知らない。

 でも、こういうときは、眼を閉じるもの、でしょう?




 ――重なった唇は、信じられないほど甘かった。




 音が消えた。色も消えた。ただ熱が、爆発しそうな鼓動が、今この瞬間を身体の隅々まで運んでゆく。脳味噌を蕩かす幸福感は、途方もないピンク色。息継ぎさえ許さない峻烈さで、時間を止める。

 天にも昇る気持ち、とは言うけれど。

 あぁ、カンペキに致死量だ。

 このままブッ倒れて昇天したって、おかしくない。

 それなのに、頬を伝う涙は、どうしてこんなにも穏やかなんだろう。

 ちゅ、と微かな音が立つ。

 ピンク色の溜息を残して、わたし達の唇は、ゆっくり離れた。


「…………甘い」


 夢心地で呟けば、先輩は悪戯っぽく微笑んで、ポケットに手を突っ込んだ。

 出てきたのは、なにか小さい金属の、箱っぽいもの。


「ファーストキスが蓬莱丹じゃあな。あんまりだろ?」


 受け売りだけど。

 付け足して、軽く振ってみせる缶には、見覚えがあった。


「あ、それコンビニで売ってる……」

「らしいな。まぁまぁ美味いじゃん。俺のトリュフのが美味いけど」


 チョコレート!

 やられた。仕込みだ。わたしと喋る前に食べたんだ。どおりで甘いはずだ。先輩らしからぬロマンチックな演出に、今更ながら恥ずかしくなって、わたしは口元を押さえた。おそらく黒幕は奴である。あの小悪魔め。


「……今度、作ってよ」

「あぁ。嫌ってほど食わせてやるぜ。なんなら一生不自由させねー」


 照れ隠しのつもりが、更なる殺し文句で迎撃されて、最早ぐうの音も出ない。

 わたしにできることといったら、先輩の胸に顔を埋めて、せいぜい悶絶することぐらいだった。


「その代わり、だ」


 不意にポン、と頭に手が乗せられる。

 上目遣いに見遣ると、頬を赤らめた先輩が、ちらり視線を逸らせた。


「う、浮気すんなよ?」

「え?」

「…………」


 しばしの沈黙に、わざとらしく咳払いを一つ。

 斜め上の空を注視したまま、先輩の口が、モゴモゴと動いた。


「兄貴も華音もイケメンだけど……目移りすんな。お前、もう俺の彼女だから」


 か……彼女……。

 彼女かぁ。

 やだ、どうしよう。夢にまで見た単語のはずが、改めて実装されると、どうにも実感が湧かない。余所行きの服を着てるみたいにソワソワする。でも不快ってわけじゃないし。むしろいい気持ちだ。酔っ払うって、こんな感じかしら。

 ううん、なんて返すのが普通なのかな。

 わかんないよ、初めてなんだし。

 まごまごしていたら、念を押すように、先輩の指先が腰を突いた。


「あ、えっと……その」


 よろしく。

 考えた挙げ句、口を突いたのは、なんともトンチンカンな返答だったとさ。




 ――パン、パパパパン!




 突然、背後で破裂音が上がった。

 吃驚して振り返った前髪に、ひらり。

 薄いピンク色が貼り付いて視界を奪う。

 払う間もなく、青が。黄色が。白が。鮮やかな色彩が、目の前に満ちてゆく。

 そうしてトドメに飛んできたのは、野郎三人の、ハイテンションな声。


「イエーイ! おめでとさんっ!」

「おめでとう、ご両人」

「おめでとう!」


 安っぽい紙吹雪の向こう、残りの仇志乃兄弟達が立っていた。

 紫音さんの手には、愛用の煙管。華音さんと流音君の手には、未だ煙の尾を引くクラッカーがある。わたしは呆然と立ち竦んだまま、瞬きもできない。ただ三人の眩しい笑顔が、懐かしい記念写真みたいに、強く瞼に焼き付いた。


「良かったね、瑠衣ちゃん!」


 真っ先に駆け寄ってきて、わたしの肩を叩いたのは、華音さん。


「天晴れ、世音。これで仇志乃家も安泰だ」


 羽織の袖に両腕を収め、うんうんと頷く紫音さん。


「おアツイね~! この、このっ」


 エア肘鉄でピーピー口笛を吹く流音君。

 あっという間に取り囲まれて、スリーウェイの祝辞弾幕である。なんせ不意打ちだった。わたしでなくとも、誰だって同じ反応をしただろう。即ち、ポカンと口を開けてマヌケ面で絶句である。ちょっと耳がキンキンする。

 やや遅れて、ようやく火薬の匂いが漂ってきた。


「マジ二人っきりの世界なんだもんね~? 全然気付いてなかったの?」


 ほくそ笑む流音君に、わたしと先輩は、顔を見合わせる。

 あっ。二人して呟いて、仲良く頬が紅潮した。

 ……もしかして、最初っから。

 一部始終、見られてたの!?

 ちょい待ち、だとしても、なんでクラッカーなんて持ってるわけよ? 確かに、此処へ来る途中でホームセンターにも寄ったけど。華音さんが会計担当したけど。そのときに買ってた? お菓子だけじゃなくて?

 ということは、この告白劇。

 みんなのお膳立てでセッティングされたってこと……?


「余計なお世話だっつーの……」


 斜め上を見ながら、先輩が舌打ちした。


「そんなん言ってもね~? 顔に書いてあるもん、超ハッピーですって!」

「うるせー文句あっか」

「今度、本格的にお祝いしようね。俺、お店予約するよ」

「んじゃ、もう一発! 祝砲いっとく? はい、紫音兄さん」

「これは紐を引けば良いのだね?」

「熱っ! ちょ、こっち向けないで危ないから!」

「うふふ、めでたいのだよ」

「慶事があると弟を撃つの兄さんは!?」

「それより、お式の料理は和、洋、インドのどれにしようね」

「気が早……ってか、なんでインド出てくんの!?」

「おや不服かね。では和印折衷ということで、カレーうどんに」

「来賓の礼服という礼服を皆殺しにする刑!?」

「あ、僕フランス料理がいい!」

「仏前式だけにな」

「そうそう、あれ数珠交換するんだよね~ウケる!」




 うわあぁああああん。




 突拍子もなく響き渡った慟哭に、賑やかな祝賀ムードが一転、静まり返った。

 みんなの視線が集中した先は、わたし。

 ――わたしが、泣いていた。


「お、おいどうした!? 瑠衣!?」

「カレーうどんは苦手かね?」

「え、え、僕知らないよっ、僕のせいじゃないし!」

「ごごごごめん瑠衣ちゃん! ごめんよ! 嫌だった?」


 だからなんであんた達は一斉に喋るのよ。

 心中密かにツッコみながら、わたしは、駄々を捏ねるように頭を振る。


「うううぅ、ちが……ちがうぅうう」


 熱い塊が喉を迫り上がる。両眼で滝になって溢れ出してくる。

 自分でも、いつ涙腺が決壊したのか、わからなかった。

 気が付いたら、わんわん泣きじゃくっていた。


「う、うれしい、の」


 わたし達、祝福されてるんだ。


「わた、し、幸せで……幸せすぎて……みんな優しくて……嬉しいの」


 わたし、これからも先輩と一緒にいられるんだ。

 ずっとこのまま、好きでいいんだ。

 みんな、そう思ってくれてるんだ。

 理解した途端、熱い塊が喉を迫り上がった。

 そこからは、もう止まらない。堰を切った感情は滝になって、後から後から両眼を溢れ、頬を伝い、しとどに襟を濡らす。なんて素敵な兄弟達なんだろう。なんて素敵な一日なんだろう。なんて優しいんだろう。この世界は。

 他の誰でもないわたしが、今、此処にいる。

 その事実が、途方もなく嬉しかった。

 驚き。心地良さ。激しさ。嬉しさ。切なさ。込み上げる感情は複雑に絡み合い、身体中ぎゅうぎゅうに詰まって、呼吸を圧迫する。解放を求めて暴れる。その衝動の名は、なんなのか。若すぎるわたしには、掴めないけれど。

 すべてはたったひとつの言葉に収斂されて、出口に光を灯すのだ。

 今なら心の底から言える。負け惜しみなんかじゃなく。

 わたしを此処へ導いてくれた、すべての不運へ。

 幸運へ。


「ありがとぉおお」


 わけもわからず叫んだら、腹の底から、なにかドロドロした塊が流れ出た。

 ――音を聞いた。

 弱虫の殻が割れる音を。怖がりの足枷が千切れる音を。自己嫌悪という名の呪詛が解ける音を。わたしを縛っていた卑屈な自意識、自分自身を蝕んでいた悪意が。粉々に砕けて散る。春霞に、とろり溶けてゆく。

 そんな歪なアイデンティティは、もう必要ないんだ。

 だってわたしの前には、新しい道がある。

 それも、大好きな人が一緒に歩いてくれるっていうんだから。

 最強無敵だ。なんにも怖くない。

 わたし、ドジだしトロいし、鈍臭いし。きっと、めちゃくちゃ転ぶだろうな。

 でも絶対、負けないから。何度だって立ち上がって歩くから。

 先輩の歩幅、せっかちだけど。頑張って付いていくよ。同じ景色、わたしも見たいの。本当は欲張りなの。背中だけじゃ足りない。全方向からみつめたい。もっともっと至近距離で。傍に、いたいの。


「……わかってるって」


 そっと、いたわるような温もりが肩を抱く。

 この上なく優しい苦笑で、先輩の指が、涙を拭った。


「やれやれ」


 いささか呆れた口調で、紫音さんが肩を竦めた。

 彼らしい、悠然とした愛情の滲む嘆息に、状況を察してくれたんだろう。涙目でオロオロしていた華音さんも、叱責の予感にビビりまくっていた流音君も、ホッと表情を和ませた。さすが長男だ。話をまとめるのは、この人に限る。


「これにて一件落……うん?」


 みんなの注目を集めた、そのときだ。

 紫音さんの懐で、空気を読まない着信音が鳴いた。


「はい、仇志乃……あぁ山田さん。いつもお世話になっております。はい、住職の紫音です。はい。はい。ええ…………ん? 本当ですか?」


 せっかくのシメに水を差された格好である。応対する紫音さんの声は、いささか不機嫌なものだった。

 しかし数秒もすると、それは緊張感に取って代わり、膨れっ面は思案顔を経て、諦めの境地に達し、最終的にはプロの相貌となって、なにか短く二言三言の確認を済ませて、今度は別の種類の嘆息に行き着いた。


「やれやれ……どうにも間の悪いことだよ」


 紫音さんが、ガラケーを畳む。


「どうしたの?」

「四丁目の山田さんが悪霊に取り憑かれたらしい」

「このタイミング!?」

「うわぁ、仇志乃あるある」


 空気読まないどころじゃねぇ!

 わたし、どんだけロマンチックの神様に恨まれてんの!?


「こんなときに……ごめんね、ほんとごめんよ瑠衣ちゃん」

「今から慣れとけば? うちの嫁になったらこんなんじゃ済まないよ~」

「先に行っておくれ、世音。私達は此処を片付けてから向かう」

「わかった」


 素早く仕事を分担して、仇志乃兄弟達が動き始める。

 えっと、わたし、どうしよう。片付け手伝った方がいいのかな?

 考えているうちに、もう先輩は愛車のゼファ目指して駆け出していた。

 すっかり仕事モードの背中が、ふと立ち止まって振り返る。


「行くぜ、瑠衣」


 スローモーションで吹く風が、肩越しに先輩の毛先を揺らす。

 目の前は、怖いくらいのピンク色。うっとりと瞬けば、濡れた睫に乱反射して、桜吹雪がキラキラ輝く。午後の陽射しを浴びて微笑む先輩は、初めて出逢ったあの日と同じ。青い空の彼方へ消えてしまいそう。

 でも違う。

 差し伸べられた、その手を。

 わたし……今度こそ、しっかり握ってみせる。

 そう。

 今、わたしのすべきことは――


「――うん!」


 頷いて、地を蹴った。











呪術師とチョコレート。/ 了







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