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32、 花火 -3-

 ――メグさん。

 今頃メグさんは、画面の向こうに何を見てるだろう?

 カウントダウン、0と同時に煌めく花火。

 それは画面の中の機械の映像。誰かが作った人工の景色。

 でもそれは、本当の花火も同じ事。

 空か、画面か。

 ……なぁメグさん、俺たちは何してんだろうね。

 俺は、かな。

 思えば俺は……ずっとずっと、一人よがりの中にいた。

 一人で勝手に好きになって。憧れて。追いかけて。

 好きです好きですって思いだけ。

 実際に口にできる時にはその決断を逃げて。

 思いを告げるのを怖がった。

 メグさんがさ、どんな顔するか。俺の中から羽ばたいてった言葉で。

 ……拒絶されるのも怖くて。

 変わるのも怖くて。

 先延ばしにして、逃げて、その上で勝手に一人で閉じこもって。

 やっと決心が決まった時には、……何だかさ。

 それでもまだ、道はあったのかもしれない。

 けど……もう、気づいた時には兄貴はあなたの中に入り込んでた。

 兄貴が不器用なのは知ってたよ。

 ちょっと変わってる人、でも兄貴が投げる球はきっと変化球じゃないんだ。いつだって、直球しか投げられない。

 いや……俺は、兄貴の何を理解してたかな。

 機械オタクだって思ってた。電子の世界に魅入られた人が。

 まさか、メグさんに恋をするなんて。

 兄貴……考えてなかったよ。

 なぁ、兄貴。俺は画面に向かって呟く。

 この花火は、兄貴が作ったもんかよ? それとも、兄貴が死んだ後に別の誰かが作ったもんかよ?

 どちらでもいい、だけど、なぁ。

 ……何で、俺たち3人は。

「……言ったじゃねぇかよ」

 幸せにしてくれって。

 メグさんの事、一生涯。

 そして、……約束してくれって。俺が託した事、忘れたかよ?

『きれいだね』

 不意に。メグさんからチャットが届いた。

『うん』

『すごい花火』

 あの時ほどじゃない。でも、あの時を思い出すよ……とは書けなかった。

 怖い。

 ――カウントダウンが、まだ続いているようで。

 いや、きっと続いている。俺たちのカウントダウンは。

 1発1発、流れて行く時間。

 ――俺たちはここにいる。

 でも、俺たちはいつか別れゆく。

 一緒にはいられない。

 同じ傷を背負ってしまった。

 兄貴を失った。それはもう永劫に変わらない。

 だから、メグさんの傷は癒えない。

 俺が傍にいる、それは、許されない。

 兄貴が許さない。

 そしてメグさんの中の兄貴はもう消えない。

 一生刻まれる思い。

 それはきっと、愛以上の鎖。

 俺が傍にいれば、メグさんの鎖はもっと強く。

 ――絡みつく。首を絞める。あなたを苦しめる。

 俺はメグさんを苦しめたくない。

 ならば、俺たちは別れなければならない。

 代わりに守ると、簡単に言えたら。

 ……いいやそれは、兄貴を言訳にしてるだけ。

 でももう、俺たちは。

 自分たちの意志では。

「……」

 意思でも。

 ……共にいる限り、悲しみは。

「……クソったれ」

 憎いのは兄貴、そして自分。

 あなたは画面のそこにいるのに。

 手を伸ばしても、届かない。

 俺たちは、永遠に。




『今度、行こう』

 まだ花火は続いている。

『行ってみない?』

 どこに? と俺は口で問い返す。

 聞こえたのかな、メグさんは答えた。いいや、アバターは沈黙。でも俺にはメグさんの声が聞こえた。

 ――【聖域】へ。

 レベルは関係ない。【テネシーブルー】だけ越えれば。

 あとは、俺たちだけの問題。

 兄貴がその向こうで待ってる。

 1年間、俺たちはこの世界で生きてきた。

 この世界に入った目的は、兄貴が最後に残した物を見るために。

 それを……口実に。俺はメグさんと共に過ごした。

 ずるいよと、汚いよと、自問自答をしながら。

 でも……結論を先延ばしにしていた。

 【聖域】には神獣がいる。だがそれに挑むのに、レベルは関係ない。

 ならば、いつでも行ける。いつでも行けた。

 ……でも。

『うん』

 と打った。

 【聖域】にたどり着いた時。俺たちの旅は終わるのか。

 俺とメグさんの、この奇妙なつながりも……終わるのか……。




 怖いんだ。

 やっとわかった。俺がずっと感じてた恐怖。

 進むのが怖い。……終わりに向かう事が。

 ――でも。

 逃げられない。

 カウントダウン。

 花火は天へと向かって舞い上がる。

 弾けて魅せる花は一瞬。後はただ、闇の中へと消え落つだけでも。

 わかっていても。

 まっすぐ上がる。

 ――俺も、そろそろ決断をしなければならない。

 たくさんの思い出と。

 …………決別する日を。




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