7話
予告と異なり、挿絵ではなく戦闘シーンです。
現実世界では12時3分。ゲーム内では12分経過。早めにカプセルが溶けた。イモカーマ①の効果で俺は加速した。移動にしか使えないのが残念だ。
妹式加速麻薬の略でイモカーマ。俺式脳内麻薬はオレノーマと略そう。
・・・あくまで、暫定名称だからねッ!他人に明らかにするときにはもっとカッコいい名称を考えるんだから!
妹たちが追いついて来る可能性もあったが、溶けるカプセルがもったいなくて突っ走ってしまった。
しっかし、今どうなってるかメールくらいよこしてもいいんじゃないか、あいつら。
そこでふと、気が付いた。やられた。通信管制だ。クズヤ・ロウめ。メーラーを開いて送信して見たが、アラートもエラーも出ないのに、返事が来ない。スパムも良く来ていたのに、全く来なくなった。
外界との連絡手段を絶たれた。サーバーに仕掛けた罠を任意作動させられない。
俺の弾はあと、キャラメル包みのイモカーマ②と③、12時10分のファイナルサーバーダウン、オレノーマ、オレノーマハイパーのみとなった。
勝てるかな?
村も街も森も谷もスッとばし、ボス城は間近と迫った。遠くでモンスターが飛翔している。赤銀と青銀の龍が吠える。ああっ狩りたい!寄り道したい!想いを振り切って門前に突入。
「たのもう!」
城の前で門衛のNPCに声をかけると、2体が槍で門下を封鎖した。が、交差寸前の槍の下を加速でくぐった俺は、片方を吹っ飛ばして2体を重ね、三連突きからコンボを敢行。NPCの、PCと比べて少ない体力を容赦なくゼロまで削り切る。
さらに、緊急閉鎖される門が、閉まる途中で城内に侵入。そばの階段を駆け上がり、門楼上の武将NPCが外を覗いている、その背後を取って瀕死までコンボ。向き直ったところを吹っ飛ばして場外ホームラン。城壁上に居並ぶ雑魚をナデギリにして通報を防いだ。
「時よ、動け」
つぶやきながら、納刀。NPCが倒れ、消えた。
・・・凄く、中二です。絶好調!
調子良く雑魚切りしている背後をクズヤが取りに来ることも想定しないではなかったが、まだ、来ないようだ。
城内の街路をゆっくりと、歩く。カツーン、カツーンと足音が響く。俺の挨拶は受け取っただろう、姿を見せろ、屑野郎!
NPC町民達が、この先の広場に走って行く。
「反逆者だ!反逆者の娘が処刑されるぞ!」
そんな感じに、なるだろうと思っていた。人ごみと一緒に広場に行く。ああ、いたいた、アーザートのアバターだ。どんな風にハリツケされているだろうと思ったら。
やったっ!全裸だッ!全裸磔だ、やッほう!!
葛谷様ありがとうございます。いい仕事してくれます。アバターは最後まで脱げない仕様だが、さすが後先関係ない犯罪開発者、やってくれました!
「アーザート、きれいだ・・・」
ごまかしの光エフェクトも無い。人外の肌の美しさ。βよりも解像度がいい。
だが、ちっちゃくて、大きくなっている。身長160以下となり、すこし豊胸されている。データを改変されている。気に入らないな。データレイプだ。
アーザートは、ぐったりとしていた。中の人がいないからか。そこは、アルゴの弱いNPCを入れられなくて良かったとも、リアクションが無くて楽しめないともいえる。
「この娘は、この世界の王たるクズヤ・ロウ様に逆らった悪鬼、オウガ・スタアの女!オウガ・スタアを殺したものに、与えられる!ものども、オウガ・スタアを探せ!オウガ・スタアはこの城に来る!女を奪い返しにやって来る!」
壇上で、道化のような小男が、群衆を炊きつけていた。NPCだよな、アレ。新シナリヲを組んだのか、俺のために。
でも名前はオーガ・スターですよ。本名に関連するオーガストとオーガをかけて、適当に作ったキャラ名ですよ。スペルがA始まりとO始まりで、後でやべぇと思ったけど、後の祭りですよ。切り取り可能部位ならば、道化の舌を切り取ってやるんだが。
群衆は、俺が混じっているのに殺せ!オウガ!と連呼に入った。俺も一緒に叫んでみる。だって名前の良く似た別人でしょう。現実世界と違って、群衆からプレッシャーを感じない。何人いようが敵じゃないから。それともお得意の管理者権限で、雑魚まで強くしているのかな?
「あっ」
お約束展開。群衆の中の少年が、俺の角に気が付いた。オウガだ、オウガだよ!と周りの大人に触れ回る。気が付いた群衆は、俺をリンチにかけるよりも、遠巻きに引くことを選択した。ま、悪くない演出ですな。
「俺はここにいる!アーザートを取り戻しに来た!加速の鬼、オーガ・スター水産!」
推参!と打つつもりが、ぎゃあああ!剣山の方がマシだった。だが、NPCは対応する語彙を与えられていなかったようだ。
「ふははは。滑稽だな、学生。ゲームは一日一時間くらいにしておいた方がいいぞ」
俺が無様をさらしたところで、早めに王様が登場なされた。悪役定番の銀髪イケメンアバターに漆黒の長刀。中身は、設定してしまったアバターに容姿を近づけようとけなげな努力をする中年コスプレイヤーの葛谷様だ。
ゲームは一日一時間か。古い標語だと聞いている。体感4時間のこのゲームならば、それで満足できるかも知れない。だが今や、ハードゲーマーにとっては、時間は無限に必要となっているのだ、一時間で満足できるわけはない。
「お前自身が、実践してから言え!廃人クズヤ!」
クズヤは、それには答えず、前に出てきた。
「それで魚屋さん、何を売りに来たのかね」
クズヤが心臓シャッターに手をかけた。決闘の合図だ。
「ケンカにきまってらぁ!」
俺は即応して心臓を露出した。
あーだこーだ問答するのは、勝った後でいい!加速!オレノーマ!4.5×2倍!
クズヤは俺のセリフ中に先行して加速していた。適正はS以上、デモンクレイドル4.3倍+チート加速装備X倍。お前の速度は何倍だァ!
俺とクズヤが、互いに高速で旋回を始めた。最速攻撃の突きの構えをとったまま、利き手側じゃない側面または背面を取りに回る。差引の差が2倍以上があれば正面から切りかかっても先にあたるが、そこまで速度差は無い!
死角取りの移動、一瞬に行われる攻防。わずかにクズヤが遅れ始めた。俺についてこれなくなって、想定される死角をカバーするように斬撃を放たざるを得なくなった。
だが、俺と奴の差は0.4倍だった。俺の攻撃は、斬撃を回避しながら一発突くにとどまった。
俺に勝つつもりなんだろう、何故10倍を出さない?そうは思ったが、悠長に脳内仮想キーボードでチャットを打つ暇は無い。それよりも、差を広げなければならない。
9倍で単発攻撃を終了した俺と、小のけぞり後に8.6倍で動くクズヤ。その差は実質、先ほどの0.4よりも拡大している。より不利になり追随できなくなったクズヤは、攻撃よりも回避を選択した。
だが、それが遅いということなのだ。今度は、身体ではなく判断の遅さだ。追随しようとして持ち時間を使った後に回避した。つまりそれは、回避後の硬直を俺が狙えるということなのだ。
最速攻撃からの三連突きが決まる。クズヤが距離を取ったことにより、それ以上のコンボには繋げなかった。しかし、徐々に俺のペースになって行く。
三連突きのノックバックでクズヤは中のけぞりからのスタートだ。俺の隙は極小、駆け寄る、速度勝負、浅い突き一発入れてから旋回、死角を取る、クズヤは苦し紛れの背面円斬、俺はショートジャンプからの飛び込み斬りを成功させ、連続攻撃に移る!
柄打ち後、下段切り上げで浮かし、昇龍斬、右直上蹴り、左直上蹴り、空中回転大円斬!!
クズヤロウブッタギレイヤーが、青緑色の体力ゲージを一気に削り切る!とはいかない。PCに対するコンボは補正がかかって、最後の3分の1は減りにくい。それでも、残りは5分の1になった。もう後は相打ち覚悟の削り合いでいい。
この時、体力ゲージの下に、速度メーターがあるのに気が付いた。俺に9、奴に8.6が表示されている。こんなのはβになかった。
先の先を当てに行く。直後に反撃をくらったとしても、つないだコンボで削り切れる。
これで終わるか、たわいない。
とは、思わなかった。案の上だ。追い詰められた加速の王、クズヤはやはり奥の手を出した。速度ゲージが輝いた。大方体力が赤くなったら発動する能力だ。
11倍!!
差引2倍の差をつけられた。俺がそれを認識するのは、正確には奴のコンボをくらっている真っ最中だ。俺の先が当たらなかったこともわからず、奴の先の先をくらい、俺の緑の体力ゲージが減少して行く。そこでできることは何もない。
だが、先にやったことはある。突進前に背後にポーションを置き去りにした。攻撃でふっとばされつつも、同座標を通過すれば効果を得られる。一気に赤くなって急速に減少しゼロになろうとしていた体力ゲージが、回復に転じて3分の1まで戻った。このゲーム、馬鹿正直にポーションを飲んでいる奴はいない。
そういうことは、開発者であり重度廃人であるクズヤも織り込み済みだ。正面からの一回コンボだけで相手を即死させるようなチート攻撃力を己に許しながらも、それで俺が簡単に死なないことも、知っているし期待してもいる。
クズヤは、俺のことを「謎の加速を行うチート野郎」だと思っている。俺に対してなら、世界管理者の力で極端なチート行為を行っても許されると思っている。それで完全にタガが外れて、誰に対してもチートを振り回すようになった。優越感に狂い、強者と伍し、次いでそれに勝利する自分をカッコいいと思うナルシスト。アンフェアな操作を、単なる自分特有のゲーム内スキルくらいに思っている。始末に負えない。
俺は、しぶとい敵でなければならない。しぶとい敵相手にならば、どんなズルでも許される。そう考えるのが、葛谷が屑野郎である所以なのだ。だってそうじゃなければ勝てないじゃないか。さも、自分が勝つのが当然かのように、かつてクズヤは言ってのけたのだ。
「さてどうする、オーガ君。2倍差をつけた以上、君の攻撃は絶対に当たらない。君がみんなに味あわせた屈辱を、今こそ感じるべき時が来たのだ!!」
クズヤは、優速でありながら、時間をかけてチャットして来た。
王様、ご満悦のご様子で何よりです。
俺はその間に、反復横跳びポーションという高等操作テクニックを用いて全回復した。
一部の廃人ランカーにしか、できない技だ。詳しくは、ネット動画を見て練習していただきたい。
「それが、気持ち悪いっつってんだよ、クソズルオオガ!削り切ってやる!!」
そしてキレたクズヤは、絶対的優速であるために、無回復で突進してきた。
奴にもチート回復があるんだろうが、チート速度を優先して来た。距離を取ったので初動は見えたが、回避不能の即死コンボが再び迫る!!
この辺が、私が書きたかった速度差のある戦闘描写ですが、いかがでしょうか。




