8話
11倍速で迫るクズヤを俺は初動しか視認できなかった。先の先を取られ、そのまま即死コンボで全体力を失・・・
俺を舐めるなよ。かつて熟練の零戦撃墜王は、優速の相手に対しても互角以上に戦った。
【必殺、地上木の葉落し】
クズヤが動いた瞬間、俺は空中にアイテムボックスから木の葉を置いて後退。左斜め後ろにひねり込みながら、斬撃を木の葉の上に置いた。未来位置予測攻撃。
11倍速に酔え、クズヤ。お前は発進した時点で、もう何も考えられなくなっている。その時点の光景しか、脳裏にない。だから、俺がいた地点に対し突きを放ってくる。単純過ぎるんだよ。
少しは状況が見えるか?だが、前進して視野が狭まる。木の葉の裏で動く俺が見えない。
突進してきたクズヤの漆黒の刀が、木の葉を貫いた。俺が空間に置いた、渾身の斬撃が、奴の頭蓋を叩き割る。
奴の体力ゲージが、あっさりゼロになった。
あれ?驚異的防御力補正は?禁断の1ドット残しは?そのまま死ぬの?
―――WINNER IS ORGE STAR!―――
キラキラ表示が中空に現れた。
言いたいことがたくさんあったのにな~。
っと、縄で十字架に掛けられていたはずの全裸アーザートが、いきなり解除されて落下して来た。わおう!勝利ボーナスだ!歓喜の抱き留めキャッチ!
そこで、俺は油断を突かれた。背後から、反しのついた槍が、俺たちを2人まとめて貫いた。デモンクレイドルによる激痛信号が、遅れて俺の全身を貫く!
貫いたままの槍が、死ぬまで追加で連続ダメージを与えてくるはずだ。俺はアーザートを抱えたまま、地面にダイブした。強引でも、槍を抜くしかない。強烈な自傷ダメージが来た。突き抜けた槍が、投擲者に戻っていく。
アーザートの美しいアバターはどうなった?肩をつかんで肢体を確認すると、いつの間にか心臓シャッターが開かれていた。
「こふッ」
アーザートは、口から真っ赤な液体をこぼした。ちい、演出だとわかっていても、寂寥感が俺の全身を襲う。死ぬためだけのNPCを入れやがった!
はかなげな美少女は、何か言いたげに震えた後、事切れた。
「アーザートッ!!」
妹の抜け殻を抱きしめる俺の背後で、襲撃者が槍をしごいた。
「一本目は、君の勝ちだ。その死体、好きにしたまえ」
黄色い体力ゲージのランサーが、次の相手だった。
そう、相手は、何でもアリの相手だ。
俺は、釈迦の手の平の上で踊る悟空、いや御供に過ぎない。




