【終わりと始まりの創星神話 1巻 第三章4話】
「さて、どこから話したものか。ーー先ずは【多目的遂行複合魔導兵装】の稼働試験についてだが、無事終えたようだな」
「……無事かどうかは正直怪しいけど」
「む? そうなのかね?」
最後にひっくり返って頭を打ったことを伝えると、心配なら後で保健室に寄るように伝えられた。
まあ、こぶにもなってないし大事ないとは思う。
それより、心情的な問題だと僕は言いたい。
「それで、【多目的遂行複合魔導兵装】はどうかね? あれは使い熟せばゼロの力になると考えたのだが」
「うん、あれは凄いよ。魔法が使えない僕でも間違いなく力になる」
本当は魔法が使えないのではなく、自身で魔力を生成することができないからである。
この身体は、クロネの『神器』によって形作られたものだ。
肉体という仮初の容れ物に僕という魂が宿っている歪な状態である。
「それは何よりである。無理を言ってゼロを推薦したのでな。反発も多いだろうが、そこは耐え給え」
「た、耐えろって……そこはそれこそヨミの権力で何とかならないの?」
「ふむ、私が全く根回しをしていないとでも思うのかね?」
「……ということは、ヨミの権力が通じない相手がいる、と」
「理解が早くて何よりである。その最たる例がジルドだ。よく覚えておき給え」
あの男、『国立魔導技術研究所』の室長と名乗っていたが、ヨミの手が負えないほどの人物なのか。
「彼とは古い付き合いでね。幾度となく思想や主義の違いで対立してきたのだがーー今回は【多目的遂行複合魔導兵装】の運用方法で意見を違えてな」
「運用方法?」
例えば、どう使うか、どのような場面で用いるのかとか。ーーそして、誰が使うのか、とかだろうか。
「然り。そもそも、だ。魔導器、並びに魔導兵装はどのような目的があって開発されたと思うかね?」
「魔導器や魔導兵装が、どのようにして……わざわざ魔道具と分ける理由があるからだとは思うけど」
考えてもみれば、別に魔道具でだっていいわけだ。
決定的な違いは、術者の魔力を用いるか、充填器から供給される魔力で動くかの違いだろう。
僕の場合、そこに僕自身が魔力を得なければならないという一行程挟まなければならないが。
「うむ。では、何故差別化を図るのか。それは、とても簡単なことなのだよ」
「……誰でも使えるようにするため、かな。魔道具は使い方を謝れば暴発することもあるし、それこそ魔力が足りなければ発動すらしない」
そして、魔道具は高価なのだ。
魔具師と呼ばれる専門の工匠が手作りで作るから、生産数も限られている。誰でも気軽に手に入るものでもない。
この国に来て知ったことだが、大規模な工場で大量に生産出来る魔導器とは訳が違う。
統一された規格で安価で大量に作れて、誰にでも容易に手に入り利用できる。
ーーそれはまるで、弱者のためのものだと思った。
扱うには術者の知識や才能を必要とせず、子供でも老人でも普遍的に使用できる。
「そういうことね。ヨミは差別を無くしたいんだ。ううん、どちらかと言うと弱者救済かな」
誰でも使えて、容易に手に入る。
それは、経済的に苦しくても、ある水準の道具が手に入る。
戦う力がなくても、魔法の才能を持たなくても一定の性能を発揮できる。
「弱者救済ーー正しくその通りである。私は持たざる者にも選択の機会を与えたかったのだよ」
それは、何とも傲慢な考えだろうか。
しかし、ヨミは持っている側の人間だから言えるのだろう。
「でも、思想が相容れなかったということは……」
「うむ。私は弱き者の底上げを主体に考えていた。初めはそれで良かったのだかな。時が経つにつれ、ジルドは強き者をより強くと考えたのだ」
だが、ジルドの考えは分かる。
実際に僕は見ているのだ。ユウキらが魔導兵装を用いて、【聖宗救国】の騎士たちを相手に戦っている姿を。
それも、互角程度ではない。終始、優位を保っていたのだ。
戦闘を生業とする大の大人を相手に学生が、だ。
副長だったクルスや、団長であるカトリアには流石に及ばないが、それでも一国の英雄相手に善戦していたと思う。
普通なら有り得ない。
本来なら相手にすらならないはずだ。
彼我の優劣、その差を埋めているのが魔導兵装だった。
「それで僕が選ばれたのか……」
確かに僕は弱い。
単独では魔法を使えず、誰かに守ってもらわないと下手したら子供相手でも負ける自信がある。
クロネを守りたいという願いはあっても、到底叶わない夢だった。
しかし、魔導兵装がーー【多目的遂行複合魔導兵装】があればそれを覆せる。
「だが、想定より早く横槍が入ってしまったようである。そして、【多目的遂行複合魔導兵装】の試験、開発はジルドが主体で行なっているため私が介入するには少々困難である」
まあ、開発そのものを中止されたら元も子もないしね。
精々ヨミにできることは口を出す程度に受け止めておこう。
「だが、全くの無策というわけでもない。ゼロにはこの魔導兵装を授けよう」
そう言うと、僕の目の前に暗闇が現れた。
どうやら空間魔法によるもので、少しすると暗闇が晴れてそこに現れたものを目にする。
「これはーー」
目の前に現れたのは一丁の器銃だった。
それは、ユウキが持っていた物と同じく拳銃型で、持ち手には何やら紋様らしきものが刻印されている。
それともう一つ。
金色に輝く指輪があった。
石座には青みがかった紫色の結晶が嵌め込まれている。
「先に指輪から説明をしておこう。それは、ギルバートと私の合作である。魔力を生成できないゼロの為に、その魔晶には私の魔力が込められている。簡易的な魔力充填器のようなものだ」
ギルバートーーつまり、義父さんが作った指輪なのか。
手に取ると、指輪そのものから魔力を感じる。
色合いからして、特殊な合金ーー【錬金鋼】によるものだろう。
試しに左手の人差し指に嵌めてみると、身体に活力が漲るのを感じる。
同時に、視界が揺らいだ。
酩酊感にも似た眩暈がする。これは、魔力酔いの典型的な症状だ。
普段、魔力なんて取り込むことなどないから、身体が拒絶反応を示しているのだ。
普段使いすることもないだろうし、必要のない間は外しておこう。
「その器銃についてだが、帝国軍で制式採用されている型と同じ物である。一般生徒が持つには許可証が必要である故、私からの認可を与えよう。生徒手帳を出し給え」
懐から生徒手帳を取り出すと、空中に浮かび上がる。
勝手に捲られると、そこに魔力による紋様が刻まれた。
「承知だとは思うが、無闇に撃つのではないぞ」
脳裏にユウキの姿が過ぎる。
時折、カイへの折檻として魔力弾を撃たれている姿を何度か見かけるが、まあ、あれは例外だと思おう。
「ーー以上だ。何か質問はあるかね?」
「うん、今の所は特にないかな」
「ならば今日の話はここまでである。ーー私の魔法で『黄昏荘』まで送り届けよう」
ヨミが指を鳴らすと、足元に瞬間移動の魔法陣が浮かび上がる。
こんな気軽に今日は本当に転移魔法での移動が多い日だ。
「ほな、ワイもお暇しようか」
「待ち給え。リオンはまだ私への報告がまだであろう。それと、ジルドに協力をした件について説教がある」
「そ、そんなぁ!? 堪忍してや先生!」
視界が暗くなる中、リオンの叫び声が響き渡った。
リオンがジルドに協力していたのは、ヨミも考える所があったらしい。存分に説教して欲しいと思う。
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