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落ちこぼれ機械闘士の病熱【完結】  作者: 日野月詩
第二試合 試合とは
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闘うこと

 試合の後は、メンテナンスのために直ぐに企業に帰る。

 大きな傷のみ応急処置を施され、僕は会場を後にした。

 車に乗るために、わざわざ裏口から駐車場まで歩く。

 機械闘士を一目見ようと、出待ちをしている観客のためだ。


 伽藍ほどではないが、螺鈿にもファンの人間は存在する。

 僕は、手を振る人間に儀礼的にお辞儀のような何かをし、差し出された紙にサインをした。このようなことは、機械にさせる仕事ではないと思う。

 伽藍はこんな時いつも、笑顔で雑談をしてやったり写真を撮ったりしてやるらしい。

 あれほど人間嫌いなのに、流石はランキング1位の機械闘士である。

 伽藍のそういう面を尊敬はしているが、まったく気が知れないと思う。何度やっても、こんなことには僕は慣れない。


 人間たちの相手を終えて、ようやく車の近くに来たところだった。

 係員の静止を振り切って、カメラやマイクを携えた人間が何人か集まって来た。

 鼻息荒く、ファンを押しのけて前に出てくる。

「すみません! 一言お願いします!」

「離れてください! 螺鈿はメディアのインタビューを受け付けておりませんので!」

 係員が慌てて集まって来る。

 抑えようとする係員の腕の隙間を潜り抜けるようにして、人間たちは次々と、マイクを高々と掲げながら僕に突き付けてきた。

 尖っても光ってもいないそれは、眼前に現れるだけで、本物の剣以上に僕を緊張させる。

「試合を模倣した犯罪が相次いでいることについて、どう思われますか?」

「機械闘士の責任について、どうお考えですか?」

「機械闘士は罪悪感を微塵も持たないんですか? 被害者や犯人に一言お願いします!」

 僕は足を止めた。

 一緒にいた技師や社員が、不安そうに僕を見て、車に乗るようにと促した。

 カメラの黒いレンズと、人間の黒い瞳。

 無数の黒い点々が僕をじっと見ている。思わず身じろぎをした。彼らの武器は僕の剣と同じか、それ以上の威力を発揮すると僕は知っている。

 しかし僕は、突き付けられた剣の前に立った。

 僕は、僕に用意された試合には必ず出る。

 例え最初から勝てないと分かっているような強い相手でも、何度敗けた後でも、必ず。それが機械闘士だった。

 だから、僕はここに立つ。

 ふと、人間にこうして話をすること、質問に答えること、これも試合と変わりないのかもしれないと思ったからだった。

 僕にとってはこれも闘いだ。上手く話せない自分との。機械の答えなんかを求めてやまない人間との。


「人間が暴力性を持つ限り、僕の試合がその本性を刺激することは避けられない。僕は、この事実に目を背けることはできない。しかし同時に、僕は闘うことをやめられない。闘うことが僕の唯一で、絶対の存在価値だから。闘うことでしか、僕は僕でいられない」

「では、いくら事件が起きても、戦い続けると?」

「僕には、闘うことしかできない」

 言葉にしたら、ああそうだ、と実感した。ようやく、はっきりと分かった。

 僕は機械闘士だ。闘うことしかできない。そういうふうに作られた。

 最初から知っていたことなのに、結論を出すまでに随分時間が掛かってしまった。

 自分が発した音声を聞いて、はっきりと理解した。

 人間は鏡を見て初めて、自分の姿を理解する。おそらく、僕も今自分の言葉を聞いたことで、似たような体験をしていた。

「貴方たちは、僕に、犯人に一言、と言ったが」

 人間たちはますます前のめりになり、僕の身体に接触しそうなほどマイクをぐんと近づけた。

「闘いたいなら、僕と闘うべきだ」

「それが犯人への一言ですか? どういう意味ですか?」

 僕は、自分の思考が導き出した結論を言葉にしたいと思った。でも、とても難しい。

 はっきりと分かったこの感覚を、言語化することなど本当にできるのだろうか。

「本当に勝ちたいと、強くなりたいと思うならば、闘うために作られたものと闘う必要がある。しかし、多くの機械や人間は違う。闘いではなく、別の目的のために作られたものだ。だから簡単に壊れる。人間は壊れたらすぐには直らない。闘えないものを一方的に嬲るのは闘いではない」

 それでも、これが僕の責任だと思った。

 意図せずとも人間の本性を暴き出し、それでも闘うことを止められない僕たち機械闘士の。

「僕は死なない。何度でも闘える。闘いで壊れることを、僕は恐れない」

 僕には闘うことしかできない。

 つまり、闘うことができる。

「だから、僕が闘おう。闘いたいものは、僕のところに来れば良い。僕は、闘いたいと言われたならば、必ず闘う。だから、他のものを傷つけるべきではない。それは、僕が引き受けるべき傷だから」

 正しき強さを求めて欲しい。試合は単なる暴力ではなくて、毎日考えても飽きないほどただただ素晴らしいものなのだと知って欲しい。

 そんな願いが人間に届くかは分からない。

 多分届かないだろう。だが、それでもいい。

 僕は僕で出来ることをやるだけだ。

「僕は、僕のせいで傷つき苦しむ人間が存在するということを抱えたまま、闘っていきたいと思う」

 それが僕に出来る最善と信じた。


 思考の全てを言葉にできたとは思えないが、まあこんなところだろうと思う。

 人間はまだ何か喚いているようだったが、僕にはもう話すことは無かった。踵を返して車に乗る。

 僕が乗ってすぐに、車はゆっくりと動き出した。

 窓はスモークがかかっていてよく見えないが、外はきっとまだ騒がしいのだろう。

 座席の下から、僅かな振動が伝わってくる。

 機械が動くときに特有の振動は、どこか居心地がよく感じる。僕の胸にも手をやると、同じものを感じるからかもしれない。

 ようやく、試合が終わったのだなと思う。

 良い試合だった。

 僕は勝った。

 相手も強かった。

 フェンシング型の機械闘士と闘う時が、いつかまたあるだろうか。

 またあってもいい。無ければ、他の相手と闘えるからそれはそれで良いに違いない。

 次はどんな試合になるだろう。

 もっと試合がしたい。もっと闘って、もっと勝ちたい。


 闘うことへの思考は、いつだって僕の中で際限なく膨らみ続けていく。

 視覚刺激を遮断すると、思考はより明瞭に、ゆったりと動かすことができる。

 僕は振動に体を任せ、目を閉じた。


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