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カイル・スタシャーナ

ガラガラと遺跡が崩れ始めている。

すでに原型を留めていない男はゆっくりと立ち上がった。

カイルはステラを支えながらふと遺跡の壁が僅かに光っている事に気がついた。


「ルドラ?」


カイルの呟きにステラが顔をあげる。

その間にも男の身体はボコリボコリと音を立て身体を大きくしている。


[この場所はもう駄目だな。封印が解かれてしまう]


ルドラの声を聞いてロゼは敵に目を離さないまま、疑問を口にした。


「封印されているのは貴方自身では無いの?」


[そうだ。私の大き過ぎる力を抑えるための封印だ。お前の身体に有るそれと同じように]


ロゼの身体の中にあるとはどういう事だろうか。

ステラは訳が分からなかった。


[このままでは私の力が抑えられなくなる。代わりの依り代に移らなければ]


「では、私の身体を、お使い下さい」


いまだ肥大化している男がルドラに進言する。

ロゼは詠唱しながら前に一歩進み出る。


「やめておきなさい。貴方の身体はもう保たない」


「私は神の使いです!私こそ貴方の依り代に相応しいはず!神に砕かれし大地の竜よ!!」


男は腕を大きく掲げた。皆が息を飲んでルドラの返答を待っている。


[・・・・カイル。この者はお前と同じ血族。スタシャーナの血を僅かだが継いでおる]


皆カイルを一斉に見た。カイルは眉を顰める。


[ステラを狙っておるのもお前の血族の者達だろうな。愚かなものだ不老不死を求めるとは。この者達のお陰でここはこんなにも穢れてしまった。どう責任をとるつもりか?]


「俺に責任を取れと?」


[お前の母親、クリスティナはスタシャーナ家の血を最も強く引き継ぐ聖女であったはず。それがお前にも引き継がれている。お前は正当なスタシャーナ家の力を継いでいる]


「嘘だ!そんなはずは無い!!そいつは裏切り者だ!」


この展開にステラは若干混乱した。

一体どうなっているのだろう?


「あんたの望みは何だ?また封印し直せばいいのか?」


[お前がその身に私を封印するのだ。そして然りべき時が来た時お前が私の力を使うのだ」


「何を言っているの?流石にカイルでは無理よ。負担が大きすぎる」


ロゼはルドラの言葉を拒否した。カイルは男の姿を見てステラに視線を移す。


「俺にしか出来ないって事だろう?この遺跡の文字と関係あるのか?」


「文字?」


皆が辺りを見渡し首を傾げている。やはり、とカイルは思った。


「俺にしか読めないんだな?この遺跡の文字もオルゴールに綴られている物も」


カイルはステラの足下にあったオルゴールを拾いあげた。

オルゴールは箱全体に文字が刻みこまれている。しかしきっとこれも他の者には見えていないであろう。


[そうだ。それを作ったのはお前の遠い祖先。そして壊す事が出来るのもお前達だけだ]


皆が驚愕の眼差しでカイルを見た。カイルは苦笑いした。


「まぁ、何となく予想はしていたが。で?俺はどうすればいい?」


[お前があの家に教わった通りにすれば良い。あと、そうだな。そのオルゴールも共に私と封印して取り込むのだ]


カイルはオルゴールの文字を読んだ。そしてその文字を口にした。

ステラ達にはカイルが何を言っているのか分からなかった。人が使う言葉では無い。


「カイル!!」


ステラは慌ててカイルに駆け寄ろうとしてエルディに止められる。カイルはそれを見て笑ってしまった。

少しだけざまあみろと思ってしまった。


「俺がスタシャーナの家の人間だってもう分かってるよな?」


カイルの周りで渦巻く発光体の帯がカイルの身体を隠してしまい姿が見えない。ステラはカイルの言葉に耳をしっかり傾けた。


「お前と俺はどうやら元々出会うように出来ていたらしい。全く。それならそうと最初から知っていればこんなややこしくならなかったのに・・・」


カイルは発光体の中で平然と喋っている。ステラは益々訳が分からない。


「カイル、どういう事?あなたは何?」


「だから、最初からお前を守るのが俺の役目だったんだよ。そして俺はその教育を受けている」


カイルが最後の文字を読み上げると持っていたオルゴールが粉々に砕けた。皆が慌てて耳を塞ぐ。

しかしそれは下に落ちる前にグニャリと曲がりカイルの身体に吸い込まれていく。するとカイルの身体に何やら文字が浮かび上がってきた。


[カイル。私を受け入れよ]


彼は自分の頭上に人差し指で何やら描き始めた。指先からは輝く魔法陣が作り出されている。皆がその様子を驚いて見ている。


「カイル・スタシャーナの名において貴方を受け入れる!名を名乗り我が身に舞い降りよ」


[我が名はルドラ・チェリコ砕かれし竜なり]


ルドラが告げると部屋中の壁から文字が浮き出しグルグルと周り始めた。そうなって初めてそれが文字だと認識出来た三人はその文字がそのままカイルの魔方陣に向かって行くのを目で追った。


「お前が正当な後継者など認めない!!ステラは私のものだ!!!」


最早怪物の様な出で立ちの男はカイルに突っ込んでくる。


「後継者なんてくれてやるがステラだけは渡さない」


カイルはその手をかざすと魔方陣に吸い込まれたルドラに呼びかけた。


「死者は浄化される。お前も等しく」


男の腕がカイルに触れた瞬間カイルから男の身体に文字の帯が移動した。途端に男がガタガタと痙攣し出した。


「お前の魂はここに居るべきではない。あるべき場所へ行け。」


サラサラと男の体が崩れて消えていく。カイルはその男が崩れ去るのを最後まで見届けてから魔方陣を解いた。

その途端グラリと身体が傾く。


慌てて三人がカイルに駆け寄り地面に倒れる前に彼の身体を抱きとめた。


「さっさとここを出るぞ。ここはもうすぐ崩れ落ちる」


どこからか聞いた事がない声がして三人は何処から声がするのか辺りを見渡した。


「ここじゃここ。すぐ下におる」


皆が下に視線を落とすとカイルの足下に白いウサギの様なイタチの様な生き物が座っている。


「全く。こんな小いこい身体を作りおって。こやつの頭の中は意外と子供っぽいの?」


(((え?)))


「まさか・・・・・ルドラ様?」


「いかにも、さぁ話は後じゃ。ここを出なければな」


ルドラはそう言ってさっとステラの首元まで登ると巻きついた。


「それ!急げ急げ!」


三人は訳もわからずルドラに急かされ意識のないカイルを担いで遺跡を脱出した。



****





「これはスタシャーナの血を引く者が代々受け継いできた魔術文字です。スタシャーナ家でも読める者操れる者は早々おりません」


カイルが幼い頃付いていた家庭教師はスタシャーナ家の血がとても強い優秀な人物だった。

彼女の名はジュリ。元々カイルの母親の家で母の教育係として仕えていた者だと聞いていた。歳はおそらく60歳くらいだろう。


「そしてこの力を使える者は大変貴重です。スタシャーナはこの力を持っている者を欲しています。ですから貴方は決してそれを知られてはいけません」


カイルはジュリの言う事に疑問を抱いた。カイルはスタシャーナ家の人間である。ならば何故スタシャーナ家の者に知られてはいけないのだろう。


「これが知れたら貴方はこの家の者たちに道具として扱われるでしょう。今よりももっと酷く。貴方の父上もそれを望んでおりません。ですから誰にも言わないように」


ジュリの真剣な眼差しにカイルは子供ながらに素直に頷いた。しかしすっきりしないカイルはジュリに尋ねた。


「だったら何のために使うの?」


その言葉にジュリはその顔に憂いを浮かべた。そして優しく微笑み小声で教えてくれた。


「貴方の父上には貴方には話さないよう言われているのですが秘密に出来ますか?」


カイルは頷くと彼女は微笑んで教えてくれた。


「この家には守らねばならない方がいます。本来であればこの家で保護し然るべき時お側で御守りする方です。しかしこの家の者達の過ちのせいでその方は今何処かに行ってしまいました。貴方はその方を御守りする為の力を持っています」


自分は見も知らぬ者を守らねばならぬのか。それは非常に面倒だ。


「もし、貴方が本当にその役目を与えられて産まれて来たのであれば、その時貴方はすぐにわかる筈です。貴方が何もしなくとも運命が貴方を導きますから」


「ふーん。よく分からないけど。それで俺は何をするの?」


具体的に何をするのか分からなければどうしようもない。カイルは手っ取り早く答えを聞いた。ジュリはさらに声量を落としてカイルの肩に手を掛けた。


「貴方の役目は世界の記憶をその身体に取り込みその方の苦痛を取り除く事。それは数千年前の折に我が一族が成し得なかった事でもあります。やり方は分かりますね?」


ジュリはカイルがまだ喋れない子供の頃から側にいた。そしてすぐにその力に気付き力の使い方を教えてきた。


「分かるけど・・・・俺やだよ?そんな見ず知らずの奴助けるなんて」


思わず出た本音にジュリは怒る事なく笑った。


「ええ。したくないのであればよいのです。どの道その力を使う為には貴方とその方の心が通わなければなりませんから」


その話はこの一度だけ。

それ以降カイルには話されなかった。

カイルはそのまま成長しその頃にはジュリは仕事を退職して何処かの田舎に引っ込んでしまった。それ以来会っていない。だからカイル自身今まで思い出さなかった。

しかしあのオルゴールや遺跡の文字が自分にしか読めないと気付きやっと思い出した。

自分の本当の役目を。


(心を通わさねば、か)


カイルは笑った。

やはり運命は自分を見逃してはくれなかったらしい。

だが同時に感謝した。自分にこの役目を与えてくれた神に。カイルはステラに抱きしめられながらしばし幸福な夢に落ちるのだった。

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