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真実の行方③

「ステラがいなくなったぁ?」


リュナは呆れた声を出した。

朝方やって来たカイルに叩き起こされたのだ。


「ここにも来てないか。まさか一人でスノーウィンに向かったのか?」


「ちょっちょっと落ち着いて!何で急に?昨日まで普通だったじゃない」


確かに急すぎる。

今までだってステラの様子がおかしい事はあったがそこには全て理由があった。


「何を騒いどるんだ?朝っぱらから」


ノゼスタは起きていたのか既に支度した状態で部屋から出てきた。リュナの声で気がついたらしい。


「ステラが居なくなった。荷物も無くなっている。何か聞いてないか?」


ふむ。と、ノゼスタはしばし考えた。


「まぁ可能性があるとすればステラが昨日訪ねた"カスタモニカ"ぐらいしか思い当たらんが・・・・」


「そうか。行ってみる」


「ステラと何があった?何故そんなに慌てている?」


ノゼスタはカイルの焦りを見逃さなかった。リュナも心配そうに視線を向けてくる。


「あいつ。一人で行く気なのかもしれない。扉を開きに」


二人は目を合わせリュナは急いで部屋に戻っていく。

ノゼスタは溜息をついてカイルの肩を叩いた。


「わしらも一緒に行く。カスタモニカの場所なら知っておる」


ハァーーと溜息をついたノゼスタは困った顔をした。




「やあ。久しぶりですねノゼスタ。うちで働く気になってくれたのですか?」


カスタモニカに到着した三人は早々にリュカに絡まれた。正確にはノゼスタが。


「い、いや。今日は別件だ。ここでは働かんぞ」


ノゼスタが物凄く嫌そうな顔をしている。

あ。苦手なんだなとリュナとカイルは思った。


「つれませんねぇ。私はこんなにも貴方を欲しているのに」


「やめんか!それ以上近づくな!」


ん?何だこのやり取り。若干場が変な空気になった。

リュカは嫌がるノゼスタに構わず美しい顔でにこにこと微笑んでいる。実に楽しそうである。


「ノゼスタ。その対応は逆効果だ。余計リュカ様を楽しませるだけだ」


そこにリュカの補佐をしているらしいゼイルと名乗る人物が奥から戻って来た。ノゼスタはさり気なくゼイルの方へ逃げる。


「あの人は人が嫌がる姿を見るのが大、大、大好きなんだ。新生のサディストだ。いちいち反応するな」


そこそこ付き合いが長いらしいゼイルは既に悟りを開いている。


「そうは言ってもなぁ。どうも苦手なんだ。ただの冗談とも思えんのでな」


「さて、冗談はさておき。貴方達がここに来た理由なら何となく察しておりますよ」


その言葉にゼイルとノゼスタは目が死んだ。

それには構わずリュカは封筒をゼイルから受け取った。


「レイヴァンがステラとバッツに宛てた手紙です。あなた方がここに来たら読んでほしいと」


三人は目を合わせる。

リュカはさっさと手紙を取り出すと紙を広げた。


「私が読みましょう。

あちらの国の文字は特殊な文字もありますので、ステラに許可は頂いております」


三人は訳も分からないまま、ただその手紙を読む事になった。



****


「バッツ。ステラ。お前達がこの手紙を読んでいるという事は私はもうこの世にいないという事だ。


お前達は何故自分達がいきなり追い出されたのか訳が分からないだろう。

すまない。本当はもっと早くにお前達に伝えなければならなかった。


お前達は普通の人間では持ち得ない力を持っている。


それは数千年に一度人間族から産まれる"神の御子"と呼ばれる者達の力だ。

私の一族リーズ教はその中でも重要な存在"聖なる鍵"を管理する一族だ。


そしてそれは、ステラ。君の事だ。


他の四人の神の御子にもそれぞれの役割がある。

しかし、その最初の役割を果たすのがステラの使命だ。


そしてバッツ。

お前はそのステラを他の御子達と共に無事に扉まで届かなければならない。

しかし私のせいでお前は本来の能力を失ってしまったのだと思う。


この地はやがて腐敗していく。

それを食い止める為の最も大事なお前の"心"があのオルゴールのせいで壊れてしまったからだ。


私は最初お前が神の御子だと気がつかなかった。

お前は幼い頃から魔力を抑えるのが上手く普通の人間として上手く紛れ込んでいた。

恐らく自分の使命を分かっていたのだろう。

あの時。真っ先にステラの耳を塞いで守ってくれたのはお前なのだから」





カイルは堪らない気持ちになった。

バッツは子供なりにずっとステラを守っていたのだ。

カイルが思い出せるバッツの顔は、幼い子供が訳も分からず呆然と親を見つめる、助けを求めるそれだった。

自分の父のせいで、この世界の大事な存在を壊したのだ。




「私はあの家の忠実な僕だった。

リーズ教の熱心な教徒であり導く者でもあった。神が言う事であれば全て正しいと思い込んでいた。それ故に愚かだった。


ある日私は神の御告げを受けた。


私の娘が神の御子をその身に宿し産み落とすと。私には妻はいない。

親を亡くし引き取り手が見つからなかった親戚の子を娘として育ててきた。


その子はクリスティナといって、その頃には既に結婚しお腹に子供が宿っていた。

私は彼女を説得し悲しむ彼女の了承を貰い神の御告げを受け入れた。


他の御子と違い、聖なる鍵は産まれる場所を選ぶ事が出来る。その重要性故なのか産む事を拒否出来るのだ。

真にこの世界の平和を望み愛する者がその御子を産んで欲しいと神々が望んだのかも知れない。


そう思っていた私の考えが全ての悲劇の始まりだった。


彼女は宿していた子供を産んだ。

皆生まれてくる子供は女の子だと疑わなかった。

未だかつて聖なる鍵が男だった事はない。

だか産まれて来たのは男の子だった。

私は余りに驚き聞いてしまったのだ。

"神の望みを拒絶したのか?"と」


皆がカイルを見る。

この時産まれたのがきっとカイルだ。

ではステラは誰が産んだのだ?


「しかしその数日後クリスティナの腹は何の前触れも無く膨らんだ。そう、神の御告げ通り。

神は彼女の願いを受け入れた。彼女は自分の宿した子供を失いたくなかった。だが私の願いも叶えたかった。それに、神は応えた」


身体の底からゾッとした。

この話の終着点はどこに向かって行くのだろう。


「彼女は一日で身籠りその日にステラ、お前を産んだ。

お前は誰の子でもない真に神から与えられた神の化身だ。

その証拠にお前の姿は歴代のスタシャーナ家では現れない姿をしている」


ステラは青い髪に紅い瞳の色をしている。

スタシャーナ家は皆髪も目も黒い。

カイルもそうだ。だからこそカイルは彼女が自分の兄妹かも知れないという疑惑が生まれなかった。


「しかし、私達は喜んだ。私達はこの世界を守る為に存在している。その使命を果たせると私はクリスティナに御礼を言った。だがその時彼女は私に言った。褒美に自分を愛してくれ、と」


カイルは愕然とその言葉を聞いた。

それは、恐らく、間違い無くそう云う意味だ。


「その日から彼女はだんだんおかしくなっていった。

私を見ると泣きながら懇願した。

少しでもいい、私を見てくれと。

私は自分が犯した間違いにこの時、気がついた。

彼女は今まで私の言う通り生きてきた。

慎ましやかで大人しく人に優しく思いやりのある誰にでも分け隔てない理想の聖女。それを私はあの日汚した」


そう、クリスティナはレイヴァンを愛していた。

きっとずっと前から。だがそれにレイヴァンは全く気がつかなかった。きっと彼女も分かっていたはずだ。この想いは実ることはないと。

だからカイルの父と結婚し子を成した。


しかしそんな時レイヴァンに聖女を産んでほしいと言われたのだ。


「彼女は遂に耐えられなくなりあのオルゴールを開けてしまった。ステラ。君を使って。

そして彼女はそのまま窓から飛び降りた。


彼女を追い詰め殺したのは私だ。

彼女の夫は隠していたが私やステラを深く憎んだ。

私は教会の者と話し合ってステラを別の場所で育てる事にした。お前の命を守る為に。

それがあの教会が出来た経緯だ。


しかしその後本当はスタシャーナ家そのものが腐敗していたのだと思い知らされた。


皆お前を手放したがらなかった。

お前はこの世界全ての鍵を開けられる唯一の存在。

殆どの者がこの世界の行く末など実はどうでもよかった。

お前がいれば全て手に入る。そう思ったのだ」


レイヴァンはカイルの父からスタシャーナ家からリーズ教徒からステラを守る為にあの森に隠れ住んだ。

しかしステラの御守り袋にあのオルゴールが入れられた事にレイヴァンは気付けなかった。


「いつか、こんな日が来ると思っていた。いつかは見つかると。だが私は17年もの間お前達を隠すことが出来た。こんな罪深い私が17年も。それは何故か分かるか?」


きっと最期の文になるであろう言葉を誰もが待っていた。

リュカは一息ついて手紙を読み上げた。


「私の最も許されない罪。

それはバッツ。ステラ。お前達を本当に愛したことだ。


私はお前達を他の誰にも、神にさえ渡してやるのが惜しくなった。


だってそうだろう?どこの世界に自分の子供を喜んで生贄にする親がいるというのか。


私はこの事にもっと早くに気付くべきだった。

だが私は許されはしない。それで構わない。


だからお前達は私の為ではなくいい加減自分の為に生きる事を覚えなさい。

そして出来ればお前達の選んだ先が幸せな人生になることを願っている。

私はいつでも見守っている。姿は見えなくても。

お前達のすぐ近くでお前達の心の中で生き続けている。



バッツ。ステラ。愛しているよ。心から」

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