表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目覚めたら狼獣人になってました。  作者: 禾野ノギ
初めての護衛依頼編
38/97

36話 ペイルの秘密

さよなら、平成

 馬車に揺られ、少しだけ舗装された、しかし凹凸の多く不安定な道を進む。


 比較的国の中心部に近いオースティン領までは、ざっと一日はかかるらしい。めっちゃ長ェ……。っていってもイベルタよか近いんだけどさ。


 そして、肝心の馬車の中はというと……。


「…………」

「…………」

「…………」


 ……俺とペイルで完全に睨み合い。こりゃ長くなりそうだなぁ……。てか俺が話しかけりゃよくね?


 って違うんだよ。ペイルが如何にも話しかけたい的なムード醸し出してるから、俺が一歩引いて聞き手側に回ってあげた訳。なのに相手さん一向に口を開こうとしないんだから困ったもんだ……。やれやれ、ここはおじさんが一肌脱ぐしかないね。


「なぁ、話したいことがあるならさっさと言えよ。このまま一日無言とか、流石に耐えらんねぇんだけど?」


 ペイルを睨みつけながら、俺はそう言い放った。これで口を開いてくれたらいいんだけど……。


「……さーせん。少し話しかけづらくて」


 漸く口を開く気になってくれたようだ。いやぁ良かった良かった。


「単刀直入に聞きますね。ハジメさん、日本人でしょ?」

「っ!? 何でそれを……。てか単刀直入すぎるでしょ。これで秘匿事項だったらどーすんのさ」

「あっ……」

「あっじゃねーよ」


 俺に指摘され、豆鉄砲でも食らったような顔で驚くペイル。


 でも何でわかったんだろう? それも異世界とした漠然とした場所ではなく“日本”って言ったよなコイツ……。


「でも、そのリアクションは合ってるってことでしょ?」

「まあ、そうだけどさ……何故分かったんだ?」

「……名前から?」

「……はぁ? ハジメなんて、探せばいるかもしれないだろ?」

「俺も日本人だからわかるんですよ。名乗る時のイントネーションとか! 貴方の発音は、完全にネイティブな日本人のものだ」

「……はぁぁぁぁ? えっ? 日本人!?」

「はい」

「ゲホッゲホッオエェェェェェ!」

「ハジメさんが吐いた!」


 突然のカミングアウトについつい大声を出してしまった。中身までぶちまけそうになったってか、もう軽く出ちゃったんだけどさ。これで馬が驚いてバランス崩したのならごめんね。それはなかったっぽいけどさ。


「えっと……イマイチ状況がよくわからないんですけど」


 俺がひとまず落ち着いてから、ロレッタはそう訴えてきた。


 俺とペイルで盛り上がっていたら、完全にロレッタを置いてきぼりにしてしまっていたようだ。なので元日本人二人で噛み砕いて簡単に説明をしたところ、何となくだが理解できたらしい。


「つまり、ハジメさんもペイルさんも、元々はその“ニホン”という場所に住んでいた、と……」

「まあ、そんな感じか?」

「そうっすね」


 点と点が繋がりピコーん! となってるロレッタ。普段は抜けてるけど理解力と包容力が高くてこういう時めっちゃ助かるわぁ……。



 ◆◇◆



 ――ペイル・フォン・オースティン。オースティン子爵家の三男で、オースティン四きょうだいの末っ子。武術を学んでおり、新鋭の冒険者でもある。しかして、その正体は日本人、大崎 咲真(おおさき さくま)である。


 都心部から少し離れた国立大に通うしがない一般大学生だったが、偶然起こったがけ崩れで車ごと谷底へ落下し、友人たちと共に死亡し、“あちら側”の世界を旅立った。


 その後はよくある展開だ。よく分からん部屋で目覚め、よく分からん男に「お前異世界で生き返れるけどどうする?」と聞かれ、承諾して、生まれ変わったら貴族家の子息で、そして、今に至る――


「って感じか?」

「まぁ……大体?」


 俺が持参した自家製ポテチもどきを頬張りながら、ペイルの話を何となくふんわりとまとめてみた。


 ちなみに、ただ話を聞いただけだと実感は持てなかった。だってそうだろう? 突然「ワタシ、アナタ、ウマレタバショオナジネ!」みたいなことを知らん人に片言の日本語で言われても「は?」ってなるでしょ普通。


 ただ、今は確信に変わっている。それは、改めてまとめたからでも、ましてペイル本人の証言に信憑性が合ったからでもない。


 ……俺のこの身体、獣の血が濃いせいなのかは分からないが、あまり刺激の強いものや塩分の強いものは口に合わない。そのため、ポテチの味はあえて薄味にしてある。


 確信の理由は、そのポテチもどきを口に放り込み一言「このポテチ、味薄くね?」と言ったからだ。


 本来のポテチの味を知る現代日本人は、これを食して絶対に違和感を覚えるだろう。見た目や匂いはほぼ同じなのに、味だけめっちゃ薄いんだからさ。


 てな訳で、俺はペイルを信じて話を進めてるってワケ。


「ちなみにその話、あの兄妹は知ってるのか?」

「いや、秘密にしてあります」

「俺とは違うな。俺はすぐにバレたぜ? なぁロレッタ」

「まあ、あの時は皆の勘が冴え渡ってただけっていうか……」

「てか、そんなドヤ顔しながら自嘲するのやめてくださいよ。ただでさえ味の薄いポテチがさらに薄くなるでしょ――」


 そんな具合に、会話は進み、それに伴い馬車もガタゴトと畦道に揺られながら進んでいる。


 このまま何も起こらないといいな、というのは、やっぱりフラグだろうか。



 ………



 俺、ペイル――サクマは、自分の境遇を真に理解できる友人には恵まれなかった。それもそうだろう。だって、“異世界人”なのだから。


 異世界人は尊敬の対象でもあるが、反対に差別の対象でもある。人間とは、自らと違うものを見下し、己のサディズムを満たさねば生きてはいけない生き物だから。


 俺本来(サクマ)の意識が覚醒した後、俺が友人と呼べる人物は、一気に減った。突然キャラが変わったペイルを見て恐怖を感じたから、というのが彼らの真相だ。


 こうして一人ぼっちになった(サクマ)は、元より心得があった武術を学び始めた。経験は、人と違って裏切らないから。


 そんな中出会ったのが、ハジメさんだ。


 彼は異世界人の中でも結構珍しいケースらしい。少なくとも、俺の想像の及ぶ範囲ではない。聞いてもさっぱり分からなかった。


 この世界と、あちらの世界。十七年の差は、イマジネーションの差を生む。


 だから、ハジメはすんなりと理解できた事柄も、サクマはイマイチピンとこない。


 それが無性に悔しくて、そして……喜びへと変わった。己の“真の理解者”が現れたのだと。自分一人じゃないんだと。


 彼のいるディアスでは、もう彼が異世界人だということはバレているらしい。そこなら、自分も受け入れられるだろうか。貴族でも、何でも。


 ロレッタさんを見ている限り、自由な冒険者達は、きっと俺でも受け入れてもらえるんだろう、きっと。


 このまま何もないといいな、幸せな時間が永遠に続けばいいのに、というのは、やはり彼の言うフラグというものだろうか。

変更箇所!

ペイルの本名は、元々書いていた方では「大塚司」となっていましたが、「あれ?これめちゃくちゃ発音しにくいじゃん?」と思い、いっそのことガラッと変えちゃいました!まあ、いいよね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ