37話 包囲網を潰せ!
令和ですね!
「ッ!」
「どうしました?」
「来るぞ! 接近反応十五! その先にも二十程度! 取り囲まれてる!」
「ッ!? 伝令を……」
ピー! ピー! ピー! ピー!
ペイル……いや、サクマ君? まあいいや。ペイルが取り出した伝令用の笛の合図で、馬車が全台停車した。笛四回で敵襲の合図だ。
上手く気配を隠しているが、俺の耳と鼻は誤魔化せない。この匂いは……盗賊か? ゴブリンか? とにかく鼻に付く嫌な臭いには変わりない。
「何があった! ペイル!」
「兄貴! 囲まれているらしい」
「何ッ!? 仕方ないか……。全員、戦闘態勢を取れ! 応戦する!」
その号令を受けるまでもなく、俺達も、『狼の緋爪』のメンバー達も、ガチガチに装備を固めていた。依頼主の怪我で、自分達の稼ぎが減るかもしれないからね!
全員がヤル気全開本能解放になっている中、数名の反対意見が上がった。御者達だ。
「相手は盗賊かもしれんのでしょう? 無理に戦わんでも、積荷だけ置いて逃げりゃええでさぁ!」
「そうだ! 無理に危険を冒さずとも、助かる道はある!」
彼らの意見も一理ある。盗賊達も戦力を浪費したくはないし、ゴブリンだって金銀財宝の類が何かあれば基本は満足して帰るのだ。
だが、そんな逃げ腰な意見が通るはずもない。
「バカ共が! 女性もいるんだぞ! ゴブリンだろうが盗賊だろうが、戦わなければ失うことになるんだぞ!」
「だから! 女子供に護衛をさせるのは嫌だったんでさぁ!」
オイオイおっさん……嫌だからってその言い方はないだろう。それも本人達を目の前にしてさ。
「なんなのその言い草は! ひどーい!」
「女性差別とは……いい度胸してるじゃない。私達は今までこんな人達に運ばれてたのね……」
「取り敢えずアルもアンネリーゼも落ち着こうか。一先ず戦うことが優先だ。だろ?」
「ああ! 全員、行くぞ! 先制攻撃だ!」
俺の掛け声で、皆各々の武器を構える。
様子が変わったことに気づき駆け出して突っ込んでくる者もいるな。それにつられて、潜伏していた奴らも戦闘準備に入ったようだ。
「どれだけ死に急いでいるんだか……獣身化!」
普通の人間では、俺のスピードには敵わない。戦場となり得る麦畑を駆け巡り、一撃を食らわせ、逃げる。一撃離脱戦法で遠くの敵の動きを撹乱させて、近場の敵を皆に対処してもらう。
「クギャァァァ!」
「やっぱゴブリンだったか! どっちでも変わらんけど! ソニックブレード!」
切っ先が作り出した旋風が、手近にいたゴブリンの身体を引き裂いた。綺麗に真っ二つ。こりゃ死んだな。
さてと、馬車の方はどうだ……?
「はぁぁぁぁ!」
「グゥゥゥ……ッ!」
「ファイア・ランス!」
「アギャアアアアアアアア!」
「いっくよー! えいっ!」
「ギャッ……!」
「私だって! ハジメさんの役に、立ちたいんだッ!」
「グガ……ア……」
「……遅い」
「「「アグウウウ……ッ!」」」
ありゃー、派手にやってますねぇ……。血飛沫が舞ってるのは少し離れたここからでもバッチリと視認できる。
しかし、流石Bランクパーティだな。連携が上手いし、俺なんかより余程効率よく処理してる。ベテランのなせる技ってヤツ?
ロレッタもベテランに紛れてバサバサとゴブリンを斬り伏せている。役に立つ云々以前に俺より強いからね君。
さてと? お貴族様方は……。
「俺達も行くぞ! ペイル!」
「ああ、俺達には守るべきものがある!」
「「シロナには指一本触れさせねぇ! こいやゴブリン共!」」
うわぁそっくり。タイミングもバッチリだったね。なんだよ、揃いも揃ってシスコンかよ。……大丈夫か新興貴族家。
ただ、そのコンビネーションはシャルル達ベテランハンターを凌ぐレベルで息がピッタリだった。流石は兄弟だ。
「でりゃぁぁぁあッ!」
「ギィィ……ッ!」
さて、俺も頑張りますか。
………
「これで最後!」
「アガ……」
「あっちは……大丈夫そうだな」
後方に潜伏していたゴブリンの処理を終えた頃、馬車団の方も落ち着いたらしい。
「ハジメさん! お疲れ様です!」
「おう、おつかれ。怪我はないか?」
「平気です!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて見せ、己の無事をアピールするロレッタ。見たところかすり傷一つついてねぇや。
他の皆も大丈夫そうだな。ピンピンしてやがるぜ。せいぜい、御者の一人がゴブリンアーチャーの流れ弾がちょっと深めに掠ったくらいだろうか? でもおっさん後ろの方にいたはずだよね? ちょっと運悪すぎない……?
「おいおっさん! ほれ、ヒール」
「あ、ありがてぇ……」
多少の擦り傷ならば、傷の程度がどうであれ俺のヒールでどうとでもなる。ちょっと無理矢理だが、これで怪我人はゼロだ。
「ハジメ!」
「シャルル! 凄かったぜお前の剣撃」
「いやいや、ハジメがいたからこそだよ。君が撹乱してくれなかったら、きっと全滅してただろうさ」
「……麦畑がか?」
「多分ね」
爽やかな笑顔で凄いことに言ってくれるな。ゴブリンの群れの討伐で一面を焼け野原にするとか、効率重視なんてレベルじゃねーぞ。
だが、多分その程度はシャルルなら一瞬でできそうだな。彼が持っている魔剣とやらの能力とかでさ。恐ろしや……。
「それはその剣の能力で、か?」
「クリム様!?」
「悪い、いきなり声をかけてしまって」
「クリム様……」
俺達の側へやってきて、俺の思惑を読み取ったかのような質問を投げかけた、隠れシスコンイケメンのクリム。音もなく近寄ってくるのは正直顔とか関係なく普通にめちゃくちゃ気持ち悪いから金輪際しないでもらいたいですね。
「この度は助かった。感謝する」
「いえいえ、俺達は護衛の仕事を全うしたまでですよ」
お互い爽やかな笑みを浮かべ礼を言ったり謙遜したり。何これイケメンスマイルのキャッチボール!? コイツは凄いものを見たな……。写真でも撮れば一部のマニアに受けた可能性大だな。やらんけど。
まあいいや。一先ず解決したし、後は角なんかの使えそうな部位を剥いで先に進もう。
とりあえず近場の一匹に手を伸ばし……その場で飛び退いた。それを見て、皆一様に驚いている。それは俺も同じだ。驚いた意味は違うけどさ。
俺の目の前にあった死体、確かに首を切ったはずなのだ。力なく倒れ込んだのも確認している。のに……。
「ウヴァァ……」
「なんで……」
「動き出した……ゾンビ化したか?」
傷口から溢れ出す大量の血液を物ともせず、ゆっくりと立ち上がる一匹のゴブリン。それにつられるように、他の個体も同じように呻き声を上げながら立ち上がる。
その様は不気味に他ならず、御者達は地べたに尻餅をついてわなわなと怯えていた。気持ちは超わかる。
「……燃やし尽くせ! ファイアボール!」
アルがいつの間にやら唱えていた魔法を放つ。ゾンビ相手ならファイアボールなどの炎魔法は効果的な筈だ。しかし……。
『グワアアアアアアアアアアア!』
ゴブリン達が一斉に叫ぶと、それらを覆うように大きな結界が張られた。それに簡単に弾かれ、霧散してしまうファイアボール。
「嘘っ!?」
「中々高度な術式のようだな。下手したら宮殿魔術師レベルじゃねーのか?」
「ンなこと言ってる場合じゃねーぞ兄貴! どうすんだコレ!?」
「そうですよクリム。余裕がありそうですが、何か策はあるのです?」
「……ハジメ、お前ならできるだろ? さあ、存分にやって来い!」
「えっなんで俺!? 依頼主に信頼してもらえるのは嬉しいけどさ、こういう時は逃げる選択をしてくれよ!」
こんなやり取りをしている間にも、ゾンビ化したゴブリン達は奇妙な行動に出ている。
全員がある一箇所に集まり、まるで糸が切れたように、バサバサと倒れ込んでいるのだ。その際の衝撃で、腐って脆くなった肉がボロボロと落ち、ゴブリンの山はうねうねと疼く謎の肉塊へ変貌していく。
「……何だ?」
「分からない。ただ何か……ヤバイ気がする! 皆、構えろ! 来るぞ!」
――オ、オオオオォォォォォォォァァァァァアアアアアアア!!
肉塊の中から姿を現した巨大な黒い影は、煌めく夜空へ向けて咆哮した。




