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流氷の天使  作者: 犬星雲
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バッカルコーン

あれから二十年が経った。

父はほどなくして家を出ていった。

理由は不倫だったと、後から母に聞かされた。

その頃の私にとって、父はすでに人間として認識できる存在ではなかった。

だから驚きも、悲しみもなかった。

そして今、私には七つ年下の恋人がいる。

天使のように可憐で透き通るような肌をしていてどこか儚げな人だ。

初めて会ったときなぜか懐かしさを覚えた。

そんな彼女には、ひとつ不可解な点がある。

私は一度も彼女が食事をしているところを見たことがない。

ドライブや映画館等には行くけれど、食事だけは決して共にしない。

何度か誘ってみたが、ダイエット中だとか、食欲がないだとかそのたびにうまくはぐらかされてしまう。

そういえばクリオネにはバッカルコーンと呼ばれる触手がある。

捕食の際にそれを展開し獲物を絡め取るという。

その姿は流氷の天使という呼び名からは想像もつかない、悪魔のようなものだと聞いたことがある。


…まさかね。

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