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魔法のボタン

ある日の出来事。兄弟の団らん?



 蜥蜴を愛する人に悪い人はいない(クラーラの持論)。クラーラはディアンが蜥蜴を好きだと知って以来、嫌なことは忘れてしまう性格もあって彼のことを怖いと思わなくなっていた。


 ディアンは王太子で次の王になる人だ。そんな彼は市井に出て、庶民の生活を自分の目で見て知る機会を設けている。町の人達との交流もそつなくこなしていた。

 近頃クラーラとアイザックは町に出たディアンから食事に誘われるようになっていた。


 はじめの頃は警戒していたが、初めに感じていた印象はがらりと変わった。横暴さがなくなり、クラーラの様子を見て気を遣っているのが分かる。しかも誘うときはクラーラだけでなく必ずアイザックを含めて三人でだ。


 アイザックはあまり行きたそうではない。身分を隠して市井にでているとしても、一介の騎士が王太子と食事をすることに慣れないらしい。

 ディアンは王族、しかも次の王になる人だ。上下関係に厳しい騎士団に身を置くアイザックが尻込みするのは当然だと思うので「断る?」と聞くと、「断れるわけがないだろう」と複雑そうな顔をしながらも必ず応じていた。


 ディアンが連れて行ってくれるお店は食後のデザートが絶品なところばかりなので、クラーラとしては楽しみになっていた。おそらく、いやきっとアイザックがいなくても今のクラーラなら一人で誘いに乗るほどに楽しみにしている。


 クラーラだってディアンとの身分差は分かっているが、今のディアンと話をするのは楽しかった。宰相閣下から叱られて反省したようで、庶民をからかう悪癖もなくなっている。


 そうして三人で昼食を楽しんで食後にチョコレートケーキを食べていると、ディアンから「何か欲しいものはないかい?」と優しい目を向けられた。その目がアイザックと似ていることもディアンを怖くなくなった要因の一つだった。


「欲しいものですか?」

「君には失礼なことをしてしまった。お詫びに何かしたい」


 心から反省しているらしいディアンはこうしてたまに欲しいものを聞いてくる。金銭感覚や常識が異なるので贈り物は告知して欲しいとお願いしたからだろう。そうしなければ常識外れな贈り物をしようとするのだ。


 立派なお屋敷をプレゼントしようとしたり、巨大な金剛石の原石を目の前に置かれたこともある。

 丁重にお断りしたが、原石を割ってみたい衝動からつい「ありがとうございます」と言ってしまいそうになった。

 物によっては断りたくないときもあるが、あんな高価なもの貰うわけにはいかない。


「なんでもいいよ」

「ご馳走になるだけで十分です」

「そうかい? なら私のコレクションを見に来ないかい?」

「コレクションですか?」

「専用の温室に異国から取り寄せた爬虫類が沢山いるんだ」

「それは素敵ですね!」


 隣に座っているアイザックから「は? それは素敵なのか??」 とつぶやきが漏れた。理解できないのか難しそうに眉を寄せている。アイザックに蜥蜴の可愛さは分からないのだ。


「あ……でもお城ですよね。間違って捕まっちゃうと嫌だしなぁ」


 今後の創作のためにも行ってみたい。けれどお城はクラーラが足を踏み入れていい場所ではなかった。


「私が招待するのだから咎められはしない」

「う〜ん、でも……」


 お城はクラーラにとって別世界だ。ディアンと会うのも町の中だから抵抗がなくなったが、お城なら絶対に行かない。というか行けるはずがない。粗相をしたら咎められるに決まっていると考えたところで、クラーラは素敵で便利なアイテムがあることを思い出して「そうだわ!」と一つ手を叩いた。


「魔法のボタンが欲しいです」

「魔法のボタン?」

「ディアン様が結婚式でフランツさんにあげたボタンです。それがあれば罪を許されるんですよね? もしもの為に欲しいです。わたしとエイヴァルト様とアイザックの分で三つ」

「三つといわず袋いっぱいあげるよ!」


 瞳を輝かせ身を乗り出したディアンに対して、アイザックからは「駄目です」とすかさず突っ込みが入った。


「どうして駄目なの?」


 ボタンくらいいいではないか。しかも便利なボタンだ。犯罪を犯すつもりはないが何かの時のためにあると便利に決まっている。あまり深く考えていないクラーラに対して、アイザックは眉を寄せる。言い聞かせるようにクラーラの肩に大きな手を置いた。


「あのボタンは褒章と同じだ。俺たちが軽々しく受け取っていい物じゃない」

「たかがボタンだ。そのように難しく考えなくていい」

「たかがボタンではありません」


 アイザックにしては珍しくディアンを咎めるように身を乗り出した。


「私とそなたらの仲ではないか」

「でっ……!?」

「ですよねー!」

「クラーラ!」


「そう怒るな」と言いながら、ディアンはポケットから取り出したボタンひとつかみをクラーラとディアンの前に置いた。


「足りない分は後から届けさせよう」

「わーい、皆に配っちゃおう!」

「クラーラっ、殿下もお止めください!」


 アイザックは助けを求めるように首を巡らせてフリューレイを探した。


 

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― 新着の感想 ―
クラーラッッッ!! あかんやろ(笑) お兄ちゃん大変だ(笑)
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