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顔バレしたVTuberはお別れした双子の妹で……  作者: ほづみエイサク
第4章 推しに言われて■■■することになりました
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第38話 大切なお知らせ 前編



<レイの視点>





(アタシって、チョロいなぁ)



 最近、よく思う。

 特にリツちゃんとじめにいのことになると、かなり贔屓(ひいき)が入ってしまう。


 それ程に大事な二人だ。


 

 じめにい。

 双子の兄。

 ダメダメなところが多いけど、アタシのことが大好きで――

 優しい所もあって――

 なにより包容力がある。

 自慢の兄だ。



 リツちゃん。

 親友というより家族に近い。

 VTuberとして配信するためのロボットを作ってくれた。

 それだけじゃなくて、いつも愚痴を聞いてくれたり、慰めてくれたり、本当に親身になってくれた。

 いろんな我儘にも付き合ってくれた。

 彼女がいなかったら、アタシの幽霊生活はもっと暗かったと思う。



 そんな二人が〝幸せ〟だと口にした。

 当たり前のように。

 


(それだけで満足しちゃった……)



 だから、アタシはもう消える。


 そう、アタシは消えてしまう。


 誰に言われなくても、自分が一番理解している。

 前兆だってある。


 少しずつだけど、体の感覚が無くなってきている。

 動くのが少し億劫で、過去のことがどんどんフラッシュバックしてくる。


 たまに幻覚が見えるし、本当に危ない状態だろう。


 人は死にかけている時、よくわからないことを口にする。

 でも完全に『おかしい』とわかる事は言わない。

 『寝ぼけているのかな』と思う程度の、ちょっと不思議な言動におさまる。


 本人からしたら、目を開けながら夢を見ているような感覚なのかもしれない。


 そんな状態が、正気と言えるのだろうか。



(アタシは思えない)



 きっとアタシは、すぐに正気でいられなくなる。

 そうなったら、ずっと前から準備していた言葉が(のこ)せなくなるかもしれない。



(だから、今のうちに皆との別れを済ませないと)



 そう考えると、今すぐ泣きたくなってしまう。


 別れを告げるのはとてもつらい。


 でもアタシは一回即死(・・)しているから、もっと辛いことを知っている。


 別れを告げられないのは、想像以上に辛い。


 そのせいで大事な人が苦しんでしまうのなら猶更(なおさら)だ。



 でも今回は違う。


 いくらでも言葉を掛けることができる。


 お母ちゃんとお父ちゃんにはもう別れは済ませた。

 

 あと少しだ。


 あと少し頑張れば、楽になれる。


 〝アタシ〟こと〝レイ〟こと〝一星雨魂(メタマちゃん)〟は、この世界から卒業するんだ。




◇◆◇◆




 リツはタバコを吸いながら、独りで座っている。


 目の前にはレイを模したロボットがある。

 だけど今は電源を入れているだけで、動く気配もない。

 動かすはずの電脳幽霊が、今そこにいないからだ。


 リツはタバコの煙をロボットの顔に吹きかけた。

 その後、構ってほしい子供みたいな顔をしながら、ロボットの固い指に触れる。


 すると――

 ピクリ、と指が動いた。


 

「――――っ!」



 リツは驚きながら顔を上げる。


 ロボットの顔が動いて、困ったような微笑みを作った。



『リツちゃん。その様子なら、全部知ってるのかな?』

「やっと来ましたか。まったく。もう4本目ですよ」



 リツは吸っていたタバコを灰皿に突っ込むと、(うつむ)いていた顔を上げた。


 顔が全体的に赤い。 

 目の周りは腫れぼったくなっている。

 さっきまで泣いていたのだろう。


 その顔を見ていられなくなったレイは、目を伏せる。



『リツちゃん。ごめんね』

「……ボクは怒ってますよ」

『ごめんね。ずっと一緒にいられなくて』



 レイが暗い顔で言うと、リツの頬がぷくーっと膨れた。



「そんなことを言ってるんじゃないですよ」

『え、違うの?』

「なんでボクが最初か最後じゃないんですか。中途半端は傷つきますよ」



 リツの言動を聞いて、レイは苦笑した。

 だけど、表情には少しだけ安心感も混ざっている。



『いつも通りだね。こだわるところじゃないでしょ』

「何を言ってるんですか。こんなにかわいいボクが一番じゃないなんて、おかしいじゃないですよ」

『一番の親友だと思ってるよ』

「それだけじゃ足りないですよ。オンリーワンでナンバーワンじゃないと認めません」



 リツの言葉がおかしく感じたのか、レイはクスクスと笑った。

 その顔を見たリツの頬が緩んでいく。



『こりゃ、じめにいも大変だなぁ』

「先輩だったら受け入れてくれますよ。細かいところを気にしないところだけ(・・)が取り柄なんですから」

『他にもあるでしょ。いろいろ』



 リツは少しだけ考えた。

 だけど、すぐに頭を横に振る。



「ボクが魅力が感じてるところは、鈍感さだけですよ。ボクが孤児でも、食べ方が汚くても、育ちが悪くても、本気では怒りませんし」

『えー。本当に他に無いの?』



 リツはほんのちょっとだけ考えた。



「強いて言うなら、なんだかんだで家事ができて、誰にでも優しくて、一緒にいると落ち着いたり、簡単に死ななそうなところですかね」

『結構あるじゃん』

「本当ですね」



 二人はふと、壁越しに隣の部屋を見た。

 そこではハジメが待機している。



『とりあえず、じめにいのこと末永くよろしくね』

「それは先輩の頑張り次第ですね」

『本当に厳しいなぁ。まだ先輩って呼んでるし』

「呼び方は追々(おいおい)ですね。呼び方を変えたって、関係性が大きく変わるわけではないですから」

『理系の思考だ。どうせなら、じめにいって呼んでもいいよ?』



 レイの提案に、リツは顔をしかめた。



「嫌ですよ。ボクはレイちゃんの代わりじゃないですから」

『体型は近いのに。じめにいが見破れなかったぐらいには』

「そのせいで夜の営みは大変なんですよ。おっぱい星人から矯正するのにどれだけ苦労してるか……」

『うわあ、聞きたくない聞きたくない!』



 レイは「イヤイヤ」と言わんばかりに頭を振った。



「盗み見してた人がよく言いますね」

『たしかに』



 二人は笑い合った。

 楽しそうな笑い方なのに、どこか寂しそうな声音だった。


 ひとしきり笑い終わると、お互いの瞳をみつめ合う。



『本当に感謝してる。ロボットの体を作ってくれて、配信環境まで整えてくれて。一緒にいてくれて』

「何言ってるんですか。ボクの方が感謝してますよ」

『うん。一生忘れないでね』

「忘れるわけないじゃないですか。どんなことがあっても忘れませんよ」

『リツちゃんはそう言ってくれるよね。信じてた』



 レイはリツの手を、そっと握った。

 とても力強くて、リツの顔が少しゆがむ。



『じゃあ。元気で』

「ロボットは残しておきますので、あの世が嫌だったら戻ってきてくださいね」

『あはは、多分無理かなぁ』



 それだけ言うと、ロボットの手をへその前に持っていった。

 まるで棺桶に入る仏様のように。


 そして、口と(まぶた)をゆっくりと閉ざしていく。



「……そこは嘘ついてくださいよ」



 すすり泣く声が響く中、レイが入っていたロボットから、なけなしの生気が消えていった。




 あとはじめにいと、■■■■だけだ。


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