46.溺れる者
毎度お待たせしてしまい、申し訳ありません。
今回から新しい話に入ります。
なので話忘れたって方も大丈夫です。多分いけます。
新しい話のプロローグ的な感じなので、なんか意味深な事言ってますんで、よくわかんねぇよって方はざっと雰囲気で読んで下さい。後でなんとかなります。
エリファレット第一王子視点です。
父に呼び出され、歩き慣れた王城内を俺の側近候補のレイモンドと共に歩く。
この城の、いやこの国の主である彼に一対一で呼び出されるのは初めてのことだった。
俺の中で彼は、完全に父親ではなく王だ。それは彼にとっても俺は第一王子でしかないということの証で、親子らしい会話など交わしたことがなかった。
わざわざ単独で呼び出されたということは、話す価値くらいはあるようになったと認識されたか。
予想していたより早かった。……早すぎる。
「あ」
思わず声を出してしまったようで、レイモンドが慌てて口を押さえた。
誰が聞いているかわからないので、王城の廊下では話さない様に言っていたから「しまった」という顔をしている。
その素直でわかりやすい様子に少し笑って、レイモンドの視線の先に意識を向けた。
庭園に見えるのは第二王子のフレデリック、と側近候補3人。
元々俺の側近候補だった乳母兄弟とユリシーズの2人と、あとは書類上宰相の孫になるルーファス・リッケンバッカーがフレデリックと談笑している。
3人のうち2人が俺への嫌がらせのための人選で、本命は1人だけ。今日は一緒にいないけれど、こっちにも嫌がらせのための側近候補が1人付けられている。
徹底してるよなぁ。
俺の主観とかではなく、王妃は普通に狂ってる。
取り返しがつかなくなる前に早く気付くべきだけれど、王族とはいえ普通の7歳の子供に自分で考えて動けって結構無茶だと思う。
俺だってこんなに冷静に見ることができるようになったのは最近なのだから。
ま、そこはユリシーズがなんとか頑張るだろう。
王の執務室の前まで行くと、俺だけ別の部屋に通された。
少し待つと、弟のフレデリックをそのまま成長させたような顔の父が入ってきた。
「久しぶりだな」
「はい。お久しぶりです、父上」
「元気にしているようだと聞いているよ」
「はい。おかげさまで。父上もお元気そうで何よりです」
当たり障りのない挨拶を交わしながら父の感情を読む。
機嫌がいい……というか何かを期待している?
「そういえばお前の婚約者、かなり有名になっているようだね」
「ええ。そのようです。婚約者が素晴らしい令嬢でとても誇らしいです」
アリアが7歳という年齢で魔法を使い、偶然巻き込まれた誘拐殺人事件に介入したことは噂になっている。
彼女が優秀な事はわかっていたけれど、こんなに早く注目されるようになるとは思わなかった。誘拐事件は完全にイレギュラーな出来事だ。
噂が広まる前に女神に誓ったのですぐに取られることは無いが。
「少し話しただけだけれど、あの子はいいね。とてもいい。お前と誓ってしまった後から知ったのは残念だったなぁ」
……何だ?
ふざけているわけでは無さそうだし、どちらかと言うと本気寄りだけれども、何か……ズレてる。
懐かしんでいるのか?
「誰かを思い出しますか?それでは女神の歓心は買えないと思いますが」
「ははっ。本当為政者向きだよ。お前らは」
……ご機嫌なようで何よりだ。
「まさか陛下にお褒めいただけるとは」
「まぁでも煽り耐性は付けといたほうがいいな。格下以外の相手の感情を読んで切り込むなら、手札を揃えてからにしないと、思わぬところで足を引っ張られたりする」
駆け引きではなく、ただ教えているみたいなことを言われて、まるで親のような発言に少し驚く。
「……父親らしいことを言いますね」
「後継者を育てる気ぐらいあるさ」
「それが本当なら、もう少し時間を置いてから呼び出していただきたかったです」
交流を持つのなら、あと少し俺が足場を固めてからにして欲しかった。
たとえ実態は無くても、王という立場の人間が動けば、そう見えるだけでそれに合わせたように人は動く。
「この時間は私が設けたのではないよ。向こうとしては今ならバランスがとれると思ったんじゃないか?安全マージン取りたい気持ちはわかるけど、ちょっと甘いね」
……確かに俺が甘かったのは事実だが、手を貸す気がさらさらない人間にそうにこやかに言われると、何とも言い難い気持ちになる。
「……楽しそうですね」
「それはそうだろ。やっとあの女を排除できるかもしれないんだから」
「ご自分でやられては?」
「私が宰相に挑むわけ無いだろ。凡人だからね。お前たちとは違う。今の状態でギリギリだよ」
開き直りのような言葉に大きな溜息で返事をすると、
「読め。今ここで覚えろ」
と一冊の本を渡された。
「これは?」
「各国の王家だけに伝わる情報だよ。当然、他言無用だ」
比較的少ないページの本とはいえ目の前で待たれてる中では少し読みづらかったが、俺は人よりも文字を読むのが早い為あまり父を待たせずに済んだ。
――なるほどね。
本の中身を見てもあまり驚いていない俺の様子を見て、父は満足そうに笑った。
「不本意ながら一応あの女も王家の一員だから、これらの秘密は知ってる。……勝てよ。その可愛い顔と能力を存分に使え。エリファレット・セシル・フラムスティード=フェザー」
「……当然です」
そういえばこの名を付けたのは父だと聞いたなと思いながら、俺は殊更に可憐に見える顔で微笑み返した。
父との会話を終え、俺とレイモンドは人払いをした部屋へと戻った。
椅子に座って溜息をつくと、レイモンドが珍しいものを見たという顔した。
「どうしたんですか溜息なんかついて。陛下とお話しするのがそんなに疲れたんですか?」
「まぁ、ね。王妃が動くんだよ」
「王妃様が動く?」
「俺は王になるけれども、あの人は死んでも俺を王位に就けたくない。やりあう時が来るのはわかってたけど予想より早いんだよね。……アリアが危ない」
ずっと日和ってた俺が精力的に活動し順調に支持を増やし、玉座から遠ざける為に誓わせた婚約者は非凡な魔法の才能を持っていて、さらに王に呼ばれ二人きりで会っている。
弟のフレデリックは一度も一対一で父と話したことはないのに。
王妃には俺が王太子になるのは間近の様に見えるだろう。
「え……それはマジでですか?」
「マジでだよ。……誓ったのは失敗だったかも」
古参派の一部以外に影響力を持たない狂った王妃には、俺へのまともな支持を覆すことや、王を引き離すことは不可能。
1番手を出しやすいと王妃が考えそうなのは、殺せばいいだけのアリアだ。
味方を増やして早急に片付けようと思ってたのに……先手を打たれた……。
「本当に好きなんですね……アリアのこと」
感心した様子でレイモンドがしみじみと言う。
「……好きだよ。でもきっとレイモンドが考えてるのとはちょっと違う意味でかな」
「違う?」
「恋愛感情だと思ってるんじゃない?」
「え、恋愛感情じゃないんですか?」
「違うと思う。たぶんね」
これはおそらくそういう類の感情では無くて、もっと単純な……。
「……アリアはずっと普通なんだ。俺に対する感情が、普通」
レイモンドがよくわからないという反応をする。
「俺は能力と立場が普通じゃないから、何もしなくてもただそこにいるだけで人の感情を波立たせるんだよね。不安、焦燥、恐怖、野心……様々な負の感情を呼び起こす。しかも最悪なことに、それが全部見えてしまう。凄いよ。もうぐっちゃぐちゃに見えるから。そんな中、アリアだけが普通。俺の能力と立場をちゃんとわかった上で、俺の言動にしか感情を返さない……ありえないよ。普通じゃない」
自分も怖がっているからだろう、レイモンドが少し気まずそうにする。
別に悪意が無いから、昔と違って安定した今は全く気にならないのに。
「責めてるわけじゃなくて、アリアが特別って話。他人の感情の波に溺れてる中で、唯一”普通”なアリアみたいな子がいたらしがみついちゃうでしょ。掴んで離せないでしょ。これが恋愛感情かって言われたら、違うんじゃないかとしか言えない」
溺れた者が呼吸をするために掴まってるみたいなものだから、正直恋愛感情とか言ってる場合じゃないんだよね。
「え、じゃあ好きじゃないのに結婚する気なんですか」
「いや、好きなんだって。恋愛じゃないだけで。祝福持ちに囲まれてるレイモンドはピンとこないと思うけど、恋心ってもっと軽いものだと思うんだよ。もっと切実なんだ。どうしても、ずっと離したくない」
俺の能力はただの技能だから消えるような事はない。むしろ経験を積むごとに精度が増していくはずだ。
俺は溺れ続けることになる。一生、ずっと。
「はぁ。それで婚約したんですか」
「そう。でも今日陛下直々に呼ばれちゃったし、アリアが素晴らしい婚約者だってことも皆に広まっちゃってるし。こうなると目の色変えた王妃がさ、アリアを排除して君の幼馴染を弟の嫁にしようとするよね。はぁ。もうちょっとこっちの体制が盤石になってからにしてほしかった」
「ちょ、え?弟の嫁?幼馴染ってまさか……」
「もちろん『転生者』オリヴィア・マルグレイヴ侯爵令嬢だよ。可哀想に。彼女が俺やフレデリックとの結婚なんて望むはずないのにね?」
この国には今現在2人の『転生者』がいる。
一人はレイモンドの母親であるステラ・ルートレッジ夫人。
そしてもう一人はおそらく夫人の関係で縁が出来たであろう、レイモンドの幼馴染のオリヴィア・マルグレイヴ嬢だ。
オリヴィア嬢はまだ7歳の『転生者』なので当然女神の寵愛を受けているし、彼女と結婚すれば王位に近くなる。だから王妃は是が非でもフレデリックと結婚させたいのだ。
しかし、オリヴィア嬢は俺とフレデリックを恐れている。
それはもう、尋常じゃないほどに。
「……知ってたんですか?」
「うん。会ったことあるし見ればわかるから。実はレイモンドを勧誘した大きな理由だったりするよ。共闘できる友人がいるって心強いな」
『転生者』は女神からの寵愛があるのでその意思を尊重されるが、多少強引でも女神の怒りには触れなかったりする。狂った王妃はオリヴィア嬢の恐怖などお構い無しに、なんとしてでもフレデリックと接点を持たそうとするだろう。
ただでさえ人の良いレイモンドが、恐怖に震える大切な幼馴染のことを放っておくはずがない。
「えー……あの時そんなことまで考えてたんですか……怖っ」
「でも望むところでしょ?頑張るからよろしくね」
元を断たないとオリヴィア嬢は恐怖に苛まれ続けることになる。
王妃をどうにかしたいなら、俺と組むのが最善だ。
「まぁそうですね……。こちらこそよろしくお願いします」
まっすぐ見つめてくる意志の強そうな目を見て、レイモンドも彼の父親のように祝福を受けるようになるのかなぁと根拠もないがなんとなく思った。
新しい話が始まる為、今回と次とその次くらいまで新キャラ祭になってしまいます本当すみません……。
一応配慮はしてるつもりなんですが、わからん!ってなったら教えて頂けると有り難いです。




