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43.殿下の婚約者

大変お待たせしてしまいました。申し訳ございません。

このペースで働いてたらマジやばい。


攫われて殺されそうになってた子供達のお父さん(子爵。偉い人)の視点です。

「聞いたか?王妃様にイクスベリー伯爵家の元平民の養女との婚約話を進められてるらしいぞ。しかも王妃様は早々に神殿で誓わせる計画を立てているらしい……」


 仕事場の廊下を歩いていると、今一番王宮を騒がせている第一王子の婚約に関する噂話が耳に飛び込んできた。

 朝からその話ばかりだな。


「天才とか言われててもやっぱりエリファレット殿下もまだ9歳だよなぁ。こんな風に後手に回るなんて」


 ドアが少しだけ空いていて、部屋から声が漏れているのか。不用心だな……。


「なんか初恋だったんだってさ。子供の頃の淡い恋心を利用されて、って後から振り返ったら黒歴史だろうなぁ」


「黒歴史どころかこれが原因で後継者レースに負けるかもだろ?あーあ。古参派の奴らがまた調子に乗って鬱陶しくなるな……」


「あー……ホントになぁ……」


 沈む気持ちも愚痴を言いたくなる気持ちもわからなくはない。

 最近の第一王子はとても精力的に活動していて、尋常ではない利発さと古参派の代表とも言える王妃から距離を置くスタンスも相まって、新興派からとても期待されていた。

 しかしここで何の利にもならない娘と婚約させられるのは痛い。

 向こうに女神の寵愛を受ける『転生者』の侯爵令嬢を取られたら一気に不利になるだろう。

 せめて本当に自分で婚約を決めたのなら良かったんだが、殿下の年齢を考えるととてもそうは思えないし……。

 神殿で誓わされると破棄が面倒になるので、王妃はそれを狙っているようだ。

 やっぱり大人びて見えてもまだ子供だったか。

 殿下と歳の近い、しっかりしてるとは言ってもまだまだ幼い自分の息子のことを考えると、ここ最近の彼は十分に良くやってるのだけれども。


「……!」


 止めていた足を進めようと前を見たら、そこにはエリファレット第一王子殿下がいた。

 いつものように華やかに笑っている彼と完全に目が合った。


「ぁ……」


 ギョッとして思わず声を上げそうになったが何とかこらえて、少し空いているドアをノックし、自分の顔が通るくらい開けた。


「あの、ドアが開いて声が漏れています。気を付けられた方がいいかと……」


「うわ!す、すみません!」


「申し訳ございません!気を付けます!」


 とりあえずパタンとドアを閉めた。

 ……き、気まずい…………。

 自分が悪いことを言ったわけでもないのに、何と言ってこの場を取り繕うか悩んでいると、殿下がクスクスと笑い出した。


「こんにちは、ノールズ卿。貴方がそんなに気にすることは無いよ」


「御機嫌麗しゅうございます、エリファレット殿下。……殿下はあまり噂話は気にされないのですか」


 近頃の立ち居振る舞いは堂々としたものだが、少し前までの殿下は周りの言葉を気にする繊細な方だった。


「あれでいいんだよ。その方が色々スムーズに事が運ぶ」


「事……ですか」


「うん。……そうだね、貴方もアリアに会ってみるといいよ。婚約してからになると思うけど。たぶん興味を引かれるんじゃないかな」


 そして殿下は、じゃあね、と言いたいことだけ言って去っていった。

 何というか……彼は、本当にいくつなんだ……。

 完全に想定済みな顔をしていた。

 どうやら自分で選んだ婚約のようで、良かった……のか?

 中身はアレでもまだ9歳だし、早すぎやしないだろうか。

 しかし、興味を引くとか言われても……置かれたハードルの高さがな。

 歳の近い婚約者という時点で、あの殿下と並べて比べられるのだ。

 少し賢いぐらいでは平凡な子供にしか見えないだろう。

 相手の子には荷が重いことだな……。

 息子と同い年の少女のこれからの事を思うと、なんとも言えない気持ちになった。







 殿下と話した日のすぐ後に、私は長期休暇をとって家族で親戚の元へ向かった。

 父の領地を継いだ兄の元に家族を連れて遊びに行くのも、治安の良い街へ貴族の出では無い妻が子供達と気軽に遊びに出掛けるのも、毎年の事だった。

 慌ただしい王都から、生まれ育った領地へと帰ってきて……完全に気が抜けていたのだと思う。

 危険というものは、いつ、どこからやってくるか、わからないものだというのに……。


「フィオナ!」


「ルシアン様。フィオナ様は頭を強く打っています。動かさないで下さい」


「……うぅ……子供達は……?……カイル……ヘレナ……」


「フィオナ……」


 妻のフィオナは頭を強く打ち、道で倒れているところを発見され、一緒にいた子供達は行方が分からなくなっていた。

 同じように子供が行方不明になる事件が直近で起こっていたようで、己の無用心さを心の底から呪った。

 なぜ護衛を付けなかったのか。

 いやむしろなぜ自分が付いていかなかったのか。

 なぜ、なぜ、なぜ――


 とにかく兄にも協力してもらってひたすら子供たちを探し続けた。

 時間が経てば経つほど焦燥感が募る。

 カイル……ヘレナ……無事でいてくれ……!


 全く手掛かりが掴めないまま迎えた二日後の朝、王都から緊急の知らせが届いた。


「イクスベリー伯爵様からのようです。ルシアン様は普段王都にいらっしゃるので、そちら経由で届いたのでしょう」


 俺は宮廷貴族なので領地は持っておらず、王都にある王宮で働いている。

 イクスベリー卿からの緊急の知らせを受けた王都の屋敷の者がこちらに送って来てくれたらしい。

 しかしイクスベリー卿とは親しくした覚えもないし、彼について悪い噂は聞かないとはいえ、正直今それどころでは無いんだが……。

 そうは思えど彼の娘は最近第一王子の婚約者となっている。無視する訳にはいかない。

 とりあえず使用人から知らせを受け取り、部屋へ戻って封を開けた。

 緊急の案件なら、手早く済ませてすぐに子供達の捜索を――は?


「保護……?イクスベリー卿が……?」


 子供達は誘拐殺人事件に巻き込まれたが、イクスベリー領で無事に保護している――


 手紙を読んですぐ、最低限の準備をして単身イクスベリー領へ向かった。

 イクスベリー領までは普通なら一日もかからない距離だが、今回の元凶であるイェーツの領を迂回するよう勧められた為、いつもより時間がかかってしまった。

 先触れも出さずに訪問するという無作法なことをしてしまったが、イクスベリー卿は嫌な顔ひとつせずに迎え入れてくれた。

 彼には一生頭が上がらないだろう。


「カイル!ヘレナ!」


「父さん!」


「パパ!」


 子供達がどのような目に合ったのか話を聞いた後、イクスベリー卿に連れて行ってもらった病院で二人の無事な姿を確認することができた。


「無事で良かった……!助けてあげられなくてごめん……ごめんな……!怖かっただろう……!」


 二人に駆け寄って抱きしめる。

 聞いた話では脅されたり、死体を見せられたりしたらしい。

 本当に、本当に無事で良かった……!


「うわああぁぁぁん!パパぁぁぁ!」


「うぅ……っく……!こ、怖かった……アリアが来てくれなかったら、僕ら、絶対殺されてた……!」


 ヘレナだけでなく、いつもはしっかり者のカイルも泣き出した。

 もちろん私も号泣している。

 殺されそうになるなど、なんて怖い思いをさせてしまったんだろう……。


「……アリア嬢?仲良くなったのかい?」


「ひっく!アリア、お姉ちゃん、が!助け、て、くれた!ぐすっ!ううぅ、魔法で、ひっく!守って、くれたの!」


 アリア・イクスベリー嬢のことを言っているのだろうか。

 先ほど少しだけ話した印象では、年齢よりも大分と落ち着いてるように見えた。

 しかしあんな小さな子が魔法を使えるはずが無いので、恐らく恐怖で記憶が混濁しているんだろう。

 このときの私はなんの疑いもなくそう思っていた。






この世界は魔法の素養が高い者を囲うため貴族が多いです。(とはいっても全体から見ると少ないですが)

なので土地持ってない爵位持ちの貴族も大勢います。

土地持ってない貴族は伯爵までしかなれません。

なので若いのに子爵なこのお父さんはかなり凄い人です。

しかしおっさんの話長い……。すみません……。

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