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42.ご家族が迎えに来ました。

お待たせしました。

 事件が起きてから4日目の夕方頃、領府に血相を変えた男性が駆け込んできた。

 訪問の予定は聞いていなかったが、身なりからして貴族のようだったので、とりあえず見えるところにいた私が様子を覗いに行った。


「あの、ルシアン・ノールズという者ですが、こちらの領で、私の子供達を保護していただいてると聞いて……!」


 タイミング的に攫われていた子どもたち関連の事だろうとは思っていたけれど、どうやら先触れではなくノールズ子爵本人のようだ。そんな余裕も無いほど気が急いていたのだろう。

 状況が状況なのでお義父様もお気になさらないはずだ。


「はじめまして、ノールズ卿。私はイクスベリー家のアリアと申します。義父を呼んでまいりますので、応接室でお待ちください。どうぞこちらへ」


 自己紹介をすると少し驚いたように見えたので、私のことを知っているのだろう。

 まぁ第一王子の婚約者だしな。仮みたいなものだけれども。


「あの、カイルとヘレナは無事でしょうか?」


「お二人共大きな怪我はありませんが、カイル様は頭を打っているようなので、しばらく様子を見た方がいいとのことです。それと精神的に過酷な状況に置かれましたので、彼らの心のケアも重要だと。義父からも説明があると思います」


 魔法の資質の高いカイルは多少打たれ強いとはいえ、身体強化の自己回復魔法が使えるわけでも無いし、頭は危ないので用心したほうがいい。


「過酷……そう、ですか……」


 ノールズ卿は元々悪かった顔色を更に悪くして黙り込んでしまった。

 ……座ってもらってから話すべきだったかもしれない。

 ノールズ卿を案内した後、部屋を辞してお義父様を呼びに行き、私は仕事に戻った。

 二人は少し話した後病院に向かったようだ。

 これでもう安心だな。子供達を親御さんの元に無事に帰せて本当に良かった。




 子供達、特にヘレナが寂しがったらしく、ノールズ卿はその日はそのまま病院に泊まった。

 お義父様と話はついているようで、意識障害になるくらいに頭を打ったカイルの安静期間に合わせて、彼はこのまま6日程家に泊まることになった。

 仕事は大丈夫なのだろうかと思ったが、元々長期休暇を利用して、実家の爵位を継いだ兄のところに家族で遊びに来ていたらしく、その辺りは問題ないようだった。



 ノールズ卿が訪ねてきた次の日、術式の調整を行なっていると、彼から話がしたいとの申し出があった。

 応接室へ向かうとすでにノールズ卿が待っていた。


「お待たせして申し訳ございません」


「いえ、私が早く来すぎたのです。……魔法の訓練を行っているとお聞きしましたが……本当に使えるのですね」


 なるほど、私が親子関係を調べる術式を調整しているとは教えられないから、普通に魔法の訓練をしていることにしたのか。


「ええ。有り難い事に魔法の才能があったようです。イクスベリー家へ養子で入ったのも、魔法が使えたからなのですよ」


「では、魔法で子供達を守って下さったと言うのも本当なのですね……すみません。自分が主に魔法師として働いているもので、7歳で魔法というのがにわかには信じ難かったものですから。助けていただいておいて、大変失礼な事を申しました」


「いえ、当然の反応だと思います。ほとんどの子供は11,2歳で習い始めるものですから」


 普通危険なので、ある程度成長するまでは魔法は使わないからな。

 もう少しして周りの同年代の子供達も使い始めれば、目立たなくなるだろうけれど。


「イクスベリー卿から仔細をお聞かせいただきました。……貴女が他領の誘拐殺人事件に介入しなければ、そして子供達が攫われた場に間に合わなければ、あの子達は確実に死んでいました」


 ノールズ卿は事件の理不尽さへの憤りからか、悔しそうに顔をしかめた。

 一歩間違えれば大事な者達の命が失われていたかもしれないという事実は、さぞ腹立たしいことだろう。


「アリア嬢……いえ、アリア様。私の子供達を助けてくださって、本当に、本当に、ありがとうございました……!」


 勢いよく頭を下げられ、少し驚く。

 自分のような若輩に、こんなに丁寧にお礼を述べられるとは思わなかった。


「感謝のお言葉ありがとうございます。ノールズ卿からのお気持ち、しかと受け止めさせていただきました」


 自分なりに彼の誠意に言葉を返したつもりだったが、どうした事かノールズ卿の顔が晴れない。


「……この為だけに婚約されたと聞きました。貴方に全てを押し付けることになってしまった……私達はただ助けられただけです。本当に、申し訳ございません……」


 また頭を下げられる。

 ……そんなことを気にしていたのか。先程から感じていたが律儀な方だ。


「頭を上げてください。領民が殺されていたのです。助けるのはこの地を統べる家の者の義務ですし、それに対する代償が必要ならば払うのも当然のこと。まだ小さな子供を助けるのも当たり前のことです。お気になさらないで下さい」


「ですが貴方だって小さな子供のはずです……それなのに……」


「自分で選んだことです。それを7歳の子供だからと責任を投げるようなことはしませんし、後悔もしていませんよ」


 そもそも作戦の立案から私がやっているし、まともな結婚することよりも、領民のために事件を解決することを選んだのは私自身だ。


「アリア様……」


「それにノールズ卿はただ助けられただけだとおっしゃいましたが、単純に巡り合わせの問題でしょう……もしあの場にいたのが貴方なら、私はただ助けるのではなく、大人の貴族として協力お願いしたかもしれませんし」


 貴族同士は利害関係があるので本当にお願いしたかどうかは定かではないが、心情的には間違っていない。

 私が助ける立場だったのは偶然だ。


「……ではその場にいられず協力できなかった代わりに、いつかあなたが助けを求めるようなことがあるならば、必ず協力させていただきましょう」


 ……本当に律儀な方だな。

 気にしなくてもいいとは思うけれど、特に断る理由もない。良い方と縁が結べるのは有り難いことだ。


「ありがとうございます。いつか、その時が来ましたらよろしくお願い致します」


 満足げに頷いた彼から、その後奥様のことを聞いた。

 もしかしたらと思っていたがそれは杞憂だったようで、今はノールズ卿のお兄様のところで療養しているらしい。

 彼女も頭を強く殴られた為安静にしている必要があり、こちらへ来ることができなかったそうだ。


「最初自分も行くと言って聞かなかったんですが、馬に乗って最速でたどり着きたいから我慢してほしいと言ったら渋々納得してくれました」


「それはそれは……夫人もさぞ心を痛められたことでしょう」


「また妻も伴ってお礼に参ります。その時は会ってやってください」


「……あの、そんなに畏まってお話されなくても……。私はただの伯爵家の娘ですし、爵位をお持ちのノールズ卿の方が位が遥かに上なのですから」


 こんな小娘に対してそんなに丁寧に話す必要は無いだろう。

 これは……何と言うか、勘違いではないが勘違いされている気がする。


「いえ、アリア様は将来王家に嫁がれるお方。しかも私達家族の恩人なのです。敬意を持ってお話しさせていただかないと」


 ……やはりな。


「あの、義父から聞いていただいたように、私はこの事件の解決のためだけに第一王子殿下にご婚約いただいたのです。私との婚約など何のメリットもありませんから、早々にあちらから破棄されるでしょう」


 誤解させたみたいで申し訳なかったが、この不釣り合いすぎる婚約が続くことはない。

 だから爵位持ちの方が様付けするような人間ではないんだ、私は。


「え……本気で言ってらっしゃるんですか?」


 心底驚いたと言うなような返答が返ってくる。


「はい。誤解を与えてしまい申し訳ございません」


「いえ、そうではなく……殿下はたぶん……いや、たとえそうでなくても、あなたは7歳で魔法が使えるんですよ。聞けば精密身体強化魔法と上級防御魔法も使うそうですね」


「ええ。はい。使いますが……」


 それがなんだと言うのだろう?


「普通、上級魔法が使えるほど魔力の高いものは、精密身体強化魔法が使えません」


「え、でもウィリアム・ホワイトは……」


 前世の生家であるエイスグレイス公爵家お抱え魔法師だったウィリアムは、魔力量が飛び抜けて多いという訳ではなかったが、どちらも普通に使っていた。


「そうです。貴女はあの天才ウィリアムだけがなし得た技術を、齢7歳にして使っている。しかも実戦で使ってこの度の事件を治めたんですよ……そんな貴女との婚約を、破棄するはずなどないでしょう」


 え、確かに魔力量の多い弟のリーンは精密身体強化魔法が使えなかったが、これから身に付けるのかと……え、普通使えないのか?

 ウィリアムが使えたから上級魔法師は皆使えるとばかり……誰か教えて欲しかった……。


「………………しかし私は元々平民ですが。『転生者』でも無いので女神様の寵愛もありませんし」


 これは覆しようのないデメリットだ。

 第二王子を推したい貴族には喜ばれるだろうが、第一王子を推したい貴族からは敬遠されるだろう。

 玉座を狙うエリファレット様からすればそれは避けたいはずだ。


「ええ。私もそれは最大のネックになると思っていました。ですが大半の新興派と中立派の貴族は気にしないでしょう。貴女と直接話したなら」


「普通に、話しているつもりですが……」


「いえ、誰の目から見ても貴女は非凡です。同じく非凡と言われるエリファレット殿下の隣に立つのに、貴女ほど相応しい人物はいないと、皆が思うはずです」


「…………そう、見えてしまうのですね……」


 中身が子供ではないので、どうしてもそう思われてしまうのだろう。

 いっそのこと帝国貴族の記憶があると公表するか?

 いやでもだから証拠もないのに誰がそれを信じるんだよ……。


「婚約が破棄されると思っているのは、きっと貴女だけですよ。……でも、私は貴女に恩があるので、貴女がどうしても嫌だというのなら、婚約破棄できるように協力しましょう」


「……!」


 思いがけない事を言われて驚く。

 じっと目を見つめると強い視線が返された。本気、なんだな。


「……やめておきます。わがままを聞いてもらったのは私の方ですし、本当に逃げようと思えば、あなたにご迷惑をかけなくても逃げることができます。私は元平民なので」


 貴賤結婚は推奨されないが、否定されることもない。

 女神様が愛こそすべてだとおっしゃっているからだ。

 つまり私が平民男性のもとに押し掛ければ、貴族の世界からは遠ざかることができてしまう。 


……わざわざこの人を王族と対立させる必要はない。


「……そうですか。気が変わったらいつでもおっしゃってください」


「ありがとうございます」


 お気持ちだけ受け取っておきましょう。

 ……しかしこれは少し、エリファレット様と話し合う必要があるかもしれない。

 彼はずっと友人の願いを叶えるというスタンスだった。

 一体この婚約をどう思っているんだろうか。






前にも出てきましたが、精密身体強化魔法は魔力が多すぎると上手く仕えません。

アリアが使う時は魔力を抑えこんで使ってます。

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