39.忠誠を誓われました。
前回に引き続き、残酷な表現があります。ご注意下さい。
たぶん前回よりはマシだと思います。みんな生きてる。
以下前回の話を読み飛ばした人用のあらすじです。
アリアは目論見通り誘拐犯たちのアジトに連れて行かれます。
そしたら他の領での攫われた二人の兄妹の子供が捕まってました。
魔石の質を上げるために、脅されたり死体見せられたりでガクブルでしたが、アリアが魔法で助けました。
以上です!
とりあえずアリア視点からお送りします。
今回この作戦を行うにあたって、私は新旧2種類のスロットを持ち込んでいる。
旧式のスロットは音声入力が必要ないし、術式は複雑になるが絶対位置指定が使える。なので作戦上必要になる防御壁を正確に、かつ相手に気づかれないよう展開する為と、自衛のために防御壁を作る為に持ってきていた。操作しやすいように二つの術式しか入っていない。
そして新型のスロットは不測の事態に備える為と、少数で突入してくれている騎士達を援護する為に持ってきている……のだけれども。
「あいつらの仲間は私の騎士達が何とかしてくれているはず。だから私も彼らに手を貸してくるわ」
「いや!お姉ちゃん行っちゃやだぁ!ここにいてぇ……うぅ……ぐすっ……」
妹さんが抱きついて離してくれない。
目立たないように騎士達は少数で来ているし、彼らは精密身体強化が使えない。
訓練を受けた兵士が、素人に毛が生えた程度のならず者共の集まりに押し負けるとも思わないが、やはり数が違うので苦戦するかもしれない。
さすがに後衛に徹しようとは思うが、少しでも援護に行きたいのだけれど……。
「ちゃんと防御壁を張り直すから、ここでじっとしていれば安全よ?」
「うぅぅ……いや……いや……ひっく……うぅ……」
完全に混乱している。
無理もない。あの時調節を誤って魔法がキャンセルされなければ、もっと早く魔石を抜かれた子を隠せたのに……。
自分を過信し過ぎていたかもしれない。未熟を恥じるばかりだ。
「ヘレナ。手を離すんだ。彼女が困っているだろう?」
「いや!いや!」
「みんなを手助けしに行きたいのだけれど……うーん……」
お兄さんが説得を試みてくれたが、妹さんはどうしても離れたくない様子。
かわいそうだけれど無理矢理引き離すしかないか……。
「その必要はないですよ。あらかた片付けてきたんで」
「!サー・デューイ、何故ここに……」
領軍の指揮を取っているはずの人が、何故か血まみれで部屋の入り口に立っていた。
ここには私個人に剣を捧げてくれた騎士しかいない。
領軍の責任者の彼がここにいたら……おかしいだろうが。
「もちろん、我が主を陰ながら護衛しておりました」
作戦シナリオ通りの回答が返ってきた。聞きたいのはそれじゃない。
しかし……チラリと捕われていた子供たちを見る。
「…………なるほど。他の騎士達は?」
「ちょっと急いだんで粗めに対処したので、他の奴らは治療したり片付けたりしてますよ」
「まさか一人残らず切ったんですか?」
「流石にそんな馬鹿なことしませんよ」
良かった。彼はちゃんと冷静なようだ。
「そうですか。……その血、怪我は?」
「ああ、全部返り血ですよ」
「……子供たちが怯えるので、その格好のまま近付くのは控えて下さい」
ちょっと血まみれすぎてホラーのようになっている。流石に洗浄魔法の術式まで用意していない。
「かしこまりました。アリア様」
サー・デューイが恭しく騎士の礼を取る。……いつも割と雑に対応されているので、らしくなさすぎて違和感が凄い。
「……誰か一人、騎士を連れてきてください。ついでにこの二人の男たちも持って行っていただけると」
防御壁を解除して部屋にいた男たちを引き渡し、連れてきてもらった騎士に子供たちを預ける。
妹さんには少し抵抗されたが、やはり見た目が強そうな騎士がいるというのは安心感があるようで、ちゃんと納得してくれた。
子供たちがこの部屋に居続けるというのも障りがあるかと思ったので、もう少し落ち着けそうな他の部屋に移動してもらう。
部屋にはサー・デューイと私だけが残された。
「さて……何故あなたがここに?勝手なことをされては困ります。私の騎士以外のイクスベリー領軍の兵士はここにいてはいけないんです。……わかっているはずでしょう」
これは絶対に作戦上必要なことだ。イクスベリー領軍はイェーツ領を越えてはいけない。
「ええ。もちろんわかっていますよ。アリア様」
笑ってそう言ってからサー・デューイはその場に跪き、刃の方を自身に向け剣を掲げた。
これは……。
「……あなたはお義父様の騎士では?」
「今向こうの指揮をとっているのはイクスベリー卿ですよ。ちゃんと解任してもらってます」
なるほどお義父様もご存知なのか。……止めていただきたかったな。
「何故わざわざ……」
「貴女を守る為です」
即答された。
まぁ領で一番強い騎士が付いていれば確かに生存率は上がるだろうが、それはお義父様側にも言えることで……。
剣を捧げ持った姿勢のままじっと見つめられる。
順番が違うけれど……ここまで来られたら、他に選択肢はない。
「……ではデューイ・ドルシ。アリア・イクスベリーが騎士に叙します。……私に忠誠を誓いなさい」
私は右手で剣を受け取り、サー・デューイの右肩を打った。
「この命尽きるまで、アリア様の騎士として我が忠誠を捧げます」
命尽きるまでとか……私は貴族なのだけれど、わかっているのだろうか。
サー・デューイは最近ずっと様子が変だったが、今日の彼は一段と変だ。でも今はそれどころじゃない。
「そろそろあちらも終わったでしょうか」
「そうですねぇ。あ、ちゃんとここのまとめ役っぽい奴は残して泳がせてますよ。見張りつけてますんで、様子見に行きましょうか。イクスベリー卿も心配してるだろうし」
いつもの軽い調子に戻ったサー・デューイの後を追って、まとめ役っぽい奴とやらの所へ向かった。
******
何故こんなことになっているのか。
おかしいおかしいおかしい!
今日もいつもと同じように金づるの子供を攫ってきて、いつもと同じように処理するだけのはずだったのに。
いきなり屋敷に男が乱入してきて、仕事が一段落して休んでいた手下たちの、片手と片足を片っ端から切断して行ったのだ。
あの人間とは思えない速度は魔法によるものだろう。精密身体強化魔法が使えると言う事は最低でも准貴族だ。
これは……まずい!
とりあえず逃げようと屋敷の外に出るが、少し行くと見えない壁に阻まれた。
また魔法か!くそっくそっ!何なんだ一体!
「うあぁ!!」
少し先で同じように外に逃げようとしていた手下の片手足が切断される。
まずい!まずい!
た、助けを呼ばないと……!
俺は隠れながら屋敷に戻り、時間をかけて目立たないように通信魔道具のある部屋に向かった。
なんだこの廊下……血だらけじゃないか……。
何とか辿り着いた部屋に逃げ込み、ここに来るまでの光景に震えてうずくまると、音が鳴っていることに気付いた。魔道具の呼出音だ。
もしかしたら事態を見越してイェーツ子爵が連絡をくれたのかと思い、魔道具に飛びつく。
『何してた!さっさと出ろ!』
起動させると怒鳴り声が聞こえてきた。
いきなりで驚いたが、この領主が気難しいのはいつものことだ。とりあえず謝っておいて一刻も早く救援を要請したい。
「も、申し訳ございません。実は」
『今日イクスベリー領から攫った娘がいるはずだろう!そいつを殺して埋めろ!』
「は?え?それはどういう……」
いきなりの命令に面食らった。
イェーツ卿のイラついた声を聞いて内心かなり焦る。
もしかしてトラブルだろうか。ここで救援を断られたらたまったもんじゃないぞ!
『今イクスベリーに乗り込まれてるんだ!娘を探してるようだが、殺して証拠さえ見つからなければ握り潰せる』
「それは……隣の領の者など追い返してしまえばよろしいのでは?」
貴族同士は基本不可侵だ。俺はただの貴族の子飼いの破落戸だが、だからこそ貴族の慣習などには割と詳しい。
問答無用で追い返したところで問題にはならないはずだ。
『無理だ!その娘はイクスベリーの養女で、第一王子の婚約者だ!あいつら王家の書状まで出してきて乗り込んできやがった!娘が攫われる途中に通信魔法でイェーツの名を出したらしい!』
「そ、そんな……!」
王族の婚約者を攫ったってことか……!しかもその婚約者が住む領地から?!
そんなの、何をしたって、たとえ領地を越えたって、救出する為ということで大義名分が立ってしまう。
……もしかして、いま襲撃されてるのもそのせい、なのか?
『7つの子供が魔法などと馬鹿げている……!とりあえず娘さえ見つからなければどうとでもなる!さっさと埋めろ!』
「そんな……そんなことできるわけないだろ!こっちだって襲撃を受けてるんだ!それどころじゃねーよ!」
突然爵位持ちが襲撃してくるなんて、その娘が原因としか考えられなかった。
それなのに、この状況で娘を殺して埋める?できるわけないだろ!
『襲撃だと……?!』
「俺はもう下りる!やってられるか!命の方が大事だからな!」
『お前……!今まで目を掛けてやったのに……!』
『おや、仲間割れですか?イェーツ卿』
急に知らない男の声が混じった。誰だ……?
『お前……!アイヴァン・イクスベリー……!何故、部下と話していたはず』
『近くでよく見てないからわからなかったんでしょう。私はここで、ずっと会話を記録してましたよ。うちのアリアはそちら側にいるのかな?』
『ハッ!いる訳がないだろう。お前の勘違い……』
「はい、お義父様。アリアはここにおります」
「な、いつの間に……!」
自分の後ろから声が聞こえて振り返ると、部屋の中に小さな少女が立っていた。
イクスベリー卿の乱入に気を取られていたとはいえ、ここまで接近されて気付かないなんて……!
「こんにちは。先ほど話題に上っておりました、アリア・イクスベリーと申します。エリファレット第一王子殿下と婚約させていただいております」
「な、おま、お前……!」
場違いなほど丁寧な挨拶をされ、その身なりとは違い、中身は間違いなく貴族であることが窺えた。
こんな奴さらって来たから……コイツのせいで!
……そうだ殺せば何とかなるんだったな。
俺は先ほどの子爵の言葉に従って、現状を打破するべく行動を起こした。
「死ね!」
持っていたナイフで刺し殺そうと振りかぶっ――え?手が、無い。
そう思ったと同時に体のバランスを崩して世界が回った。
何だ、これ。
床に這いつくばりながら見上げると、少女の脇に血塗れの男がいた。
あいつは……まさかと思って見ると、やはり、あ、足が……
「う、うああああ!」
部屋にいるまだ幼いはずの少女は、こんな血まみれの惨状の中で平然とした顔で立っていた。
なんなんだこいつ……!
普通じゃ、ない……!
ああ……自分は、手を出してはいけないところに、手を出してしまったんだな……。
気味の悪さと後悔の念を感じながら、俺は意識を手放した。
最初幼女って書いてたんですけど、なんか駄目な気がして小さな少女に変更しました。
いや、たぶん駄目じゃないと思うんですけど、なんとなく……。




