38.攫われた子を助けました。
残酷な描写があります。どう柔らかく言えば良いのかわからないのでさっくり言いますが、死体が出てきます。ご注意下さい。
読み飛ばす人用に次の話にあらすじ入れますので、良ければご活用ください。
目論見通り私は、シンディさんのように袋に詰められ、馬車に乗せられ、これは本当にちゃんと道を進んでるのか?と思うほどの悪路に揺られながら運ばれた。
「ここで大人しくしてろ」
袋から出されて放り投げられた部屋には先客がいた。
扉の近くに見張りの男が一人と、部屋の隅に男の子と女の子がロープで手を縛られて座っていた。
子供達は真っ青な顔で震えている。
こんな犯罪に巻き込まれてかわいそうに……。
彼らの事はなんとしてでも守らなければ。
他にも捕らわれてる人がいるかもしれないので、とりあえず情報収集だ。
「ここは……?あなた達は、誰……?」
ガターン!
「あぁ?」
見張りの男がいきなり椅子を蹴って威嚇してきた。
なんだこいつ。子供達が怯えるだろうが。
「お前たちはぁ!これから殺されてぇ!魔石をとって売っ払われんだ!もう家には帰れねぇよ!」
「ひっ……ひっ……ママぁ……!」
男がやたら大きな声を出して来るので、恐怖が限界に来たのだろう、女の子が泣いてしまった。
「だ、大丈夫。父さん、軍の偉い人で魔法が得意だから、きっと助けに来てくれる」
自分も震えているのに、男の子が懸命に女の子を慰めようと声をかけた。
よく見るとどことなく顔立ちが似てるように見えた。兄妹か?
「ハハッ!お前お偉いさんのガキかよ。でも残念だったなぁ!ここはな、領主様の家なんだよ!わかるか?貴族様だ!貴族様が守ってくれてるから、誰も俺たちのこと捕まえられねぇし、誰も助けに来らんねぇ!」
「そんな……」
「お前らのだ〜い好きなママにもパパにももう二度と会えねぇよ!ここで!お前らは!殺される!」
声がでかいんだよ……。子供たちが怯えているし、早く終わらせたい。
とりあえずこれだけは聞いておかないと。
「……私たち以外にもさらわれた人がいるの……?」
「あぁ!お前ら以外はみ〜んな魔石になっちまったけどな!ハハハハハ!」
……何笑ってるんだクズが。
聞きたいことは聞けた。では……
ガチャ
いきなりドアが開いて大きな袋を持った40代くらいの一人の男が入ってきた。また誰か誘拐されてきたのだろうか?
「おう、あんたの指示通りちゃんと躾けといたぜ」
「ああ。じゃあ後は仕上げだな」
見張りの男の言葉に、袋を持った男がニヤリと笑った。
******
その日は朝からとても楽しかった。
家族4人で親戚の家に泊まりで遊びに来ていて、僕は母さんと妹と一緒に街へ遊びに出ていた。
父さんは親戚のおじさん達と大人の男の付き合いがあるらしい。
一緒に遊びに行けないのは残念だったけれど、なかなか来ることができない街を歩くのは3人でも十分に楽しかった。
道を歩いていると呻き声が聞こえてくる。なんだろうと周りを見渡すと通りから見える路地に女の人が蹲っていた。
「あの、大丈夫ですか?」
母さんが声をかけて恐る恐る近づいて行き、僕と妹も当然ついていく。
僕らが路地に足を踏み入れた瞬間――衝撃と共に世界が暗転した。
気がついたら僕は薄暗い部屋で両手を縛られて床に転がされていた。
うっ……頭がズキズキする……。
なんだ?何がどうなって……?
……!あれは!
「ヘレナ!」
妹も同じように転がされていて、慌てて近寄り声をかける。
「ヘレナ!ヘレナ!」
「ん……?お兄ちゃ……?」
返事が返ってきてホッとする。よかった……。
「やっと起きたかよ」
部屋に男が入ってきてドア付近の椅子に腰を下ろした
「あの……ここは一体……?」
男が急に近くにある椅子を蹴り飛ばした。
突然の大きな音に僕も妹も驚いて、体がビクッとなる。
「お前らは誘拐されたんだよ!大人しくしてろ!じゃなきゃぶん殴るぞ!」
物凄く大きな声で怒鳴られて、恐怖で動けなくなる。
誘拐?ホントに?母さんは大丈夫なのか?僕達はどうなるんだ……?
するとまた違う男がやってきて、僕達と同じように手を縛られた女の子が床に放り投げられた。
かなり雑に投げられていてとても痛そうだ……。
「ここで大人しくしてろ」
そう言って男は出て行き、女の子だけが残された。
「ここは……?あなた達は、誰……?」
困惑した様子で呟いた女の子に、またさっきの男が椅子を蹴って大きな声を出す。
僕たちは同じようにビクッとして震えていたが、女の子はただじっと男を見つめていた。
恐く、ないのだろうか?
こんな状況なのに、薄暗い部屋の中でも輝く大きなエメラルド色の瞳がとても綺麗に見えた。
少し勇気がもらえた気がして、泣き出した妹を慰めて見たけれども、助けは来ないと言われてショックで黙り込んでしまう。
助からない……殺される……。
またドアが開いた音がしたかと思うと、大きな袋を担いだ男が入ってきた。
「あんたの指示通りちゃんと躾けといたぜ」
「ああ。じゃあ後は仕上げだな」
躾……?仕上げ……?一体何だ……?
「これからお前らの魔石を取り出して売っ払うんだけどよ、やっぱ質ってのは大事でな。値段が全然違うんだわ。で、いい魔石にするのに必要なのは、少しの肉体的苦痛と限界までの精神的苦痛ってことで、ほれ」
そう言って男が床に放り出した袋の中身は、また子供のようだった。
……あれ?
「ひっ……!」
「昨日魔石を取り出した残骸だ。自分の末路が想像できて絶望するだろ?」
目をそらしたいのに、そらせない。
だらりと四肢を投げ出し床に転がり、全く瞬きせず感情を映さない瞳が、血に染まって破れた服が、その子の状態をよく表している。
上手く想像できなかった死というものが、はっきりと目の前に差し出され、強烈な恐怖感が襲った。
殺される!殺される!本当に殺される…!
僕は身体の底から湧き上がる恐怖にただ震えるしかなかった。
「そいつら兄妹っぽいぞ」
「マジかよ。じゃあ、妹の方からだな」
袋を持っていた男が妹の方に手を伸ばした。ヘレナ……!
「……ぁ……ひっ……!」
「や、やめ……」
このままじゃ、この子の様にヘレナが殺される。
助けなきゃと思うのに、恐怖で体が動かない。声すらかすれてまともに出てこない。
なんで、嫌だ!嫌だ!死にたくない!妹を殺さないで!
やめて……!
誰か、誰か助けて……!
「痛っ!……あ?何だ?」
何かにぶつかったのか痛みに声を上げて男の手が止まった。
え?
「《オールディフェンスウォール》」
急に、魔石を取り出されてしまった子の体が、真っ黒なドームの様なもので覆い隠された。
恐ろしい事の象徴のように見えていた体が見えなくなって少しホッとする。
「早く対処できなくてごめんなさい。感情が振れて魔力調整を誤ってしまったの」
声の方を見ると、僕らの後から来た女の子が申し訳なさそうな顔をしていた。え、何が起こってるの……?
「なんだこれ……変な壁みたいなのがあるぞ!殴ってもびくともしねぇ!」
「どけ!」
慌てた様子で空中を殴っている男をもう一人が押しのけ、部屋にあった椅子で思い切り殴りかかる。
とっさに目を瞑るが、その椅子も途中で何かにぶつかり音を立てて壊れた。
「嘘だろ……もしかして魔法?だ、誰が、まさか……」
「《ワインド》」
「うわっ!」
二人の男達が急にドサドサ床に倒れ込んだ。
手足の自由がきかないようで、ミノムシの様にジタバタしている。
女の子の方を見ると、その手にはスロットが握られていた。
彼女が、これを?同い年くらいにしか見えないのに。
「なんだ?!ほどけ!ぼどけよ!」
「何でお前みたいなガキが魔法なんて使ってんだよ!てかどうやってスロット隠し持ってたんだ!」
彼女はそんな男たちの怒鳴り声を完全に無視して、僕の縄を切ってくれた。
「これ、君が?ていうか君も縛られてたよね……?」
「ええ。私は魔法が使えるから。縄は引き千切ったの」
引き千切っ……え、縄って引き千切れるものなの?
「お前!こんなことして、ただで済むと思うなよ!俺らには貴族様がついてるんだ!」
「うるさい。《オールディフェンスウォール》」
先ほどと同じ黒いドームのようなものが男たちを覆った。凄い。全く声が聞こえなくなった。
「声が大きいのよ。妹さんが怯えてしまう」
女の子は震えて動けなくなっている妹の縄を切り、頭を撫でた。
「怖かったでしょう?もう大丈夫。あなた達は必ず家に送り届けるわ」
家に、帰れる?
じわっと視界が滲んだ。
妹や同い年くらいの女の子に涙を見せるのは恥ずかしくて慌てて拭ったが、妹が彼女に抱きついてわんわん泣き出したため、二人共それどころでは無さそうだった。
妹を優しく抱きとめて撫で続ける彼女の瞳は、同じ子供とは思えないくらい落ち着いていて優しくて、思わずじっと見つめてしまった。
アリアの目の色はエメラルドグリーンで、髪の色はヒロインらしくピンク色です。




