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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第二章 コイノハナシ
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幕間 -They know nothing still-

 津野(つの) 深矩(しんく)は考えていた。


 自分の怒りの矛先は、どこへ向かえばよいのかと。クラスメイトを襲撃され、いまだに帰ってこない者もいる。母親が襲われ、意識不明になってからもうずいぶん経つが、一向に回復しない。家族を、みんなを傷つけたのは誰だ? 敵の思惑は何なのだ、と。



 八百神(やおがみ) あさみは考えていた。


 次はどう動くべきかと。現状として、ミッドガルデは何のリアクションも起こさない。ひょっとすると、このまま自分たちは放置されるのではないかという予感。怪物騒ぎだけが続き、自分たち〈騎士(ナイツ)〉が使い捨てのパーツのように疲弊していくだけなのではないかと。



 千橋(ちばし) 奥菜(おくな)は考えていた。


 いつまでこの戦いは続くのだろうと。戦いを通じてかけがえのない大切な人たちと出会うことはできた。普通であれば得難い経験をいくつも積み上げ、普通よりも強固な絆を結ぶこともできた。でも、失われていく命の数が多すぎやしないか。先の見えない恐怖に対し、どうにかならないものか、と。



 八百神 いさみは考えていた。


 自分の力は誰のためにあるのかと。暴れることができたらいいと思っていた。あさみを守るための力が手に入るななおさら良いと思っていた。だが、結果としてあさみを巻き込んでしまっている。自分は何をすべきだったのだろう、そしてこれからどう自分自身と向き合ったらよいのか、と。



 玲楠(れいくす) 泰牙(たいが)も、いさみと同じようなことを考えていた。


 自分は年長者であり、本来、子供たちに代わって一人で背負わねばならないものだったのかもしれない……この変身という力は。ジオファイターズとして子供に希望を与えていた自分が、こんなに不甲斐なくてどうする。とても妻・歩帆(あゆほ)に顔向けできない、と。



 そして、堀辺(ほりべ) トールは考えている。


 自分は傍観者に徹していた。何かに気づいたとしても、考えを先送りにしてきた。相手を泳がせて様子を見るのだ、などと心の中で言い訳もした。だが、一人の少女――リアルでは少年だったが――のまっすぐな姿勢を見て、考えを改めることにした。今こそ、本気でぶつかる時なのだ、と。



「ご足労いただき、ありがとうございます」


 トールの自室に集められたのは、〈仮面の騎士(マスクトナイツ)〉の全員だった。ただし、内藤など研究班には声をかけていない。それどころか、彼らに気づかれないように、通信は一切使わず、PMSの電源もOFFにしていた。(とはいえ、緊急時のためにトールだけは着信時に自動的に起動するように設定してある)


 口頭だけで皆を集めるのは意外と苦労したが、こうして無事に全員揃うことができた。とはいえ狭い部屋の中に6人もの人間がいるわけで、皆が床やデスクチェアー、ベッドなど思い思いの場所に腰かけていた。一応家主であるトールは、気を使ったのか全員に麦茶のグラスを配ると、ドラナイ用の筐体のハッチを開け、その椅子に座った。何気に一番座り心地がよさそうな場所である。


「では、始めましょうか」


 昼から極秘のミーティングを行うことは全員に伝えてあるが、何を話し合うのかは特に伝達していなかった。それでも全員が薄々、現状と問題点に気づいており、議題を述べなくても自然と話し合いが始まった。


「ここ最近の敵の動きについて、どう思う? 俺はやっぱり巨大〈デオキメラ〉の影響が大きいと思う」

「オレもそう思う。様子見してるよなー、絶対」

「わたし、ミッドガルデが何を目的としているのかわからなくなってきたよっ」

「そもそも、一連の事件は本当にミッドガルデの仕業なのか? おれたちがそう思ってるのは、内藤の野郎が言ってたってことだけが根拠になっているだろ?」


 泰牙の発言を聞いたトールがニヤリと笑う。トールが言わんとしていたことを先に言ってくれたのだ。


「そこなんですよ。ボクらもそろそろ敵の正体について知っておくべきなのではないかと思うのです」

「今までは敵が何者だろうと、守っていく、みたいなスタンスだったよね」


 あさみの言う通り、これまでの〈仮面の騎士(マスクトナイツ)〉は敵の正体を探るようなことはあまりせず、向かってくるものは徹底的につぶす、というスタイルをとってきた。専守防衛というと言い方は格好がついているかもしれないが、実際は後手に回っているだけだった。


「正直言います。ボクは内藤さんを疑ってました」


 トールが、オブラートに包むことなく考えを直球で口にした。


「〈デオキメラ〉回収班の後を尾行したこともあります。途中で見失ってしまいましたが……」


 トールが過去にとったアクションは、この程度だ。念のため内藤に直接本拠地の場所を聞いてみても、安全上の理由で教えられない、という答えが返ってきただけだった。その受け答えから、内藤が〈騎士(ナイツ)〉を完全には信用していないことも、彼には当然理解できてしまった。その後もトールと内藤は互いに不干渉を決め込んでいる……あくまで表面上は。


「あ、それオレもやったことあるぜ? 疑うとかじゃなくて、一種のゲーム感覚だけどな。オレの時も同じで、すぐに撒かれちまったよ」


 発言の主はいさみ。どうやら彼女もまた、尾行経験があるようだ。〈デオキメラ〉を倒した後、どこからともなく現れて、死体を回収していく研究員たち。彼らの車がどこへ向かっているのか、気にならない者は少ないだろう。


「おそらく、変身状態だと位置情報が向こうへ伝わってしまうのでしょう。本拠地を探すなら、変身なしで車を追わなければならないので、不可能に近いでしょうね」

「じゃあ、現状は内藤さんを探ることは無理なのか」


 そういう深矩の発言に対し、答えたのはあさみだった。


「いいえ。まだ背後関係だとか、そう言うところは調べられるはず。津野くんのお母さんなんかは、ひょっとすると何か掴んでいたのかもしれないね。私たちが見つけたデータにはミッドガルデのことしか記入していなかったけれど、きっと別の何かにつながる情報も持っていたと思うの」

「母さんか……」


 深矩の母、双佳(そうか)の病室にあったメモリーチップには、取材メモ程度のことしか記載されておらず、内容はミッドガルデ・ホールディングスについての調査内容だけだった。自宅のコンピュータを調べようと試みたこともあったが、プロテクトがきつく、情報を抜き出すことはできていない。


「でもさーっ、深矩のお母さまがミッドガルデを調査中に襲われたっていうのはほぼ間違いないわけでしょ? ミッドガルデが黒幕っていうのでも、辻褄は合うと思うんだ。ただ、私が気になっているのは……」


 奥菜はそこまで言いかけて、しばし迷いを感じているようだった。言葉に詰まってしまったのは、これから発言しようとしていたものが本当に口にしてしまっても良いことなのか、その判断がつかないからだ。余計に場を混乱させるのではないかと思案しているのだ。


「千橋、言いたいことは言った方が良いぞ。考える頭はここに6つもあるんだから、皆で考えればいい」


 泰牙に促され、こくりと頷いた奥菜は、ようやく疑問点を皆に伝える。


「わたしは、内藤さんを信じてもいいと思うのっ。今までも良くしてくれていたし、ミッドガルデの動きはどう考えても怪しいから。それからもう一つ怪しい動きをしているのが、うちの元生徒会副会長の相楽くんだねっ。杜陸(もりおか)高校襲撃事件以来行方をくらませているし、実はわたし、彼を戦場で見かけてるの」

「――え!? それは本当なの?」


 驚いていたのは、あさみだ。それはそうだろう、戦場の周囲警戒はあさみと深矩の担当だ。特にあさみは移動能力も高く、周囲の状況把握は問題ないと自負していたのだ。もしも見落としが発生していたのだとすれば、それは無視できないミスである。


「ああ、あさみんは悪くないと思うよっ。あれは……たしか巨大〈デオキメラ〉戦だったかな。戦場から離れたマンションの上の方の階から、こっちを双眼鏡で見ている人がいたの。黒いフードの外套の男。以前一度だけ見た相楽くんも同じ格好をしていたから、きっと同一人物だと思うっ」

「なるほど、戦場外から、遠隔で……ですか」


 あの戦闘の時は、テレビ中継されてしまうほど巨大な敵だった。思考誘導波も広範囲に照射していたはずだが、明確に内部を観察する意思を持つものなら干渉はされにくい。さらに遠距離から望遠で監視されるとこちらの目も届きにくいのだ。


 遠距離武器を使うようになってから、奥菜の視力は格段に上がっていた。スコープの無い銃で正確に撃ち抜く必要があったため、自然に遠くを見る癖がついてしまったのだ。それゆえに気づいた。黒いフードの男に。


「内藤、ミッドガルデ、それからフードの男……サガラ、だっけ。ああ! もう訳わかんねーな!」

「そういえば、元クラスメイトの枯尾(かれお) 明日菜(あすな)さんも不可解な要素の一つだよな。学年替わってクラスが隣になってからはあまり関わってこないけど」

「枯尾さんね。殺害されたはずが生きていて、そしておそらく何かを知っている」

「あー。まだ考えるべき要素増えんのかよ!」


 いさみが若干苛立っているようだった。


 彼女は実のところ頭の回転は速い。高校のランクが低いのは素行が原因であり、侮ってはいけない明晰(めいせき)な頭脳の持ち主だ。情報を飲み込めていないのではなく、処理能力が高すぎるがゆえに、結論を出し切れない現状に憤りを感じているのだ。


「つまりアレだろ? その4者について、背後関係を調べなきゃいけないってことだよな」

「その通りですね。ふっふっふ、いさみさん、ここで一つボクからも有力な情報をあげましょう」

「まだ増えんの!?」


 トールは、この場に皆を集めようと決心した本当の理由をようやく提示する。皆が静まり返り、トールを見つめる。対するトールは意味ありげに――かつ無駄に間を溜めるので、いさみが彼をを足で小突いて話の続きを促す。


「痛」

「てめぇ、ふざけんじゃねぇよクソニート」

「……溜めた方が面白いかと――あいたた、すみません! 許して! ……実はですね、ドラグナイト・オンラインのモンスターに、〈デオキメラ〉の戦闘データが流用されている可能性があるのです」

「「「え!?」」」


 今の話に、ゲームをプレイしたことのある3人、つまり深矩、あさみ、奥菜が食いついた。特にあさみは一時期ゲームに熱中しすぎていたこともあり、他人事とは思えないようだ。


「それは一体どういうこと?」

「先日、圭一くん……向こうで言うところのケーティさんと水晶剣クエストに行ったときの話なのですが……」


 トールは事のあらましを話し始めた。水晶剣クエストのボス〈クオツ・アラーニェ〉との戦闘時に既視感を感じたトールは、思い当たる節をたどってみた。そして最終的に行き着いたのが、敵の攻撃モーションが

杜陸高校を襲撃した〈デオキマイラ〉とそっくりだったという事実だった。


 そこで、トールは下級クエストからボスモンスターのモーションを調べていった。すると、案の定複数のモンスターに〈デオキメラ〉のデータが流用されている疑いが強まったのだ。


「ってことは、ドラナイ運営が黒幕!? 確か――」 

「“ガンドルム・ネットワーク・エンターテインメント”。調べたところ、半年ほど前にミッドガルデに株式を買収され、実質的子会社になっているようです」


 やはりミッドガルデか! と、深矩がいきり立った。母親に危害を加えられている彼は、敵に対する憤りも激しい。一方、他のメンバーたちは心中が複雑であった。まだ不確定な要素が多すぎるため、ミッドガルデだけが悪者なのか、という問いの疑問点を解消できずにいるのだ。


 深矩に一番近い位置にいたあさみが、とりあえず彼を座らせ、トールに話の続きを促す。トールは筐体から立ち上がると、ぱん、と軽く手を打ち鳴らして雰囲気を切り替えていった。


「というわけで、ボクの中ではミッドガルデは限りなく黒に近いグレーです。ただ、他に内通する組織があるかもしれませんし、相楽くんの存在も気になります。ただ、少なくともここにいるメンバーのことは信じたい。今日は思いの丈を全部ぶつける日にしましょう。そして、今後の〈仮面の騎士(マスクトナイツ)〉の活動の方針を決めたいのです。異論はありませんか?」


 異論などあるはずがない。全員が深く大きく頷いた。


――――


――


 その後、会議は夕方近くまで続いた。


 最終的には、ミッドガルデが何らかの形で関与しているのは間違いないので、あとは周辺の不確定要素、つまり主に内藤と相楽の動向を探ることが決定された。杜陸高校組は相楽を、年長組は内藤を、フットワークの軽いいさみが同世代を中心に噂話などを調査する、という事になった。


 枯尾 明日菜の扱いに関しては慎重だ。逃げも隠れもしておらず、目立った動きがないためだ。一応杜陸トリオが警戒は続けて、必要とあらば尋問を行うことになる。


「と、まあこんなところですね」

「つかれたーっ! 帰ってお風呂はいろっと。深矩も一緒に入るっ?」

「は――入らないよ!」

「あん? 深矩、顔が赤いぜー? 本当は奥菜先輩とあんなコトやこんなコトする妄想してんじゃねえの?」

「津野。据え膳は食わねぇと男じゃないぜ」

「(じいいいいいいいーーーーーーーー……っ)」

「あ、あさみん目が怖いよ。冗談だってばっ」


 最後は和やかな雰囲気のまま解散する〈騎士(ナイツ)〉であった。


 ――しかし、結局誰も口にできなかったことがある。腹を割って話すつもりが、ついに議題に登場しなかった疑惑。これを口にしたら、自分たちの存在意義を見失ってしまいそうな疑念。積み上げた信頼も、向かうべき方角もすべて見失ってしまいそうな、そんな懐疑。




 “〈仮面の騎士(マスクトナイツ)〉そのものが、敵組織の実験の一部なのではないか”――と。



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