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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第二章 コイノハナシ
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第十二話 「ケーティの冒険」 その①

「おい、ケチャ!てめぇ何でアイテム独り占めしてんだよ」

「そう言われても、システム上これはどうしようもなくてっ」

「言い訳してんじゃねえよ!」


 リーダー格の男がケーティの腹を思いきり蹴りつける。痛覚はかなり押さえられてはいるものの、ゼロではない。内臓を突き抜けるような鈍い痛みがケーティに膝をつかせた。庇うように寄り添う彼女の騎竜。ドラゴンに睨まれ、一瞬ひるんだリーダーはそれ以上ケーティに手は出せなくなる。一方で言葉による暴力は続いた。


「みんなで倒したんだから、分け前は公平にしないとなァ!?」

「そうだ!不公平だろ!」

「みんなで倒したって……」


 もちろん敵の〈ディアウォルフ〉を倒したのはミョルニル一人の功績であり、このパーティはほとんど関係がないということくらい全員が知っているはずだ。要は、ケーティをいじるための題材がほしかっただけなのだ。


 ケーティが不服そうな態度を見せると、男たちはガンを飛ばすような仕草で彼女を威圧する。中身は学生かもしれないが、今の見た目は筋肉質な男たちである。睨まれたケーティはそれ以上何も言えなくなってしまうのだ。先ほどドラゴンに威圧された男たちが尻込みしてしまったように、人間サイドにも明確な力関係が存在している。


「やっぱさ、みんな平等になるように、お金で配分するとかしねぇとな!」

「だったら<ディアウォルフ>の角売って金に換えればいいんじゃね?」


 これは自分勝手な物言いである。このドラグナイト・オンラインにおいて金を稼ぐ手段ならば他にもある。しかし、アイテム一つ一つは貴重なもので、おいそれと手放せないのだ。それを素材に武器を作る、秘薬や秘術の材料にするなどの用途が無限にある。


 それでも、ケーティは彼らの言い分に従う他なかった。ここで従わなければ次に何をされるか分かったものではない。染みついてしまった被虐体質が、ケーティに従属という選択肢を選ばせるのだ。――それが、普段のケーティであれば、だが。


「わかったよ、パーティなんだもんねっ!みんな公平になるようにしなきゃ」

「ォン?わかってんじゃん」

「でも、この角は売れない」


 リーダーの片眉がピクリと反応する。


「なんだと?」

「これは、わたしの健闘賞なんだから。初めて、誰かに認めてもらえた証なんだからっ」

「はぁ?なにってんのお前?」


 ケーティの意外な反抗。しかし彼女の思いには誰も共感を示さなかった。いつも見下している立場の彼らには、見下されているものの気持ちなど分からないのだ。


 ケーティにとって、ミョルニルの一言は救いだった。どれだけ努力しても、どれだけみんなのいう事を聞いて、気に入ってもらおうとしても、誰からも認められない。ドラグナイト・オンラインの世界に来る前からずっとそれを繰り返してきた彼女にとって、ミョルニルの、たった一言ではあったものの、その一言でどれだけ満たされたか。<ディアウォルフ>の角は、その証であり象徴なのだ。売れと言われて売れるものではない。


「今回の報酬、実際わたしだって敵を倒したわけじゃないし、独り占めみたいになったのは申し訳なく思ってるよ。だから、別の方法で埋め合わせしようよっ」


 後ろめたさは感じている。しかし、得たものを失うのは嫌だった。ケーティの態度を見ているメンバー全員の眉間にしわが刻まれていく。しばしの沈黙が彼らを包んだ。


「……じゃあ、一つ提案なんだけどさー」


 メンバーの一人が口を開く。それに返事をしたのはケーティではなくリーダーだった。


「あ?なんだよ」

「ケチャに“水晶剣”取ってきてもらうってのは、どうよ?それを角の代わりに献上するとかさー!」


 ケーティはごくりと唾を飲み込んだ。水晶剣……その言葉に聞き覚えがあったからだ。


 始まりの街・カッセロールの領地の外れ、ケーティたちのいるこの場所からさらに北に行った森の中に洞窟がある。そこには強力な魔物がおり、ドロップするのが水晶剣だと言われている。“言われている”、というのは初心者の街で受けられるクエストにしては難易度が高すぎ、レベルを上げてからは別の愛用武器を所有するものが増えるために水晶剣そのものが注目されなくなる、という事でドロップ条件が不確定だからだ。


 噂によればあまりに圧倒的な力で立ち向かうと、アイテムを落としてくれないとか。つまり、初心者のうちに大変な苦労をした者のみが手に入れられるボーナスアイテムというわけだ。


「水晶剣って超キレーで超強えんだってな!」

「でも、その魔物ってめちゃくちゃ強いんだろ?そんなところに行かせたら……」

だから・・・じゃん。な?良くね?水晶剣売った金なら一人一本ずつ<ディアウォルフ>の角が手に入ったのと同じくらい儲かるし」


 水晶剣クエストの難易度は初心者一人でどうにかできるレベルではない。パーティを組み、作戦を立てて挑み、クリアすべきものだ。もしも一人でクエストを達成した場合、それこそ<ディアウォルフ>の角よりも売りたくないアイテムと化すだろう。


 それでもこんな提案をしてきたのは、つまり、はなから達成できると思っていないからだ。遠回しに「死ね」と言っているのだ。このゲームにおいて、死ぬという事はアカウントを初期状態に戻すという事。プレイヤーとしての自己には影響はなくとも、ケーティというキャラクターは本当に死んでしまうのだ。彼の発言の意図に気づいたメンバーたちは、いいねいいねと同調した。


「ちょっとまってよっ!わたし一人だけで!?」

「当たり前だ。“別の方法で埋め合わせしたい”んだろ?」

「だからって――」


 言いかけて、口をつぐむ。要求をのまなければ嫌われてしまうかもしれない、そんな意識がどこかでうずく。


「行ってくれるよなァ?ケーティちゃん・・・・・・・?……ッぷ!ハハハハハ!!」


 こぶしを握り締め、下唇にも血がにじむ。なんてひどい事ばかりをいう人たちなんだろう、どうして自分はこの人たちの言いなりにならなければいけないのだろう。そう言う気持ちの一方で、怖い、仲間外れにされたくないという気持ちが存在するのも確かだ。


 だからと言って、いつまでもこんな関係が続くことはケーティも望んでいない。ケーティは考える。彼らの要求を呑む一方で、自分の意思を貫くにはどうすればよいのか。


 数秒の後。決して長くない思考時間で、ケーティは決断をした。リーダーの男の目を“きっ”と見つめ、自分の気持ちを素直に口にした。


「わかった。水晶剣を取って来ればいいんだねっ。――だったら、もしクエストに成功した時は、わたしの要求も一つ聞いてほしい」

「ハァ?てめぇの詫びだろうが。なんでてめぇが要求してくんだよ」

「いーじゃんいーじゃん、ケチャの言うとおりにしてやろうぜ?どうせ帰ってこれないんだし!」


 仲間の言葉を聞いたリーダーの男は、少しの思案の後、ニヤリと笑って、


「わかった。もしお前が水晶剣を取ってこれたなら、要望を聞いてやるよ」


 と確かに宣言したのだった。



 ◇ ◇ ◇



 北の洞窟へ入るには、領主の許可が必要だ。パーティのメンバーと別れ、一人騎竜に乗り込んだケーティは、館へと移動を開始した。目的地の上空にたどり着き、竜を止め、地面へと降り立つ。不安そうな瞳でケーティを見つめる騎竜。まるでこちらの気持ちを理解しているようだ。とてもAIとは思えない。


「だいじょうぶだよ、ジオ。ちょっと行ってくるね」

「クルル……」


 ケーティは館の扉を開け、中へと足を踏み入れた。春の日差しが少し暑いくらいだったのが、途端にひんやりした心地よさへと変わった。執事の男性NPCに、洞窟立ち入りの件で認可が欲しいと用件を告げると、


「主人はただいま別の方と面会中のため、代理人が応対いたします。どうぞこちらへ」


と、応接室――複数ある客間の一つだろう――へと案内された。ゲームなのだから、領主キャラクターのコピーを配置しておけばよい話なのだが、こういう細かい描写は非常にリアルだ。フルダイブ型のVRゲームとしてのこだわりが感じられる。


 そして、クエストの手続きは実にあっさりと完了した。超難関クエストだというのに、ケーティも若干拍子抜けしたようだった。それはクエストと言っても、討伐依頼があるわけでなく、自ら志願するタイプだったからだろう。必要なのは洞窟への立ち入り許可だけ。生命の危険があることを承諾する文書にサインをしただけだ。


 帰り際、執事に呼び止められる。


「あの北の洞窟は別名“試練の風穴”と呼ばれております。討伐対象の守護獣は、洞窟そのものの意思が形を成したもの。倒しても、一定時間で復活します。そして勇気を認められた者のみが証を手にできると伝えられているのです。どうか、ご武運を」

「わかりましたっ!親切にありがとうございますっ」


 ケーティがぺこりと頭を下げると、執事も軽く会釈をした。NPCとは到底思えないほど精巧な動き、会話の流れ。科学の力って、すごい。まるで違和感を感じさせない精巧さは、運営スタッフのこだわりを強く感じさせる。


 館の扉を開けたケーティは、そこにたむろしていた3人組と目が合った。男が一人に女が二人。状況的に、先ほど領主と面会していたのはこの集団だろう。ケーティを含めて、全員が美男美女なのはゲーム的と言えるかもしれない。


「ジオ」


 ケーティは待機させておいた自分の騎竜の名を呼んだ。ファサ、と小さく羽擦れの音が聞こえ、間もなく地面の上へと姿を現した。屋根の上にでも留まっていたらしい。彼女の騎竜は正式に名前を登録した“ネームド”騎竜ではない。それでも、いつの頃からか名前を呼ぶだけでちゃんと来てくれるようになった。AIが学習したのかもしれない。


「うわっ、ドラゴンだっ!」

「すげえ……俺も早く乗りたいな」

「……かっこいい」


 ケーティの騎竜を見て驚嘆の声をあげる3人組。その反応からゲームを始めたばかりの駆け出しであると見て取れた。物珍しそうに騎竜を眺める彼らに、普段引っ込み思案なケーティも、声をかけてみたくなった。


「この子はジオって言います。良ければ、触ってみますかっ?」


 大好きな特撮ヒーローのタイトルから名付けたジオという騎竜は、ケーティに似て決して攻撃的ではない。ただし警戒心が他の個体よりも強く、ケーティの仲間たちでは触れることすらできなかった。なので今回も警戒されてしまうと、ケーティは内心思っていたのだが……


「うわあっ!可愛いねっ!よしよし、いい子いい子」

「クルルル」


 ピンク色の髪の少女が近寄ると、ジオは自分から頭を下げて撫でてもらう姿勢を取った。頭を撫でられて、気持ちよさげに目を細めている。初対面の人に対して無防備な姿をさらす騎竜の姿に、主であるケーティも少し驚いていた。


 ピンクの少女が特別になつかれやすい、というわけではなさそうだった。続いてジオに触れた赤色の髪の青年も、紫の髪の少女も、同様にすんなりと受け入れられていた。


 ひょっとして、単にパーティメンバーの方が嫌われているだけのでは?と、ケーティの脳内に一瞬考えがよぎるが、ブンブンと頭を振って、それを振り払った。いくらなんでも仲間に失礼だろうと思ったのだ。


「お姉さんたちはドラグナイト・オンラインは始めてどのくらいですかっ?」


 ケーティが尋ねる。自分が中学生なので、それより年下はないな、という事で“お姉さん”という表現を使った。もっとも、ピンク色の少女は同い年くらいにも感じられるのだが。


「私たちは今日始めたばかり。今は薬草関連のチュートリアルが終わったところで、一度お昼休憩にしようと思ってたの」

「そうなんですね……あ、そう言えばもうこんな時間か」


 ケーティは言われて初めて自分も腹が減っていることに気付く。ゲーム内での飲食は味による満足感はあるが、空腹感が満たされるのはほんの一瞬。幻覚のようなものに過ぎない。なので一度ログアウトして現実世界できちんと食べなければならない。また、排せつの問題もある。基本的には1~2時間程度に1回は休憩を挟むのが良いと言われていた。


「腹減ったなぁ。ミョルニルまだかな」

「わたし先にログアウトしようかなっ。簡単な料理作って待っとくよっ」

「クナ、ミョルニルの家のキッチン勝手に使うのはダメじゃないかな」


 彼らの会話の中に聞き覚えのある名を聞いたケーティは、騎竜の件に続き、2度目の驚きに目を見開いていた。自分たちを助けてくれたミョルニルの、おそらくリアルの友人たちなのだ、この集団は。


 頭の回転が遅くはないケーティは、驚くと同時に、状況を整理していた。すぐに合点がいく。ハイランカーのミョルニルがこんな辺境の街にいた理由、そしてあの平原に来ていた理由。きっと、仲間のために何かの素材を集めて回っていたのだ。


 しかし、何という偶然だろうか。偶然というのは3回以上重なれば、それはもう“奇跡”と同義らしい。ミョルニルがカッセロールにいるのには理由があったにせよ、彼自身と遭遇するのは2回、そして仲間たちに出会ったのが1回。この広いドラグナイト・オンラインの世界において、それはまさしく奇跡だった。


「あ、あのっ!」

「は、はいっ?」

「ミョルニルさんの、ご友人の方なんですよねっ?わたし、あの人にちゃんとお礼を言わなきゃって。ここで一緒に待っていても良いですかっ?」



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