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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第一章 コトノハジメ
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第六話 「戦う意思」 その②

「少年のばか、少年のばか、少年のばかぁーっ」

「なに、先輩まだ言ってんの?」


 ソファーの上に膝を抱えて座り、顔を隠すように埋めてぶんぶんとポニーテールを左右に振っているのが、今は桃色のトレーナー姿に着替えた奥菜おくなである。今日ここに来た時点では制服だったはずなのだが、どうやら事務所でも着替えられるようになっているらしい。


 戦闘終了後、ひどく疲弊していた奥菜は、着替えもそこそこにソファーに横たわった。自分は少し休むから、と言って他のメンバーが帰るのを見送った後、完全にリラックスモードに突入していたようだ。


 そんな折、気を許しかけていた深矩しんくに恥ずかしい恰好を見られてしまったわけで。


「何があったかは知らないけどさ、先輩元気だしなって!」

「うう……っ。ぐす……っ」

「子供か!」


 今はメンバーが緊急招集され再び集まりつつある段階だ。いさみが事務所のドアを開けたとき、その場の状況を把握しきれず困惑、とりあえずぐずっている奥菜をなだめにかかっていた。


「で、先輩がこんなになっている原因はコイツ・・・で間違いないんだよな?」

「それはそれはラフな格好をしているところを見られたからね。」

「はうぅ」


 あさみはうなだれる奥菜の横に腰かけている。慰めの言葉をかけるわけではないが、彼女の頭を優しく撫でてやっていた。いつも通りの無表情だが、心なしかその目は優しさを携えているようだった。


 あさみはこういう人間なのだ。一見クールかつドライ、どこか人間味がないように見える。そのために彼女をよく知らない人からは勘違いされることも多いが、その実相手のことを本気で思いやることができるのだ。自分が当事者に近い立場にあっても、どこか他人の目線を持ち、その人が置かれている状況がよく見える。相手に厳しい言葉を突きつけることもあり、そのことが余計に冷たい人間だと思わせてしまう。


 奥菜の、結い目へと向かう髪の流れに、ゆっくりと手を沿わせるあさみ。包み込まれるような柔らかな手つきに、徐々に奥菜も落ち着きを取り戻す。顔をあげてあさみを見ると、にっこりと微笑んで見せた。


 ――ありがとう、あさみんはやさしいね。


 聞こえるか聞こえないかくらいの微かなつぶやき。二人の微笑ましい情景を眺めるいさみも、口元をわずかに綻ばせるのだった。


「ところでトールは何してんだ?呼び出しかかってから結構経つよな?てっきりオレの方が遅くなるかと思ってたぜ。」

「なんかオンラインゲームのクエストが終わるまで待ってくれって。そろそろ来るんじゃない?」

「チッ、あのマイペースニートめ。」


 いさみは組んでいた腕を解いて腰に手を当てると、やれやれ、といった様子で深く息を吐く。どうしてこの組織にはまともな奴が少ないんだろう、と彼は心内でつぶやく。何を隠そう彼もそのまともではない奴の一人なのだが。


「もがもがもが」


 窓辺近くから、えらくくぐもった声が聞こえてきた。


「あ?なんだてめぇ言いたいことあんのか?」


 いさみがその声に反応する。相手は、パイプ椅子に麻紐でグルグルに縛り上げられ、口をガムテープでふさがれた津野つの 深矩しんくその人である。初めに拘束されていた時よりもより強固に緊縛されていてミノムシのよう。これは無論奥菜の手によるものだ。なおガムテープで口をふさいだのはあさみである。ついでにいたずらで鼻もふさいでやろうかと思っていたのは秘密である。


 いさみは深矩のガムテープをむしり取る。一部分だけでも拘束から解き放たれた深矩は、ため息のあと大きく深呼吸をする。


「ありがとう、口だけとはいえ少し息苦しくてさ。」

「あっそ。で、なんか言いたかったんじゃねぇの?」


 いさみが催促すると、深矩は

「トールって人、ニートなの?なんか洞察力鋭いし、仕事できそうな感じに見えたけど。」

と尋ねた。“マイペースニート”という言葉が何やら引っかかったようである。


「あームリムリ、あいつに仕事は。洞察力っていうか観察力?は高いんだけど、興味ないことには一切手を出さないし、人の気持ちを見抜きはするけど、物事の裏を考えることは放棄してるからな。」


 興味を持てないことには手を出さない、という部分は深矩にも共通することであった。それは本人の意識の中の問題であって、他人にはあまり見せないようにしてきた深矩の隠れた一面でもある。引っ越し族ゆえに友人があまりできず、自分の殻にこもりがちだったことに起因しているのだが、そういう意味で自分とトールはひょっとして似た者同士なのかもしれないと、深矩は考える。


 ただし深矩はどちらかというと物事を深く考え込みすぎるほうなのだ。性質は似ていても性格そのものは大きく違うともいえる。


「それにしてもオンラインゲームね。一度やってみたいかも。」

「えー。少年がトールみたいになったらヤダかんねっ。」

「同感。アレが感染うつるのはちょっと困る。」


 あさみと奥菜の両名は、トールについてかなりマイナスの印象を抱いている様子。しかも、この場の誰もが彼より年下であるというのに誰も敬称を付けては呼ばないのだ。


「なんかトールの扱いみんな酷くないか?」

「そういう津野くんもトールに対してはドライだよね。」

「まあ、それは自覚してる。」


 深矩がトールに対してフランクかつドライに話せる理由は、すでにトール本人にも伝えた通り、ネコを被る必要性を感じなかったからでもある。


 衝撃的な事件のせいもあり、今の≪仮面の騎士マスクトナイツ≫相手には自分を着飾ることなく対応しているものの、初対面の相手にいきなり素を見せるほど、深矩の神経は図太くない。転校初日に勇気を出して自分から声をかけるという儀式は、あくまでも早く素の自分を出せるようにという環境づくりの意味合いが強い。あくまでも布石であり、やはりはじめは一歩引いた対応しかできないことに変わりはないのだ。


 きっとトールという人物は、相手の真の感情を引き出す天才なのかもしれない。≪騎士ナイツ≫のメンバーたちも、口ではトールをめちゃくちゃに言うが、誰も彼のことを嫌っていないのは一目瞭然である。やけに楽しそうにトールの話をするからだ。


「そうそう。こないだここでね、トールとわたしでミステリー映画見てたのっ!ほら、臨時休校になって暇だったし。そしたらさ、開始10分くらいで犯人言い当てちゃうからつまんないのっ!」


 気が付けば奥菜の機嫌はすっかり元通り。ニコニコ顔でトールとのエピソードを深矩に言って聞かせる。いさみも聞いたことのないエピソードだったようで、へぇへぇと頷きながら話に聞き入っていた。


「『あ、これ犯人はたぶん○○まるまるさんですよ』みたいな感じで。しかも結局本当にそいつが犯人!」

「まあ、ボクの得意技ですからね。」

「得意技なのは別にいいけどさーっ、肝心のトリックについては興味なし!逆に全然考えようともしないの!おかしくない!?」

「おかしくありませんよ、トリックについては演出上終盤まで明かされない仕掛けとかありますし。」

「だけど……ってうきゃぁ!?」


 いつの間にか真横に座っていたトールに驚いて地面へと転がり落ちる奥菜。驚いたのと体を打ち付けてしまったのとで涙目になっている。


「もうやだ、今日こういうの多すぎないっ!?」


 不満をたれる奥菜。


 だが他のメンバーからすれば、トールは堂々と扉から入ってきて、あさみに場所を譲ってもらい、ソファーに腰かけたようにしか見えていない。単に奥菜の注意力が著しく低いだけ、そして奥菜の注意が自分に向いていないことに気付いていたずらを仕掛けたトールの思い通りに事が運んだだけ、という話である。これには周りもあきれ返る以外に反応のしようがない。


 トールは地面に転がる奥菜を抱え上げてもう一度ソファーに座らせる。一度は立ち直ったかに見えた奥菜が、またもや膝に顔をうずめてポニーテールをふりふりし始めた。本当に今日は落ち込みっぱなしである。深矩以上にこの日を厄日だと感じているかもしれない。


「ところで、深矩くん。それは何のプレイですか?」


 緊縛状態の深矩になぜそうなったかを尋ねる。深矩は気まずそうに苦笑いし、眼をそらすのみであったが、あさみが代わりに返答をした。


「津野くん、奥菜先輩のあられもない姿を覗いてしまったの。」

「なんと!あられもない姿ですって!」


 とーるはわざとらしく驚いて見せ、

「……ぜひ、kwsk(くわしく

「てめぇふざけてんなよ、いい加減にしろ!!」

と、いさみに締め上げられるのであった。


「あさみんも人をダシに遊ばないでっ!」

「ふふ、ごめんなさい奥菜先輩!」



――――――


――――


――



 さて、こうして二人の簀巻すまき人間が完成したところでいよいよ本題へと移る。議題の発起人は、もちろん深矩である。


「俺を、仲間に加えてくれないだろうか。」

「何言ってんだよ、お前もう関わらないってついさっき言っただろうが。」

「事情が、変わったんだ。」


 たった数時間での心変わりに戸惑うメンバーであったが、深矩はその数時間の間に何が起きたのかを事細かに説明した。謎の人物からの電話こと、母親の意識が戻らないこと、病院で見た母・双佳の取材メモのこと、ミッドガルデに関わっている可能性が非常に高いこと、そのために今力を欲していること。


「ミッドガルデ!?じゃあ、お前の母親は……」

「頼む!奴らに一矢報いることができるのなら、何だってするから!」


 変身のできない深矩に、怪物を倒すことはできない。それでも今日のように何らかのサポートができる可能性が僅かでもあるなら、それが母親への仕打ちに対する復讐にもつながるのではないか。また、変身できなくても武器は使用できるはず。だとすれば、直接相手に手を下せるようなことも今後あるかもしれない。


 しかし、それはあまり現実的な話とは言えなかった。≪騎士ナイツ≫の皆も、難しい顔で考え込んでしまっている。無理を言っているのは、深矩も重々承知している。それでも受け入れてもらえるかどうか。


「今、“何でもする”って言ったよな。」


 いさみは深矩の縛られているパイプ椅子の前まで歩み出ると、深矩の胸倉、正確に言えば深矩を縛り付けているロープの一端を掴んだ。


「じゃあてめぇは死ねつったら死ぬのかよ?」


 あえて高圧的な態度を見せているのだ。この程度でビビっているようでは不合格、しかし深矩は動揺することなくいさみの瞳を見つめ続けている。質問された内容に関しても、特に悩むことはないようだった。


「それで、敵を倒すことに繋がるなら。」

「――ッハハハハハ!まじか!」


 彼の言葉に対し、大爆笑で返答するいさみ。


「いい感じに狂ってやがるなコイツ!!おもしれぇ!

 ――で、どうするみんな?オレは別に仲間にしても良いと思うぜ。下手に泳がせとくより手元に置いといたほうが監視しやすいしな。」

「その点はボクも同感です。ただし、条件付きですが。」


 かたん、とトールの縛り付けられている椅子が揺れる。何らかのアクションを取ろうとして、結局動けなかったのだろう。少しの咳払いのあと、トールはそのままセリフを続けることにした。


「死んでもかまわないという今の返答にとても違和感を覚えます。深矩くん、君は一体何を考えているのですか?」

「何とは?」

「こう言っては何ですが、あなたのお母さんは亡くなったわけではない。体も無傷だということでしたよね?それなのに何が君をそこまで駆り立てるのですか?」


 深矩は少し考える。言いつくろう方法を考えているわけでも、自分の心に迷いを抱えているわけでもなく、単に“どこまで話せばよいのか”を考えているのだ。それは、津野 深矩という少年の半生を話すことに他ならないからだ。


「俺にはさ――」


 深矩の背負っているものは、決して軽いものではない。


「――家族のほかに、何もないから。」




 深矩には、幼いころの記憶というものがほとんどない。


 彼の父親はずいぶん前に事故で亡くなったらしい。らしい、というのは父親の思い出すら何も残っていないからだ。幼少期の写真や父親の写真などはすべてデータロックをかけて閲覧できないようにされている。


 自宅に飾られている写真はすべてごく最近のものだ。その理由も深矩はよく知らないし、それを尋ねようとすると、決まって母親は何かを隠すようなそぶりを見せるのだ。まるで過去のことなど思い出したくもないように。


 母親は女手一つで深矩を育て上げたが、父親が亡くなった当時、実家には祖父母もまだ健在であった。そのため仕事が忙しくなったり長期出張などが重なったりすると、深矩は祖父母の家で過ごすことになった。いつも決まったところに住んでいるわけではなく、祖父母の家と借家とを行き来しながら育ったために、特定の友達はいない。遊び相手は、もっぱら祖父母であったはずだ。


 はずだ、というのはそのころの記憶も深矩の中に残ってはいないからだ。


 その祖父母が病気でいなくなってからは、いよいよ転勤に伴う引っ越しを繰り返すようになる。一つのところにとどまることが無い孤独な生活。家に帰っても、母親は仕事でいないことがほとんどだった。


 趣味と呼べるものもほとんどなく、いや、正確には趣味自体はあったのだが周りの流行り遊びには付いていくことができず、結局自分という殻にこもっての一人遊びが増えていった。表面上だけクラスメイトに合わせ、自分を偽る毎日。そんなだから、引っ越すとともに付き合いも消滅する。


「俺にはさ、母さん以外に家族はいないし、家族以外につながりもない。熱中できる何かがあるわけでもなくて……だからこそ、たった一つの大事なものを奪われそうになった、そのことだけでもう俺の心ん中はぐちゃぐちゃなんだよ。」

「そう……だったんだね。」


 深矩の告白に、あさみも何か思うところがあったようで、じっと話に耳を傾けていた。


「わかりました。」

と、トール。


「深矩くん、やはり君は≪仮面の騎士マスクトナイツ≫に加わるべきじゃない。」

「何!?」


 深矩がパイプ椅子を大きく揺らし、椅子ごと倒れそうになる。昼間の二の舞になるかと思いきや、今度はそばにいたいさみが椅子を支えたので大事には至らなかった。


「あの……ごめん。ついカッとなって。」

「や、別にいいんだけどさ。なんかすっげぇ重い話してんのに二人ともミノムシ状態とかシュールだよな!!はは!」

「――うるせえよ。」


 深矩は半目になって文句を垂れる。


「えっと、いさみさん。遮ってもいいです?……ともかくですね。今の深矩くんは危険なんです。とても危うい。自分の身も守る気がない人に、誰かの命も預けられますか?」

「それは……そうだよな。オレもそう思う、けど。」

「でもこのまま少年を放っておくわけにもいかないでしょっ?」

「何か考えがあるんだね、トール。」


 ふっふっふ、と怪しげにほくそ笑むトール。もっとも緊縛状態でその表情をされると変態にしか見えない。


「ずばり、サポーターとしてならば参加してもらって良いのではないかと提案します。前線にも出さず、武器も持たせません。要は人払いや通信補助など、あさみさんのお手伝いですね。」


 なるほど、と≪騎士ナイツ≫たちは納得する。≪デオキメラ≫に対処するために、人払いはどうしても必要。ある程度は内藤たちがサポートしてくれるが、学校事件のような緊急事態や、それに付随する深矩のようなイレギュラーが今後も現れないとも限らない。


「逆にあさみさんを前線にも出せますしね。」

「私、変身できないんだけど。」

「オレは知ってるぜ、あさみ。お前が誰よりもヒーローにあこがれてることも、そのためにトレーニングを積んでいることも。」

「……。」


 あさみは押し黙ってしまう。


「とはいっても、やはり変身せずに戦うのは危険ですので、どうしても必要な時に限るとは思いますが。こちらがとりうる手段も、そろそろ増やしたほうがよさそうですし。」


 確かに今回の裏通り戦では、あさみの力なしでは戦いを優位に進めることはできなかっただろう。もしそんな状況が次に訪れたとき、そのうえで通信や避難誘導が必要になったのなら、動かすべき人間がもう一人必要になる。


「後衛専門。それでもやってくれますか?深矩くん。」

「でも、それだと……。」


 深矩は力がほしかった。せめて武器が獲得できるならと、そういう算段であったのだ。この条件では深矩が戦いに直接関与するのは非常に難しくなってしまう。それで、母親に報いたことになるだろうか。少なくとも深矩の考えからは外れてしまう。


「少年、さっき“何でもやる”って言ったよね?(にやり)」

「う。」

「てめぇ、まさか後衛は“何でも”に入らないとか言わねぇよな?(にんまり)」

「ううっ」

「津野くん、有言実行。諦めなさい。(にっこり)」


 深矩は、いまさらになって自分の軽率な発言を悔やむのだった。


 ともかく、深矩が条件付きで≪仮面の騎士マスクトナイツ≫の一員となることはほぼ確実となったのである。残る問題がなくはないが、この場にいるメンバーはほぼ納得できたといえよう。


「問題は、内藤。」


 残る関門は、元締めともいうべき謎の男、内藤 霧斗の許諾を得られるかどうか。その1点のみが気がかりであった。


第五話までが同時進行感を出すために視点移動が多かったので、意識して場転しないように心がけました。

次話は一回目のネタばらしというか、説明回になります。

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