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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第一章 コトノハジメ
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第五話 「RAPTOR-ラプトル-」 その①

 目の前で繰り広げられる異次元の戦い。深矩しんくの目は戦闘の動きにやっとついていける程度。一般人である彼がかろうじて状況判断ができるだけでも賞賛すべきなのかもしれない。


 もっとも、「何が起きているか」はなんとなく把握できるだろうが、では実際にあの場所に交じって戦えるか、と言われれば絶対に不可能。今は≪騎士ナイツ≫の面々が各個体を押えてはいるものの、巻き込まれたら深矩ではひとたまりもないだろう。


 さらに状況は≪騎士ナイツ≫側の劣勢に見える。体長5メートル、体高2メートルの親個体は、あさみとブルーの少年の二人がかりでやっと抑えられている状態だ。周りで全長2メートルの小個体と戦っている他のメンバーは、ちょこまかと跳ねまわる相手に翻弄ほんろうされていて有効な一撃を繰り出せずにいる。


「ちょっと!こいつらすばしっこすぎないかなっ!?」

「なかなか……ッ!おっとっと危ない。……なかなか有効打が決められませんね!」


 とはいえトールは若干優位である。なんと同時に2体の小個体を相手取っていて、うち一体にはダメージを与えつつあった。小個体の爪が、トールのハンマーを防ぐたびに数本ずつ破壊されていくのである。それでも2体からの同時攻撃では、決め手に欠ける。観察眼の鋭いトールは今も必死に相手のクセを探っているのだろう。


 奥菜は1体の小個体と戦っている。普段は銃撃メインの戦いをしているため、近接戦闘は苦手の様子であった。杜陸高校の事件の際も、敵の怪物に弾き飛ばされるという近接での失態が目立った。ピッケルのような形状の武器を手に、必死の防戦である。


 しかし奥菜は恐竜の勢いに押されてトンネル内にまで追いつめられる。

そこにあった男性の死体――下半身しかないが――を踏みつけてしまい、体勢を崩し、ついに尻餅をついてしまう。


「ヒッ――!?」


 間一髪、先ほどまで奥菜の首があった位置に鋭い爪の一閃。体勢を崩したのが幸いして、奥菜は恐竜の攻撃を回避することができた。すぐに体を起こし、今度は恐竜に向かってタックル。逆に恐竜をトンネル外へと弾き飛ばすことに成功した。


「喰らえっ!」


 素早く武器を可変させた奥菜は火球を発射した。やはり銃での戦闘ならば板についている。火球は正確に小型の恐竜へとヒットした。


「よっしゃっ!まずは一体……」


 異変に気付いたのはすぐであった。全恐竜の視線が、奥菜の方へ向いていたのだ。今まで相手にしていた≪騎士ナイツ≫それぞれを無視して、全員が奥菜へと襲い掛かった。


「危ない!!ピンク!!」


 トールがピンクを横から突き飛ばし、襲撃から逃れさせようとしたが、恐竜たちの視線はまだ奥菜に向けられていて、動きに急制動をかけてターン、再び奥菜に襲い掛かった。


「先輩!!」


 今度はブルーが奥菜に跳びかかり、がっしりとホールド。身を挺して彼女を守る。おかげで奥菜はケガをせずに済んだが、代わりにブルーが軽い傷を負ってしまった。仮面の球面部にひびが入り、そこから流血しているのだ。


 恐竜たちは追撃をかけようとしていたが、すかさずトールとあさみが間に割って入り、それぞれの個体を相手し始めた。


「ブルー……血がっ!!」

「へーきへーき、こんなの。それより1体やっつけたな!ナイスだぜ先輩!」


 ブルーは立ち上がると、トールと共に親個体の相手をし始めた。奥菜は残る小個体を討伐しようとあさみのもとへと駆けつけるのだった。



一方、深矩はトンネルから表通りの方へと退避していた。道路の真ん中、中央分離帯のあたりまでやってくると、しゃがみ込んでしまった。そこはかろうじてトンネル部の様子がうかがえ、裏通りの様子が見え隠れする位置。かつ、絶対安全圏。つまり、恐ろしくなって距離を取ったのである。


 奥菜が男性の死体を踏んでしまったとき、その死体から血液が絞り出されるように噴いた。それを見て深矩はこう思ってしまったのだ。すなわち、これは数秒後の自分の姿なのかもしれないと。深矩は思い出していた。目の前でクラスメイトが殺されたときのことを。自分も殺されかけ、大河おおかわ じんに命を救われたときのことを。


 命の危機だということを実感し、深矩をその場に留まり続けさせているちっぽけなプライドが風で吹き飛んでしまいそうだった。逃げたい、でも見届けたい、でも逃げたい……その迷いの結果がこの後退である。


「くそ……っ、なんて情けないんだ、俺は!!」


 この事件に関わってからいい所を見せられていない。何をするにしても力不足、かつ認識不足で自分を追い込むような状況にしかならない。誰かを救うことも、自分を納得させることもできない。


 深矩はまじめな男だった。真剣に考えすぎてしまい、普通ならば簡単に見いだせる逃避という思考にまで至ることがない。“何かできるはずだ、どうにかなるはずだ”という考えが余計に自らの無力を思い知らせ、考えがまとまらないのだ。


   「 お前は、本当にそれでいいのか? 」


頭の中に、突然声が聞こえた。


   「 いつまで経っても決断できない、そんな男でいいのか。 」

「うるさい……お前に何がわかる!」

   「 ――わかるさ。だから言っているんだ、お前は、覚悟一つ決められないのか? 」

「覚悟……」

   「 逃げるのにも覚悟がいる。立ち向かうのにも覚悟がいる。だったら、後は選ぶだけだ。 」


 逃げるための覚悟、それはかつて深矩自身がクラスメイトに口にした言葉だ。


   「 選べよ、津野 深矩。 」


 頭の中に響くその声は、深矩に選択を迫っていた。ごちゃごちゃと考えのまとまらない深矩に、つまるところ二つしか道はないのだと、そう教えているのだ。


 前にも一度、こんな風に声が聞こえたことがあったと、深矩は思い出す。


「お前は、なんなんだよ。学校の事件の時もこうやって俺を導いただろ?」

   「 俺は、お前自身だよ。 」

「俺……自身。」


 そこまで言われて初めて気が付いた。深矩の頭の中に響く声は、深矩の声に他ならなかったのだ。つまり、自分自身の心の迷いや葛藤が幻聴となって聞こえてきたものに過ぎないのだ。それに気づいてからは頭の中の声はぴたりと聞こえなくなる。心は道を示した。ならばあとは頭がそれを選択するだけだ。心の役割は終了している。語りかける必要がなくなったのだろう。


「―― 一回だけだ。」


 深矩は一人、つぶやいた。目を閉じ、今言った一言を頭の中で反芻はんすうする。今自然に口に出た台詞こそが深矩の選び取った選択肢そのものなのだから。


「一回だけ、この一回だけを頑張って乗り切って見せる。あがいて見せる。そこで真実を見極めて、それでおしまいだ!あとは絶対に関わらない。それでいいじゃないか!!」


 敢えて大きく叫ぶことで自らを鼓舞こぶする。覚悟は決まった。さあ、行こう。“何かできるはず”と迷っている暇があるなら、“では何をすべきか”を具体的に考えろ。それが、深矩の見せた意地であった。



 いつか奥菜が深矩に言った。

――君は、指揮官タイプなのかもねっ!


 トールという男はかなり鋭い観察眼を持っているようだったが、自分自身が戦場に居て一人称視点でしか周りを見ることができない。深矩は戦闘員ではない。ならば、三人称視点から戦場を俯瞰ふかんし、適切なサポートもできうるのではないか。


「まずは観察しよう。戦場を一望できる場所は……?」


 深矩はぐるりとあたりを見回すが、高い建物のなかに良い場所がない。リニアやハイウェイの高架橋が視界を遮る位置に来てしまうからだ。最適な場所と言えば、トンネルを抜けた先にあるマンション。しかしそこへ向かうには戦場を横切るか、リニア路線の連絡通路を探しながら迂回するしかない。


「ま、そうするしかないよな……」


 とにかくレールの向こう側へ行こうと、深矩は走り出した。




 ◇ ◇ ◇




 “恐竜”のうち一体を倒した、それは思い違いであったということに一同が気付くのにはあまり時間はかからなかった。≪デオキメラ≫は体内にある紅玉コアを破壊しなければ、徐々に傷を回復させてしまうのだ。体の表層を炎で焼かれた程度では、回復を遅らせることはできても回復そのものを止めることはできない。5分もあれば完全に傷はなくなるだろう。


「あいつ、また動き始めたよっ!?」

「ち、やっぱ一体一体に紅玉コアがあるってわけかよ!」


 ≪デオキメラ≫は通常、1体ずつしか現れない。今回のように複数個体が現れたのは初めてだった。今回は明確な親個体がおり、小個体は子供に当たる。ただ、同タイプの雄を確認していないため、純粋な生殖行動とは違うはずだ。


 杜陸高校の怪物が触手などを駆使したように、小個体というのは恐竜という≪デオキメラ≫固有の“能力”の一つだと思われた。そのため小個体は親個体の「武器」に過ぎず、破壊すれば回復はできまいと、≪騎士ナイツ≫の面々は考えていたのだ。


 だが、再生が始まった。つまり、紅玉の効果は小個体にも及んでいる。親とは物理的に距離の空いている状態で回復し始めたということは、小個体にも紅玉コアがあるということに他ならないのだ。


「おいグリーン!!話が違うだろうが!!」

「ボクに文句言わないで下さいよ!あくまで予想だって言ったじゃないですか!」

「そうだけどさ……おっと!」


 ブルーは親個体の噛み付き攻撃を回避。だが死角にあった小個体のしっぽに直撃してしまい、ダメージを負う。


「グッ――!」

「ブルー、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だレッド。……ったく、この仮面ヒビ入ったせいで前がよく見えねぇ!一回取ったらダメか!?」

「鎧の一つ一つが制御装置も兼ねてるって、内藤が言ってた気がする。」

「そんなこと言ってたっけ?……自動修復機能とかねぇのかよ。」

「一度変身を解除してからなら再構築できるかもしれないけど、危険だね。」

「……だな。」


 戦闘中に装備を解除するのは非常に危険な行為である。まして、相手は超反射神経と敏捷性を併せ持つ恐竜型≪デオキメラ≫。一瞬とはいえ装備なしで戦うのは自殺行為に近い。


「――ごめんレッド。お前まで戦闘に巻き込んじまって……」


 ブルーがそう謝ったのは、あさみが非戦闘員のはずだからだ。もっとも、あさみの体術のレベルはこの4人の中でもずば抜けて高い。これで非戦闘員だという理由は……。


「大丈夫。変身できなくても、あの小さい奴なら何とかできそう。」


 4人の中で、あさみだけが生身で戦っているのだ。それも変身しない・・・のではなく、変身できない・・・・という理由で。変身せずに戦うのが自殺行為だというなら、その状態で戦い続けているあさみの能力や精神力が伊達ではないということだ。


「わかった、一体は任せる!」


 ブルーの少年は、そう告げると親個体と戦っているトールの元へと戻っていく。あさみが言うからには大丈夫なのだと、全面的に信頼しているのだろう。


「ごめんグリーン!さすがにきつかったろ?」

「当然ですよ!親と子を同時に一人で相手するのは、まずいですって!」

「こっから2対2だぜ。レッド達の方へは逃がさないようにしないとな。」

「わかってますよ。……ブルー、この恐竜たちですが、時々視線が別の方向へ向くときがあります。ただ、条件がわかりませんからよく観察しておいてください。」

「了解!」



 こうして戦闘は続行される。何とかして敵の肉をそぎ落とし、紅玉コアを破壊しないとこの状況は延々と続いてしまうだろう。


 現在の状況は、あさみが小個体1体と戦闘中。この個体は戦っている本人たちはもう忘れてしまっているかもしれないが、卵から孵る瞬間を目撃された一体である。仮に個体Aとしよう。


 奥菜も小個体と戦闘中。はじめは別の小個体と戦闘を行っていたが、現在は再生し、復活を始めた個体との戦闘へ切り替わっている。この個体をBとする。残る小個体Cと、親個体を2:2の状況で相手しているのがトールとブルーだ。


 あさみ ―― 個体A

 奥菜  ―― 個体B(復活個体)

 トール&ブルー ―― 親&個体C


 その状況は、大きく迂回して別の連絡通路トンネルから裏通りへとやってきた深矩にも見て取れた。ここに来てようやくあさみだけが変身していないことに気づくが、彼にその理由を推し量ることはできない。理由を考えるのは後にして、今は戦場を眺めることができる、マンションの階段を上ることを優先すべきだ。何階以上なら安全なのかは見当もつかないが、少なくとも3階より上にはいきたい。


 マンションの入口は戦場のすぐ脇にあった。“恐竜”の卵があった場所、その植え込みのすぐ裏手が通用口になっているのだ。果たして気づかれずに向かうことができるだろうか。それとも、他の入口を探したほうが良いだろうか。


(ええい、もう考えるのはやめよう。恐竜たちの目の動きは、戦っている≪騎士ナイツ≫に向けられている。だったら、植え込みの陰に隠れるようにして進めば、今は安全に抜けられるはずだ!)


 そう考え、近づいた時である。


「キャアアアッ!1」


 奥菜はやはり近接戦闘は不得手なのだろう。小個体Bが突然足元から奥菜の頭の方へ向かって跳躍、驚いた彼女は大きくのけぞってしまった。その隙を突いたわけではなく、これは偶然だったのだろうが、小個体Bは奥菜の首に取り付けられていたアーマーの一部をはぎ取ってしまったのだ。


「チェンジャーが……!!」


 実はそれが変身デバイス。深矩は一度、椅子に縛り付けられたときに変身の瞬間を見ているのでそのことを知っていた。


 弾き飛ばされて宙を舞う変身デバイス。恐竜たちの視線が、一斉に奥菜の方へと向かった。そして、一斉に襲い掛かる。奥菜が一斉攻撃を受けるのは2度目である。が、チェンジャーを取られた≪騎士ナイツ≫は変身が強制的に解除されてしまう。先ほどの攻撃とは異なり、無防備な状態で攻撃を受けることになる奥菜。


「いや、いやああああっ!!!」


 絶体絶命、否、もはや絶対・・絶命とも言うべき状態へと陥った奥菜はパニックに陥り、地面を這うようにして遠くまで弾き飛ばされたチェンジャーの方へと手を伸ばす。その背後からは恐竜たちが跳躍し、爪を突き立てようとしていた。


「奥菜先輩!!」


 跳び込んだのは、あさみであった。奥菜の一番近くで戦っていたのが彼女だったからだ。本名で呼んでしまったのは、彼女の余裕のなさの表れか。


 奥菜の背後からに迫る攻撃を、あさみが刀で防ごうとする。小個体の攻撃はそれで受け流せたが、続く親個体の攻撃は、非変身状態のあさみには受け止めきれないだろう。


 だがそこにもう一人。もう一人の人物が奥菜のもとへと駆け寄ろうとしていた。


「少年!?」

「――津野くん!」


 深矩は、その瞬間以前にも味わったことのある奇妙な感覚にとらわれていた。恐竜たちの動きがやけにスローになり、周りすべての音が引き延ばされたように感じる。自分の動きもゆっくりとしているのに、思考だけはクリアな感覚だ。まるで、夢の中で走っているときのような、イメージと行動が一致しないもどかしさ。それでも一歩一歩奥菜のもとへ走る。


(間に、合え――ッ!!!!)


 深矩が目指したのは、奥菜が持っていた変身デバイス=チェンジャー。深矩がいた方角へと滑るようにして飛ばされてきたそれを、思い切り蹴って奥菜へと返したのだ。


「受け取って!!」

「ないすでぐっじょぶだよ少年!!」


 チェンジャーに触れた奥菜の目に活力が戻る。ピンチを乗り切れるかもしれないという希望が芽生えたからだ。チェンジャーを拾い上げた奥菜は、振り向きざまに親個体へと銃をぶっ放した。変身していなくても武器は使えるということだろう。しかし、その火球の勢いを今の奥菜では支えきれない。銃を撃つと同時に後方、つまり深矩のいる方向へと大きく吹き飛ばされる。


「変身!!」


 空中でアーマーを再着装した奥菜は、くるりと体をひねり、地面へ着地。再び銃を構えた。そして親個体へ向けて銃を放とうとし――


「違う!!上に向かって撃て!!」


 すぐ後ろにいた深矩から、指示を受けたのだった。



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