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極秘戦隊マスクトナイツ  作者: 筆折作家No.8
第一章 コトノハジメ
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第五話 「RAPTOR-ラプトル-」 その②

「上に向かって撃て!!」


 深矩しんくは叫ぶ。


 彼には、全てが見えていたのだ。なにも上から戦場を眺める必要などなかった。すべての敵の目線がわかれば、それで十分だったのだ。


 奥菜の変身デバイスが弾き飛ばされたとき。あさみが奥菜を助けようと跳びだしてきたとき。恐竜たち自身が襲い掛かろうと跳躍したとき。奥菜に変身デバイスを蹴り飛ばして渡したとき。そして、奥菜が火球を放ったとき。……その5つの状況で、恐竜全員の目の動きを確認できる位置にいた深矩はすべてを理解したのだ。


「こいつら、空中にあるもの・・・・・・・を目で追っているぞ!!!」


 間髪を入れず、奥菜は上方向、空の上へ向かって火球を撃った。花火のように空へ打ちあがる光の軌跡が恐竜たちを引き付ける。跳びかかっている親個体も、倒れ伏している小個体も、全員が上に注目したのだ。それは決定的な隙である。


奥菜は、跳びかかってきた親個体をあえて避けずに受け入れた。こちらに向かって跳躍してきたものの、顔は上を向き、火球の行く先を目で追っている。奥菜など最早目に入っていないのだ。そんな状態で向かってきた敵の体に銃を押し当ててそれを受け止める。


「ゼロ距離ならっ!!」


 押し当てられた銃口がまばゆく輝き始める、膨大な熱量が発生し、エネルギーの塊となっているのだ。


「――いけるはずだよねっ!!」


 密着状態から放つ強力な一撃。エネルギーの有り余った火球が銃身の中で暴発し、武器ごと敵を吹き飛ばした。当然奥菜自身も爆発に巻き込まれるが、タイミングを見計らって背後へ跳躍、爆発のダメージを最小限に抑えることに成功していた。


 銃は破壊され、元の棒状の装置へと形が変わる。だが念じるとすぐに銃の形を取り戻した。


 敵の恐竜は、上半身に大穴を開けられ、とても風通しの良い肉体へと変貌していた。ちょうど親個体を追いかけてその背後まで迫っていたブルーの目には、風に舞う赤い宝石の粉のようなものが写っていた。紅玉コアが、破壊されたのだ。


「ぃよっしゃああああ!!デカい方を倒したぜ!!先輩やるじゃん!!」

「チョ、チョトアブナカタケドネー」


 緊張から解き放たれたのか、へなへなとへたり込む奥菜の真横を、今度は恐竜の小個体が超高速で飛ばされていく。小個体は空中で激しく回転しながら遠く離れたアスファルトの上にその身を激しく打ち付けた。ぐしゃり、と鈍い音がし、その四肢が衝撃に耐え切れずに拡散。首が妙な方向へとねじれ、地面をこするように進み、ついには赤き玉石が道路上へと転がり出た。紅玉コアが体の外へ出た時点でジ・エンドである。


「ヒィイイッ!!?」


 急に自分の真横を恐竜がすり抜けたため、奥菜が素っ頓狂な叫び声をあげた。飛んできた方向を見ると、トールがそのハンマーを振りかざしている姿が。


「ああ、すみませんピンク。驚かせてしまいましたね。」

「も、もぉぃゃ。。。しんじゃぅ。。。」


 すっかり気が抜けた、いや生気が抜けた様子で奥菜は倒れ伏した。


 残る恐竜は二体だが、ここまで来れば≪騎士ナイツ≫に負ける要素はない。残っていたのは一度奥菜に焼かれた個体Bと、トールに爪を折られながらも親個体と共闘していた個体Cである。元々手負いの二匹。ブルーとトールの鮮やかな立ち回りにより完全に沈黙した。






「さて、と……聞きたいことがいろいろあるんだが、どこから聞いたらいいんだコレは?」


 戦闘を終え、ブルーが深矩のもとへを歩み寄ってきた。


「ブルー、仮面が……」

「うるせぇなグリーン!もう戦いは終わったんだからどうでもいいんだよ!」

「顔は隠しておいた方が良いと思いますが。」

「オレの勝手だ!!それよりもてめぇえだよ、何者なんだ!?あぁ!?」


 ブルーの仮面は、今は左半分、本人からみて右側が欠けてその顔を露出させていた。鎧と同じ青い髪、琥珀色の瞳。少し太い眉をつり上げ、眉間にしわを寄せている。厚い唇もへの字に曲げられて、時折歯をむき出しにして威嚇するような表情になる。


 その圧倒的な威圧感に、深矩は腰を抜かしてしまっていた。


「何だてめぇその態度は!立てよ、おい!!」

「やめてあげようよ、いさみん……」

「――ピンク。」

「へ?なに?あさみん。」


 戦闘が始まる前、事務所にてやってしまった失態を、再びやってしまう奥菜。残念ながら彼女はまだ自分の発した一言の持つ意味に気づいていない。深矩の次の一言で、自分がしでかしたことを理解することになる。


「“いさみん”……?」


 ハッと口を手で押さえるが、もう遅い。またしてもまだ素性を明かしていないメンバーの名前を口に出してしまったのだ。ブルー自身は特に気にしていない様子であったが、あさみやトールはあきれ顔である。あわわわ、と慌て始める奥菜だったが、ふとあることを思い出した。


「さっき、あさみんだって私の名前呼んでたしーっ!」

「そ、それは……その……とっさに出てしまって……」

「奥菜さん、ボクらの名前はもう深矩くんにバレてるでしょう?」

「そりゃあそうだけど……」


 いくらすでに素性が割れているとはいえ戦闘中に名前で呼んでしまったことに対し、あさみは少し気まずく思ったのだろうか、目をそらす。普段コードネームに執着しているだけに、自らの失態を重く受け止めているのかもしれない。


 人間焦っているときは普段呼んでいる呼び方が口を突いて出てしまうものである。“ブラック”と仮に決めた深矩のコードネームも、結局役にたってはいない。


 一方のブルーは今の会話の流れで、自分だけが事の事態を把握できていないのだと気付いてしまう。


「てめぇら……オレにこいつのこと隠してやがったな。」

「だって!わたしも少年も海に……海に沈められてしまうものっ!!」

「はぁ??」

「いや、こっちの話ですよ、アハハ。」


 何が何だかわからない様子のブルー。彼の中ではもうどうでもよくなって、怒りよりも先にあきれが来てしまっていた。肩をすくめるような動作をした後、変身を解除する。


 すると、紺色のタートルネックにジーンズというシンプルな格好をした少年の姿があらわになる。先ほど見えていた部分、つまり向かって左の髪は下ろしているのだが、反対側の髪はオールバックになっており、左右非対称形。

 髪を下している方の眉の上のあたりに傷がついて流血しているが、本人は腕で血を拭うそぶりを見せただけで、傷の具合を気にかける様子もない。ケガは慣れっこ、ということだろう。


「え……?」


 深矩は彼の容貌がはっきりと見えるようになったことで、それが誰なのかおぼろげながらに認識し、目を丸くする。


「驚いてるな。オレが、あさみとそっくりだからか?」

「言うほどあんまり似てませんよね?」

「トールうるさい!これでも双子だよ!!」


 双子。トールは否定していたが、髪形や髪の色、こそ違えど彼とあさみの顔立ちはよく似ているのだ。並んでみると、身長もほぼ同じ。ブルーの方が筋肉質、という程度の違いでしかない。似ていない、としたのは性格面と、それによって作り出される表情が正反対のものだからだ。

 ドライなあさみと、威圧的なブルー。表情筋の付き方が違うために、その差異がはっきりとして見えるのだ。


八百神やおがみ いさみ。オレの名前だ。てめぇは?」

津野つの 深矩しんく。八百神さん……あさみさんのクラスメイトだ。」


 ち、と舌打ちする少年――八百神やおがみ いさみ。


「ってことは、先輩が会ったっていう屋上の奴かよ。」

「それは聞いていたのか?」

「ああ聞いていたさ。怪物が出てきたってのに逃げねぇバカがいたって話はな!」

「自分でも確かにバカだって思うけど、あの時点での話だけなら後悔はあんまりしてないんだよ。」

「何?」

「まあまあ、二人とも。とりあえず話はアジトに帰ってからにしましょう。早く現場処理をして帰らないと。」


 思考誘導波の効果は絶大ではあるが、あまり長い時間使えばさすがに不審に思われてしまう。速やかに任務を成し遂げ、速やかに立ち去らねばならない。そのことはいさみも重々承知している。


 彼は苦々しく歯噛みすると、左手で髪をかき上げる。鋭い目つきで深矩を睨み付けたのち、「チッ」と舌打ちして背を向けた。つばを吐き捨て、悪態をついている様は、いかにも不良っぽいイメージを周囲に与えるものだ。なんたってガン飛ばし⇒舌打ち⇒唾吐きの3連コンボである。


 だが彼はそんな態度とは裏腹に、作業にはまじめに取り掛かる様子であった。


「深矩くんも手伝ってくださいね?まずは…はい。」

「ん??」


 どこから取り出したのか、トールは何か薄汚れた布のようなものを深矩に手渡す。そして、バケツも。頭に疑問符しか浮かばない深矩。


「雑巾ですよ。」

「いや、それは分かるんだけど……」

「どこから取り出したかって?企業秘密です。」

「いや、そうじゃなくて!」

「ふふふ、冗談です。誰だって驚きますよね。……まずは、拭き掃除からです!!」


 なにいいいいいいいい!?と、この日最大の驚愕の表情を浮かべる深矩。学校での事件の時は屋上から≪騎士ナイツ≫が何かやっているのを眺めていたのだが、まさか掃除をしているのだとは思わなかったらしい。


「え、だって学校の時は……?」

「土に血痕が染み込んじゃいましたから、別の方法を使いましたよ。今回もそれは使うのですが、時間がかかるので拭き取れるとこは拭き取りましょう。

 まずは……あのマンションの壁のところとか、細かく飛び散ってしまっている血液を拭いてください!」


 地味!!!


 深矩の知った、≪仮面の騎士マスクトナイツ≫の新たな側面であった。



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